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<インタビュー>南佳孝 デビュー50周年を記念するビルボードライブ公演と、ライブアルバム『南佳孝 松本隆を歌う ~Simple Song 夏の終わりに』について語る



南佳孝インタビュー

 1973年9月21日に松本隆プロデュースのアルバム『摩天楼のヒロイン』でデビューしてから今年で50年。数々の名曲を歌い、他のアーティストにも楽曲を提供し続け、日本のポップス史に色鮮やかな足跡を残し続けているマエストロ、南佳孝。近年は杉山清貴とのデュオや、パーソナリティを務めるラジオ番組から誕生したカバーアルバムのリリースも好評を博している彼が、昨年夏に松本隆作詞、南佳孝作曲の楽曲のみで構成した特別なライブを開催。その東京公演の模様を余すところなく収録したライブ盤『南佳孝 松本隆を歌う ~Simple Song 夏の終わりに』がこの3月に発売された。「スタンダード・ナンバー」「涙のステラ」、「スローなブギにしてくれ(I Want You)」などアンコールも含めた全24曲は、南佳孝の音楽と共にいくつもの年月を過ごしてきたリスナーも、シティポップが注目を集める中で南佳孝に出会ったリスナーも、誰もが満足すること間違いなし。芳醇な音楽を新鮮なままパッケージしたこのアルバムについて、また目前に迫った50周年記念ライブについて話を訊いた。(Interview & Text:梶原有紀子 / Photo:コーダマサヒロ)

——デビュー50周年おめでとうございます。南さんは子どもの頃から、将来はプロのミュージシャンになると考えていたそうですね。50年間も音楽活動を続けると思い描いていらっしゃいましたか?

南佳孝:9歳の時に作文にそう書いていましたね(笑)。ただ、漠然と「40歳ぐらいで辞めているんだろうなあ」と思っていたけどね。40ってことは、23歳でデビューしたから17年ぐらい経った頃ですね。いざ40になると「まだまだ下手くそだな」、「なかなかいい曲が書けないな」っていう感覚があった。誰しも自分自身の「美」というものを持っていると思うんだけど、そこに全然届いていないなという感じがしたし、もっともっと良いものを作りたいという欲が出てきたんでしょうね。そういうわけでいまだにやっていますね(笑)。

——ここ数年は絵画や料理、短歌と幅広い趣味をお持ちで、パーソナリティを務めるFM COCOLOのラジオ番組『NIGHT AND DAY』のブログにもお料理の写真やレシピ、描かれた絵がアップされています。デビュー50周年記念作第一弾となる今回のライブアルバム『南佳孝 松本隆を歌う ~Simple Song 夏の終わりに』のジャケットを飾っている絵も南さんが描かれたものですね。

:どれひとつとして大したことないんですけどね。絵も落書き程度ですし。姉が絵描きだったから、テレピン油の匂いが好きだったり、美術書や芸術書も身近にあったからそういったものを見るのは好きでしたね。でもちゃんと描き始めたのはこの3年ぐらいですよ。

——今回リリースされたライブ盤『南佳孝 松本隆を歌う ~Simple Song 夏の終わりに』は、昨年9月10日に東京の大手町三井ホールで行われたライブを収録したもの。この日は松本圭司さん(P)、住友紀人さん(key、sax)との3人編成でしたが、たった3人での演奏とは思えないほどの音の厚みや立体感も聴き応えがあります。ライブという大勢のお客さんがいる中での演奏にもかかわらず、聴いている自分と歌が1対1であるような距離の近さを感じました。

:ああそれはよかった。ありがとうございます。たまたまアルバムが出せる状態で録音しておいてくれていたんですよね。自分でもあの日は上手くできたなっていう手応えがあって、松本とも後日「あのライブ良かったよね」なんて話していた時に、「あのライブをアルバムにしたらどうかな?」って話したら、「いいんじゃない?」ってすぐに賛同してくれて。それで出すことにしたんですよ。最初は何曲か選曲して1枚にしようかってアイディアもあったんですけど、どうせだったら2枚組にして全部入れた方が良心的なんじゃない?って(笑)。

——大満足です(笑)。松本隆さんの作品だけを歌うライブという企画はどうやって生まれたんでしょう?

:最初はね、松本が書いた「Simple Song」(1979年のアルバム『SPEAK LOW』収録)という曲をうちの事務所の社長がすごく気に入っていて、この曲を歌うためのライブを毎年夏の終わりにやりましょうという企画が始まったんです。都内の、良いピアノが置いてある小さな会場でやろうと。これまで4回ぐらいやったのかな。それに松本が遊びに来てくれて、僕の知らないところでスタッフに、「俺だけの曲をやってくれるライブがあったら嬉しいんだけどな」っていうアイディアを言ってくれていたらしいんですよ。

——それが今回のライブに繋がったんですね。

:「Simple Song」は松本が詞を書いた曲のうちの一つなんだけど、もともとすごく昔に書いていた曲でデビューする前にはあったものなんですね。それを松本と作って、アレンジを坂本龍一がやって。悲しい歌詞なんだけど、ピアノがゴージャスな雰囲気もある曲でね。だから今回のライブ盤は「Simple Song」から始まったと言えるんじゃないかな。

——「Simple Song」はライブ盤ではDisc2に収録されています。それほど言葉数の多くない歌詞の中に、季節の移ろいや主人公の心の奥に積もった悲しみが凝縮されている曲ですね。

:そうだね。そういう言葉の選び方がうまいし、あとは歌いやすくしてくれるんだよね。声を張るところで「た」「ち」「つ」「て」「と」の破裂音を入れてくれていたり。そういうデリケートなところもうまさがあるし、歌手思いだよね(笑)。

——南さんがご自分で歌詞を書く時にもそういったことは考えますか?

:あんまり考えないかも(笑)。何も考えず創作意欲の赴くままに作っていますね。歌詞って難しいんですよね。短歌もそうだけど、言葉って難しいよね。

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——「スタンダード・ナンバー」や「涙のステラ」を、自分も十代の頃にリアルタイムで耳にしていました。色褪せない名曲という表現はよくありますが、まさにライブで歌われるたびにアップデートされて色が塗り替えられていく。ライブは本来その場限りのものですが、今回のアルバムではアンコールまで余すべてパッケージされていて、一度きりだったはずのライブを、その場にいなかった人もこれから南さんの音楽に出会う人も何度でも新鮮なまま楽しむことができます。

:ライブ盤は怖いよね。その日によって体調も違うし、一回限りだから。アルトサックス奏者のエリック・ドルフィーの言葉に「When you hear music,after it’s over, it’s gone in the air. You can never capture it again」というのがあって、僕は子どもの頃からその言葉が好きなんですね。「音楽は空中に放たれると、二度とそれを取り戻すことはできない」という意味で、録音したものは残るけど、一回限りなんだって思っている。だから、自分の録音だとかテレビ番組に出たのを録画したものとかは一切見ないんですよ。

——そうなんですか?

:うん。だって本番が終わったらもう終わりじゃない?やり直しができるわけじゃないから、そこは潔く「はい、終了」と。昔からそうですね。マイルス・デイヴィスはライブから何からレコーディングしたものは全部聴くっていうけどね。それは意外な気もするけどね(笑)。

——この日のライブの選曲は南さんが?

:そう、僕です。松本からは「全部やっていいよ。任せるよ」って言われましたね。

——膨大な曲の中から今回の24曲を選んだ決め手になったのは?

:最初は時系列にしようと思ったけど、ライブだからスローな曲ばかりが続いてもつまらないし、スロー〜アップ〜ミディアムとか、そういう感じで考えましたね。オープニングだけは時系列でデビュー曲(「摩天楼のヒロイン」)からやったけど、あとは時系列はなしで自分の好きな曲で組み立てていきましたね。

——特にお気に入りの曲を教えてください。

:「Paradiso」ですね。松本から聞いたんだけど、タカラヅカのステージでこの曲を歌ってくれているらしいですね。(『ダンディズム!』『ネオ・ダンディズム!』『モアー・ダンディズム!』で歌唱)。もともと『疵』という映画のテーマソングで書いた曲で、タカラヅカでもそのアレンジでやってくれていたらしいんだけど、ある時リズムをラテンにしたんですよ。今回はそのラテンのバージョンで歌っているんだけど、そうすると力を込めないで歌えるというか、話すように歌えるんですね。声を張るところは1箇所だけと決めておいて、あとは一切張らない。そうすることでなんかね、重たい歌詞なんだけど上手くできたなという手応えがありましたね。松本もすごく気に入ってくれていますね。

——「Paradiso」=パラダイスというタイトルでありつつ、ずしっと重みのある曲でシリアスに迫ってくる曲ですね。

:そうですね。ああいうのが書けるのは松本しかいないんじゃないかな。微妙な男気というか、自分では苦手だと言っているけど、やっぱりうまいよ。今回のライブの中で「Paradiso」はハイライトですね。

——「Paradiso」も、「波止場」や「天文台」もそうですが、聴きながら自分が曲の登場人物になる瞬間があったり、気がつくと曲の主人公の人生を追体験するような聴き方をしていたりして。南さんはご自身の作品を振り返らないと言われましたが、このアルバムを聴くたびに、「この曲のこの場面はこういう意味にも捉えられるな」という発見があります。

:なるほど(笑)。ありがとう。


2022.9.10南佳孝松本隆を歌うSimple Song~夏の終わりにダイジェスト映像

——ラテンといえばこれまでにブラジルでレコーディングされたアルバムもありますが、南さんはもともとラテン音楽がお好きですよね。

:好きですね。一時期ジャズギターをやっていたこともあってその頃からボサノバは好きだったし、もともとジョアン・ジルベルトがすごく好きだったね。

——ボサノバも声を張らずに囁くように歌う音楽ですね。

:そこに帰りたいというのもあるかもしれないですね。

——今回のライブ盤でも、「スローなブギにしてくれ(I Want You)」の歌には特に迫力を感じましたが、それ以外の曲では語るように歌うというか、耳を澄ますようにして聴く瞬間も多かったです。

:最近はそういう感じが好きなんですね。なるべく声を張らずに正しいピッチで、言葉をちゃんと置いていくように歌う。そうやって伝えようと思っていますね。ちょうどこのライブの時ぐらいから、そういうふうにしようと思ってね。年齢的に声も出にくくなっていくし、そういった感じの歌い方、自分の原点のボサノバの歌い方というものに帰ってみようかなって。今そのあたりをもう一回探っている最中ですね。

——次のアルバムではそういったボーカルスタイルが聴けるのを楽しみにしています。

:そうですね。そんな感じになると思いますね。

——2023年9月21日でデビュー50周年。4月30日(日)ビルボードライブ横浜、5月11日(木)ビルボードライブ大阪、5月26日(金)ビルボードライブ東京で【南佳孝 50th Anniversary Live 2023】が開催されます。今回はバンド編成のステージになりますね。楽しみにしているみなさんに一言メッセージをお願いします。

:50周年っていうことはそんなに意識してないんですよ。これまで30周年も40周年も特に何もしてこなかったし、50年といってもただの通過点みたいなもので、終わってしまえば来年は51周年だしね(笑)。とは言いながら、50周年はちゃんとやっておこうという思いもあって今回のライブはバンド編成でゴージャスに、そんなに意識していないと言いつつも50年をちょっと振り返りながら、ふだんあまり演奏しないような曲も2〜3曲交えたステージにしようかなと思っています。ぜひ、お友達をお誘いして遊びに来てください。

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南佳孝「南佳孝 松本隆を歌う ~Simple Song 夏の終わりに」

南佳孝 松本隆を歌う ~Simple Song 夏の終わりに

2023/03/22 RELEASE
CVOV-10077 ¥ 4,400(税込)

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Disc01
  1. 01.摩天楼のヒロイン (インスト)
  2. 02.おいらぎゃんぐだぞ
  3. 03.ピストル
  4. 04.憧れのラジオ・ガール
  5. 05.ジョンとメリー
  6. 06.口笛を吹く女
  7. 07.月に向って
  8. 08.ダイナー
  9. 09.Girl
  10. 10.夏服を着た女たち
  11. 11.SCOTCH AND RAIN
  12. 12.涙のステラ
  13. 13.波止場
  14. 14.天文台
  15. 15.COOL

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