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<インタビュー>カーネーション、結成40周年の節目に再現される名盤『LIVING/LOVING』を語る
今年でバンド結成40周年を迎えるロック・バンド、カーネーション。その長い歴史のなかで度々メンバー・チェンジを経て、現在のメンバーは直枝政広(Vo, G)と大田譲(B)。この2人になってから10年以上、カーネーションは、たった2人とは思えないほど豊かで力強いサウンドを鳴り響かせてきた。そんな彼らの大きな節目となった2003年作『LIVING/LOVING』の再現ライヴが開催される。90年代、カーネーションは5人編成で活動していたが、2002年に2人のメンバーが脱退。残された3人、直枝政広、大田譲、矢部浩志(Dr)は解散の危機にさらされながら、新しいカーネーションのサウンドを作り出さなければならなかった。そして、生き残りを賭けて作り上げた『LIVING/LOVING』は高い評価を受け、今では名盤として語り継がれている。当時、彼らはどんな思いでレコーディングに挑んだのか。そして、再現ライヴに向けた意気込みを直枝と大田に訊いた。(Interview & Text:村尾泰郎 / Photo:Masanori Naruse)
バンドとして新しいことをやるというのは、自分の中にあるものをもう一回探し当てること
——振り返ると、『LIVING/LOVING』はバンドのキャリアの中間点にリリースされました。それまでの20年でカーネーションの音を作り上げてきて、メンバーも安定してきた時期でしたね。
直枝政広:そうですね。83年12月にバンドを結成したんですけど、最初の10年はライヴの見せ方もレコーディングも手探り状態。KERAくんとかムーンライダーズの鈴木博文さんとか、いろんな出会いを通じて勉強していましたね。83年に大田くんは京都から上京してきたんだよね。
大田譲:上京してGRANDFATHERSっていうバンドをやってたんですけど、西のノリが抜けてなくて。カーネーションは東のバンドだから雰囲気が全然違う。なんか繊細なバンドだなって思ってたから、一緒にやろうよって誘われた時、最初は断ったんです。俺は絶対向いてないからって(笑)。
直枝:でも、入っちゃえば完全に馴染んでたよ(笑)。
——大田さんが加入したのは『天国と地獄』(1992年)の時でしたが、このアルバムで5人編成になってメンバーが安定します。
直枝:このアルバムでメンバーの意識がひとつになったんです。バンド結成10年目くらいになると音楽をトータルで考えるようになって、自分に足りないものがみえてくるんですよね。コンピュータを導入して細かくプリプロダクションをやって、メンバーそれぞれが自分のパートを突き詰めて考えるようになった。だから、ライヴよりレコーディングが中心でしたね。お互いに、もっとこうしたほうがいいんじゃないかって意見を出し合ったりして。
——バンドの青春時代っていう感じですね。『EDO RIVER』(1994年)あたりからラジオでも曲がかかるようになってバンドとして順風満帆かと思いきや、『LOVE SCULPTURE』(2000年)を発表後、2人のメンバーが脱退します。メンバーが半分になるわけで大事件ですね。
直枝:いやあ、大変でしたね。2人が抜けたのはバンドをやってくうえでの意識の違いだったので、そこに関しては何度も話し合いましたけど仕方のない選択だったのかなって思います。
——メンバーが3人になる、ということはバンド・サウンドを大きく変えなければいけない。下手すると、これまでの曲が演奏できなくなりますね。
直枝:そうなんです。野球選手や相撲とりでも同じかもしれないですけど、フォームを変えるっていうことはとてつもないことなんですよ。とりあえず、3人でリハーサル・スタジオにこもって、これまでの曲を一通りやってみたりもしたんです。3人でできるかどうか確認するために。
大田:3人だとスタジオがガランとしてるんですよね(笑)。5人の時と空気違う。だから音で埋めたくなるんですけど、ただ音をデカくすればいいってもんじゃないから、埋めるためには手数か?フレーズか?って考えてね。といっても、急にはできないから、新たに自分たちで作り上げるしかなかったんです。
直枝:これまでトリオだったことがなかったので、トリオの魅力というのを考えずにきてたからね。だから改めて、トリオってどんなバンドがいたっけ?って勉強したんです。ジミヘンを聴き直したりして。
大田:ジミヘン聴いてたんだ。
直枝:あんなに聴いた時期はなかった(笑)。あと、アレックス・チルトンの『Loose Shoes Tight Pussy』っていうアルバムが大好きで。あのトリオ感が、ちょうど今の自分たちに合うんじゃないかと思ったり。
大田:そのアルバムを直枝くんに聴かされたのは覚えてる。ロック・トリオといえばジミヘンとかグランド・ファンクっていうイメージがあったから、これからはもっとロック色を強くしていけばいいのかな、と思ってたんですけど、あのアルバムを聴いて、こういう切り口もあるのかって思った。すっきりしてて歌も強いというか。
直枝:歌手のメロディアスなセンスをギターに持ってきて、メロウな感じを出す。そういうところからスタートするのがいいんじゃないかって思ったんです。3人でカーネーションの歌ものとしての魅力をどう出すのかをずっと探ってましたね。トリオでメロディアスなロック・バンドっていうのがなかなかいなかったので。
——新しいメンバーを入れようとは思わなかったのでしょうか?
直枝:こっちは意地になってたんで、3人でやってやろうじゃないか!って思ってました。3人になって新しい事務所と契約したんですけど、そこで話し合った結果、これからはライヴ・バンドで行こうってことになったんです。使うスタジオもお願いするエンジニアも変わってゼロからの再出発でしたね。
——そんな厳しい状況のなかで『LIVING/LOVING』が作り上げられたわけですね。『LOVE SCULPTURE』と比べるとバンド・サウンドが生々しくなっていますね。ギターが直枝さん一本になったことで、ギター・サウンドの表情も変わりました。
直枝:使うアンプとかギターの種類とか、まずそこから考えていきましたね。
——「あらくれ」の爆音ギターとか、それまでのカーネーションにはない感じですよね。
直枝:俺のルーツはニール・ヤングだし、グランジも通ってるんで爆音は全然鳴らせるんです。大田くんが加入した時は、ザ・バンドを聴き直したりしてましたし、10年ごとに自分のルーツが蘇ってくるんですよ。バンドとして新しいことをやるというのは、新しい音楽地図を広げるということではなく、自分の中にあるものをもう一回探し当てることだと思ってます。
——そして、見事に探し当てた。大田さんはベースに関してはどんなことを意識されたのでしょうか。
大田:ピアノともうひとりのギタリストがいなくなったことで、リズムを刻めるのがドラムとベースだけになったのは怖かったですね。そこで直枝くんに負担をかけられないじゃないですか。歌ってギターを弾いてるんだから、変にギターを意識しちゃうと歌えなくなるし。
直枝:大田くんや矢部くんは「直枝くん、頑張ってよ」とは言わずに、僕にプレッシャーをかけないようにしてくれてたと思います。この前、2004年のライヴ音源をBandcampで配信したんですけど、2人の演奏が歌を守ってくれてること気づいたんです。だから自分は気持ちよく歌えている。2人は優しかったなって、今さらながらに思いましたね。
——優しさがバンドを救った、良い話ですね。『LIVING/LOVING』ではトリオを中心にしながら、曲によってはホーンやストリングスを入れてアレンジに工夫が凝らされています。そこにもバンドがトリオの可能性を探っている姿が浮かび上がってきますね。
直枝:トリオでやる以上、過去にあまりないトリオ感を作ろうと思っていたんです。グロッケンとかストリングスなど、きらびやかなものをトリオ・サウンドにコーティングしてもいいんじゃないか?って。
——それが厚化粧にならず、3人の演奏にフィットしています。
直枝:例えば「LOVERS & SISTERS」は完全にストリングス曲なんですけれど、ボトムは俺たち3人で出来上がっているんで全然いやらしさはない。色づけとトリオ感がいいバランスになってると思いますね。
カーネーション - LOVERS & SISTERS
——確かに。最近、デビューしたばかりの3人組のバンドに取材したんですけど、彼らがファースト・アルバムを作る際に『LIVING/LOVING』を手本にしたって言っていました。トリオでどれだけサウンドを広げられるのか、すごく参考になったそうです。
直枝:それは嬉しいですね! そこはこのアルバムで考え抜いたところでもあるので。
『LIVING/LOVING』を今の視点でアップデートする、という再現ライヴにしたい
——バンド・サウンドが変化したことで直枝さんのヴォーカルも変わりましたね。曲の中で表情が細やかに変化している。表情豊かにすることで、バンド・サウンドに色合いを添えようとしているようです。
直枝:そう言って頂けるとありがたいです。この時期は一番、歌入れに時間をかけていたので。今聴くと〈若いなあ〉って思っちゃいますけどね。もう少しへその下に、丹田に力を入れろよって(笑)。でも、頑張ってますよ。「COCKA-DOODLE-DO」の歌はなかなか良いと思います。「USED CAR」「やるせなく果てしなく」なんかも良い。
カーネーション - やるせなく果てしなく
——3人のカーネーション・サウンドができた!と思った曲はありました?
直枝:「やるせなく果てしなく」みたいな曲がギターのジャカジャカだけでいけた時かな。あとはリフでもっていく「ハイウェイ・バス」。こんな曲ばかりだったら大変だけど、このぐらいポップにリフで攻められたっていうのは自信になりましたね。
大田:俺も「ハイウェイ・バス」は印象に残ってる。この曲ができた時は、〈これでいいじゃん!〉って思えたし、光明が見えた気がしましたね。「やるせなく果てしなく」も手応えを感じたけど、この曲はベースが大変で(笑)。
直枝:ベース、めちゃくちゃ良いんですよ。この曲に限らず、このアルバムの曲のベースはどれもすごい。
大田:1曲1曲、時間をかけてみっちり練習したからね。矢部くんのドラムにも助けてもらったからこそ弾けたっていうのもあるけど。
——振り返ってみて、このアルバムについてどんな印象を持たれますか?
直枝:この3人でやってほんと良かったです。もみくちゃになって、いろんな失敗を重ねて作ったアルバムですけど、そのなかで「ここが良かったな」っていうところが後に残るんで。そして、失敗したところは分厚くなっていく。そういう経験ができたことはすごく良かったですね。
——このアルバムが、その後の20年の土台になっていますよね。そんな作品を今回どんな風にライヴで再現されるのでしょうか。
直枝:本来なら、矢部くんを入れた3人でやれると良かったんですけど、いろんな事情があってそれはできなかったんです。矢部くんが参加しないと、あの音を完全に再現することはできないんですけど、僕ら2人がいればなんとかなる。ずっとライヴを手伝ってくれている仲間(松江潤(g)、張替智広(Dr)、伊藤隆博(key))に来てもらって、さらにチェロ奏者の橋本歩さんに参加してもらう予定です。チェリストがロック・バンドに絡むのは珍しいかも。『LIVING/LOVING』を今の視点でアップデートする、という再現ライヴにしたいと思ってます。
大田:当時と同じように演奏するより、今の俺たちがやったらこうなりましたっていう方が面白いんじゃないかと思うんですよ。あと、こういう機会がないと昔の作品に向き合うことがないので、当時のことを思い出しながら演奏したいと思います。思えばこのアルバムを作った時って40歳くらいじゃない? 充分オッサンだけど、今から考えれば40なんて若いよね。
直枝:青臭いよ(笑)。お客さんも俺たちも、それぞれの20年を振り返りながら音楽と向き合えたらいいなって思いますね。一緒に時間旅行するみたいに。
——当時、ライヴハウスで飛び跳ねていた若者が、ビルボードライブでゆったりと音楽を楽しむというのもいいですね。大人になったなあって感じながら。
直枝:そうそう。飲み食いしながら楽しんでください。ビルボードライブでやるんだったら、きらびやかなところがあってもいいんじゃないかとも思ってもいて。ビルボードライブに合う『LIVING/LOVING』を演出したいです。
大田:ステージの後ろのカーテンが開くのがいいんだよね。いつも〈おー〉って思って演奏しながら見ちゃうんですよ(笑)。今回もお客さんと一緒に夜景が見られるのを楽しみにしてます。
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