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<インタビュー>Tina Moonというペルソナが生み出したデビュー作『MY ARMS.』を語る

インタビューバナー

 デビュー・アルバム『MY ARMS.』を4月に配信リリースしたTina Moon。福岡を拠点に活動するYesterday Once MoreのDJ/プロデューサーのShiggeや、シンガーソングライター/クリエイターのAi Kakihira、ギタリスト/プロデューサーのYUMA HARAらが参加した同作は、Tina Moonの個性を最大限引き出したものとなった。彼女の個性とは予測不能でカオティック、いかなる分類にも収まることのない流動的な何かだ。2021年のデビューから着々と分裂し続けてきたTina Moonのペルソナは、この『MY ARMS.』に至ってさらに多様を極めている。 マシーナリーな暗黒世界と繊細なフォークロアが交錯し、攻撃力と包容力をランダムに繰り出す彼女の音楽は、あらゆる矛盾や飛躍を当たり前に孕んだものだ。見る角度によって全く異なる表情が出現するその歪こそが、正しいかたちであると言わんばかりに。だからこそ、Tina Moonとは何者なのかを正確に知ることは難しい。彼女自身も、その答えを未だ持っていないのかもしれないのだから。ここではそんなTina Moonのペルソナの冒険を、彼女と共に追ってみることにした。 (Interview & Text:粉川しの / Interview Photo: Yuma Totsuka)

ネガティヴ思考をパワーにした『MY ARMS.』

――『MY ARMS.』は相反する要素がたくさん詰まっているアルバムですよね。チルなサウンドと暴力的なサウンド、楽観的なムードと悲観的なムードが常に錯綜していて。

Tina Moon:そうなんですよね。


――今回は、そうした相反性のようなテーマを事前に設定してから作り始めたのでしょうか?

Tina Moon:いや、私はもともとコンセプトを決めて、それに沿った音を作るというのが少し苦手なんですよ。計画性というか、自分の音楽を型にガッと嵌めて捉えるというのがなかなかできなくて。今作でも1曲目の「Lucky Guy」から取り掛かったんですけど……さあ、アルバムを作るぞっていう時に、たまたま自分の中で怒りのパワーが強かったんでしょうね。そのパワーに任せて曲作り、サウンド作りが進んでいったんです。今の私の怒りのベクトルに相応しいビートを入れて、歌詞も書きなぐって。「金もない、愛も欲しい!」みたいな(笑)。


――(笑)。

Tina Moon:リアルな感情をそこに込めていくっていう作り方で。「Lucky Guy」を作っていた時は特にネガティヴな気持ちが強くて。まあ、だいたいこのアルバムはネガティヴなんですけど。で、そうやって作っている間に気持ちが落ち着いてきたところで、本作のチルなサウンドが生まれたんだと思います。完成まで1年くらいかかった作品なんですけど、心情の変化がここに全部入っているんですよね。


――そのネガティヴの発端はなんだったんですか?

Tina Moon:基本、思考がネガティブなんですよ。生まれもってネガティブな人って、ポジティブに変換することがなかなかできないんですよね。色々と良いことが起こっても常に不安で、結局良くない方向に転がってしまうんじゃないか……って考える性分なので。常にそういう気持ちがどこかにあって、でもそれが私のパワーになってるような気がします。


――前作のEP『mishmash(=「ゴチャ混ぜ」の意味)』はまさにゴチャ混ぜで、全曲サウンドの方向性が違う作品でしたよね。アソート的というか。今回はイントロやインタールードがあって、もう少し構成が明確で、考えて作ったアルバムかと思っていたんですが……。

Tina Moon:考えてないですね、実は(笑)。ただ、前回のEPはかなりポップス寄りに作った作品だったんです。でも今回はもっと攻めて、Tina Moonというアーティストのルートを引き始めたというか。デビューしたての頃は「好きな曲を作るぞ」とか「歌いたいものを作るぞ」という感じだったんですけど、今回は今後のライブのパフォーマンスも含めて、Tina Moonのイメージを明確につけてみたくて。それで、Tina Moonのイメージを考えたときに、自ずとダークなサウンドが増えていったんです。だから考えた部分があるとしたら、全体をダークに仕上げたいというのがありました。


――前半はビートがバキバキに効いた曲が多くて、特に「BARBIE GIRL」が凄く好きなんですが、歌詞にはルッキズムへの批判も込められていますよね。

Tina Moon:そうですね、ゴリゴリにルッキズムがテーマの曲です。やっぱりバービーちゃんって海外だとけっして褒め言葉ではないんですよね。みんなが憧れる顔とボディの典型として揶揄されるものだったりもして。でも、それが好きな男が多いのも事実という。最近であれば例えば韓国アイドルの女の子とか、細い子がいっぱいいるじゃないですか。みんな憧れるし、私もそうなりたいと思っている時期もあったんです。私は整形を否定はしないですけど、そこに入れ込みすぎてしまった結果、自分のためとは言いつつ、結局は誰かの理想のためになっていないか?っていうのもあって……なので、この曲はそうした構造に取り込まれてしまった女の子を主人公にしてみました。



――どうなんでしょう、Tinaさんにとって作詞とは、自分を直反映するというよりも、曲のテーマに合わせて架空の人物を作り上げるという作業なんでしょうか。

Tina Moon:そこは半々ぐらいの感じです。例えばルッキズムについて自分が感じたことを、まずはさらに誇張して、憎しみで固めた女の子=別の「個」みたいなのものを作るんです(笑)。で、そこに私の感情をさらにぶつけつつ、その「個」になりきって歌うっていう。私自身はちょっと奥手なこともあって、男性に振り回されたりとかっていう経験はそんなにないので(笑)。そこは代わりに作った“個”に演じてもらうというか。


――“Tina Moon”とは、ご自身とは全く別のペルソナですか?

Tina Moon:今はすごく、自分自身から遠いものですね。ペルソナ的なものではあるし……自分でも“Tina Moon”の扱い方がまだ把握できていないんです。自分の内なるものを形にしたのはいいですけど、逆にそこに潰されそうな時があるというか。Tina Moonって……自分でも何なんだろうって思います。

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出てくるものを裸のまま音にする

――このアルバムから想起される「Tina Moon」は、凄くダークでSF的な世界、私たちの現実から離れた場所にいる半分アンドロイド的、フィクション的なキャラクターだなと。

Tina Moon:そうですね。私自身はこんなにぶっ飛んだ感じの人間ではないので……だから、どちらかと言えば内に籠もった人間である自分が、ノートに殴り書きしていたイメージを具現化したような感じ。憧れの具現化であり、本当はこうありたい、こう見せたいと願っている自分の姿が、「Tina Moon」には全部詰まっているのかもしれない。


――音楽を作り始めた当初は、もう少し素の自分でしたか?

Tina Moon:一番最初はそうですね。背伸びした自分というか、高校生の時は経験したこともない色々な物事を書いて歌っていました。


――いつから音楽をやりたいと思ったんですか?

Tina Moon:バンドをやり始めたのが高校一年生の時でした。学校の軽音楽部に入って……ボン・ジョヴィのコピーとかしていました(笑)。やっぱりオールドスクールなロックへの憧れがあったんでしょうね。喉を涸らして歌うような感じが好きだったので。


――ただ、バンド・フォーマットだとTina Moonというキャラクターは生まれなかったのかもしれませんね。

Tina Moon:そうですね、出来なかったと思います。そこはずっと悩んでましたし、何しろその時はまだ自分で作った曲や作品を出すこと自体が恥ずかしかったんです。それってポエムみたいなものじゃないですか。



――Tinaさんの作る曲は、サウンドメイキングのツールがギターなのかピアノなのか、全くわからないという面白さがあります。作曲の過程にブラックボックスがあるというか、普遍的なソングライティングの作業が思い浮かばないんですよね。

Tina Moon:いつも、自分の作曲方法を言うとびっくりされるんですよね(笑)。例えばお風呂の中で頭にベースラインが浮かんだら、まずベースを打ち込んで、そのベースに合うドラムを打ち込んだり、サンプルからちょっともらったりして、まずはそのビートで歌を作り、後からシンセを入れたりとか。バラードの「He.」とかは、ギターのイントロから考えていて、それに合わせて「ハハハハ~ン」とか歌ってみたら、なんかいいのが出来たっていう(笑)。


――謎が解けないです(笑)。

Tina Moon:(笑)。音楽知識、専門知識がほぼない状態で作っているんです。本当はもっと格好付けたことを言いたいんですけど……あのジャンルとこのジャンルをどうこうして……みたいな(笑)。でも今は出てくるものを裸のまま音にしている感じです。


――たしかに、ジャンルで語る意味がほとんど見出せないアルバムだと思いました。

Tina Moon:ええ。私、ジャンルの話をされるのが一番苦手で。取材やライブとかで「君の音楽は~っぽくて、ジャンルがどうこうで」っていう話されると、ちょっと鼻でもほじりたくなってしまいます(笑)。そういうマインドで音楽作ってないんですよ、ごめんなさいみたいな。


――前半の4曲くらいはまさにビートから作った感じがするナンバーが多くて、逆に5、6曲目の「Villain」、「虎視眈々」はすごくポップで、メロディーから作られたナンバーかなと思ったんですが。




Tina Moon | 虎視眈々 (Official Music Video)


Tina Moon:当たりです。例えば「Villain」は冒頭のメロディーをループさせるところから始まって、「よし、ここからブリトニー・スピアーズみたいな曲を作るぞ」となった曲です。まず、自分がライブで歌っている姿をイメージするんです。何も纏っていない自分がまずいるとして、そこにブリトニーの要素が入った自分を想像してみる。で、その私がお尻でも振りながら歌いそうな曲を作ってみようと。つまり、自分をマネキンとして捉えて、そこに「誰っぽさ」みたいなのを着せていく作業なんです。


――着せ替え的なことなんですね。

Tina Moon:そうです。それをおもちゃ箱をひっくり返してやる感じ。


――おもちゃ箱という意味ではまさに「虎視眈々」はそうですよね。次から次へと飛び道具を繰り出していくような。

Tina Moon:これは聴いた人にも言われたんですけど、「時代に逆行してるよね」って(笑)。最近は展開が少な目な曲が主流じゃないですか。でも私はやっぱり、ポンポン展開が変わっていく曲が好きで、なんだろう、それこそ衣装替えみたいに。だから「こんなパート入れてみたい」っていうアイデアを全部詰め込んでみたのが「虎視眈々」なんです。


――しかも一曲の中で展開を繰り返すたびに、Tina Moonのキャラクターも変わっている気がして。例えば「Incubus」は、エロティックな女の子がいきなりキッチュで可愛らしい子に変わったりして。

Tina Moon:うんうん。


――曲の中にいくつか人格が存在するように聞かせる構成は、意図的なものですか?

Tina Moon:例えば、人ってすごく怒っていたとしても、数時間経ったら「寂しかっただけなの…」みたいになることってありますよね。私も自分の感情に任せてバーッ!と書いた曲を次の日に見返してみると、なんでこんなに怒っているんだろう、この怒っている「私」は「誰」?ってなるんです。言ってしまえば躁と鬱のような状態なんですよね。例えば「BARBIE GIRL」で言うと、鬱状態の時に書いた曲の中でずっとキレている自分を、躁状態の時に見返すと「こんな怒っているだけの曲でいいのか?本当の自分の気持ちを書け」って思うわけです。そこで「本当は愛して欲しかっただけなんだ」みたいな気持ちを付け加えるっていう。で、その気持ちのアップダウンを表現するためには曲調を展開させる必要がある。だから私には気を張り続けるだけの曲、ずっと攻撃しているだけの曲というのが一切ないんです。


――演じている感じですか? 歌を歌うという行為は。

Tina Moon:ほんとそうだと思います。

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“自分らしさ”がわからなくても直感は信じる

――ジャンルは問わず、そういう表現の仕方の上で影響を受けたアーティストはいますか?

Tina Moon:大好きなアーティストが2人いるんですけど、ビョークとセイント・ヴィンセントです。曲作りの上でもインスパイアいただいてますし パフォーマンスの部分でもそうです。極端に言うと、彼女たちのパフォーマンスは見てると性的興奮を覚えるんですよ(笑)。自分のアイデンティティを「私はこうする、こう見せる」っていうのをすごく確立していて、その世界観にどこまでも惹きつけられてしまう。うん、すごく憧れはありますね。


――ビョークということで言うと、「He.」のヴォーカリゼーションのヤバさはまさにビョークを彷彿させるもので。「He.」を筆頭にアルバムの後半はどんどんプリミティヴになっていくと言うか、声楽的な面白さに圧倒されるセクションでした。

Tina Moon:嬉しい、ありがとうございます。「He.」もすごくこだわって作った曲でして、ヴォーカルもレコーディングでかなり悩んだんです。ただしっとり歌うとかじゃなくて、その中に怒りと憎しみをスパイスのように混ぜていくっていう。私、自分の声質を幾つも変えられるんですね。この曲で言うと、前半はアフリカン・ミュージックの黒人女性シンガーの芯のある声を自分の中に降ろして、“彼女”に歌ってもらったんです。で、その後のサビでは“Tina Moon”が歌うっていう。


――面白い。

Tina Moon:いちいちキャラクターを作っているのかもしれません。曲の中で。


――陳腐な言い方になってしまいますが、そういうやり方だと“本当の自分”の音楽がブレる、ということにはなりませんか?

Tina Moon:私、ブレブレなんですよね……最近、「自分らしさ」っていう言葉を曲の中でもよく見かけますよね。ガールクラッシュ系の曲でも「私らしく生きていこう」っていうメッセージが強くあったり。でも、私は「私らしさ」がわからないんですよ、自分のアイデンティティがよくわからなくて、空っぽっていうか……それに「私らしさ」という言葉は呪縛でもあって、ちょっと苦手なんです。私自身はほんと昔から思うんですけど、すっからかんなんですよね。


――それってデヴィッド・ボウイのような自意識ですよね。彼もデヴィッド・ロバート・ジョーンズという自分自身に対してはほとんど興味がない人なんですよ。その代わりに魅力的なペルソナをいくつも作っていくっていう。

Tina Moon:そう、そうなんです。すごくわかる。



――シンガー・ソングライターは自分らしさやオリジナリティが尊ばれる表現形態でもありますが、そこにジレンマはなかったですか?

Tina Moon:そうなんですよね…でも、そう言われても自分らしさは大嫌いなので(笑)。やっぱり最初は、それこそ『mishmash』の頃は「自分らしい表現とは、ジャンルに縛られずにいろんな曲を作ることだ、それが自分らしさだ」と思ってたんですけど。でもそれって、今考えたら自分らしさを突き詰めることとは逆で、色んなペルソナを新たに作ったってことなんですよね。自分に相応しい一着を見つけるはずが、もっとたくさん服を買っちゃったみたいな(笑)。


――(笑)。ちなみにアルバムの最後の曲「Choose for yourself」だけ明らかに異質ですよね。

Tina Moon:うん、めちゃくちゃ違います。




Tina Moon | Choose for yourself (Official Music Video)



――なぜ最後にロックをやろうと思ったんですか?

Tina Moon:暗いのに飽きたから(笑)。


――(笑)。ただ、ストーリーは見えますけどね。最後に闇が晴れてハッピーエンディングが訪れるという。

Tina Moon:そういう気持ちってやっぱり大事ですよね。ずっとネガティヴなのもいいですけど、それだけじゃなくて、もう一度自分のことを認める時間を作ろうぜって。「Choose for yourself」は自分らしさなんてわからなくてもいい、だけど自分が直感で好きだと思ったことをとりあえずそれだけは信じてやるっていう、そういう歌です。

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ペルソナのレベルを上げてさらに“シッチャカメッチャカ”にしていきたい

――『mishmash』と比較すると、今回はサウンドメイキング、空間設計の面ではかなりまとまりがありますよね。

Tina Moon:そうですね、今回はアレンジを頼んだ方の音の感触もすごく好きで。ああ、この変態な人たちと作ったら、自分のもっと変態の部分が発揮できるんじゃないかって。


――『MY ARMS.』というアルバムを映画にしたと想像して、例えばどんな画が浮かびますか? Tina Moonはここでどんな世界にいますか?

Tina Moon:「Lucky Guy」とかもそうなんですけど、このアルバムには行進のテーマ曲みたいな曲がいくつかあって、それって私を無視して踏みつけながら皆が行進しているイメージなんですよ。このアルバムの中でTina Moonは煌びやかなところにはいない、ちょっと薄暗くて、湖の底のところにいるというか。


――疎外感ということですか。

Tina Moon:そうですね。疎外感はずっと感じますね。今はすごくネガティヴな場所にいるから。どの曲も未だポジティヴなものを取り入れようとしつつも消化しきれていない。



――曲を作る、音楽を作るという作業はTinaさんにとって逃避ですか?それとも現実を少しでもよくする作業ですか?

Tina Moon:逃避に近いかもしれないです。それこそ、今を生きている自分に全く違うキャラクターを着せてやるということをしているので。曲という名のテディベアに向かってずっと話しかけている感覚でもあるんです(笑)。「今日はこんなことがあってね、すごく悔しいからこうやって書きたいんだよ……」って一方的にテディベアに言っている感じ。だからまさしく逃避ということになるのかな。でも、自分を救ってあげたい時もあるんですよね。


――今こうしてお話ししていると、人を撥ね退けて殻にこもるようなネガティヴさは一切感じないんですが、それもまた「インタビューを受ける自分」というペルソナを着ているということですか?

Tina Moon:そうですね。素の私はとんでもなく弱いので、たぶん小さい頃からそこを隠すようになって 、固めちゃったんですよね。だから今は外用の自分というか。いくつもあるキャラクターの一つとして。


――アルバムのアートワークについて教えてください。

Tina Moon:これすごいですよね。これは若干、私に似せたキャラとして作ってもらって。メカニカルな心臓になっているのは、やっぱり自分のことを隠したいというメタファーです。私はそういう生き方を選んだので。本当のハートには触れさせないっていう。でも周りはお花とかで綺麗に昇華させていて……あと、ここには2人のキャラクターがいるじゃないですか。それはやっぱり見せたい自分と、そうじゃない自分の象徴。あと、「MY ARMS」というタイトルには「腕」という意味と「武器」という意味があります。私みたいに自分らしさがわからなくて落ち込んでいる人と一緒に戦える武器になれたらいいし、その人たちと一緒にモチベーションを上げていくことができる声になって、腕に包み込むことができたらいいなって。


――そういうメッセージ・アルバム的な側面もあるわけですね。

Tina Moon:そうですね、同胞に向けての。




――「Villain」には「misfits(社会に順応できない人)」という単語が出てきます。

Tina Moon:そうそう。ヒーローって、なんでもできるし、キラキラしているし、自分らしさを持っていて、なんかイヤなんですよ(笑)。私みたいな暗いヤツはどうしてもヴィランのほうに共感するっていうか。ヒーロー側の正義の押し付け、「ポジティヴでいようよ!」みたいなのがイヤで。ヒーローってヴィランを倒しまくるわけですけど、ヴィランからしたらそっちが敵だし、一方的な正義を振りかざして断罪されたくない。だから私はネガティヴ同胞たちと一緒にヒーローを狩りにいく、っていう曲です。


――日本のポップ・ミュージック・シーンと呼ばれるものに、Tinaさんはコミットできますか? ご自身が属せそうなコミュニティはありますか?

Tina Moon:何処にもないです。それこそ疎外感ですよね(笑)。自分がどこのシーンに属するとか知らないし、居場所がないって悩んでいたんですけど……もう別にいいっていうか。私も素の自分を出せないし、幾つものペルソナを使い分けて人と接しているから。とりあえず自分の性癖で作った曲たちを、どこかで発散できればなって(笑)。


――(笑)。Tinaさんの音楽を全く聴いたことのない第三者に「Tina Moonの音楽って何ですか?」と訊かれたら、このアルバムをどう説明しますか?

Tina Moon:シッチャカメッチャカ(笑)。自分でもそう思います。


――(笑)。そんなデビュー・アルバムを作ったTinaさんの音楽は、今後収束に向かいそうですか?それともより拡散していく流れになりそうですか?

Tina Moon:次回作では、自分の知識や腕も今より上がっていると思うので、もっといろんなものに手を出して、さらにシッチャカメッチャカにしていくことになるかもしれないです(笑)。結局、私はいろんなタイプの曲が本当に好きなので、それを一つでも多く表現できるように自分のペルソナ・レベルをもっと上げていく方向になるんじゃないかなって。


――確かに、現時点でもアレンジによってはオーケストラも余裕で搭載できそうな曲もありますよね。

Tina Moon:そうですね、ゆくゆくはオーケストラともやってみたいっていう夢はあります。ビョークもやってましたし。


――Tinaさんの直近の目標と長期的な野望をそれぞれ教えてください。

Tina Moon:直近の目標は11月に決まったワンマンライブですね。バンド・フォーマットでダンサーや映像も盛り込んで作り上げたものをやらせていただく予定です。そこでもっと私の世界を全て表現したいですね。音楽、映像、ファッションも含めて総合的に見せていけたらなって。長期的には、自分としてもっと自分の癖を出して生きたい。人間からの逸脱というか、このフォルムを捨てたい(笑)。自分としての進化をしたいんです。

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