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<インタビュー>上野大樹 メジャーデビュー作『新緑』で表現した出会いと別れ、そしてこれまでとこれから
Interview & Text:黒田隆憲
Photo:Yuma Totsuka
シンガーソングライターの上野大樹が、メジャーデビュー・アルバム『新緑』をリリースする。本作は、タイトル通り春を彩る“出会い”や“別れ”をテーマに作られた2枚組の作品。Disc1には、バンドサウンドが印象的な「夏風を待って」や、王道ミディアムバラードの「遠い国」、そして弾き語りのルーツを感じさせながらも、よりスケール感が増した「ざわめき」など新曲を6曲収録。Disc2には、「ラブソング」や「て」などインディーズ時代の集大成ともいえるベストソング8曲を収録し、“自分らしくいられる音楽”をテーマに等身大の日々を歌う、上野の“これまで”と“今”が提示されている。
コロナ禍を経てのメジャーデビュー
――前回のインタビューは、2ndアルバム『帆がた』をリリースしたタイミングで行いましたが、そこからの1年間はどんな活動をしてこられましたか?
上野大樹:『帆がた』をリリースしてからは、ずっとツアーを回っていましたね。夏前くらいから今作のレコーディングも始まり、その合間を縫ってドラマの主題歌も2曲書き下ろさせていただいて。シングルもコンスタントにリリースできていたので、ずっと充実した1年を過ごせました。
――今回、ついにメジャーデビュー作『新緑』がリリースされます。新曲6曲と、インディーズ時代の人気楽曲8曲を合わせた2枚組という形になった経緯は?
上野:インディーズ時代はちょうどコロナ禍で、ライブなど活動の制限がかかっている中でリリースしたものがたくさんあり、ライブに来てくれる方以外のところで広がっていった感触がありました。そのころに発表した曲は、配信のみでフィジカルになっていない曲もたくさんあったので、今回こういう形で残すことにしました。メジャーデビューのタイミングで、インディーズ時代の楽曲をまとめることができたのをとても嬉しく思っています。
――ではさっそく、Disc1に収録された楽曲を中心にお聞きしていきます。まず冒頭を飾る「夏風を待って」はミドルテンポのバンドサウンドが印象的ですね。
上野:この曲は、“チャンス”を目に見えない“風”に喩えています。普段過ごしている中で、「これって自分にとってチャンスなのかな?」と思うことや、それに気づかず流してしまったことってたくさんあると思うんです。特にひとりで行動していると、チャンスにも気づけないことが多い気がしていて。自分だけの視野、自分だけの感覚に頼るのではなく、他の人の視野を受け入れたり、他の人の感覚に刺激を受けたりすることで、視野が広がりチャンスをより確実に掴みやすくなると思うんですよね。
――リード曲である「新緑」にはどんな思いを込めたのでしょうか。
上野:この曲は、アルバムがリリースされる4月をテーマにしています。誰しも多かれ少なかれ、なんとなく不安を抱えつつ一歩踏み出さなければいけない瞬間ってたくさんあると思うんですけど、特に4月は進級や新卒の季節でもあり、様々な人が分岐点を迎えるのではないかと。歌詞の中にも、たとえば〈出会いは別れを思い出す〉とか、〈裾をいつまでも引き摺って〉など、昔のことを引きずりながらも進まなければいけないことを歌っていて。しかも「頑張れ」という励ましの言葉を極力使わず、昔あった思い出を想起させたり、「みんな同じだよ?」ということを伝えたりするだけでも、「私もちょっと頑張ってみようかな」というふうに思えるのではないか?と。春は新しいことが始まる“期待”だけでなく、“不安”も抱えつつ頑張ってみようよ、という思いで書き下ろしました。
新緑 / 上野大樹
――「ランタナ」という曲のタイトルはどのようにして思い付いたのでしょうか。
上野:僕がよく行く中華料理屋さんの名前が「らんたな」で(笑)。これってどういう意味だろう?と思って調べたら、花の名前だと知ったんです。そこから「ランタナ」という言葉が入った曲にしようと思って作った曲です。以前、『朝が来る』という映画にものすごく感動して同じタイトルの曲を作ったこともあったし、『同じ月を見ている』というマンガにインスパイアされて、同じタイトルの曲を書いたこともあるんです。この「ランタナ」も、まさにそんな感じでタイトルから決まりました。ハナレグミさん、スカートさんのようなグッドミュージックに挑戦したくて、自分の新しい一面を知ってもらいたいという気持ちも込めて作りましたね。
――「遠い国」はドラマ『僕らの食卓』のエンディング主題歌として書き下ろされた曲ですね。
上野:ドラマの世界観はニュアンスとして取り入れただけで、全体的には上野大樹としての思いを込めています。価値観が合う人と一緒にいると、ホッとするし楽しいことも多いのですが、全く価値観が合わないほうが不思議と居心地よく感じられる時もあって。みんながみんなそうじゃないけど、友人の中に「こいつとは性格も全く正反対だし、育った環境も全然違うのになんでこんなに気が合うんだろう」という人もいて。それが恋愛なのか友情なのかは置いておいて、遠い国……異国感じゃないですけど、初めてそこに降り立ったのに“懐かしい”と感じるような、全くタイプが違うのに、その人が隣にいるとなんとなく落ち着くみたいな感じを曲にしてみました。今までの人間関係にとらわれないような、新しいリレーションシップみたいなものがテーマにもなっていますね。“君のことはひとつもわからないけれど それでも愛おしい”みたいな感覚、きっと誰もが一度はあるのではないかと。全てが合うより、全く合わないのに一緒にいられる関係のほうが運命的だと思うことってないですか?
――確かに。上野さんのルーツを垣間見せる弾き語り曲「ざわめき」も、新緑の季節に“悲しさ”や“寂しさ”を見出す曲です。
上野:今回の中で、今までやってきたことを基盤に作ってみたのが「ざわめき」でした。自分の中で、今までは分数の短い曲がみんなに響いていたり、弾き語りで音数の少ないオーガニックな楽曲を「上野大樹らしい」と言ってもらえたりすることが多かったので、そこをゴールに設定してこの曲を作り始めたのですが、歌詞も今まで歌ってきた「景色を切り取る」「日常をすくう」ということより、自分の思っていることを素直に書いた備忘録のようになっていて。
最後のサビで、〈街中が変わり果て/過ちや綻びに/気付けず途方に暮れてしまっても/何を見てどう思う/その言葉探し出して歌えば、まだ大丈夫〉と歌っているように、これまでのことも今につながっているし、これからのこともつなげていくため、全ては「点」ではなく連なっているのだということを書こうと思いました。A面最後の曲ということもあり、最後まで聴いてくれる、本当に上野大樹を好きだと思ってくれる人に、この曲のメッセージが伝わればいいなと。
ざわめき / 上野大樹
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僕の曲を聴くことが新しい“居場所”へ進むエネルギーになったらいいな
――Disc2に収録された曲には、〈居場所〉という言葉がよく出てきます。たとえば「NAVY」には、〈寂しい時、不安になる時/居場所を探してる時、二人になろう〉というフレーズが、「面影」には〈毎日君と話すような/他愛ないこと続けばいいよな/歩き疲れて休めるくらいの/居場所でいよう何も変わらず〉というフレーズがありますが、上野さんにとっての“居場所”とは?
上野:僕は昔サッカーをやっていたのですが、怪我が原因で辞めざるを得なくなったんです。そこから自分のアイデンティティというか、存在意義みたいなものをずっと探していた時期があって。たまたま自分には音楽があり、それが居場所になってくれたけど、まだ居場所が見つかっていない人、今まさに探している途中の人には僕の楽曲を“居場所”にしてもらえたら嬉しいし、僕の曲を聴くことが新しい“居場所”へと進むエネルギーになったらいいなと。そういう思いで歌を届けているところはありますね。
NAVY / 上野大樹
――音楽をやり続けていることで、居場所ができていったという感覚でしょうか。
上野:そうかもしれない。音楽をやることも大切ですが、それを発信することで居場所が作られていったというか。もし自分がどこにも楽曲を発信していなかったらきっと居場所になっていないけれど、発信したことで誰かと誰かをつなげたり、自分が誰かとつながったりできたのだと思いますね。音楽自体が居場所でもあり、誰かを居場所へと連れていく掛け橋でもあるのかもしれないです。
――まだ居場所が見つかっていない人に、居場所を見つける、あるいは居場所を作るための秘訣があったらぜひ教えてください。
上野:僕自身そんなに社交的ではないのですが、何か好きなことややりたいことを見つけたら、それを突き詰めていくうちに自分ひとりだけではできないことも増えていくと思うんです。そんな時に、好きなことがあるからこそ一歩踏み出せると思うし、自分のエネルギーだけに委ねるのではなく、何かを始めることで生じる“化学変化”みたいなものを頼りに、新しいエネルギーを生み出していくことが大事だと思いますね。
――今回のアルバムを作り上げて、今はどんな心境ですか?
上野:マスタリングを終えた時に、自分ではそんなに意識していなかったつもりだけど、自分の思いが随所に散りばめられていて。“集大成”というよりも、スタートとして今できること全てをやったという感じ。このアルバムを機にまたたくさんの人と出会いたいですし、このアルバムを経て、まだまだもっといい曲を書きたいという気持ちでいますね。すでに「次に進みたい」という気持ちでいっぱいです。
『新緑』トレーラー / 上野大樹
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