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<対談>須田景凪が憧れのアーティストMAXと初対面、共通点だらけのリアルトークをお届け

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Interview & Text: Mariko Ikitake
Photos: Yuma Totsuka

  メジャー2ndフルアルバム『Ghost Pop』をリリースしたばかりの須田景凪が、そのリリース日である5月24日に米ポップシンガーのMAXと対談を行った。2018年に【サマーソニック】と単独公演で初来日後、ONE OK ROCKのTAKAをフィーチャーした「ライツ・ダウン・ロウ」をリリースするなど、メロディーセンスと歌声で日本の洋楽ファンを楽しませてきたMAXは、近年はBTSのSUGAとコラボしたり、BTSと共作した「Yet To Come (The Most Beautiful Moment)」がBillboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”で首位に輝いたりと、K-POPファン内でも知名度を広げている。 プライベートで来日していたMAXとかねてからMAXの大ファンだった須田のタイミングが偶然にも合い、今回の対談が実現。2020年1月に開催されたMAXの来日公演を見て衝撃を受けたという須田は、憧れのシンガーを前に最初は緊張を見せていたが、二人の会話がはずむにつれて、楽曲制作において互いが大事にする部分や感覚に共通する部分が多いことが明らかになっていく。シンガーソングライター、そして音楽を心から愛する者同士のリアルトークをお届けする。

憧れの対談

――憧れのMAXを目の前にしている須田さん、今のお気持ちを聞かせてください。

須田:朝からずっとそわそわしてました。自分とは育った文化も国も違う、その条件の上で自分の大好きなアーティストにお会いするのは本当に今回が初めてのことなので、先日自分が出演した『オールナイトニッポン0(ZERO)』特番内でサプライズでコメントをいただいたときは言葉にならなかったです。

MAX:アルバムのリリース日に会えて、僕も嬉しいです。景凪にありがとうとおめでとうを伝えたいです。

――須田さんはアルバムが今日リリースされたので、ダブルの緊張があるかもしれないですね。

須田:ダブル緊張はあります。とってもうれしい機会なので、MAXに会えて光栄です。



MAX:今回のアルバムの制作はどれくらい時間をかけたの?

須田:かなり前に作った曲も入っているんだけど、具体的に制作を始めたのはちょうど1年くらい前かな。今までで一番自分自身を納得させることができたアルバムになったね。

MAX:時間をかけて誇りに思えるものを出せるのって、すごくいいことだよね。新しいものを出せって、急かされることがよくあるじゃない? 自分にとって何がベストかを考える時間を取ることも大切だし、それが納得できる作品に繋がるよね。

須田:現実、締め切りとかもあるし、いかに美しいものを早く生み出すことのスピード感ももちろん大事だけど、最終的にはいかに自分を納得させて自分が美しいと思うものを世の中に出せるか、そこが僕は一番大事だと思っているよ。

MAX:まったくその通り。オーディエンスがどう思うかってことより、自分がどう思うかを優先したいよね。自分がいいと思うものを出せたという誇りとか興奮が、リスナーにも伝われば尚更いい。どれだけ自分がその曲を愛し、情熱を込めて作ったかのかも大事だよね。

須田:本当にそうだよね。MAXが同じ考えを持つ人で嬉しいよ。



MAX:プレッシャーがすごいときもあるし、ほぼ完成したけど何かが足りないときもある。その足りないものが見つかった瞬間こそ、自分が確信を持てる瞬間だし、それが先々の自信に繋がっていく。自分が考えるベストは何なのかもわからない瞬間もいっぱいあるけど、それを見つけることの積み重ねだと僕は思うし、僕はそういう葛藤が多いほうだよ。

須田:そうだね。僕も一緒で。自分の中で、必要性のある妥協をしたほんの少しの部分をリスナーもスタッフもたぶん気づかないだろうけど、自分だけはずっと覚えているから。ある種の後ろめたさは、自分にとってもリスナーにとっても健全ではないよね。自分が自分の作品を大好きであることを大前提に、音楽を世の中に発表したい。

MAX:そこは大事だよね。景凪のライブを見たいなって思うんだけど、アメリカでパフォーマンスの予定はないの?

須田:今まで考えたこともなかったんだけど、それこそMAXの2020年の来日ライブを恵比寿のLIQUIDROOMで見たときに、初めて自分も、いつか海外でライブしてみたいなって思った。僕が初めて見る海外アーティストの来日公演がMAXだったんだよ。

MAX:それは光栄です。アリガトウ。

須田:日本のライブは、海外みたいにお客さんがずっと叫んだりはしないことが多いよね?

MAX:パフォーマンスの経験を積んでいくうちに、国ごとにエネルギーが違うことを学んだよ。同じ曲で違う体験をすることができることも。日本では、僕は指揮者の気分なんだ。「ジャンプして!」って言うとみんなジャンプしてくれるし、それも楽しい。日本のオーディエンスは、ちゃんと聞いてくれて、歌が終わったら拍手をしてくれるから、とても敬意を感じる。

――インドネシアや韓国のように自由に盛り上がる国から、日本のように真剣に聞く国まで、同じアジア地域でも反応が様々なので、日本のアーティストが海外でライブをしたら驚くことがあるかもしれないですね。MAXは日本で初めてライブをしたとき、どう感じましたか?

MAX:僕は、そういうふうに敬意を払ってくれる日本のオーディエンスがすごく好き。本当に音楽を聞いてくれていて、かつ楽しんでくれている。それ自体がユニークなことだし、他の国ではあまりないから。この前、デンバーでライブをしたんだけど、「ライツ・ダウン・ロウ」のパフォーマンス中、オーディエンスはずっとクラウド・サーフィングしてたし、パーティー状態だった。楽しいけど、「ちょっと落ち着かない?」って内心思ったよ(苦笑)。でも日本のオーディエンスは、ちゃんと聞いてくれるから、コネクションが深まるし、みんなと一緒に(ライブを)キュレーションしている感覚がある。

あと、場所によって、曲の知名度も変わるから、それも楽しい。アメリカではあまり知られてない曲が、韓国とか日本とかアジアですごく人気だったりすることもあるから。「アシッド・ドリームス」はアメリカでも人気はあるんだけど、アジアに比べたら比にならないくらい。日本で初めてあの曲をパフォーマンスしたときの盛り上がりは、今でもすごく覚えてる。

須田:僕も「アシッド・ドリームス」でMAXを知った。YouTubeで「アシッド・ドリームス」のサムネイルを見て、カッコいいなと思って再生したら、曲や声がいいのはもちろん、メロディーのユーモア加減のバランスも。そこがもうたまらなくて。




MAX, Felly - Acid Dreams (Official Video)


MAX:アリガトウゴザイマス。今たまたま口から出た曲が、景凪の思い出の曲でもあったなんて、おもしろいな。

――メッセージを伝えるという意味では、ギターやピアノの弾き語りにヴォーカルを乗せた、シンプルな表現が一番効果的なときもありませんか?

MAX:確かに。弾き語りで作って、あとから付け足すものはボーナス、おまけっていう感じかな。プロダクションごとに効果的なサウンドを付けるけど、やっぱりその曲を弾き語りで演奏したときに、伝えたいことが通じることがなによりもベストだと思ってる。アコースティックで伝えられる曲が、自分にとって一番充実感のある曲かな。

須田:僕も基本、楽曲をつくるときはピアノやギターの弾き語りで作っていて、メロディーと歌詞が一番大事だと思ってる。そこさえしっかりしていれば、ほかの音はカッコよければいい、メロディと歌詞がベストな形で伝わるサウンドであれば、それでいいかなって。軸となるメロディーと歌詞の説得力を僕は一番大事にしています。

MAX:そこだよね! ビートしか聞いてない友達も周りにはいっぱいいるし、歌詞まで聞いてない、何を言っているのか気にしてない人が大多数だとしても、自分はそこを大事にしていきたい。例えば、僕が大好きなマイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」は、誰もが口ずさめるけど、歌詞をちゃんとわかっている人って、実はあまりいないよね? あの曲にはきちんとしたストーリーがあるんだけど、実際どこまでの人がその歌のメッセージを把握しているかは、わからない。楽しくて踊って興奮してもらえる曲を僕ももちろん好きで作るけど、やっぱり自分の音楽で大事にしたいのは、自分をさらけ出した曲が誰かに伝わったと思える瞬間かな。

須田:確かにそうだね。僕も最近は、いかに自分の人生観みたいなところを高い純度でさらけ出して、それを歌詞にしていて、自分という人間をいかにリアルに反映させるか、そして、それをより多くの人にポップミュージックとして伝えられるかをずっと考えてる。

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大事な曲ほど、世に出すタイミングも大事

MAX:景凪は曲を書くとき、タイトルから始める? それともメロディーが先?

須田:曲によるけど、僕は曲を書き終わった後に、歌詞のストーリーの総括としてタイトルをつけることが多いかな。

MAX:僕の場合は先にタイトルを決めてから曲を書くことが多い。でも、「ブルーベリー・アイズ」っていう曲は、妻の目の色がブルーベリー色で、そこから“blueberry eyes”と“strawberry skies”というワードが浮かんで、曲の内容が出来上がって、最後にタイトルを決めた。僕にとって、アルバムのタイトルを決めるのが一番難しいことだから、いつもそれは最後。タイトルの候補はスマホに100個ぐらい入ってる(笑)。

須田:僕もそういうストックがいっぱいあって、定期的に見直すんだけど、今の自分からしたらちょっと飽きちゃったタイトルもいっぱいある。

MAX:それわかる! 3~4年前のものが残ってて、もう自分の曲では使うことはないなって思ったものが、ほかのアーティストに楽曲提供するときにぴったりハマるときもあって、ソングライターとしては、そこが楽しかったりもするんだよね。

須田:その気持ち、むちゃくちゃわかる。自分で表現することももちろん好きなんだけど、「この人が歌ったらどう聴こえるんだろう?」って想像するのもすごく楽しい。

MAX:やりがいを感じる瞬間でもあるよね。自分が書いたメロディーをちゃんとリスペクトしてくれる、愛してくれる人に歌ってもらって、その人の歌として生まれ変わるというか。BTSとコラボした曲(「Yet To Come」)が、まさにそんな体験。彼らのパフォーマンスを見たときに、「僕が歌ったら、ここまでカッコよくなったのかな?」って思った(笑)。

須田:いや、それはまた別のカッコよさが出るから!(笑)



――須田さんが納得するまで時間をかけて完成させた『Ghost Pop』は、どういったことを反映させたアルバムなのでしょうか?

須田:まず、タイトルは“Ghost”と“Pop”のふたつの単語を合わせた造語です。自分は、幼少期から何かを褒められたり、何かを成し遂げたりしても、それが自分の一部になる感覚がないんです。音楽を始めてから、有難い経験などさせて頂いたことも多々ありましたが、どこか自分という人間に結びつかない感覚があって。満たされた感覚をいまだに実感したことがないんですけど、その価値観って、おそらく一生つきまとっていくものだと思っていて。それと同時に、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらいたいと思ってるし、よりポップな音楽を作っていきたい、伝えていきたいとも思っている。この二つの価値観って、ある種、矛盾してると思うんです。この穴は一生埋まらないと思うんだけど、それは決してネガティブな意味でもないし、穴が開いていること、うつろな感覚が心地いいと思う瞬間も確かにあって、そんな矛盾する一つの人生観、価値観を一つの作品にしたのが『Ghost Pop』です。





MAX:ああ、なんかすごくよくわかる。シンガーソングライターとかアーティストって、誰かのためにやってるところがあるよね。自分のためでもあるけど、「ほかの人のために」っていう気持ちも入ってくるから、その両方が結びついて自分ができている感覚は、すごく理解できる。

須田:世に出してない、自分の中にだけある曲に満たされる感覚も多少あって。聞いてもらうことを目的に曲を書いてリリースもするんだけど、世に出したものと、まだ誰にも知られてないものの線引きってあるじゃない? そこで変わってくるものもあるなって。

MAX:うん、クリエイティブな意味で、「まだ誰も知らないけど、自分の中にはあるんだぞ」と思える感覚っていいよね。まだこれから世に出せるものが僕にはあるんだっていう現在の自覚が、未来の自分に繋がるっていうか。実は2~3年くらい、自分のなかで取っておいてある曲が僕にもあって、それがすごく気に入ってる曲で、こんなにも誇らしく思える曲を僕は持ってるんだっていう自信もある。

須田:そういう自信は確かにあるし、大事な曲ほど、それを世に出すタイミングも大事。自分自身が納得するタイミング……それこそみんながハッピーになれるタイミングで出せたら理想だね。

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人生はいつ・なにが起こるかわからない

――須田さんはMAXに聞きたいことがたくさんあるそうですね。

須田:はい。めちゃくちゃあるんですけど、いくつか絞ってきました。MAXと僕は同い年なんですけど、育った環境や文化が違うと思うんです。僕自身、音楽に囲まれて育ったわけではないんですけど、人間においてすごく大事な幼少期をMAXはどう過ごしたのか気になっています。何を経て、今のMAXが存在しているのかなって。

MAX:ニューヨークシティーで育った僕は音楽が身近にあって、地下鉄に乗ればドラムを叩いている人やバスキング(パフォーマンスして稼ぐこと)する人を見たりと、とにかくニューヨークで暮らしていたら、いろんな文化に触れられる。その環境が自分の音楽に影響を与えていると思うし、意識してなくても入ってくる環境で育ったことに今でも感謝している。

子供の頃によく聞いていたのはソウル・ミュージックで、ブリトニー・スピアーズのようなポップス、あとエタ・ジェイムズとかプリンス、ビリー・ジョエルもよく聞いていた。でもストリート・ミュージックが自分の軸になっているかも。

ブロードウェイ初出演の思い出が、僕の人生の中でも大きな出来事の一つなんだ。僕は代役だったんだけど、出演者が本番中に急に声が出なくなっちゃうハプニングが起こって、急遽出演することになったんだ。出番までたったの3分で、衣装を着てサッと何事もなかったかのように出たんだけど、人生はいつ・なにが起こるかわからないから、いつでも準備万端でいなくてはいけないってことを身にしみた。あのときのことは今でも鮮明に覚えていて、ステージに出たら練習じゃない、今はとにかく楽しむしかないって思ったのも覚えてる。



須田:いつでも人前に出られるように意識しておくことは、もちろん大事だと思うけど、そこまでのスピード感を求められたことは今のところ経験がないから、想像がつかないな…!

MAX:景凪は、ステージに出ていく瞬間に「生きてる!」って感じることはない? ステージ上の僕は普段の僕とは違う人ってよく言われるんだけど、ステージに立ったら、その先のことなんて考えられなくて、オーディエンスと自分がどう繋がることができるかしか僕は考えてないんだ。たぶん景凪が見たライブの僕は、まさにそうだったと思うよ。恵比寿のショーを今でも覚えてるもん。

須田:日本のライブは、MAXのように対話するライブよりも、演者が届けるものを来てくれた人が、敬意をもって受け入れるスタイルが成り立つことも多いから、もし自分が海外でライブをすることになったら、どう表現するのがいいんだろうって、あのライブからずっと想像しているなあ。

MAX:絶対楽しめると思うよ。世界各地でショーをたくさんやってきたけど、本当に想像がつかないことをたくさん経験した。急にステージに上がってきてフラフープをする人に「あの~、すみませんが降りてくれますか?」って気を悪くさせないようにお願いしたり、ステージからダイブしたら、みんなが遠くまで運んでくれたり、お客さんにマイクを渡したら代わりに歌ってくれたり、いろいろあったよ(笑)。

須田:すごいね。それを聞くと、今の僕では本当に想像が及ばない。(笑)日本では想像を超えるハプニングってなかなか起きづらいから、日本にいるだけでは味わえない経験がたくさんあるんだね。それを味わった先に自分の新しい表現方法を見つかると思うから、いつか味わってみたいな。

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