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<わたしたちと音楽 Vol.17>きゃりーぱみゅぱみゅ 枠からはみ出してみることで見えた自分の武器
米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回登場してくれたのは、2023年5月15日にワールド・ツアーをスタートさせるきゃりーぱみゅぱみゅ。デビュー当初から既存の枠にとらわれない表現で唯一無二の世界観を確立し、今では国内外から注目を集めるアーティストとなった。元々はシャイで内気だったという彼女は、“きゃりーぱみゅぱみゅ”としてデビューしたことでコンプレックスを武器に変えてきた。大切にしてきたのは、周囲の目を気にせずに一歩踏み出すこと。その言葉には説得力がある。
(Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING]/ Photo: Yu Inohara)
原宿ファッションに身を包んだことで世界が広がった
――きゃりーぱみゅぱみゅさん(以下、きゃりーさん)が、幼少期に憧れていた女性像を教えてください。
きゃりーぱみゅぱみゅ:最初に憧れたのは幼稚園の先生だと思います。20代前半くらいだったのだと思うのですが、幼い私からすると先生は明るくて優しくてピアノも弾けて工作もできる完璧な女性でした。身近にいてくれる母親の偉大さに気が付いたのは、もう少し大きくなってからでしたね。特に、18歳で一人暮らしを始めてからは家族が過ごしやすいように母が心を配って色んなことをやってくれていたのだなと思うようになりました。
――きゃりーさん自身は、どんな子供だったのでしょうか。
きゃりーぱみゅぱみゅ:元々は、シャイで内気な性格でした。流されやすくもあって、高校入学まではファッションにもあまり興味がなくて、高校に入学してからも友達がSHIBUYA109に行くのについていって、「このワンピース可愛いからお揃いにしよう!」と言われれば何となく流されて買ってしまうような……でもそうやって遊ぶようになったある日の帰り道に、原宿のショップのショーウィンドウに並んだお洋服を見て「可愛い!」と思ったんです。まるでビビビ!と稲妻が走ったような衝撃でした。そうして原宿系のファッションに目覚めて、どんどん派手になっていった。好きな洋服を着て街に出かけるのがすごく楽しくて、自分の居場所を見つけられたような気がしたんです。
――シャイで内気な子が派手なファッションに身を包むことは勇気が要りそうですが、ハードルは感じなかったのでしょうか。
きゃりーぱみゅぱみゅ:学校でみんなの前で何かを発表して注目を集めてしまうのはとても苦手だったのですが、街で知らない人に自分のファッションを見られるのはむしろ嬉しかったんです。ピエロのようなメイクもしていたし、クスクス笑われるようなことがあっても、「これが私です!」と胸を張れる気持ちでしたね。好きなファッションに身を包んでいるのが自分自身だし、それを貫いて生きていきたいとその時に思うようになりました。それがきゃりーぱみゅぱみゅとしてデビューした後にも続いているんです。
アーティストとして表現することでコンプレックスが武器に
――原宿系ファッションを通じて、自分の世界を大きく広げてきたのですね。高校生の時などは特に周囲の目が気になったり、「女性らしさ」のような固定概念にとらわれてしまう人も多いと思いますが、それらから自分を開放できたのはどうしてだと思いますか。
きゃりーぱみゅぱみゅ:当時はみんなが読んでいる雑誌もあったし、わかりやすく「モテファッションはこれ!」というロールモデルがある時代でしたから、私自身も「こういうファッションをして、こういう髪型をすればモテるんだろうな」ということは何となくわかっていたと思います。それが似合っていたらそうしていたかもしれないですけれど、私には似合わないと思っていたんですよね。何かしらコンプレックスがあって、奇抜なファッションや派手な色合いに身を包むことによってそれを隠したり自分を強く見せていたりしたのだと思います。デビューしてからは特に、その枠組みからはみ出した部分を褒めてもらえるようになって嬉しかったです。
――きゃりーさんのように、自分が好きなファッションに身を包むことに躊躇してしまう人もいると思いますが、何か伝えるとしたら?
きゃりーぱみゅぱみゅ:「きゃりーちゃんみたいなファッションに興味があるけれど、自分には無理だから見ているだけで満足です」と言われたことがあるのですが、「ぜひ一回やってみて!」と思っています。私が好きな言葉は、林真理子さんの「やってしまったことの後悔は日々小さくなるが、やらなかったことの後悔は日々大きくなる」(『野心のすすめ』)というもの。失敗しても良いからまずはやってみたいことをやってみてほしい。私自身が、去年その言葉に助けられたことがありました。2022年に【コーチェラ・フェスティバル】に出演した時、2週目に一緒に出演するはずだったダンサーの4人中3人が体調不良でダウンしてしまって……スタッフが気を遣って「出演キャンセルする?」と提案してくれたのですが、一人でやってみることにしたんです。それまで絶対に不可能と思っていたけれど、実際に挑戦してみたらマリオのスーパースター状態のようになってどうにかなりました。それで「どうして今までやってみなかったんだろう」と思ったんです。自分自身で、自分の可能性を狭めていたことに気が付いたんですね。自分で「無理だ」と決めつけていても実際にやってみたらできちゃうことって案外たくさんあるかもしれないから、みんなにもぜひ挑戦してみてほしい。
――プライベートでは今年3月にご結婚され、ライフステージの新たな扉を開かれました。アーティスト活動にどんな影響があるかお聞きしたいのですが、まずはご結婚おめでとうございます。
きゃりーぱみゅぱみゅ:ありがとうございます。この業界は、華やかな一面とそれ以外の部分のギャップがある世界だと思います。大きなステージでライブをやらせてもらった後にも一人で部屋の隅でファーストフードを食べていたりしますからね(笑)。そんな世界だからこそ人と人が支え合うことが大切だと思っているので、支え合う相手がいるのは心強いですね。まだどうなるかわからないけれど、出産についても考えたことはあります。やはり女性は休養期間が必要ですし、出産によって生まれるブランクに恐怖を感じる同業者の話もよく聞きます。自分が休んでいる間にそれまで座っていた椅子に座れなくなってしまうのではないか、と。でも自分がいざ結婚したら、それも受け入れてきちんと向き合っていきたいなと思うようになりました。
新しい価値観を持つ人が決定権を持てば世界は変わる
――妊娠・出産によってキャリアが中断することは、どんな女性にとっても大きな出来事ですね。他に女性であることが何かご自身の選択に影響を及ぼしたことはありますか。
きゃりーぱみゅぱみゅ:私が高校生くらいの時には、女性の政治家は今よりもっと少なかったように思いますし、校長先生や学年主任のような学校で決定権を持っている人も女性はあまりいなかったように思います。その時から比べると今は色々なことが変わってきていて、生きやすい世の中になってきているのを感じます。一方で、今でも音楽フェスなどの複数アーティストが出演する現場でも、女性アーティストが私だけということもたまにあって、どうしてだろうと不思議に思っていました。
あとはデビュー当時は悔しいことも多かったです。「若い女性だから」というのに加えて、奇抜なアーティスト名とファッションだからか、「不思議ちゃん」的なキャラクターを押し付けられたりして……インタビューでの発言も全てタメ口に書き換えられていたり、「きゃりーが登場するや否や飴を投げつけてきた」と書かれたり(笑)。あとは現場でクライアントに挨拶するような場でも、目も合わせてもらえないようなこともありました。そういった経験をしてきたからこそ、その頃に優しくしてくれた人のことはずっと覚えているし、私自身は現場でどんな人にも分け隔てなく接するようにしたいと思っています。
――ジェンダーやファッションによってリスペクトのない対応をされるのは許しがたいことですね。音楽業界やエンターテイメントの業界で女性が活躍するには、何が必要だと思いますか。
きゃりーぱみゅぱみゅ:今、世の中は古い価値観の時代から新しい価値観の時代へと変わりつつある最中なんじゃないかなと思うんです。政治家が女性蔑視的な発言で炎上しても、本人は「軽口のつもりだった」というようなこともありますよね。軽口のつもりだった人が、「今は時代が違うんだ、生き方を変えよう」と気が付けるとは思えなくて、なかなか人の価値観は変わらないのではないかと考えてしまいます。決定権を持っている偉い人が新しい価値観を持つ”新人類”にもっと増えていけば、もっと女性も働きやすくなるんじゃないかな。
プロフィール
2011年8月、中田ヤスタカプロデュースによるミニアルバム「もしもし原宿」でメジャーデビュー。2013年からこれまでに、4度のワールドツアーを成功させている。2020年には、レディー・ガガが国際女性デーを祝してセレクトしたプレイリスト「ウーマン・オブ・チョイス」に、世界中の力強い女性の一人として選出。世間の常識にとらわれず、思いのままに表現するクリエイティビティや自身の発言は、国内外から注目を集めている。
2022年4月、世界最大規模の音楽フェス【コーチェラ・フェスティバル】に出演し、GOBIステージのトリを2週に渡って飾った。ライブの模様はYouTubeでも生配信され、世界中がそのパフォーマンスに熱狂した。同年11月には【TRUE COLORS FESTIVAL〜超ダイバーシティ芸術祭~】にてケイティ・ペリーとも共演。2023年にはヨーロッパ・アメリカにて7都市を回るワールドツアーも開催。
何にも縛られることのない表現に挑戦し続ける、『HARAJUKU』そして『JAPANESE POP』のアイコン。
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