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ボビー・コールドウェル~Mr.AOR~来日記念特集 (追悼再掲)
AORを代表する偉大なミュージシャンの一人、ボビー・コールドウェルが3月14日、71歳で天国へと旅立った。1951年、ニューヨーク・マンハッタン生まれ。コールドウェルは「風のシルエット」「ハート・オブ・マイン」など数多くの珠玉のヒットナンバーで人気を得て、“ミスターAOR”と称された。ビルボードライブでも来日公演を開催するなど、日本でも高い人気を獲得し、精力的に活動し続けたコールドウェル。Billboard JAPANでは2013年9月の来日記念特集を再度掲載し、彼の功績をあらためて振り返るとともに、世界中から愛されたAORのレジェンド、偉大な彼の冥福を心から祈りたい。
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AOR。単にアルファベットを3つ並べた言葉を見ただけで、甘酸っぱい記憶が蘇る。きっとそういう方もたくさんいるのではないだろうか。AORの代名詞といえば、ボビー・コールドウェルだ。70年代後半にデビューし、今なおぶれることなく精力的に活動を続けるブルーアイド・ソウルのシンガー・ソングライター。ここでは、Mr. AORの魅力を存分に味わっていただこう。
1978年、「風のシルエット」で颯爽とデビュー
「風のシルエット」。まるで彼の代表曲のタイトル通り、ボビー・コールドウェルは颯爽と登場した。1951年にニューヨークのマンハッタンで生まれ、メンフィスからマイアミへ移り住み、10代ですでにピアノとギターを弾きこなしていたという。最初の頃は、ジミ・ヘンドリックスやクリームがアイドルだったというのが、彼のイメージとは違っていて面白い。地元でじわじわと実力を付けていったボビーは、やがてメジャー・デビューのチャンスを掴む。
▲名曲「風のシルエット」収録のデビュー作『イヴニング・スキャンダル』
マイアミには当時、TKレコーズというローカル・レーベルがあった。KC&ザ・サンシャイン・バンドのヒットで知られるが、実際にはジョージ・マクレエやベティ・ライトといった渋いソウルのシンガーを多数リリースしていた。このレーベルとボビーが契約したことは、スタートとして最適だったといえるだろう。ソウルやR&Bのテイストを持つ歌唱スタイルは、人種の壁を越えて評価される結果となったからだ。
満を持して発売された1978年のシングル「風のシルエット / What You Won't Do for Love」は、ビルボードHot100では9位、R&Bチャートでは6位という大ヒットを記録した。ボビーの代表曲というだけでなく、AORのなかでも屈指の名曲とされている。その理由のひとつに、山ほどあるカヴァー・ヴァージョンの存在が挙げられるだろう。
ボーイズ・II・メン、ナタリー・コール&ピーボ・ブライソン、ゴー・ウェスト、ビッグ・マウンテン、マイケル・ボルトン、ゴールディー、佐藤竹善、Skoop on Somebody等々、ジャンルを超えて多くのミュージシャンに愛されている。また、グルーヴィーなサウンドはサンプリング・ソースとしての需要も非常に高い。2Pacの「Do For Love」や、アリーヤの「Age Ain't Nothing But A Number」などがよく知られているが、他にも数限りなく引用されているといっても過言ではない。
甘い歌声と洗練されたサウンドで大ブレイク
ボビーの音楽性の魅力は、白人離れしたソウル・フィーリングと、少し鼻にかかった甘い声だろう。そして、その個性を生かすために、卓越したミュージシャンが脇を固め、センス良くまとめたソウルフルなサウンドで引き立てている。
▲1980年発表の2ndアルバム『ロマンティック・キャット』
大ヒット曲「風のシルエット」を収録したファースト・アルバム『イブニング・スキャンダル』(1978年)は、まさにそういったボビーの魅力を最大限に表現したアルバムだった。ここから、彼の快進撃が始まる。デビュー作を踏襲してアーバンな雰囲気に仕立てたセカンド・アルバム『ロマンティック・キャット』(1980年)、TOTOのメンバーを迎えてLA録音を敢行したサード・アルバム『シーサイド・センチメンタル』(1982年)と傑作を立て続けに発表していく。
ここで特筆したいのが、日本盤のタイトル。実は、デビュー作の『イブニング・スキャンダル』の原題は“Bobby Caldwell”、『ロマンティック・キャット』は“Cat In The Hat”、『シーサイド・センチメンタル』は“Carry On”だ。まったく原題と関係のないタイトルは、逆に日本のマーケットならではの盛り上がりを作るきっかけにもなり、当時の世相と相まって大ブレイクする。本国ではデビュー作以降はそれほどのセールスを上げることは出来なかったが、日本ではいずれも当時の洋楽の定番となった。このこともあって、4作目の『オーガスト・ムーン / August Moon』(1983年)は当時日本限定リリースとなっている。
また、もうひとつ特筆しておきたいのが、ソングライターとしての評価の高さだ。有名なところでは、ライバルでもある盟友ボズ・スキャッグスに書き下ろした「ハート・オブ・マイン」、元シカゴのヴォーカリストでソロでも大成功を収めたピーター・セテラの「ステイ・ウィズ・ミー」だろう。いずれもボビー本人が後にセルフ・カヴァーし、他人への提供曲を自身で歌った5作目のアルバム『ハート・オブ・マイン』(1989年)にまとめられている。本作には他にも、シカゴ、カラパナ、アル・ジャロウ、コモドアーズなどに書き下ろした楽曲が収められていた。
マイペースな活動でファンに愛され続けるMr.AOR
そして90年代も、ボビーはマイペースに作品を発表していく。プログラミングを大胆に導入してオリジナリティを作り出した『ソリッド・グラウンド / Stuck On You』(1991年)、バート・バカラックのカヴァーなども収めた『ソウル・サヴァイヴァー / Soul Survivor』(1995年)、ビッグ・バンドをバックにジャズのスタンダードにトライした『ブルー・コンディション / Blue Condition』(1996年)と『カム・レイン・オア・カム・シャイン / Come Rain Or Come Shine』(1999年)など、少しずつスタイルは違えど、どこを切り取ってもボビーならではの個性に溢れたアルバムが続く。またこの当時、JTのなどのCMに使用されることも多く、お茶の間に密かに浸透していったことも忘れられない。
▲7年振りの新作となった2012年作品『ハウス・オブ・カーズ』
21世紀に入っても、Mr. AORは健在だった。デビュー作と肩を並べるくらいファンからの評価も高い『パーフェクト・アイランド・ナイツ / Perfect Island Nights』(2005年)では「スキヤキ」をカヴァーし、日本への敬意を表した。そして、AORをメインにジャズ、ラテン、カントリーなどを絶妙にブレンドした傑作『ハウス・オブ・カーズ / House Of Cards』(2012年)でも、彼のアーバン・テイストがまだまだ現役であることをアピール。そして毎年のように来日し、ソフト帽とダブルのスーツに身を包んだ若々しい雄姿を見せてくれる。
60歳を超えても、ボビー流AORの世界は不変。いつまでも「風のシルエット」のように、爽やかな歌声を届けてくれることだろう。
text:栗本 斉
公演情報
ボビー・コールドウェル / Bobby Caldwell
日時:2013年10月7日(月)~10月12日(土)
※9日(水)休演
会場:ビルボードライブ東京
日時:2013年10月14日(月・祝)~10月16日(水)
会場:ビルボードライブ大阪
MORE INFO: ビルボードライブ オフィシャルサイト
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