Billboard JAPAN


Special

<コラム>(sic)boy、閉塞感に満ちた時代を射抜く最新型ミクスチャー「Dark Horse feat.JESSE (RIZE / The BONEZ)」



コラム

Text:ノイ村

 現在の日本のヒップホップ・シーンで躍進を続ける若手最注目アーティストと、長年にわたって日本のロックシーンを支えてきたベテラン・アーティスト。一見するとまるで交わることのなさそうな二組だが、そのコラボレーションの報に良い意味でまったく違和感がなかったのは、その両者がともにロックとヒップホップに対して惜しみないリスペクトを送り続け、その自由でボーダーレスな感覚がもはや(あるいはようやく)現代におけるスタンダードとして定着しつつあるからなのだろう。

 3月22日にリリースされた(sic)boyのニューシングル「Dark Horse feat.JESSE (RIZE / The BONEZ)」は、そのタイトルにもある通り、RIZE・The BONEZのフロントマンや、自身のソロ活動などを通して日本のロックシーンに存在感を放ち続けてきたJESSEがゲスト・アーティストとして参加した楽曲である。プロデュースを担当しているのは、(sic)boyの楽曲を数多く手掛けるKMだ。


 地元の先輩と後輩の縁で実現したこのコラボ。トラックの原型がKMから届いたときに、「これを形にしていくのであればJESSEさんしかいない」と、(sic)boyがリスペクトするJESSEにダメ元でオファーしたところ、快諾を得て、完成したという。

 昨年末に米国のシンガーソングライター/ラッパーであるnothing,nowhere.とのコラボレーション楽曲「Afraid??」をリリースし、翌月の12月29日には自身にとって史上最大規模となるKT Zepp Yokohamaでのワンマンライブ【(sic)boy one-man live “HOLLOW”】を成功させるなど勢いの止まらない(sic)boyだが、現在の彼はニュー・アルバム制作の真っ最中。2月にリリースされた盟友Only Uとの「Resonance」と今回の「Dark Horse」はアルバムの先行シングルという位置付けの作品でもある。


 「Resonance feat. Only U」が近年のヒップホップ・シーンのトレンドでもあるジャージー・ドリルを取り入れた、時代とリアルタイムでシンクロする作風だったのに対して、「Dark Horse」はプレイした瞬間に鳴り響く鋭利でヘヴィなギターリフが象徴するように大胆にロック方面に振り切った仕上がりだ。冒頭を飾るフック(サビ)も(sic)boyの十八番である切ないメロディを封印して、力強いゴリゴリのラップを叩きつけており、思わず首を縦に振りたくなってしまう。内省的な表現も魅力的な(sic)boyだが、今回の彼は完全に攻撃特化モード。悪魔ですら味方につけながら番狂わせを目論む挑戦者としての風格に頼もしさを感じるほどだ。これまでにも(ミュージック・ビデオにも出演し、自身もAge Factoryとのコラボ・ユニット、AFJBでゴリゴリのミクスチャー・ロックを鳴らしている)JUBEEとの「Set me free」といった楽曲はあったものの、ここまでヘヴィに振り切ったのは初めてなのではないだろうか。


 「Afraid??」で共演したnothing,nowhere.がリンキン・パークからの影響を公言しているように、国内外を問わず、現代の音楽シーンで活躍する若手アーティストにおいてゼロ年代前半の音楽はある種のルーツとして一般的なものであり、たとえヒップホップであろうと、ヘヴィなギターが鳴り響くこと自体は決して珍しいものではない。「Dark Horse」の凄みはそれが単なる懐古ではなく、しっかりと今のヒップホップ・シーンの感覚を通したものになっているということだろう。KMの手腕によって、縦ノリのヘヴィネスと覚醒感に満ちたトラップが自由自在かつスムーズに切り替わり、楽曲を象徴する不穏で中毒性に満ちたメインフレーズがギターリフからシンセ、ベースと音色を変えながらジャンルを越えて鳴り続ける。

 それがまったく違和感なく仕上がっていること自体に驚かされるが、このブッ飛んだトラックにフロウとメロディを的確に当ててくる(sic)boyとJESSEの両者のスキルに改めて唸らされる。それこそRIZEの「Why I’m Me」(2000年)に代表されるようなミクスチャー・ロックの系譜が20年以上もの時を経て受け継がれながらアップデートされていることに、どこか感慨深くなってしまうのは筆者だけではないはずだ。

 そういったリアルな感覚、時代の空気を捉える姿は、リリックの面からも感じ取ることができる。前述の通り、基本的には自らの力やスキルを誇示するボースティングが主体となってはいるものの、<病んだ目 見渡す端から端/ふと気づくなんにも意味なんかない/しがらむmind 囚われる街/偽りのsky 手を伸ばすかい?>というフレーズからは、これまでにも「君がいない世界」など様々な楽曲を通して描かれてきた、この時代を覆う閉塞感や誰もが病んでいるようなムード、その中で頑張って生きることに対しての空虚さが伝わってくる。ここで重要なのは、前作の「Resonance」がそういったネガティブな感情を抱く人々に対して、自らも悩みを抱えたまま、それでも手を差し伸べる内容となっていたことだろう。生が空虚なものならば、死もまた空虚なものである。その事実を認めた上で、「ならば」と外野やヘイターを無視して徹底的に格好良さを追求してみせる。それが今の(sic)boyの強さなのだろう。そんな彼を目の前に、これまで幾度もの困難を乗り越えてきたJESSEが放つ<野良の犬だがalive ye/生きてるから中指立てsmile man>という言葉の説得力にまた圧倒されてしまう。

 サウンドの面でもリリックの面でも2023年のムードを射抜いたミクスチャー・ロックを提示する「Dark Horse」は、JESSEによる大きなサポートを得ているとはいえ、間違いなく今の(sic)boyにしか作ることのできない楽曲だ。それは同時に、徐々に外向きになりつつある彼の心情の「今」を感じ取ることができるものでもあり、来るニュー・アルバムでどのような世界を見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。

関連キーワード

TAG