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<レポート&インタビュー>Galileo Galilei×ポーター・ロビンソン、お互いへの愛とリスペクトが溢れた念願のセッション

インタビューバナー

Interview & Text:小川智宏

愛とリスペクトが溢れたセッション

 日本・北海道のロックバンド、Galileo Galileiと、アメリカ・ノースカロライナ生まれのプロデューサー/DJ、ポーター・ロビンソン。ポーターがGalileo Galileiの大ファンであり、自身の表現においても多大な影響を受けていることはよく知られているが、そんな彼にとって念願だった初対面、そして初めてのセッションが、彼の5年ぶりとなるジャパン・ツアーが東京・豊洲PITで幕を下ろした直後、東京にて実現した。スタジオでお互いのアイデアを重ね合わせながら繰り広げられた時間は、お互いの愛情とリスペクトが溢れる、濃密なものだった。

 スタジオに足を踏み入れると、ポーターとGalileo Galileiのメンバー4人はコントロールルームで何やら話し込んでいる。今回のセッションに向けてGalileo Galileiは準備したトラックを事前にポーターに送っていたそうなのだが、そのトラックにポーターがさらにアレンジを加え、この日持参していたのだ。その音源を確認しながら、どのように楽曲を作り上げていくのかを相談しているようだ。セッションのお題は劇場版『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の主題歌として人気を博し、Galileo Galileiの代表作のひとつとなった2013年の楽曲「サークルゲーム」。ポーターの愛してやまない一曲だ。彼が持ってきたトラックには、もちろんその「サークルゲーム」の素材に加え、Galileo Galileiのもうひとつの代表曲である「青い栞」(こちらも『あの花』TVアニメ版のオープニング・テーマだった)のエッセンスもマッシュアップされていて、そんなところにも彼のGalileo Galileiに対する思いが見て取れる。

 そんなトラックをベースに、5人の話し合いは続く。ポーターの作ってきたものに尾崎雄貴(Vo. / Gt.)は「すごくいいと思う」と感激。その上で「アウトロはいらないんじゃないかな」「ここにピアノを加えたらどうだろう」「ベースラインは?」……活発な意見が飛び交い、そのたびに楽曲は少しずつ形を変え、リアルタイムで新たに作り上げられていく。すでにある楽曲をみんなでカバーするというよりも、まるでポーターという「メンバー」を加えた新しいバンドでひとつの曲を生み出していくようなプロセスだ。正直にいえば、筆者は今回のセッションの話を聞いたときにはもっとイージーでラフなものを想像していたのだ。久しぶりに日本にやってきたアーティストが、兼ねてから憧れだったバンドと対面し、一緒に彼らの代表曲をプレイする。言うまでもなくそれだけでもこれは貴重な機会になっただろうし、十分に成立したはずだ。だが、ここまで長い時間をかけてインターネット上で、あるいは音楽を通して育まれてきた2組の間の友情は、そんなよくあるやり方では収まり切らないものになっていたということだろう。

 ギリギリまでサウンド面での調整を続けながら、並行してGalileo Galileiは自分たちのプレイする楽器の準備に取り掛かる。広いスタジオに、お互いに向き合うようにぐるりと配置されたそれぞれの機材。尾崎和樹(Dr.)の前にはフルセットではなくパッドが置かれている。岩井郁人(Gt.)はアコースティック・ギターを提げ、音のチューニングをしている。岡崎真輝(Ba.)と尾崎雄貴の間にはこのスタジオの名物でもあるスタインウェイのグランドピアノが置かれ、その横にはキーボードが設置されている。ここがポーター・ロビンソンのポジションになる。着々と演奏の準備を進める一方で、コントロールルームではポーターがトラックの修正を続行中。そこに時折、雄貴はじめGalileo Galileiのメンバーが寄ってきて、細かい打ち合わせを繰り返す。そのコミュニケーションはセッションがスタートする直前まで続いていった。

 綿密な準備を経て、いよいよセッションがスタートだ。ポーターの弾くピアノのイントロにGalileo Galileiのバンドサウンドが重なり、楽曲はどんどん色彩を帯びていく。雄貴の繊細な歌に岩井がコーラスを重ね、ポーターもエフェクトのかかったマイクで印象的な声を響かせる。どこかナイーヴな感性も感じさせたオリジナルの「サークルゲーム」が、時を経て、そしてポーターが加わったことによってよりダイナミックに、そして情感豊かに生まれ変わっていく。生まれ変わっていくというよりも、まるで最初からこういう形であったかのようにすら感じる。楽曲のラストに聞こえてくる「青い栞」のフレーズや、曲中に挿入されるポーターの「Something Comforting」と「Trying to Feel Alive」のボイス・サンプルが、ポーターとGalileo Galileiの強い絆、そしてGalileo Galileiの歴史を物語るようだ。

 1度目のテイクを終えて、今の演奏を振り返る5人。ポーターは「間違えちゃった」と苦笑い。憧れのバンドとのセッションに「緊張するー!」と声を上げると、スタジオ内では笑いが広がる。彼のマネージャーによると、ポーターがこういう形でバンドとセッションをするというのは初めてだという。ライブでは生バンドとのパフォーマンスも経験している彼だが、スタジオという密室で人と音を奏でるというのには違った緊張感があるのだろう。その後しばらくしてテイク2がスタートした。1度目よりリラックスしたムードが漂っているのが、コントロールルームのスピーカー越しにも伝わってくる。先ほどのポーターの一言がスタジオの緊張を解きほぐしたのかもしれない。それにしても、すばらしいパフォーマンスだ。「サークルゲーム」は今から約10年前の楽曲だが、とてもフレッシュでモダンな表情がとても新鮮に映る。

 2回目の演奏を終えたあと、おもむろにポーターがスマートフォンを取り出してセルフィーの撮影を始める。先ほどのセッションのときに夢の中にいるような感覚を覚えて、その光景を写真に残しておきたくなったのだという。ポーターにとってはまさに夢に見ていた体験が今現実となっているわけだが、音を重ねるごとに打ち解けて、5人の中に流れる空気も変わっていく。これがミュージシャン同士のコミュニケーションというものなのだろう。そしてその後、3度目の演奏へ。テイクを重ねるごとに音が生き生きと、伸びやかになっていくのがわかる。同じ曲を同じアレンジで演奏しているのだが、演奏しているミュージシャンの気持ちでこんなにも楽曲の表情が変わるのか、と驚いているうちにこの日のセッションは終了。演奏を終えた5人は満足げな表情だった。

 セッションの終わりに、Galileo Galileiの4人とポーター・ロビンソンに話を聞いた。

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今日のセッションで「とても素敵な答え合わせをできた気がする」

――今日こうしてセッションをして、どんなことを感じましたか?

ポーター・ロビンソン:今日2回目の演奏をしていて、泣きそうな瞬間があったんです。雄貴のことを見ているだけで、10年前に「青い栞」のミュージックビデオで彼を見た記憶が蘇ってきたように感じたんです。本当に夢が叶ったような気がしました。


「青い栞」 / Galileo Galilei


尾崎雄貴:嬉しい。僕らにとっても本当に夢のような時間で。緊張というよりは夢心地っていうフワフワ感がずっと続いているので、それを同じように感じてくれているっていうのは本当に嬉しいです。

尾崎和樹:(ポーター・ロビンソンは)ずっと憧れの存在だったし、ポーターくんを知ってから、彼の真似をして機材を買ったりしたこともあったので(笑)。ものすごく素晴らしい一日になったなって思いますね。

岩井郁人:音楽の力を改めて再認識しました。国も違うし、時間も超えてこうやって繋がって最高のものができあがったっていうことは、僕らも今まで体験したことなかった領域だったので。新しい扉が開けたというか、新しい世界を見ることができました。

雄貴:刺激になったよね。

岩井:なんか、タガが外れたなっていう。僕らは今制作をしてるんですけど、その作品にも生かされるだろうし、ライブにも生かされるだろうし。これからの音楽活動に明らかに影響する、未知の領域を見ることができたなと思います。

岡崎真輝:僕もずっとフワフワしてる状態が続いています(笑)。もともと自分もライブ映像とかを観て、ポーターさんの音楽には強く影響を受けていたんです。こんな機会がまさか実現するとは思っていなかったので、まだ実感が湧かなくて。でも間違いなく、自分の人生の中で大事な思い出として刻まれるだろうなと思いました。


――セッションを拝見していて、「サークルゲーム」という楽曲が生まれ変わったというか、新しい生命がそこに吹き込まれたような感じがしました。ポーターが入ったことによって、まるで新しいバンドになったみたいな。なんだかもう10年ぐらいやってきたようなバンドの雰囲気でしたよ。

ポーター:そうであればよかったです。私は本当に長い間、彼らの音楽を聴いてきましたから。だけど、彼らが自分のやっていることにインスパイアされているとはまったく予想していませんでした。今日まで全然知らなかった。

雄貴:今日、一緒に音を出して、アイデアを交換してみて、僕らも初めてやった気がしなかったんです。

岩井:うん、似てるなって感じがした。

雄貴:同じ色合いとか同じ匂いとか、そういうものを、ちょっとした仕草や音楽に対してのちょっとした動きですごく感じて、それがすごく嬉しかった。あと、僕らも本当にポーターくんの音楽が大好きで、warbearでもBBHFでもGalileo Galileiでも、普段からリファレンスにしちゃうぐらいで。正直、真似しているところも結構あったりするんです。今日セッションしていて、自分がなんでポーター・ロビンソンというミュージシャンに惹かれていたのかもわかったし、とても素敵な答え合わせをできた気がする。今日、会ってスタートしたときに、最初に彼が僕らにすごく質問をしてくれたんです。Galileo Galileiをなぜ終わらせたのか、なぜ今またやっているのかということをちゃんと聞いてくれて。それはきっと、僕らの今の雰囲気とかをちゃんと感じ取ろうとしてくれてたんだと思うんです。ハートで音楽をやっている人なんだなっていうのを感じられて、すごく感動しました。

ポーター:私がとても大切にしていることのひとつに、「人生では数年ごとに、自分の視野を永久に変えてしまう何かがやってくる」ということがあります。それは映画かもしれないし、バンドかもしれないし、旅行かもしれないし、環境の変化かもしれない。そういう瞬間が僕にとっては信じられないほど貴重なんです。だから、多くのインスピレーションと喜びをもたらしてくれて、僕の視野を完全に変えた音楽を作ってくれた彼らに心から感謝したいですし、ここからもっといろいろできればなあと思っています。

雄貴:めちゃくちゃ嬉しい。今日、飛行機で北海道に帰って寝るときに現実だったと感じて眠れなくなっちゃうかもしれない(笑)。


――でもポーターが言ったように、本当にこれが始まりになって、ここからこの5人での未来が生まれていくといいなと思います。Galileo Galileiは今まさに新たに動き出して、ここからツアーも始まっていきますけど、今日を経て、どんな気持ちで進んでいこうと思っていますか?

雄貴:さっきポーターくんが話していた“人生観とかを変える瞬間”というのが、僕にとっては今日だなと思うんです。僕らもポーターくんのようにハートで音楽をやっていきたいし、自分の中で原点にあった気持ち、疎外感とかもそうですけど、それを大事にしてきてよかったなと思うし、これからもそれを大事にGalileo Galileiをまったく新しいものにしていきたいなと思います。ツアーも最高に楽しいものになると思う。

ポーター:彼らのツアーがとても楽しみです。あと最後にひとつだけ言いたいんですが……僕は雄貴より1歳年下だと思うのですが、きっとこの気持ちは一致するんじゃないかと思っていて。音楽をやっている上で最も大事なポイントとして学んだのが、「アーティストは本当に好きなことだけが得意だ」ということ。他の人が気に入ってくれそうだからと思ってやろうとしても、ただの推測になってしまうけど、自らが愛するものは自分自身がどうするべきか分かっているんです。だから僕は、たとえ誰もそれを好きだと思わなくても、自分が確実に愛しているものを作るのをやめることは決してできない。業界にいると、すごく多くのプレッシャーとか、いろんな期待があると思うんですけど、いちばん大切なのは自分の好みや価値観。何を差し置いてもそれだと思うんです。

雄貴:すごくわかります。僕らはバンドで、こうやって仲間と一緒にやっているから悩みとかも4等分できるけど、ポーターくんはひとりで考えて、ひとりでステージに立っているじゃないですか。それは僕には真似できないなと思うし、今日は「だからひとりで立ててるんだな」っていうのもわかった。

ポーター:ありがとう。誰とも妥協する必要がないというのはソロの利点かもしれない。でも、僕はいつも(ソロとバンドの)両方に長所と短所があると感じてきました。ソロ・アーティストの場合、自分のビジョンを明確に提示することができるし、それについて特に誰かに聞いたりしなくていい。でも、辛い時には孤独を感じます。だからずっと同じメンバーで一緒にバンドで活動を続けているのをすごく尊敬します。維持することは全然簡単ではないと思う。

雄貴:これからもバンドを続けていきます。

岩井:続ける理由ができたよね。今日やって、Galileo Galileiをまた始めて本当によかったと思ったし、これから音楽を続けていく上でのひとつの大きな要素になったと思います。

ポーター:ありがとう。次会うときは泣かないようにするからね(笑)。


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