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<インタビュー>丁、「暗闇の中での希望、掴みたくなる光になりたい」想いを込めたEP『ヒトミナカ』

インタビューバナー

 シンガーソングライター・丁(てい)が、メジャーデビューEP『ヒトミナカ』を2023年2月22日(水)にリリースした。ミニハープを使った弾き語りという、音楽シーンの中ではあまり見かけないスタイルが特徴的だが、バイオリンやギター、ピアノも弾きこなし、作詞・作曲・編曲も手掛ける才能豊かなアーティストだ。TVアニメ『ツルネ ―つながりの一射―』エンディング主題歌として話題を集めている表題曲「ヒトミナカ」から始まる4曲を収録したEPは、ミニハープの端正な音色と、優しくも力強い歌声が聴く者の心を潤してくれる。アーティストとしてのルーツや楽曲のこと、活動のテーマ等、これまで主な表現の場としてきたSNSから広い世界へと飛び立った今の心境を訊いてみた。(Interview & Text : 岡本貴之 / Photo : 興梠真穂)

「全力で形にしてみたいっていうパッションが強かった」

――メジャーデビューEP『ヒトミナカ』リリースおめでとうございます。発売から2週間ほど経ちますが、作品の反響をどのように感じていらっしゃいますか?

:ありがとうございます。Twitterに感想をいただいたり、いっぱい反響があって本当に嬉しいです。自分が歌っている「ヒトミナカ」がアニメのエンディング曲になっていることが、まだ信じられないというか(笑)。「現実に起こっていることなんだ」って、夢見心地のような感じです。でもありがたいことに、『ツルネ ―つながりの一射―』に曲がすごく合っていると言ってくださる方が多くて、素直に嬉しいです。


――3月5日にイオンモール幕張新都心、8日に池袋サンシャインシティ 噴水広場で行われた合同リリース記念イベントでミニライブ・サイン会を実施されたそうですが、直接ファンの方々と接してみていかがでした?

:「『ツルネ ―つながりの一射―』のファンです」っていう方もいて、アニメについて「やっぱそうだよね!?」とか語れる時間もあったんです。いちアニメファンとしてもすごく嬉しい会話だったし、「イベントで演奏を聴いて好きになりました。CDにサインお願いします」と言ってくださる方もいたので、「ああ、人前で歌うってこういう感じなんだ」って、実感しました。


――今までは人前で歌と演奏を披露する機会がなかったんですね。

:ハープ弾き語りではやったことがなかったです。これまではSNSに動画を投稿するだけだったので、自分もハープの音をスピーカーから聴くのがすごく新鮮でした。イベントでお話させていただいた方も、「ハープの音を初めて生で聴きました」という方がほとんどだったので、みんなで感動し合えているのが嬉しかったです。



――丁さんご自身も、ハープの音をスピーカーから大きな音で聴いて感動したわけですね。

:そうですね。「あ、こういう音なんだ!?」って(笑)。


――ハープを使っての弾き語りはご友人の勧めで始めたそうですね。

:ハープを手にしたのは、自分がYouTubeに投稿するカバー動画の編曲の一部としてちょっと入れてみたいなと思って、Amazonで1万円ぐらいのものを買ったのが最初です。その後、動画に音を入れて友人に「ハープ買ったんだ」って言ったら、「弾き語りすればいいじゃん!やらないならボクがやっちゃうよ」って言われて、「ああ~、じゃあやるやるやる!」って急いで1週間ぐらいで動画を作って投稿したら、意外と反応が良かったので続けることにしたんです。


――勧められたにせよ、ハープ弾き語りという発想って珍しいですよね?

:そうなんですよ。友人の発想がすごかったのかなと思いつつ、自分もそれを全力で形にしてみたいっていうパッションが強かったので頑張りました。


「すずめ」(YouTube)



――もともと、いろんな楽器を演奏して動画投稿をしていたんですか?

:もともといろんな楽器をやっていたので、パンデミックでおうち時間が増えたときに、「音楽を続けなきゃ」と思って、自分の音楽トレーニングとして動画投稿を始めたんです。最初はギター弾き語り1本で、楽器だけ映すみたいな感じで30秒~1分ぐらいの動画を投稿していました。


――EPに入っているように、バイオリンなどの経験もあったわけでしょうか。

:そうです。バイオリンもそうですし、ギター、ピアノも好きです。いろんな楽器をやってみたくて、やってみたら意外と形になったというか。どんな楽器も興味を持ったらとにかく試しに触ってみて、音を出してみるんです。ただ、難しすぎる楽器はあきらめてますけど。


――例えば?

:中国の「古筝」という楽器があるんですけど、日本の箏と違って、右手の親指で弦を押さえて左手で弾いて音を変えるんですよ。それはさすがに「無理だ!」と思ってあきらめました(笑)。即日で形になるかも?と思った楽器を増やしていったら、今の状態になったんです。


――ハープの参考にしたアーティストや、丁さんが影響を受けているアーティストっていますか?

:ハープで参考にしている方はいなくて、独自にやってます。曲の世界観とか構成、編曲で言うと、ノルウェー出身のオーロラとか、ビリー・アイリッシュ、エンヤとか、奇麗な声のアーティストさんが好きで、そういう人たちのような曲を作ってみたいというのが、私の中の軸にあります。


――曲づくりはいつ頃から始めたんですか?

:たぶん、2015~6年ぐらいからやっていたと思うんですけど、自分で「この路線がいいな」という曲が作れたのが、2019年ぐらいです。それが今回のEP『ヒトミナカ』の2曲目に入っている「Whispering Lights」なんです。この曲は丁として活動する前に作った曲なんですけど、この曲が生まれたことによって自分の方向性が決まったんです。


「Whispering Lights」(Youtube)


――ちなみに、丁というアーティスト名の由来はニックネームなんですよね。

:そうなんです。呼ばれやすい、呼びやすい名前にしたいと思って、友だちから呼ばれていたあだ名をそのまま使うことにして、活動するにあたってSNSに「TeiHinoto」というIDを設定したんです。「丁」という字は、「ヒノト」とも読めて、「火の弟」という、太陽と逆の月のような存在という意味もあるんです。それが最初に納得できた曲「Whispering Lights」の方向性とも合うなと思ったんです。月って、夜とか星とかにすごく寄り添う感じのイメージがあったので、そういうあたたかいものが作れたらいいなっていう思いも込めて「丁」という名前に決めました。


――前作の配信限定アルバム「羽化」の1曲目に「ヒノト」という曲もありますね。

:これは自分の自己紹介ソングなんです。最初に私の声だけから始まって、だんだんハープが入ってくるっていう、ほんとにシンプルな二声の構造で作ってるんですけど、丁がどういう存在であるかっていうことをちゃんと伝えられる曲かなって、自分の中でもかなり気に入ってる曲ですね。


「ヒノト」(YouTube)


――「Whispering Lights」は自分に問いかけているような曲ですが、どんなときに出来た曲ですか。

:自分にとってはすごく人生の分岐点のときでした。自分には一緒に音楽の道へ進もうとしていた妹がいたのですが、妹は別の道で頑張りたいということで、そこで私と道を分けたんです。それが2019年頃なんですけど、「この先どうしよう」「自分は何をやったらいいんだろう」とか、人生にすごく悩んでた時期で。そんな中で自分に言い聞かせるように、「大丈夫、息を吸って星を見て」という風に、自分に対して優しく励ますような思いを込めて作った曲です。


――「Whispering Lights」は英詞ですよね。EPには、日本語詞と英詞がありますけど、その違いっていうのは、丁さんの中でどう分けているのでしょうか。

:曲を作るときは、和音の構成から考えてメロディをなんとなく作ってみて歌詞を重ねているんですけど、日本語が重ならないメロディのときがたまにあるんです。そのときは英語で作ったりもします。曲の赴くままにというか、曲が育つままに育てたいっていうのもあるので。


――なるほど。どうして訊いてみたかったかというと、ご自分の内省的な思いを表現するのに、日本語だとちょっと重たくなっちゃうから英語で表現しようと考えているのかなと思ったんです。

:あんまりそこの境はないですね。日本語は日本語で美しい表現があって、思いを隠したいと思えば隠せる表現もあったりしますから。でも、確かに英語の方が結構素直になってるかもしれないですね。


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「「自分はここにいるよ」ということを表現したい」

――では表題曲「ヒトミナカ」について訊かせてください。TVアニメ『ツルネ ―つながりの一射―』エンディング主題歌に起用されているわけですが、先ほどおっしゃっていましたけどアニメはよくご覧になるんですか?

:アニメはすごく好きでかなり見ています。『ツルネ ―つながりの一射―』は弓を題材にしているアニメなんですけど、形からも想像できるようにハープの元祖の形って弓なんです。だからすごく運命的だなって思いましたし、「これは私が作らなきゃ」という思いを強く感じました。


「ヒトミナカ」MV(YouTube)


「ヒトミナカ」Music Video Tsurune Ver.(YouTube)


――アニメの映像とともに、ご自分の曲が流れてくるのを最初に聴いたときはどう思いましたか?

:もう、リアルに鳥肌が立ちました。演出もすごいし、こうやって私の曲が巣立ってドレスアップされていくんだって、すごく新鮮でしたね。


――主題歌として、「こういうイメージで」みたいなことって言われたりしたのでしょうか。

:それはありました。作品に関わるスタッフのみなさんと打ち合わせをする中で、リスナーとか、『ツルネ』の登場人物と同じ目線で、一緒にみんなで前に歩いていけるように背中を押せるような曲が良いねという話になり、その意見を受けて作りました。



――なるほど、それで瞳の中に映るものがテーマになっているんですね。

:そうなんです。彼らの青春を映し出しているあの瞳を表現できればなと思って。相手のことを見ているからこそ広がる輪だったり、思いや仲間があるなってすごく純粋に思ったんです。瞳って丸いじゃないですか?今回は丸いものをテーマにした曲にどうしてもしたくて。弓の先にある的も丸いですし。彼らの汗の雫が丸になっていたりとか、それを表現したいなって思いました。


――曲名をカタカナにしているのはどうしてなんですか?

:カタカナで表記してるのにも訳があるんです。区切るところを「ヒトミナ」と「カ」で分けて「カ」を漢字の「力」と読むと、「ヒト ミナ チカラ(人 皆 力)」になるんです。みんなの力が合わさって大きな力になるっていう思いも込めたタイトルになっています。


――なるほど!そこまで読み取れていなかったです。素晴らしいですね。

:あはははは(笑)。ありがとうございます。


――では、「蟲森」はどんなテーマで書いた曲ですか。

:輪廻転生をイメージして作った曲です。その輪廻転生の中にも、丁のテーマであるヒノトとか、夜、月、星がかなり物語に組み込まれている詞になっています。この曲には輪廻転生を目の当たりにしている主人公と、輪廻転生していく人という2人の登場人物がいるんです。もしも目の前で亡くなる人がいたとしても、森の中から魂の光が宿って空に向かって飛んでいって、そこには無数の魂の輝ける星が天の川のようになっていて。それは主人公には見えていないけど、どこかに流れていってきっとまた生まれ変わってるだろうっていう。だけどこの地球からは逃れられないから、また会うために探しに行こうっていう、物語性を表現した楽曲になっています。


「蟲森」(YouTube)


――「必」(カナラズ)はすごく躍動感があって開けていく壮大なサウンドスケープを感じました。この曲で締めくくられてることで、これから先の丁さんの広がっていく世界を想像させます。

:この曲には〈大地を踏み鳴らせよ〉という歌詞があるんですけど、自分を鼓舞する曲で、結構パッションがある情熱的な曲になるように仕上げました。このEPは4曲あるんですけど、全体を通して交響曲のような構成にしていて、「必」はその第4楽章になってるんです。交響曲の第4楽章ってすごくテンポが速くて激しい曲だったりするので、そういうポジションの曲にしました。


――そういう発想が生まれるのは、丁さんのルーツがクラシックだからですか。

:小さい頃からピアノを習ったりしてクラシックが1番最初に触れた音楽で、バレエ音楽とかのオーケストラサウンドがすごく好きなんです。


――楽器の演奏のみならず、「必」では打ち込みもご自分でされているということですよね。

:パソコンで曲を作るのがすごく好きなので打ち込みも自分がやっています。なんなら楽器の練習よりも打ち込みをするのが好きかもしれない(笑)。


――そうすると、今後はそうしたトラック作りを駆使したダンスチューン的な楽曲も発表する可能性もある?

:それはありますね。ジャンルに囚われずにいろんな音楽に挑戦したいです。「ヒトミナカ」は、どちらかというと「風」とか「水」属性みたいな感じなんですけど、「必」は「土」属性みたいな感じなんです。「火」属性の曲とかも作りたいなっていう想いはあります。


――曲を属性で定義するって面白いですね!

:あはははは(笑)。「ヒトミナカ」は、多分すごく「風」を感じられる曲かなって思います。


――そういった曲作りも含めた活動のテーマが「暗闇の中、輝く星月のように、蠟燭の灯のように、 聴いてくれる人の足元をそっと優しく照らす提灯であり続けたい」とのことですが、どんな思いを込めているのか詳しく教えていただけますか。

:それは、すごく核心に触れていただくご質問ですね。「暗闇」って、太陽の光がない暗い状態で先が見えずに迷って不安な状態で、その中での希望、向かうべき先、掴みたくなる光になりたいという意味を込めています。「灯火」という字にも「丁」が入っていますし、「提灯」という字にも「丁」が入っているんです。この文章が私を集約していますし、丁の活動テーマであり存在意義を表しています。


――今作を聴いて、曲や歌声にすごく美しい印象を受けました。世の中には美しいことばかりではないですし、誰しもが荒んだ気持ちになることもあると思うんですけれど、丁さんはそういう感情を抱いたときに、それが曲に影響したりしますか。

:影響されているとは思います。ただ、そこを意識しないようにしている気がしますね。自分を鼓舞するためにも作っている曲が多かったりするので、「光を求める、希望を求める」という想いを、自分だけじゃなくてリスナーさんと一緒に見つけていければいいなと思っているんです。なので、曲にするときはできるだけポジティブになるように心がけています。




――EP『ヒトミナカ』は、とくにどんな人たちに聴いてほしいですか?

:SNSに投稿するのがメインだったので、SNSでたまたま目に留まっていただいて好きになっていただけるのは、すごく運命だなって思うんです。なのでそういう人たちを大切にしたいという気持ちがあります。あとは、「綺麗な音楽だな」って思った人に聴いてもらえたら嬉しいですね。自分的にはリスナーさんにどう思ってほしいとかっていうことはそこまで考えていないというか。「自分はここにいるよ」ということを表現したいので、見つけてくれてありがとうっていう気持ちです。リスナーさんとはそういう関係性かなって思っています。


――そうしたリスナーさんとの関係性を今後どうやって広げていきたいとか、夢や目標があれば教えてもらえますか。

:そんなに大きい夢とかはないですけど、今までついてきてくださったファンの方もいるので、とにかく続けていきたいと思っています。曲の数を増やしたり、動画をもっと作って投稿して、ハープの良さをみんなで共有したいです。それと、自分の声で癒されてますと言ってくださる方がすごく多いので、そういう方の癒しになれたら良いなって思っています。


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