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<コラム>Superfly 最新アルバム『Heat Wave』が灯す情熱の波が全国へ



コラム

Text:森朋之

 オーディエンスの心と身体を解放するロックシンガーとしてのパワー。社会との関係性や自らの感情をダイレクトに描き出すシンガーソングライターとしての表情。そして、リスナーとつながり、気持ちを交わし合いたいという切実な願い。3年4か月ぶりのニューアルバム『Heat Wave』は、Superfly本来の魅力とこの3年間で培った表現がナチュラルに結びついた作品となった。

 

 本作『Heat Wave』を紐解く前に、時計の針を2019年まで戻してみたい。

 この年の9月から12月にかけてSuperflyは全国アリーナツアー【Superfly Arena Tour 2019 “0”】を開催した。2016年以来、約3年半ぶりの開催となったこのツアーは、「フレア」「Ambitious」など6thオリジナル・アルバム『0』(2020年1月リリース)の収録曲を中心に構成。2016年7月から2017年11月までのライブ活動休止を経て、“0”に戻った状態から新たな表現へと向かう姿勢を示した。(実際、彼女はMCでも「自分が“ゼロ”だという感覚になったんです。それは“何もない”ではなくて、“ゼロの状態がある”ということ」と語っていた)


▲『0』

 アルバム『0』は、11曲中10曲の作詞・作曲を越智志帆が担当。彼女のシンガーソングライターとしての資質が(おそらく初めて)露わになった作品でもあった。オーセンティックなロックだけではなく、ジャズのテイストを感じさせるアコースティックな楽曲もあり、音楽的な広がりを感じられたこともこのアルバムの意義だったと思う。

 ここからSuperflyはさらに豊かな音楽を紡ぎ始めるはず……そう思っていた2020年、世界は新型コロナウィルスによるパンデミックに襲われた。当然、越智志帆自身も活動の停滞を余儀なくされ、ステイホームを強いられることに。常に自らの表現と向き合ってきた彼女が、「今、何をすべきか」「自分には何ができるか」という本質的なテーマに立ち戻ったことは想像に難くない。

 その最初のアクションは、ストリーミング限定で発表された「Together」。八橋義幸(ギター)、須藤優(ベース)、山本健太(キーボード)とともにリモート制作されたこの曲は、彼女のルーツの一つであるブルース・ロック調のサウンドとともに「一緒にいたい」という思いを率直に描いたナンバーだ。2020年春の状況、そのなかで感じたことが直接的に反映されたドキュメンタリーのような楽曲と言えるだろう。


 その後、オンラインライブの開催、『NHK紅白歌合戦』への出場など、コロナ渦においても多彩な活動を継続。そして2022年春、アルバム『Heat Wave』の起点となる新曲「Voice」をリリースする。前年の2021年夏に行われたオンラインライブ【Superfly Online Live “うぶ声”】で初披露された時点ではアコースティック・テイストだったが、シングルとして発表されたバージョンは、高揚感溢れるビート、生々しいストリングス、壮大なコーラスを軸にしたアッパーチューン。コロナ渦における葛藤や苦しみから目を逸らすことなく、「燃え滾る情熱とともに声を上げよう」という強いエモーションを込めたこの曲は、彼女自身のリアルな体験と社会の状況、そして、Superflyとしての表現欲求とリスナーが求めるものがしっかりと合致していた。iTunesシングル総合チャートをはじめ、各配信チャートで1位を記録したことがその証左だろう。


 ここからSuperflyは次々と新曲をリリースし続けた。

 まずは「ダイナマイト」(2022年5月)。代表曲「タマシイレボリューション」の系譜にある熱いロックチューンだ。続く「Presence」(2022年8月/アニメ『アオアシ』オープニング・テーマ)は青春と呼ばれる季節を背景に、目標に向かってひた走る主人公の姿を描いた楽曲。伸びやかなメロディ、抑制を効かせたボーカル、鮮やかな弦の響きを活かしたアレンジが響き合うこの曲は、Superflyのポップな側面を鮮やかに表現していた。そして「Farewell」(2022年12月/映画『イチケイのカラス』主題歌)はピアノと歌を中心にしたバラード。大切な人への想い、愛しく、切ない感情を綴った歌詞を丁寧に手渡すようなボーカルも心に残る。共通しているのは(「Voice」と同じく)越智自身の感情と社会の状況が強く重なっていることだろう。



 今、現実の社会で起きていることを受け止め、自分自身の想いやメッセージと結びつけながら、幅広いリスナーに向けて楽曲を放つ。アルバム『0』の制作の過程で自分自身と向き合い、フラットな状態に戻ったSuperflyが、改めて世界と対峙し、あらゆる感情――葛藤、苦しみ、そして未来への希望――を音楽として表現したのがニュー・アルバム『Heat Wave』だ。その真ん中にあるのはやはり、表題曲「Heat Wave」。アルバム制作の終盤にできたというこの曲は、疾風のように突っ走るビート、圧倒的な高揚感に溢れたメロディが共鳴するロックナンバー。ロックシンガーとしての強さを改めて実感できるのもこの曲の意義だろう。


 楽曲「Heat Wave」には、この3年間の経験、そのなかで獲得した想いやメッセージが凝縮されているように感じる。もっとも印象的なのは<無機質な世界なら愛せない/時代を止めて>というラインだ。コロナ渦の時期、我々は多くの問題を目の当たりにした。経済的な格差の拡大、温暖化や環境の悪化、“Black Lives Matter”に象徴される差別。それらの問題をバックグランドにして、「本当の人間らしさって何?」と問いかけているのが「Heat Wave」なのだと思う。

 もちろんアルバム『Heat Wave』は、シリアスなメッセージを強調しただけの作品ではない。爽やかなバンドグルーヴと前向きなバイブレーションが溶け合う「春はグラデーション」(FM802×中央大学「ACCESS!」キャンペーンソングのセルフカバー)、<飛び込んでおいで/君はひとりじゃない>と呼びかけるミディアムチューン「Power Of Hug」など多彩な楽曲が収められ、誰もが楽しめるポップミュージックとしても成立しているのだ。これもまたSuperfly本来の良さだろう。

 本作に対して志帆は、「私の中にずっと持ち続けている、癒したいという気持ちと熱い思いを熱波で届けます。『情熱』と『癒し』、まるで焚き火のようなアルバムです」というコメントを寄せている。焚き火が象徴しているのは、それを取り囲む人々のつながりであり、それこそがアルバム『Heat Wave』のもっとも大きな意味なのだと思う。6月17日、6月18日の横浜アリーナ公演を皮切りに、全国アリーナツアーがスタート。全国の会場でSuperflyの音楽を介した熱く、温かいつながりを体感してほしい。

 

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