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<インタビュー>アシュニコ 自身が描く物語から生まれた『ウィードキラー』

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Interview:Mariko Okada
Photo:Yuma Totsuka

  ロンドンを拠点に活動する新生代シンガー/ラッパー、アシュニコ。外見に囚われないエンパワーメントをテーマにした音楽で社会的なメッセージを伝え続け、音楽性だけではなく彼女の芸術的なビジョンやファッション、そして発言も注目を集める。

 そんなアシュニコが3月に初の来日公演を開催し、東京公演の前にインタビューを実施した。2023年6月にリリースを控えるデビュー・アルバム『ウィードキラー』についてはもちろん、楽曲の制作についてや、彼女が日々考えていることなど語ってもらった。

自身が地球に与える影響について自覚的になった

――日本での初ライブはいかがでしたか?

アシュニコ:本当に最高。日本に来られて嬉しいし、キャパが小さいライブだったからとても親密でいい感じでした。

――大阪公演では観客とたくさん交流されたとTwitterで拝見しました。

アシュニコ:そう、いつもステージ上でみんなとよく喋るんです。多分ショーの半分くらいは喋ってるんじゃないかな。

――少し遡りますが、2021年末から2023年初頭にかけては、楽曲のリリースをお休みされていましたね。この期間はクリエイティブ面やパーソナルな面でどのように役立ちましたか?

アシュニコ:その間はツアーをしたり、ニュー・アルバムのために曲を書いていましたが、あっという間でした。とてもハードに仕事に打ち込んでいた時期で、ひと息つけたらよかったんですが、そうできませんでした。休暇を取って森にこもって、アルバムのために曲を書いていたと言えればすごくロマンがあると思うけど、実際は曲を書く時間を合間に見つけながら、ミックステープ「デミデヴィル」のツアーを行ったり、南米のフェスを周っていました。半年くらいは、しっかりと曲作りに取り組む期間を設けることができたんですが、あとは断片的でした。それらを含めてトータルで1年を曲作りに費やしたと思いますね。

――ツアーのモードと曲作りのモードがあると思うのですが、切り替えるのは難しいですか?

アシュニコ:それをうまく切り替えているアーティストもいますよね。ツアーバスに小さなスタジオを作ったりするアーティストもいますが、「どうやってるの?」って感じです。私はステージを降りたら、うつぶせになって叫びたくなるから(笑)。

――そして2023年に入り、「You Make Me Sick!」と「Worms」でカムバックを果たしました。あなたが書いた短編小説をもとにしたデビュー・アルバム『ウィードキラー』から先行リリースされた楽曲ですが、この短編のストーリーをどのようにアルバムに展開したのでしょうか?

アシュニコ:アルバム収録曲の半分くらいは、私が書いた短編がコンセプトになっていて、それを膨らますようなものになっています。私はファンタジー小説も書くんですが、その側面も追求していきたいので、アルバムとは別に物語を広げていきたいと考えています。これらは私たちが作り上げたビジュアルの世界観で上手く表現されていて、アルバム・アートワークが4種類あるのはそれが理由です。



アシュニコ:すでに公開されているメインのアートワークとなる“エッグ”と、火花が散る中で背中から機械の翼を生やした私が何かに取り組んでいるもの、それから“ツリー”、私がまるでメカのようにメインの“ウィードキラー”の中にいるようなもの。これらはすべてストーリーの異なる部分を表現しています。この作品のコンセプト作りには、私のクリエイティブ・ディレクターVassu Vuと2年間を費やして取り組みました。彼は素晴らしいアートワークを作り出してくれましたし、本当に誇らしいです。そしてストーリー自体は、曲と音楽を通じて語ろうとしました。

――アルバム・タイトル『ウィードキラー』に込めた意味について、もう少し詳しく教えてください。今作のリリースを発表するインスタグラムの投稿では、排除すべき“悪役”と表現されていました。


アシュニコ:そう、この物語は妖精の文明について書いた短編小説で、かれらは美しく青々とした森に住んでいる。けれど、生体物質を餌とするAIマシンによって住む場所が破壊されてしまい、そのマシンによって地球は黙示録的な『タンク・ガール』のような荒れ地になってしまうんです。主人公は背中から翼を引き抜かれてしまったため、“ウィードキラー”の部品で羽を作り直す。そして森と家族の仇を討つために任務を遂行するサイボーグのような妖精なんです。


アシュニコ:アルバムには、身体の自己決定権や自分自身、自分の時間と身体の所有権を取り戻すという、私にとっての個人的なテーマがたくさん含まれています。年を重ねるにつれて自然界と接する機会が増え、地球上の自分の居場所について、より意識的に考えるようになりました。特にツアーを行うミュージシャンとして、自分が地球にどのような影響を与えているのか、とても自覚的です。

――非常に複雑な問題ですよね。ツアーにおいて、二酸化炭素の排出量を減らすような取り組みを行っている大物アーティストもいますが、中堅や新人アーティストが気軽にできることではないので。

アシュニコ:自分のビジネスを維持しながら、環境に配慮したツアーを行うのは、誰もができることではありません。しかし、それに配慮して、より深く考えたいと思っています。ロビン・ウォール・キマラーの『植物と叡智の守り人』は、私のお気に入りの本のひとつです。ネイティブ・アメリカンの植物学者である彼女は非常に科学的な植物生物学を教えていますが、同時に先住民のレンズを通した植物生物学も学ぶことができます。彼女は自然との互恵関係や、すべてのものがどこから来ているのか、そして人間として地球にどのように還元しているのかを意識することについて語っています。「地球から取るのと同じぐらい与えられているだろうか?」このことについて、普段からよく考えています。

――そういったことを考える具体的なきっかけになったものはあるのでしょうか?

アシュニコ:年齢を重ねて大人になるにつれて、自分の居場所や空間を極端に意識するようになったからだと思います。同時にファンタジーやストーリーテリングが大好きで、音楽も大好きです。だから、この2つを結びつけて自分の世界を作ることができたのは、本当に特別なことでした。

――それをポップ・ミュージックの枠内でやっているというのは、意味がありますね。

アシュニコ:でも誤解しないで欲しいのは、アルバムの中には極端にセクシャルな曲も収録されているということ。非常にポップな……とまでは言いませんが、アルバムのコンセプトを知らなくても聴くことができる曲もあります。歌詞にたくさんメッセージが込められていて、それをよりコンセプトに沿ったビジュアルとともに表現しているんです。



――現代社会における様々な問題が浮き彫りになる中、未来に対して楽観的でいるのは何だか難しいですよね。切迫しているにも関わらず、日常生活ではあまり実感がわかないですし。

アシュニコ:そうですね。たまに自分の体から離脱して、自分を見つめるような瞬間があるんです。複雑ですね。そういう時は「今日も一日頑張ろう、レッツ・ゴー」と自分を鼓舞しますが、未来のことが本当に怖いです。持続可能な生活を送ることが、多くの人にとって手に届かないものであるという事実も本当に恐ろしいですし、近代の人々が口にする食べ物と繋がりを失ってしまったことに悲しくなります。

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個々の世界に存在する楽曲をアルバムで共存させる

――アルバムに話を戻して、ビジュアル面についてもお話を伺いたいと思います。ビジュアルやライブを通じて、どのように楽曲を表現するか曲を制作していた時点から考えていたのでしょうか?

アシュニコ:はい、エグゼクティブ・プロデューサーのトム・スリンガーとともに、まだ制作されていない映画のために音楽を作るようなイメージで曲作りをしました。私の最大のインスピレーションのひとつは、『DUNE/デューン 砂の惑星』のサウンドトラックでした。本当に大好きで、美しいですよね。映画さながらのフィーリングを持った作品にしたかったんです。

――Rahman Jafariとタッグを組んだ「Worms」のミュージック・ビデオは、視覚的にも美しくインパクトある映像に仕上がっています。実写とアニメーションが融合された作品ですが、撮影はどうでしたか?

アシュニコ:そう、実写とアニメーションのクロスオーバーになるよう、自ら猛プッシュしたんです。自分がキャラクターと一緒にあの世界に存在しているような感覚にしたかった。Rahmanはすごく良い仕事をしてくれましたし、一緒に仕事ができて光栄です。信じられないような頭脳を持っているんです。私のお気に入りのキャラクターは、おっぱいのある蛇の尻尾を持った馬のようなユニコーンです。本当に完璧で、彼でなければ考えつかないようなキャラです。まさに天才ですね。




Ashnikko - Worms (Official Music Video)


アシュニコ:クリエイティブ・ディレクターVassu Vuと一緒に、Rahmanの元にこのコンセプトを持ち込んだのですが、本当に特別な経験でした。映画『マッドマックス』や『タンク・ガール』のように、復讐のために巨大なモンスター・トラックで砂漠を駆け抜けるようなイメージで、彼はそのコンセプトを見事に映像化しました。すごく感心しましたし、本当に楽しい撮影でした。あのコックピットは手作りなんですが、マジで欲しいって思いましたね。

――15歳のときから曲を書いていたそうですが、完璧なデビュー・アルバムを出さなければいけないというプレッシャーはありましたか?

アシュニコ:これまでは1曲1曲が個々の世界に存在しているような感覚だったんですが、今回はアルバムに収録される曲であり、それらが共存することを意識しました。『ウィードキラー』には、まるでパラレル・ワールドに存在しているような独立した曲もありますが、サウンド・デザインの面ではとてもまとまっている感じがします。何年も“アルバム”という言葉に怯えていたんですが、納得がいくデビュー・アルバムになったと思います。

――アルバムの中で今一番気に入っている曲はありますか?

アシュニコ:やはり「ウィードキラー」です。とにかく大好きな曲なんです。




「WEEDKILLER」(Official Audio)


――どのようにして生まれた曲なんでしょうか?

アシュニコ:この曲を書いた時に、「あぁ、ヤバ、これがアルバムだ」と感じました。今作のために最初に書いた曲のひとつだと思います。そこからすべてが繋がっていって「これだ」と思えたんです。これは、トム・スリンガーと一緒に作った曲ですね。

――すぐに書き上げたのですか?

アシュニコ:瞬く間に書き上げることができるのが、自分にとってベストな曲だといつも感じます。書いている時にとても本能的な感じがするからだと思います。

――曲作りをするときに好きな場所や決まったルーティンはありますか?

アシュニコ:やはり慣れたスタジオで作業するのが好きですね。特定の時間に出かけてお茶を飲んだり、特定のスペースで休憩したり、馴染むのが好きなんです。いろいろなスタジオで作業するのは好きではありません。自分の空間を持つことが好きで、そこにいると、「よし、頑張ろう」と思えるようになり、クリエイティブになるための心構えができるんです。過去にクリエイティブな気分になれた空間だと、想像力を働かすことができる。そのスタジオというのは、マネージメントのスタジオで壁がパープルなんです。何曲も作ったプロデューサーのトムのホーム・スタジオも好きで、いくつかお気に入りの場所がありますね。

――初期の頃を振り返ってみて、当時のアシュニコと今のアシュニコの違いはありますか?

アシュニコ:間違いなくあります。書いたことが恥ずかしい曲もたくさんありますし、リリースしたことも恥ずかしいくらいです。でも、それも私の旅の一部で、アーティストとして大きく変わったと自分に言い聞かせるようにしています。今作っている音楽こそ、私がキャリアを通じて目指してきたものだと思います。

――アルバムが発売されるのはまだ先ですが、3つの言葉で表現するとしたら?

アシュニコ:“ディストピア”、“儀式”、“ルーツ”です。

――“儀式”とは興味深いですね。

アシュニコ:今、テッド・ジョイアによる『Music: A Subversive History』というすごく面白い本を読んでいるんですが、その中に音楽は儀式魔法のようなもので、儀式魔法として使われてきた歴史について書かれています。とても興味深いので是非読んでみてください。

――わかりました。最後にファンに向けてメッセージをお願いします。

アシュニコ:私を応援してくれて本当にありがとう。日本でとても歓迎されていると感じましたし、また来るのが待ち遠しいです。

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