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<インタビュー>活動休止を乗り越えたALIの反抗――音楽を愛する仲間たちと作り上げた1stフルアルバム『MUSIC WORLD』を語る
Interview:三宅正一
Photo:Yuma Totsuka
ALIが満を持して、1stアルバム『MUSIC WORLD』を完成させた。
メジャーリーグで大谷翔平選手が入場曲に使用したことでも国内外で大きな話題を呼んだ「LOST IN PARADISE feat. AKLO」や「NEVER SAY GOODBYE feat.Mummy-D」などのアニメ・タイアップ曲をはじめ、山下達郎の大名曲「SPARKLE」のカバー、その喉でオンタイムなグルーヴを体現するフレッシュなラッパー/シンガー陣を招いた楽曲、そしてALIの音楽人生におけるリアリズムとリリシズムを遺憾なく注ぎ込んだアルバム曲によって、とんでもなくスケールの大きな作品が立ち上がっている。
個々人の魂にダイレクトに響くあらゆる音楽ジャンルを横断、昇華し作り上げたこのALIならではのヒューマニスティックなレベル・ミュージック集が完成するまでの軌跡を、LEO、CESAR、LUTHFIの3人に聞いた。
パーソナルなレベル・ミュージック
――相当な手応えを感じていると思うし、このアルバムのスケール感からして、ここからどんどんデカい会場でライブをするようにポジティブな意味で自分たちを追い込んでるとさえ思いました。
LEO:なるほどね!(笑)。それは考えていなかったですね。でも、たしかにそう言われたら、アルバムのスケール感を再現するとなったらそうなるかも。
CESAR:たしかに。
LEO:武道館で全部生音でこのアルバムの再現ライブをやれたらカッコいいだろうね。ただ、このアルバムはあくまで音楽ありきで始まっていて。本当にパーソナルに作って、パーソナルに届けたいと思いながら作りました。
――めちゃくちゃスケールが大きく、かつ極めて現代的な、ALIならではのヒューマニスティックなレベル・ミュージックを具現化しているなと。どこまでも生々しいのにエンターテイメント性も高いのが素晴らしいなと思いましたね。
LEO:うれしいですね。レベル・ミュージックは今回のテーマでもあったので。
ALI - NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D
――聴く者をエンパワーメントするアルバムだとも思うし、フィーチャリング・アーティストのジェンダー・バランスもかなり意識的だと思うし、語れるポイントが本当にたくさんある。
LEO:客演の男女比を本当は完全に半々にしたかったんですけどね。でも、そこもかなり意識しました。レベル・ミュージックというところで言うと、音楽自体の表現も……なんて言ったらいいのかな? 例えば60年代に音楽をやっていたアーティストはポジティブに面白い表現をして注目を浴びようとしていたのが、今はネガティブなことでもなんでもいいからとにかく注目を浴びて数字を稼ごうとするやつが多いと思っていて。それは音楽に限らずだけど。
――炎上商法的なことも含めて。
LEO:そうそう。世の中全体のコンテンツもどんどん増えているじゃないですか。そのなかで、コロナ禍になって最初に音楽文化が封じられちゃったから。「ああ、音楽文化って案外簡単に消されちゃうんだな、他のコンテンツに人を取られちゃうんだな」と思って。社会全体のムードとして同調圧力みたいなものがどんどん膨らんでいる実感もあるし、それに対してカウンターを打ちたいと思ったし、アルバムで表現する音楽の素晴らしさをとにかく伝えたいという思いを持ちながら去年は活動してましたね。俺らにとって一番レベルな行為がこういうアルバムを作ることだったというか。
LEO
――しかもこれだけ贅沢にね。
LEO:そうそう、本当に。死ぬほどいいスタジオでレコーディングしてね。だから、売らなきゃいけないんですよ(笑)。そうしないと続けられないので。
CESAR:僕もアルバムで音楽を聴かなくなった時代になっているとすごく感じていて。よく言われていることですけど、サビから始まらないと聴かれないとか、いろいろあるじゃないですか。
――ギターソロのある曲は聴かれないとか。
LEO:ギターソロ問題ね(苦笑)。
CESAR:とか、そういうことを一切考えずに作れたのがよかったなと思います。僕は今26歳で、たぶん曲順を覚えるくらいアルバムを聴き込む最後の世代なのかなと思うんですけど。そういう意味でもアルバムとしてのこだわりを凝縮した内容になっているので、かなり自信作ですね。ALIの初フルアルバムとして、その冠に恥ずかしくないものができたと思います。
心や魂を淡々と素直に表現するしかない
――ALIのバンド・ドキュメンタリーを追体験するような曲順と内容でもあると思います。2021年5月にメンバーの不祥事を受けて活動休止したときはこういうアルバムができるなんて想像もできなかったと思うんですけど、ただ、このアルバムはその空白の時間もすべて糧にしてますよね。折れなかったALIの生き様を証明するものであり。
CESAR:まさにそうです。あの時期に向き合ったことが詰まっている。5曲目の「MY FOOLISH STORY」とかは、ああいう出来事がないとLEOさんもこういう歌詞を絶対に書けなかったと思うので。ものすごくネガティブな事件でしたけど、アーティストはそれを表現で乗り越えられると思うから。
ALI – MY FOOLISH STORY | With ensemble
――解散してもおかしくないような出来事であったことは想像に難くないですが、チーム一丸となってALIを守ろうとしたし、実際に守ったわけですよね。
LEO:そう。本当にいろんな人がサポートしてくれて。多くの愛情の架け橋があって、今のALIがあるので。俺らは音楽で返すことしかできないですけど、今は現在進行系でどんどんいい循環が生まれているので。今まではメジャーリーグで「LOST IN PARADISE feat. AKLO」を大谷翔平選手が入場曲に使ってくれたり、事件があったことも含めて、ポジティブな面もネガティブな面とも向き合いながら、いろんなエネルギーをブーストさせてきたんですけど。2023年からはやっと音楽家として仕事するスタートを切れるという感覚なんです。この音楽シーンを生き残るために遺作を作るつもりで、全身全霊で完成させたのがこのアルバムで。ここから毎年作品を作っていくつもりだし、やっとそういうレースにエントリーしたなという気持ちです。やっぱり1stアルバムって自分たちが今持っている全部をそこに突っ込めるじゃないですか。今まで出した曲も入るし。さっき話に出た「MY FOOLISH STORY」は活動休止が決まった1週間後に俺が伊豆に逃げていたときに作った曲で。それこそジョニー・キャッシュとかカントリーを研究していた時期でもあったんですよね。活動休止前は、アメリカに進出するならカントリーをしっかり知らなきゃというときだったので。
――「MY FOOLISH STORY」はそこにデジタルクワイアの要素も入っていて。
LEO:そうそう。
CESAR:歌詞を見たときにグッときたというか。同じ体験をしたメンバーが代弁してくれているという気持ち。感動しましたね。
LEO:タイミング的には「MY FOOLISH STORY」と「NO HOME NO COUNTRY feat. KAZUO,IMANI」が一緒にできたんですよ。帰る場所がなかったら、「俺たちはここで永遠に生きるぞ」という気持ちで書きましたね。
――今を生きるためにリアルなことしか歌ってない。
LEO:そう、事実しか書いてないです。「LOST IN PARADISE feat. AKLO」とか「Wild Side」とか多くの人に聴いてもらった既発曲もアルバムに入るから。そのぶん「何年も聴ける作品を作るにはどうしたらいいんだろう?」と思ったら、自分の心や魂を淡々と素直に表現するしかないなと思って。そういった曲はおそらく5年後も古くならないはずだから。それだけを意識して作りましたね。そのうえでさっき言っていただいたように、あくまでも今を生きているということが重要で。昔のサウンドからの影響とか、いろんな手法は使うけど、今この時代にアルバムを作ることの意味であったり、今の音像を作れるエンジニアと組んだり、デジタルクワイアの要素を足したり、なるべく今の時代に鳴る音楽ということを考えながら、でもそれと同時に時代を超えていく作品にしたかったなって。
CÉSAR
――収録曲は数ある中から厳選した?
LEO:けっこう厳選しましたね。曲自体はアルバムもう1枚分くらいあったので。それを半分くらい捨てて、夏に作り直そうってなって。本当は韓国や中国などアジア人のラッパーたちも交えて「証言」(LAMP EYEが1995年にアナログで、1996年にCDでリリースした、RINO、YOU THE ROCK☆、G.K.MARYAN、ZEEBRA、TWIGY、GAMA、DEV-LARGEがマイクリレーを繰り広げた日本語ラップ史における伝説的な楽曲)みたいなことをやりたいと思っていたんですけど、それも全部やめて。それは次に取っておこうと。
――それ、めちゃくちゃ聴きたいです。
LEO:いつかやるのでぜひ聴いてほしいです。最終的には合宿にみんなで入ってアルバム曲を録っていきました。合宿では4曲目「IN THE MOOD FOR LOVE feat. SARM」、9曲目「CLIMAX BULLETS」、12曲目「MELLOW CRUISE」、13曲目「A NIGHT IN SAUDI ARABIA」、15曲目「(BUT)WONDERFUL」を中心に完成させて。合宿は3日間入ったんですけど、こいつ(LUTHFI)がマジでポンコツで(笑)。3日間で何十時間、ずっと音楽と向き合うわけですよ。本当に飯食うくらいしか休憩がない、みたいな。最終日のLUTHFIはWindows 85くらいのスペックになっていて。保存が何もできないみたいな(笑)。
――LUTHFIさんはそんないっぱいいっぱいだったんですか?
LUTHFI:あのときは本当にヤバかったです。記憶がなくて。
CESAR:もう、半分寝ながらやってるような。
LUTHFI:あのとき僕がビーガンだったんですよ。食事は出るんですけど、僕が食べられるのが野菜と白米しかなくて。
LEO:もう鬼ギレですよ。「ふざけんな」つって(笑)。
LUTHFI:思い出すと情けなかったなって。
LEO:そりゃあそうですよ!(笑)。あのときすでに子どもも生まれて父親になってたもんね?
LUTHFI:そうだね。
CESAR:そのあとすぐ、2年続けたビーガン辞めましたもんね。
LEO:日本がビーガンに対する環境が整っていないので。俺も嫁と本気で調べたらけっこう金がかかるんですよ。
LUTHFI:めちゃめちゃかかりますね。
――世の中は太るほうに金がかからない仕組みになってますよね。
LEO:そうそう、コンビニの塩昆布おにぎりしか食っていなくても、「それでビーガンって言い張るって何!?」みたいな。「これって体に悪くない?」っていう。ミュージシャンの仕事をしていたら忙しいから、「一回本気で考えて」と言ったらすぐに変わって。そしたら今度はすごいケンタッキー食いやがって、10キロ太りやがって(笑)。
――いいキャラクターですね(笑)。
LEO:本当に面白い(笑)。
LUTHFI
――CESARさんはどうでした? 合宿は。
CESAR:伸び伸びとやりました(笑)。僕は夜が強いタイプなので。自分的には『MUSIC WORLD』というコンセプトで、色んな民族音楽の要素をどうやってギタリストとして表現するか自分なりにチャレンジして。たとえば竿を持ち替えてフラメンコ・ギターにしてみたりとか。いろんな実験をやる楽しい時間でしたね。LEOさん的には次のアルバムはもっとディスコに特化したアプローチをしたいというマインドに変わってきてるんですけど。僕はそのディスコの中でいかに民族的なアプローチをできるか、いろんな音楽を聴きながら探ってます。
LEO:次はちょっとピントを絞ってやってみようかなって。ディスコオンリーのアルバム、ジャズに特化したアルバムを作って、それに飽きたら『MUSIC WORLD2』にしようかなって。今回でアルバムとしてCDを出すのは最後にしようと思っていて。今後はレコードと配信のみのリリースになると思います。タイアップがついたアニメとかはシングルCDをリリースすることになると思いますけど、アルバムはアナログと配信のみでいくと思います。
あくまでも日本のアーティストとして海外に
――客演のラッパー/シンガーもフレッシュなメンツが多いですけど、そのあたりの人選のポイントは?
LEO:やっぱりラッパーも音楽家的な生き方をしている人とやりたかったし、そうしたほうが俺らと親和性が高いというのは感じていました。ラップだけじゃなくて、音楽を愛している人たち。で、MFSはもともとダンス・カルチャーにいた人だったりして。お母さんがフラメンコのサルサの先生だったり。そういう意味でもALIと親和性が高くて。彼女の「BOW」がヒットする前にライブを観に行って声をかけていたので。ステージ力もヤバかった。立っているだけでちゃんとアーティストというか。SARMに関してはもう10代のころからの付き合いで。満を辞してようやく。本当に5年越しくらいかな。いいタイミングでいい曲があったので。「NO HOME NO COUNTRY feat. KAZUO,IMANI」は俺らが謹慎中の時期でもあり、当時はコロナとブラック・ライヴス・マターの問題が一気に表面化していって。今思うと、本当に映画を超えるようなカオスが世の中に広がっていたので。で、KAZUOもIMANIもニューヨークから日本に来ていて。KAZUOはハーフということもあって、俺らと同じようにどこにも居場所が感じられなかったり、ずっと抱えている孤独感がある。そんななか、世界には争いや混沌が広がっている。でも、俺たちは音楽を拠り所にして永遠に生きていこうというタフな世界を表現したかったんです。そういった意味でもアメリカのリアルを知っている二人のメッセージを入れたくて。
ALI - EL MARIACHI feat. MFS
――そのリアリティはすごく重要ですよね。
LEO:間違いないです。カルチャーって、今回カバーした達郎さんの曲もそうですけど、アメリカで生まれた音楽を日本で解釈して、またそれをアメリカに返すというその往復が大事だと思うんですよ。そうやってカルチャー自体が成長するし、それがアメリカへの返答になるというか。そういうことを世界の一部としてできたことが重要な気がします。
――達郎さんの「SPARKLE」のカバーはよく実現させましたね。しかも英歌で歌っていて、さらにモントゥーノなサルサ的リフを軸に、まさにALIのシグネイチャーなアレンジになっている。
LEO:これが正しいカバーなんですよ。カバーって本当はこういうふうに遊んでいくものだから。でも、絶対に許可は降りないと思ってました。あのアレンジと、あの英詞で。達郎さんは許可を全部ご自身で出すんですよ。カバー音源を聴いたうえでジャッジする。で、英語で歌いたいというのも言わずに、英語で歌った音源を提出したんです。もともとハワイのバンドが80か90年代くらいに英語でカバーしようとしてダメだった前例があって。俺らもダメだろうなと思って、日本語で歌う準備をしていました。そしたらOKが出て。ぶち上がりましたね。
――このカバーを7インチで切ってリリースしてほしいですね。
LEO:マジで切りたいんですよ。そのためにもアルバムのレコードを売らないといけない。
――達郎さんのラジオ(TOKYO-FM系 全国38局ネット『サンデー・ソングブック』)でもかけてほしいですよね。
CESAR:それヤバいっすね。ヤバい。
LEO:コロナ禍に達郎さんのラジオのアーカイブを全部聴いたので。本当に影響を受けてますから。
――このアルバムを引っ提げて新たな景色を見ることができると思います。
LEO:やっぱり世界中に行きたいので。台湾をはじめいろんな海外からのオファーも来てるので、そこにもしっかり行きつつ、日本での求心力も高めたいですね。俺らは浮世絵にはなりたくないんですよ。あくまでも日本のアーティストとしてALIを海外に持って行きたいので。もっと日本人に届けられるようにやっていきたいです。去年、俺がトランペット奏者の黒田卓也さんのジャズライブに飛び入りしたことがあって。ピアノ、トランペット、俺という少人数の編成だったんですけど、それが楽しくて。そういうミニマムな編成で日本各地いろんなところを回って行きたいという気持ちが芽生えました。
CESAR:例えば今回のアルバムに入っている「A NIGHT IN SAUDI ARABIA」は、サウジアラビアに実際に行ったときに目撃した景色があってこそできた曲だし、去年は台湾にも行ったので、みんなで「台湾の曲を作りたいね」と話したりしていて。もっと行ったことのない国に実際に行って、たとえば「メキシコで飲んだ酒の味を曲にしよう」とか、リスナーがいろんな想像のできる曲を、いろんなところで取り込んで曲にしてアウトプットしたいです。その曲をまた現地に持って行って演奏もしたい。いろんな国、日本でも行ったことのない都道府県に行って、どんどん新しい出会いをしていきたいです。
LUTHFI:僕もいろんな国や都道府県に行きたいという気持ちがあって。僕らにはそれぞれのルーツがあるので、そのルーツを音楽と一緒に深堀りしたいですね。
――あとは、いつかALI主催のフェスも開催してほしいですね。
LEO:やりたいですね。ALIフェスね。
――そこで「証言」ALIバージョンをカマしたらやばいことになる。
LUTHFI:ははは(笑)。
LEO:ヤバいっす。 やりたいっすね。それやりましょう。
MUSIC WORLD
2023/01/25 RELEASE
SRCL-12319 ¥ 3,000(税込)
Disc01
- 01.MUSIC WORLD
- 02.EL MARIACHI feat.MFS
- 03.LOST IN PARADISE feat.AKLO
- 04.IN THE MOOD FOR LOVE feat.SARM
- 05.MY FOOLISH STORY
- 06.NO HOME NO COUNTRY feat.KAZUO, IMANI
- 07.WILD SIDE
- 08.TEENAGE CITY RIOT feat.R-指定
- 09.CLIMAX BULLETS
- 10.SHOW TIME feat.AKLO
- 11.SPARKLE
- 12.MELLOW CRUISE
- 13.A NIGHT IN SAUDI ARABIA
- 14.NEVER SAY GOODBYE feat.Mummy-D
- 15.(BUT)WONDERFUL
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