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<インタビュー>aikoが語る「ラブソングを歌うこと」の魅力、新作『今の二人をお互いが見てる』の制作について【MONTHLY FEATURE】
Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、15作目となるオリジナルアルバム『今の二人をお互いが見てる』をリリースしたaikoのインタビューをお届けする。
前作『どうしたって伝えられないから』以来、約2年ぶりのアルバムとなる本作には、
シングル表題曲「食べた愛」「ねがう夜」「夏恋のライフ」「果てしない二人」「あかときリロード」を含む全13曲を収録。日常にある景色や感情に紐づいた歌詞、切なさや愛らしさをたっぷり含んだメロディライン、そして、島田昌典、トオミヨウなどのトップ・プロデューサーによるアレンジを含め、“らしさ”と“新しさ”が共存する作品となった。
Billboard JAPAN初登場となる今回は、アルバム『今の二人をお互いが見てる』の制作はもちろん、ヒットチャートとの距離の取り方、昨今の音楽シーンなどについても語ってもらった。
(Interview & Text:森朋之)
aikoが語る、ラブソングを歌うことの魅力
――ニューアルバム『今の二人をお互いが見てる』がリリースされました。前作『どうしたって伝えられないから』以来、2年ぶりのアルバムですが、今回の制作はいかがでしたか?
aiko:前のアルバムからセルフプロデュースになったんですけど、アレンジャーの方々とお話しする機会が増えて。「ここのギターソロはこういう音階でいきたい」「アウトロと曲の締め方は現場で試してみましょう」とかいろいろと以前にも増して現場で詰めていけるようになったんですよね。曲ができる過程を0から10まで、いろんな瞬間を前以上に全部見ることができて、改めて「たくさんのミュージシャンの方々やスタッフのみなさんに支えられて1曲が出来ているんだな」と実感できたのもよかったです。
――そのぶん、aikoさんの思いややりたいことが反映されているのかも。『今の二人をお互いが見てる』というタイトルも素敵ですね。いろいろな解釈ができる言葉だと思います。
aiko:私もその時その時でタイトルの解釈が違ってます(笑)。この言葉が浮かんだときも、「これ、どういう意味やろう?」と思ったんですよ。いつもはアルバム制作の最後のほうにタイトルを決めるんですが、今回は作ってる最中にふと浮かんで、レコーディングスタジオで「『今の二人をお互いが見てる』というタイトルにしようと思ってるんやけど、どうかな?」とスタッフに話したんです。好きな人との向き合い方もいろいろあると思うんですよ。その人が目の前にいるときもあれば、お互い離れ離れで、「元気にしてるかな?」というときもあって。好きな人が違う女の子と喋っていて、その様子を私が見ているときもあるんですが、どれも“今の二人”だなって。
――変わり続ける“今の二人”をお互いが見ている、と。
aiko:そうだったらいいなと思いますね。自分だけが見ているのは寂しいし、相手も同じように見てくれたらなって思います。「そんな奇跡みたいなこと、あるかな」と思うこともあるんですが(笑)、ちゃんと心と心で見つめ合えてたら素敵ですよね。
――もちろん、今回もラブソングが中心。恋愛を歌うことはaikoさんにとって、変わらない魅力があるんですね。
aiko:そうですね。ちょっと話がズレちゃうかもしれないですが、身体が勝手に反応する現象って面白いなって思うんですよ。「緊張すると手が冷たくなる」とか「恥ずかしいときは耳が赤くなる」とかいろいろあるけど、好きな人と一緒にいるとき、大事な時間を過ごしているとき、胸のあたりがギューッってなるんです。少女漫画の“キュン”みたいな現象なんですけど(笑)、今もあるんですよね。身体の反応だから、いつ起きるかわからないじゃないですか。子どものときに比べると起きる頻度が少なくなってるけど、だからこそ“ギューッ”となったときは「来た!」ってなるんです。そのときに「私、めっちゃ好きなんだな」と実感するし、そういう感覚を歌にしておいきたと思うんですよね。
トップ・プロデューサーによるアレンジで開拓した新たな一面
――収録曲についても聞かせてください。まずは1曲目の「荒れた唇は恋を失くす」。アルバムのオープニングにふさわしいアッパーチューンですね。
aiko:最初は「アップテンポなロックな曲にしたいな」と思っていたんですが、アレンジャーの島田昌典さんがとても華やかにアレンジしてくれて、ライブで歌うのが楽しみな1曲になりました。歌詞を思いついたとき、本当に唇が荒れてたんですよ(笑)。朝起きて、ちょっと荒れた唇を見て、「こんなんじゃ好きな人に嫌われるな」と思ったり。私、嫌なことや悲しいこと、体調がちょっと良くないと、全部が“負”に向かってしまいがちなんです。そういう気持ちで歌詞を書くことも多いんですけど、「荒れた唇は恋を失くす」は、こうやって少しずつ変わっていく自分のことを受け入れたいし、愛していきたいなという気持ちを込めてます。
――「さらば!」の〈ダメなときはダメだもんな〉というフレーズも印象的でした。
aiko:本当にダメだったんですよね、この曲を書いたときも(笑)。この曲のアレンジはトオミヨウさんなんですけど、〈ベッドに駆け込む〉の後の間奏がすごく好きで、「あそこのフレーズ、すごく好きです」とトオミさんに直接お伝えました。ギターソロも染みるし、全部カッコいいんです。最初にも言いましたけど、みなさんとしっかり話をして、「ここがよかったです」って言えたのも嬉しかったです。ミュージシャンのみなさんはいろんなところで演奏していらっしゃるので、私に「よかったです」って言われてどう思うかわからないんですが、私は今、「歌、上手いね」って言われるとめっちゃうれしいんですよ(笑)。なのでバンドのみなさんにも、「いいな」「かっこいいな」と思ったら、本当の気持ちを伝えようと思ってます。
――バラードナンバー「のぼせ」のボーカルも素晴らしいですね。弦楽器と歌だけの編成ですが、これはアレンジャーの方のアイデアなんですか……?
aiko:この曲は私から「カルテットでやってみたいです」とトオミさんにお伝えしました。ストリングスの演奏家のみなさんにも「aikoさん、こういうアレンジで歌うこともあるんですね。どなたが考えたんですか?」って聞かれて。トオミさんも「(aikoに)言われないと僕もやりません」って言ってましたね(笑)。もちろん弦のメロディの詰み方は勉強したことがないので、ピアノでデモ音源を渡して、トオミさんにお願いしました。曲自体はお風呂に入ってるときに作りました。お湯に浸かって、熱いな、のぼせそうだなと思って、バスタブからちょっと足を出しながら(笑)。
――(笑)。すべての楽曲がそうですが、生き生きとしたボーカルが本当に素晴らしくて。歌録りはどういうスタイルで行っているんですか?
aiko:最初から最後までツルッと録ります。(Aメロ、Bメロなどのパートごとに)分けて録ると、ライブで歌えないかもしれないと不安になってしまうんです。ただ、あとで後悔しないように何回も歌います。
――そのなかからベストテイクを選ぶ?
aiko:そうですね。ベースとなる1本選んで、どうしても気になるところは歌い直します。最近は部分部分、細かく録る方法もあるみたいですが、私の場合、そうすると空気が変わってしまうんです。マイクの距離がちょっと変わるだけでニュアンスも違ってきますし。ごはんを食べる前と後でも違っちゃうので(笑)、やっぱり最初から最後まで歌うのがいちばんいいなと思ってレコーディングしています。
ヒットのサイクルが速い今の時代に思うこと
――アルバム『今の二人をお互いが見てる』の収録曲をライブで聴けるのも楽しみです。そして新曲「いつ逢えたら」がアニメ『君は放課後インソムニア』の主題歌に決定しました。
aiko:1年くらい前にお話をいただいたんですけど、もともと好きな作品だったので、「私でいいんですか?」ってビックリしました。私も眠れないタイプですし、「一緒だな。誰かの眠れない夜に届くといいな」と思いながら作った曲ですね。
――チャートについても聞かせてください。ビルボードジャパンの総合アルバムチャートがスタートした2015年以降、aikoさんがリリースされたすべてのアルバムがトップ3入り。2020年にストリーミング・サービスでの配信を解禁した際も大きな反響を呼びました。aikoさんご自身、チャートに対してどんな考えを持っていますか?
aiko:チャートはチェックしてます。リリースのたびにスタッフと(チャートアクションについて)まじめに話し合うので。いろいろ話をして、巡り巡って、やっぱり最後は「曲作りをがんばらないといけないな」と自分自身を向き合います。デビューして25年なので、歌声を知ってくれている方も多いと思うんですけど、それを踏まえてどういう曲を作れるか?というのがずっと課題としてあります。いちばんは、自分のテンションが上がる曲が良くて「レコーディングしていて楽しい、ライブで歌ってても楽しい」という信念は曲げずに、みなさんに届けられるようにがんばろうって思ってます。何かに迎合するのはやっぱり抵抗があるんですよね。「音楽が好き」「面白いことをやりたい」もそうですし、0から1を作るときはワクワクしていたいというのは、初めて曲を作った18、19歳のときから変わってないですね。その気持ちは忘れずに、でも、リリースした後はシビアに話します(笑)。
――トレンドや流行している曲や、音楽シーン全体の動きについてはどうですか?
aiko:いろんなアーティストがすごい速さで出てきて、そのサイクルの速さにビックリしますし、これが今の時代なんだなって思います。この前、テレビ番組を見ていて、そのなかで「今年話題のアーティスト紹介」みたいなコーナーがあったのですが、そこでも毎回新しい方がいらっしゃってすごい時代だなって思います。
――ちょっと前までまったくの無名だったアーティストが、いきなりブレイクすることも増えてますよね。
aiko:そうですよね。昔はテレビとラジオが中心だったけど、今はSNSから発信している人も多くて、30秒くらいの曲がすごくヒットすることもありますよね。TikTokなどでも、いろんな楽曲の替え歌や“歌ってみた”が増えて、あっという間に広がっていくじゃないですか。私がデビューした頃の広がり方とは全然違うので、正直ちょっと戸惑うこともあって、いろいろ考えることもありますが、こうやって長く続けられているのはありがたいですね。
今の二人をお互いが見てる
2023/03/29 RELEASE
PCCA-15025 ¥ 3,204(税込)
Disc01
- 01.荒れた唇は恋を失くす
- 02.ねがう夜
- 03.あかときリロード
- 04.ぶどうじゅーす
- 05.さらば!
- 06.食べた愛
- 07.果てしない二人
- 08.のぼせ
- 09.アップルパイ
- 10.ワンツースリー
- 11.telepathy
- 12.夏恋のライフ
- 13.玄関のあとで
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