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<インタビュー>ASIAN KUNG-FU GENERATIONが『BORUTO』に重ねた時代の閉塞感、ともに生き抜く仲間の大切さを語る
Interview:黒田隆憲
Photo:Yuma Totsuka
ASIAN KUNG-FU GENERATIONが、通算30枚目となるシングル『宿縁』をリリースする。表題曲は、2023年1月クールのテレビ東京系アニメーション『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のオープニングテーマとして書き下ろされたもの。運命に翻弄される二人の主人公をモチーフにしつつ、混迷する現代を生きる私たちの心情にも寄り添った歌詞世界が印象的で、抑揚を抑えたヘヴィな曲調やサウンド・プロダクションも、彼らにとって新境地ともいえる仕上がりとなっている。
2003年メジャー・デビューのタイミングで「遥か彼方」が『NARUTO -ナルト-』第2期オープニングテーマに起用されて以来、当シリーズのタイアップはこれで4曲目。アジカンにとってまさに“宿縁”ともいえる『NARUTO』。その魅力についてはもちろん、カップリング曲の聴きどころなどもじっくりと語ってもらった。
『NARUTO』は一緒に歩んでくれた“同志”
――「宿縁」は『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のオープニングテーマ。『NARUTO』シリーズとしては、通算4曲目のタイアップとなります。
後藤:とにかく『NARUTO』は思い入れの深い作品ですね。特に2002年の「遥か彼方」は、自分たちのキャリアにとっても非常に重要なターニング・ポイントとなりました。というのも、当時はまだロック・バンドがアニメの主題歌をやるという文化がそんなに浸透していなかったと思うんですよ。おそらく違和感を持った人もロック好きの中にはいたはずだし。
ASIAN KUNG-FU GENERATION『遥か彼方』
喜多:たしかに、当時メンバー同士で話し合いの場を設けるなど、慎重になっていたところはあったかもしれないですね。実際のところ、どんなイメージを持たれるのかまったくわからなかったですし。
後藤:ただ、当時から日本のアニメは世界的にもクオリティが高かったですし、実際に注目も集めていたし、この『NARUTO』という作品と一緒に俺たちも世界に出ていけるはずだと思っていました。そういう“絶好の機会”だという意識もありつつオファーを受けたことを覚えていますね。
後藤正文
――実際、おっしゃる通りの展開になっていきましたよね。
後藤:本当にそうですね。『NARUTO』という作品にいろいろな国へ連れて行ってもらいました。
山田:「遥か彼方」に限らず『NARUTO』シリーズの楽曲に関しては、実際に海外で演奏したときのリアクションがすごいことになるんですよ。自分たちの演奏すらかき消さんばかりの勢いで一緒に歌ってくれるし。
後藤:たしかにそうだね。
山田:自分たちの楽曲が海外でこんなにも受け入れられているのだと気づかせてもらったというか。『NARUTO』に関しては、ASIAN KUNG-FU GENERATIONと一緒に歩んでくれた“同志”みたいな感覚があるかもしれないですね。
喜多:これまで様々なタイアップやコラボの話をいただいてきましたが、そういう意味では特別な思いがあります。今回、『BORUTO』でもお話をいただいてすごく嬉しかったですね。
山田貴洋
――『NARUTO』と『BORUTO』の作品としての魅力についてもお聞かせいただけますか?
伊地知:僕はずっと前から原作を読んでいましたが、今に至るまでずっと変わらぬ良さがありますよね。子どもから大人まで楽しめる要素がしっかり入っているのもいい。
後藤:今回、作画は岸本斉史さんから池本幹雄さんにバトンタッチしていますが、相変わらずキャラクターはとても魅力的だし、いろんなアイデアが詰まっていて。冒頭はすごく悲しいシーンから始まるし、どこに“救い”があるのかなかなか見つけ出すのが難しいストーリーではありますが。『NARUTO』もかなりタフな作品ではあったけど、今回もどんどん作品世界に引き込まれていくような感じ。いずれにせよ、僕らが読んでいた頃の『週刊少年ジャンプ』と比べると、何倍も話が複雑な気がします(笑)。
時代の閉塞感は似ている
――書き下ろしの楽曲を作るときは、どのようにして作品世界を楽曲に落とし込んでいるのでしょうか?
後藤:『NARUTO』に限らず、僕はいつもめちゃくちゃ下調べしています。原作をしっかり読んで、そこで感じたインスピレーションをもとにしつつ応えたいと思っているので。今回の新曲「宿縁」に関しては、まだ原作が完結していないので、今後どうなっていくかわからないなかで書いたのですが、ある種の“運命”みたいなものを主人公たちには乗り越えてほしいと思っています。というのも、さっきもチラッと言いましたが、ボルトとカワキが反目し戦い合う関係だということを第一話で提示してしまっているので、どこかのタイミングでストーリーがそこと繋がるのは間違いないわけで。僕自身は、作品冒頭で描かれている二人の葛藤の、その先のストーリーに思いを馳せました。
――そこには、今を生きる我々へのリアルなメッセージも込めていますか?
後藤:それはありますね。今ってそんなに自由に背負っているモノを下ろしたり、新たに背負い直したりとかしにくい世の中じゃないですか。昔と比べて格差も目に見えて広がっているように感じるし、それが固着しつつある。親の経済状況があまりにも子供に引き継がれすぎて、“勝っている人たち”は相変わらず勝ち続け、“負けている人たち”は負け続けていて。そういう世の中に対してうんざりしている気持ちと、状況を乗り越え打破していきたいという気持ちの両方があるというか。そういう意味では『NARUTO』と『BORUTO』で描かれる世界の閉塞感と、今この時代の閉塞感は似ている部分があるのかもしれない。それこそ『BORUTO』の冒頭で描かれている“対立”と“分断”そのまんまの社会を生きているんじゃないかって。
喜多建介
――どれだけ時空を超えたフィクションを描こうが、そこにはやはり我々が生きている社会が多かれ少なかれ作品に影響を与えるというか。
後藤:そう思います。受け手であるこちら側もムードみたいなものはどうしたって感じ取ってしまう。自分自身もスコーンと明るい楽曲を今書くのはなかなかしんどいものがあります。だって、それこそ核戦争ですら起こり得る可能性がゼロではない世界をいよいよ生きているわけですから。
――「世界はより良い方向へと進化していく」なんて言葉が幻想に過ぎないことを、ほんとここ数年まざまざと見せつけられ続けています。
後藤:コロナ禍でようやくみんなが目覚めて、持続可能な地球を目指し団結していくのかなと思ったらそうでもないし。それどころか閉塞感みたいなものはかえって強くなったような気もする。
――そういった“閉塞感”は「宿縁」の抑揚を抑えたヘヴィな曲調やサウンドにも現れているように思いました。そのぶん<ひび割れた大地の厳しさを分けいく命よ 渇きを癒す水源地をひたすら求めて>と歌うサビの力強さも際立っている。
後藤:どんなに世界がひどくても、とにかく歩き続けるしかない。例えば、インターネット空間に蔓延する諦観みたいなものに巻き取られないようにしながら。
伊地知潔
――特に印象に残ったのは<ささやかな夢にも きっと僕らが生きる理由が潜んでいて 踏みつけてしまえば 世を呪っている彼らの願ったり叶ったり>というブリッジの4行です。ここにはどんな思いを込めましたか?
後藤:今ってお互いがお互いを踏みつけあっているようにしか見えないんですよ。このあいだの『M-1グランプリ』のウエストランドのネタとか見ていてもそうなんだけど、結局俺たちはお互いを貶め合って笑っているだけで、「それって本当に豊かなことなのかな?」と思ってしまう。もちろん彼らが優勝したことはとても素敵なことだと思うけど、あの比喩の構造って決して笑えないよなって(笑)。
――わかります。あのネタは井口さんの“毒舌”が可笑しいのではなく、毒舌を吐く井口さんの“狭量さ”が可笑しくて笑っているという。もちろん本人たちはすべて計算づくだろうけど。
後藤:それを笑いながら見ることでガス抜きして「明日からまた頑張って働こう」みたいな。それって正気に戻ったら地獄絵図だし、「一体誰がほくそ笑んでいるんだろう?」と思うんですよ。
――たしかに。
後藤:ワールドカップもそうですよね。開催されることでサッカー選手よりも儲かっている人がいたり、カタールではスタジアムの建設現場や周辺インフラ設備工事で6千人以上が命を失っていたり。「もうちょっと他にマシな世界を俺たちで作っていくことはできないだろうか?」と思う。別に誰かを糾弾したいわけではなくて。もっとお互いを称え合ったり、励まし合ったりできないのかなって。そうしないと“世を呪っている彼らの願ったり叶ったり”になってしまう。そんななかで、自分には“仲間”がいるのはすごく力強い。バンドを組めているなんてすごく素敵なことだし、週末に集まって音を出し合う仲間がいたら、こんな世の中でもなんとか絶望せずに済むかもしれないって、いちバンドマンの視点からつくづく感じる。そういう、お互いを必要とするような関係性みたいなものをそれぞれが大切にできたらいいなと。そんなことを考えながら書いた歌詞ですね。
カップリング曲はどれもチャレンジング
――喜多さんが作曲・ボーカルを務めるカップリング曲「ウェザーリポート」は、清々しい曲調である反面、歌詞はかなりシリアスな内容ですよね。<どこまで行こうとも交わることなく>、<ふたりは乾いた 互いの熱が消えてしまうくらい>、<歩めば歩むほど距離は離れて>など、いつまでも平行線をたどる人間関係を歌っています。
後藤:「宿縁」ではどこまで行っても“交わってしまう関係性”を歌ったので、ここではずっと交差しない轍のような関係性を歌おうと。タイヤの跡ってUターンでもしない限りずっと交わらないままだな、なんて考えながら作った歌詞です。曲の中に“雨”とか“晴れ”というワードが出てくるし、タイトルは「天気予報」がいいかなと思ったんですけど、「宿縁」の後に「天気予報」だとバランスが悪いなと思って英語タイトルにしました(笑)。あと、僕じゃなくて建さん(喜多)が歌うなら、僕が歌わないような甘い恋愛の歌詞でもいいのかなと。これまでもそういう曲あったしね。自分が歌わない楽曲だとむしろ自由に歌詞のテーマが考えられるんですよ。
――「日坂ダウンヒル」はアルバム『サーフ ブンガク カマクラ』(2008年)の続編ともいえる楽曲です。今またこのシリーズに着手した経緯は?
後藤:基本的にパワー・ポップが大好きで、ずっとやっていきたいジャンルのひとつなんですよね。パワー・ポップってパワー・コードとオクターブ・ユニゾンでできていて、だけど随所にヘンなコード進行も散りばめてあって。とにかくバンドで演奏するにも楽しいんです。あと、『サーフ ブンガク カマクラ』を作ったときに「まだ5駅残っているな」という気持ちがあったので、コンプリートできて、かつ流れも最高の続編ができたらいいなと。2枚に分ければ、それぞれ違ったアプローチにすることもできるし、やれることが色々あると思ったらめちゃくちゃ楽しくて。いつかやりたいと思っていたんですよね。ちなみに日坂というのは、鎌倉高校前駅の旧称なんです。ちょっと前に江ノ電の昔の駅名も全部調べていて、これでやっていったらアルバム3枚分くらいできそうなんですよ。
――あははは。
後藤:曲調はウィーザーの「El Scorcho」みたいにしたくて。『サーフ ブンガク カマクラ』はファーストをイメージしていたし、そもそもタイトルが「SurfWax America」からきているので、今回は『ピンカートン』みたいなサウンドのアルバムにしたいんですよね。1990年代のパロディを半分やりながら、半分は本気みたいな。ポップ・ミュージックって本来そういうものじゃないですか。基本的にはスタイルを転用しつつ自分なりに落とし込んで、新しい時代にアジャストさせていくっていう。アメリカン・ポップスとか聴くと同じメロディを使い回していたりしますしね。
Weezer - El Scorcho (Director's Cut)
――たしかに。
後藤:僕らも一度、1990年代の空気を吸い込んで、それを2020年代の今のサウンドとして吐き出すということをやってみたいと思っているんです。
――とても楽しみです。本作のサウンド・メイキングの部分では、みなさんどんな思い入れがありますか?
伊地知:「ウェザーリポート」は1テイクで録り終えました。
後藤:え、自慢?
伊地知:自慢です(笑)。最近はなるべくテイク数を重ねずに仕上げたいと思っていて。レコーディングの前日まではめちゃくちゃ色々考えるんです、時間もかけて。でも、当日になったらなるべくフレッシュなテイクを収めたくて。今回は3テイク以内で収めるということを目標にどの曲も臨みました。
山田:「宿縁」に関しては、書き下ろしのタイアップということで今までのアジカンらしさを踏襲する楽曲を目指しているけど、カップリング曲はどれもチャレンジングな内容になったなと。「日坂ダウンヒル」もスタイル的にはパワー・ポップですが、今までのアジカンにはなかった曲調だし。
後藤:そうだね。この曲のサビとかめちゃくちゃ気に入っているよ。
山田:3曲だけど、すごく内容の濃いシングルになったなと思っています。
喜多:さっき「宿縁」の歌詞の話になりましたけど、あの4行ってデモの段階からゴッチの中でけっこう固まっていて。Bメロとかは4人でセッションしながら変わっていったし、ゴッチも途中でメロディを変えたりしていたけど、やっぱり核になる部分は最後まで残るんだなと。
後藤:さっき抑揚を抑えたメロディとおっしゃってくださいましたけど、たしかにこの曲はサビでぐわーっといかないように心掛けたんですよ。それをやっちゃうとライブで歌いたくなくなるんです。辛過ぎて(笑)。肉体を酷使するのではなく、じわじわと盛り上げてエモくする“サスティナブルなエモ”を目指して作ったのが「宿縁」でしたね。
――“サスティナブルなエモ”って(笑)。
後藤:持続可能なエモを作らないと、俺たちもう50代が近いので(笑)。
――2022年は訃報も多かったですし、コロナ禍が続くなかで世界情勢も「これでもか」と言わんばかりに悪化の一途をたどりました。今年はいい年になるといいですよね。
後藤:ほんとそう思います。重大な事件がたくさんあった年でしたよね。例えばワールドカップももっとクリーンな大会だったら、メッシの優勝も素直に喜べたのに、そうも言っていられない事実が明るみに出てきてしまうし。とにかく「よりよく生きたい」という気持ちを忘れず、こうやって人と会うたびに毎回それを確認しながら、自分たちの現場から“いいムード”を拡散させていきたいです。コンサートの現場はまだまだこれからというところもあるので、今年も引き続き頑張ります。
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