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<インタビュー>尾崎裕哉が今こそ向き合う、父・尾崎豊の名曲「I LOVE YOU」
Interview:黒田隆憲
Photo:Yuma Totsuka
尾崎裕哉によるニューEP『I LOVE YOU』がリリースされる。
前作『BEHIND EVERY SMILE』からおよそ1年半ぶりとなるこの新作では、父である尾崎豊の「I LOVE YOU」と「OH MY LITTLE GIRL」を初めてスタジオ録音により音源化。サウンド・プロデュースにはデビュー以来折に触れタッグを組んできたトオミヨウを起用し、この不朽の名曲を現代に蘇らせている。また、ライブでも好評な書き下ろしのオリジナル2曲も収録されており、尾崎裕哉の“今”を垣間見ることができる作品に仕上がった。
父に似た自分の声を「誇り」だと、なんのてらいもなく話す尾崎。彼に、亡き父への思いや本作の制作エピソードなどたっぷりと語ってもらった。
オリジナルへのリスペクトを最大限に込めた
――今回、満を持して父親である尾崎豊さんの楽曲を取り上げようと思ったのはどんな経緯だったのでしょうか?
尾崎:これまでライブやテレビなどでは歌ってきていましたし、いつか音源にしようとタイミングを見計ってはいました。が、実際にやるとなるとやっぱり形に残るものですし、重いものがあるなと思っていたんです。本当はデビューしたときが一番やりやすかったとは思うんですけど、それ以降は余程のタイミングがないと難しくて。そうこうしているうちに、自分自身の声がデビュー時と比べると変わってきていることに気づいたんです。それは、“尾崎裕哉”としてのオリジナリティがどんどん前に出てきていることでもあるのですが、父親の声に似ているこのタイミングを逃すわけにもいかないなと。ちょうど去年は尾崎豊が亡くなって30年という節目でもあり、そういう様々なタイミングが重なって今回のリリースという運びになりました。
――ご自身の声が尾崎豊さんに似ていることに対してはどんな思いがありますか?
尾崎:誇りに思っていますし、ここまで似ていなかったら自分は音楽を志していなかったかもしれないです。自分の音楽の原体験は“尾崎豊”で、自分の中にある“尾崎豊”を探すために音楽をやっていたところがやはりあるんですよね。ギターと出会ったのはその後であり、ギターでの表現が“尾崎裕哉”というオリジナリティを引き出してくれるようになっていくのですが、音楽の原体験は尾崎豊にほかならない。なので、自分の声がだんだん変化していっていることはむしろ寂しくもあるんですよ。普段、歌っていても「昔のほうが圧倒的に似ていたな」と自分で分かりますしね。
――なるほど。今回アレンジを務めているのは、裕哉さんとも長年タッグを組んできたトオミヨウさんです。作るうえでどんな話をしましたか?
尾崎:そんなに細かい話はしていないんですよ。今回、「I LOVE YOU」と「OH MY LITTLE GIRL」の2曲を取り上げることにしたのですが、まず「I LOVE YOU」は基本的にオリジナルのアレンジを踏襲したものにしようということになりました。オリジナルのアレンジがとても素晴らしいですし、「そこは壊さずリスペクトを込めよう」と。もう1曲のほうはそれに比べると少し遊び心も加えていますね。
――「I LOVE YOU」は裕哉さんにとってどんな曲ですか?
尾崎:父親の“生前の映像”として必ずと言っていいほど流れるのがこの曲の演奏シーンですし、自分自身もライブで必ず歌っている曲でもある。これまでに何度も聴いたり歌ったりしてきた特別な存在であることは間違いないですね。僕と同世代の人たちがこの曲を聴くようになってくれたのは、おそらく韓国でカバーされヒットしたことが大きかったと思うんですけど、個人的にも「愛とは何か?」を改めて考えさせられるきっかけになった曲。どうして人は愛すると寂しくなるのか。その意味が最初は全くわからなかったのですが、年を重ねていくなかで徐々に理解できるようになってきたし、「今、愛を伝えないと一生伝えることができなくなるかもしれない」という切なさがこの曲に込められていることに気づけるようになってきました。
――では、歌ううえで気をつけたこと、こだわったことは?
尾崎:この曲に関しては、とにかくオリジナルへのリスペクトを最大限込めようと思いました。レコーディングでも尾崎豊のオリジナル音源を何度も聴きながら歌ったんです。というのも、これまでずっとこの曲を歌い続けてきたことで、自分なりの“クセ”みたいなものがついてしまったんですよ。それにより、オリジナルのメロディや歌い回しからだいぶ離れてしまったところもあったので、そこを矯正する意味でも“聴き直し”は必要でした。エフェクト処理されていない“生のボーカルテイク”が聴けたのはとても貴重な体験でした。どこか懐かしい感覚もありましたし、「そうか、親父はこんなに優しい歌い方をしていたのか」という気づきを得たのもうれしかったですね。
――もう一曲の「OH MY LITTLE GIRL」は裕哉さんにとってどんな曲ですか?
尾崎:この曲は歌っていてとにかく心地いいんですよ。トオミさんのアレンジによってブルーアイド・ソウルっぽさが増したなと。なので、ギターを重ねるときにはエリック・クラプトンの『Pilgrim』(1998年)を聴き直してみました。サウンドやフレージングなど参考にしましたね。
――EPの後半には裕哉さんのオリジナル曲「僕がつなぐ未来」と「迷わず進め」が収録されています。全体的にシンプルでオーセンティックなアレンジが施されているなと感じました。
尾崎:今作のオリジナル曲に関しては、もともと知り合いが新潟のローカルテレビで制作しているドラマ用に書き下ろしたものなんです。そのドラマのテーマが「受け継ぐ」「引き継ぐ」だったので、まさに今回のカバーのテーマともつながるなと。作り方としては、デモの段階ではなるべくギターと歌だけで成立させるようにして、肉づけに関してはアレンジャーにお任せしようと思いました。そのあたりは打ち込みでデモを制作していた前作『BEHIND EVERY SMILE』や前々作『INTO THE WIND』のときとだいぶ違いますね。
「何事も、いつかは過ぎ去っていく」
――前回のインタビューでは「今はソウルやシティポップに興味があるのでそういう曲を作ってみたい」と話していましたが、この2曲を聴く限りではまた違うフェーズに入っている印象ですね。
尾崎:そうですね。もっとギター寄りの音楽というか、例えばJPサックスやエド・シーランあたりをよく聴いていました。ツアーのことを考えながら、そこで鳴らされる音楽を想定しながら作っていた部分もあるので、わりとそういう路線にシフトしたところはありますね。
――例えば「僕がつなぐ未来」の後半にシンガロングしたくなるようなコーラスが入っていたり、歌詞の中には<走り抜けた道の周りには 沢山のエールを送る人がいる>というフレーズが入っていたり、ファンに対しての裕哉さんの思いも込められていると思いました。
尾崎:それは間違いないですね。これまでずっと僕を支え続けてくれたのは、ほかならぬファンのみんななので。
――次の「迷わず進め」はどのようにして生まれた曲ですか?
尾崎:メロディ自体はちょっと前からあって、そこに仮の歌詞を入れた状態で寝かせていたんですけど、ドラマのエンディングで使うことになってブラッシュアップしました。とにかく気持ちが落ち込んでいて、「どうやって希望を見出していったらいいのだろう?」と考えながら書いた歌詞がそのまま残っていますね。
――この歌詞にある<冗談ばかりの明るい性格 悲しみは笑顔で隠せるから>というフレーズは裕哉さん自身の想いを綴ったものですか?
尾崎:自分の気持ちをほぼそのまま出しています。本当の気持ちを隠し続けているうちに、それがどういうものだったか分からなくなってしまうというのは、よくある話ですけど自分も経験したことがあるし。そこの戸惑いのなかで生きることについて書いた歌詞ですね。
――<どんな時も忘れたくないんだ 勝ち負けよりも自由なものを>というフレーズがありますが、裕哉さんにとって“自由”とはなんでしょうか。
尾崎:これはドラマの中で主人公が発する台詞をもとに書いた歌詞ですが、僕は誰もが“自由”を持っていると思っています。この前、あるインタビューで「不自由とは何ですか?」と聞かれたのですが、「時と場合によるんじゃないですか?」としか言えなかったんですよ(笑)。もし“不自由”だとその人が感じていたとしても、その状況に居続けることを選択したのも紛れもない自分じゃないですか。要するに、“不自由”も自分で作り出したものなんですよ。もちろん今話しているのは大人になってからのシチュエーションであって、子供の頃や学生時代となるとまた少し違ってくるけど、“自由”か“不自由”かを決めているのは自分自身なんです。“不自由”であることに心地よさを感じている人もいますし。
――たしかにそうですね。<生まれた瞬間から誰も やがて一人で歩いていく運命で それでもなぜか一人では生きることができなくて>は、コロナ禍で多くの人が再認識したことなのかなと。今、孤独に苛まれている人にはどんな言葉をかけたいですか?
尾崎:「何事も、いつかは過ぎ去っていく」ということですかね。同じように辛いことや楽しいことがずっと続いていくなんてことはあり得なくて。いずれもいつかなくなってしまうものじゃないですか。そうやって考えると少しは楽になるんじゃないかなと思います。
――やっぱり、裕哉さんはいつもどこか俯瞰した視点をお持ちですよね。
尾崎:何事も俯瞰してしまうのは、楽しかったことも辛かったことも、「あれって何だったんだろう?」と常に検証しているからじゃないですかね(笑)。ある意味、そうしていないと守れなかった心の部分がおそらくあって。そういうことを人と話したり、誰かと気持ちを共有したりしていくなかで、人は自分のトラウマや弱みを克服できると思うんです。例えば毒親って、自分のことを毒親とは思っていないんですよ。なぜなら本人も毒親に育てられてきた場合が多いから。その負の連鎖から抜け出すためには、自分の状況を俯瞰できないと難しいんです。別に僕自身が毒親に育てられたわけでは全くないのですが、自分で生きる道を模索しているなかで見つけた手段が“俯瞰した視点”だったんです。自分の周りでもすごく辛い体験をしたり、大変な環境に身を置いていたりしたことがある人は、大抵は俯瞰した視点を持っていますね。
――最後に、開催中の【尾崎裕哉 Strings Ensemble Premium Concert 2023】についてお聞かせください。
尾崎:僕がデビューを発表するときにも弦楽器と一緒にライブをやったんです。なので、今回は“原点回帰”と言いますか、これまで自分がやってきたことを振り返る時期に入ったのかもしれない。昔から僕を知ってくれている人にとっては懐かしい感じがするだろうし、最近僕を知ってくれた人には新鮮に感じてもらえるのではないかと。デビューのときよりも当然オリジナル曲が増えていますので、それをどんなアレンジで披露しているのか、ぜひ会場に見に来て頂きたいですね。
尾崎裕哉「I LOVE YOU」Lyric Video
I LOVE YOU
2023/04/05 RELEASE
SECL-2854 ¥ 1,800(税込)
Disc01
- 01.I LOVE YOU
- 02.OH MY LITTLE GIRL
- 03.僕がつなぐ未来
- 04.迷わず進め
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