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<インタビュー>Bialystocks、二人のルーツがソフランエアリスCMソング「頬杖」に繋がるまで



インタビューバナー

 片や、音楽を作りながら映画監督としても活躍し、昨年『はだかのゆめ』という監督作品が公開された甫木元空(ほきもと・そら/ヴォーカル)。片や、ジャズやポップスの現場でも演奏し、アレンジャーとしての才覚にも定評のある菊池剛(きくち・ごう/キーボード、コーラス)。このふたりから成るのがBialystocks(ビアリストックス)だ。結成は2019年。基軸となるのはオーセンティックなポップスだが、どの曲も不思議な親しみやすさと人懐っこさがある。4月7日に配信リリースされた「頬杖」もポップ・ソングながら、アレンジの妙がフックとなっていて、聴く度に新たな驚きと発見がある。まごうかたなき名曲と言っていいだろう。

 そこで気になるのが、映画と音楽、両方のジャンルをまたぐことによって、制作にどのような影響があるのか? ということ。また、現在高知で暮らしている甫木元がどのようにして、創作や制作に関わってきたのかも知りたかった。そんな折に、彼らは4月7日に「頬杖」を配信でリリース。CMで使用されることを前提にした曲だが、これがまたエヴァーグリーンで軽妙なポップスに仕上がっている。音数は少なくシンプルな構造の同曲は、普遍的なグッド・メロデイを備えながら、バンドとしての進化/深化の痕跡を窺わせる。甫木元空、菊池剛に話を訊いてきた。(Interview & Text:土佐有明 / Photo:shinto takeshi・神藤剛)

「頬杖」制作の根底にあったもの

――菊池さんと甫木元さんがバンドを組むことになった経緯は?

菊池:知り合いの知り合いがバンドをやるからって言って、何人か集められた時に、たまたま僕もそこにいたっていう感じですかね。

甫木元:最初は4人編成だったんです。僕の作った映画の上映後に、その映画の音楽をライブで再現するイベントがあって。そこに集まったメンバーと“オリジナルもやってみる?”というノリで活動が始まったんです。最初は、劇中曲をカヴァーするくらいだったんですけど、途中から、締め切りを設けて、取りあえず2曲をレコーディングしてみようって。で、じゃあ、せっかく曲もあるからアルバムも作ってみよう、という話になったんです。そうやってできたのが1作目の『ビアリストックス』(2021年)。4人でできることをやってみたんですけど、そのうち4人の中でも意見が微妙に食い違う瞬間が出てきて。結局、今の2人組編成に落ち着きました。

▲『ビアリストックス』収録「I Don't Have a Pen」MV

――例えば、あるアイディアが浮かんだ時に、これは映画にできるな、これは音楽にしたいな、っていうのはどうやってジャッジしているんですか?

甫木元:映画でしかできないことと、音楽でしかできないことっていうのがあると思ってます。例えば、何かに大きな影響を受けた時に、これは映画でなら語れる、音楽でなら伝えられる、というのはあります。どちらを選ぶかは、どのような言葉を使ったら相手に伝わるかで分けていますね。

――「頬杖」は、甫木元さんと菊池さんのおふたりの名前が作曲にクレジットされていますけ。実際、作業する中で、役割分担はあるんですか?

甫木元:毎回、取りあえずお互いにデモを作って、クラウド上にあげてみるんです。今回に関しては僕が弾き語りで作ったものをあげて、菊池が構成を考えてくれました。「このメロディー、2番はもうちょっとこうしたほうがいいんじゃない?」みたいな提案をもらって、細かいところを整理していきました。

――最初にかっちりしたデモを作るんでしょうか?

甫木元:デモの段階ではかなりラフな弾き語り程度のものが多いです。それを菊池が編曲するところで、テーマがはっきりと決まってくるんですよ。あと、毎回、新曲のヒントになりそうな曲が入ったプレイリストを菊池が作ってくれて。それで音楽的な方向性みたいなものを共有していますね。

菊池:今回の「頬杖」に関しては、かなり細かく音の配置を指定していますね。最終的には、録ったものを素材に大幅に編集させてもらってます。

▲「頬杖」MV

――メロディーの面で注力したところは?

菊池:メロディー的な面で言えば、甫木元の“らしさ”がすごくナチュラルに出てくると思います。まったく無理していなくて、自然体で作ったものというか。あと今回は、あまりビートを強調しすぎない方向へ持っていきましたね。CMの担当の方からリクエストもあって、もともとフォーキーだった曲を、もう少し踊りたくなるような方向に寄せていきました。

――いつもよりも、隙間や余白がある曲だなと思ったんですけど。

甫木元:先方から、爽やか過ぎず、テンションが高過ぎず、みたいに言われてはいたので、それは関係しているかもしれないです。ドラムが入ってこない始まりも含めて、引き算の発想が根底にありましたね。

――あと、「頬杖」ってベースラインが印象的ですよね。ミュートを効かせて、かなり動き回る。

菊池:そうですね。ミュートしていますね。

――あれはベーシストに曲を渡して、プレイについても指定しているんですか?

菊池:ほぼ全部、細かいところまで指定しています。ミュートの加減や具合などもそうです。今回、ギターが弾きそうなフレーズをベースでやっちゃおう、と考えていたし。確かに、ベースが耳に残るようにはなっていますね。

――今回の演奏にはジャズっぽいフィーリングも少し感じました。

菊池:実は、このバンドをやる前は、ジャズクラブで演奏していたこともあったんです。あと、たまにポップスのバックでサポートを務めていました。


――おふたりの音楽的ルーツは、重なっているところもあるんでしょうか?

甫木元:うちはピアノ教室だったので、ずっとピアノの音が鳴っていました。誰かがバイエルを弾きだすと、またあの曲が始まったのかってがっかりする(笑)。それと、父親が爆音で映画のサウンドトラックや民族音楽を流していたのが音楽を聴く事の原体験としてあります。また、母親が合唱団をやっていた流れで、そこに入って小学校5、6年の時に歌うことになって。それは演奏することの経験として大きいのかもしれない。あと、他に家で流れていて印象に残っているのは、中島みゆきさんをはじめとする60~70年代のフォークなどです。

――今の話だと、これまで聴いてきたものより、ずっと洗練された音楽をやっていますね。

甫木元:それは菊池の存在も大きいですね。彼がボーカルを取っているデモを聴いた時に、単純にメロディーがいいなと思って。自分が持っているものと全然違うルーツがあると思ったので、一緒にやったらどうなるんだろう?って。


――「頬杖」、CMで流れる曲ということですが、制限らしきものはありましたか?

甫木元:ありましたね。柔軟剤で、春にリリースされて、季節を感じられる、という条件が最初にあったので。あと、タイアップのお話を頂いてからは、何回か先方(クライアント)とラリーをしていく中で、落とし所を探っていきました。クライアントや商品の側に寄り添い過ぎちゃうと、曲自体がつまらなくなっちゃうこともあるから、そこは気を付けましたね。

――CMだと短い尺で作る、という制限もありますよね。

甫木元:そこは、今回、映像が先にあったので想像しやすかったです。新商品ですし、何か新しいことが待っている予感のような曲、というのも頭に中にありました。

――菊池さんは「頬杖」のここを聴いてほしいっていうのは何かありますか?

菊池:細部は気にせず、ぼんやり聴いてほしいですね。柔らかい音にしているので、そういうほうが合うかなって思います。

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甫木元が語る「生活と創作」

――少し話が外れますが、甫木元さんは映画監督の青山真治さんの現場にいたこともあるそうですね。そこで体験して得たものは、何らかの形で、音楽にも反映されていますか?

甫木元:そうですね。まず、撮影の進め方だとか、現場への向き合い方に関して言うと、影響されている部分もあるかもしれません。監督は撮影中、誰にも見せないノートをいつも持っていて。そこにはカット割りとかが明記されているらしいんです。けど、それを誰にも見せない。見せてみんなと共有しちゃうと、みんなそれ通りにしか動かなくなってしまうから。例えば、撮影の時に急に雨が降ってきちゃったり、いろいろなことが想定されるわけで。現場で突然起きたことに対処しなくちゃいけない。逆に思いもつかなかった面白い現象が起こることもある。その時は、頭の片隅で細かく考えたことはとりあえず置いておいて、現場で一旦白紙にするんです。監督は、そうすることによってトラブルをひらめきに変えられるんです。柔軟な思考で現場を進めていくその姿には影響を受けています。

――ちなみに甫木元さん、長らく高知にお住まいだそうですね。

甫木元:2016年頃から家族ごと埼玉から高知に引っ越しました。ここで映画を撮れたらなあとは思っていたんですが、実際、昨年公開された『はだかのゆめ』は高知を舞台にして作りました。もう移住して6年目になりますね。

▲映画『はだかのゆめ』本予告

――見るもの聞くもの、珍しいことばかりだそうですね。

甫木元:知らないことばかりなので毎日新鮮ですね。例えば、100メートル先に住んでいるおじいちゃんが「イノシシを倒したから見てくれ」って急に訪ねてくる(笑)。幼馴染が周りに住んでいて、電気が点いてないと心配して人が来る、なんてことも。初めて見る光景もたくさんあるので、ものづくりにおいてはかなり触発されますね。そういう人と人との距離感は、自分が今まで暮らしていた場所とはちょっと……いや、かなり違いますね。

――生活と創作が地続きになっている?

甫木元:そうですね。例えば、家でいくら大きな音を出しても怒られないんですよ。僕は弾き語りをしながら曲を作ることが多いので、歌いながら探っていく感じなんです。だから、昼夜問わず、いつでもどこででも音を出せるのは大きいですね。

――逆に高知に住んでいて、作品を作る上での制限はないですか?

甫木元:ある時もあります。映画を作る時って、自分がやりたくてもやれないことがたくさんあって。例えば、予算はこれくらいだから、この場所で録ってくださいとか。あるいは、この俳優さんしかスケジュール的に出演は無理ですとか。

――このくらいの規模や予算だからこういう映画にしかできないっていう?

甫木元:そうですね。予算とか締め切りが決まっていると、脚本を書くにあたってかなり条件が限定されてきます。これはさっきの創作の上での制限の話とも重なりますけど。でも、意外とそういう条件付けが何もないと、逆に作りづらいんですよね。でも、じゃあ全部が自分の思った通りになる作品が、果たしていい作品なのかっていうのも難しいところですし。それは音楽を作る上でよく考えることなんですけど。

――最後に、今後リリースされるであろうフル・アルバムに向けて、何かビジョンはありますか?

甫木元:これまで、2人がその時にハマっていた音楽とか、好きだったものは共有していて。多分、それが反映されたアルバムになるとは思うんですけど、その時にどういうモードになっているか次第ですね。あと、明確なコンセプトがある作品がこれまでなかったので、そういうものに挑戦してみたいな、というのはあります。


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