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<インタビュー>星街すいせい×Ayaseが語る、活動者の苦悩によって共振したコラボレーション
Interview:Takuto Ueda
Photo:Yuma Totsuka
ホロライブ所属のVTuber、星街すいせい。もともとは事務所に所属しない“個人勢”として活動し、2019年5月にホロライブ内の新設レーベル<イノナカミュージック>に所属、2021年9月にリリースした1stアルバム『Still Still Stellar』はヒット・チャートでも上位を記録するなど、VTuberがますますマルチな活動を展開していく現代にあって、その歌声が強烈な個性として支持されている存在だ。
1月25日にリリースされた2ndアルバム『Specter』では、そんな彼女が秘めるシンガーとしてのポテンシャルが前作以上に引き出されている。田淵智也、キタニタツヤ、ナナホシ管弦楽団といった強力なクリエーター陣が楽曲提供しており、サウンドのバラエティは非常に多彩。アルバム全体のテーマとして、星街自身が活動を通して感じた苦悩や葛藤が色濃く反映されており、そういう意味でも前作や普段の配信活動では見られなかった彼女のパーソナリティが映し出された1枚だといえるだろう。
星街いわく“百鬼夜行”をテーマに据え、本作の個性豊かな楽曲たちを先導するような、 アルバムの核として制作された1曲が「みちづれ」だ。今回は楽曲を提供したAyaseを対談相手に迎え、お互いの印象や楽曲の制作経緯など、二人に語ってもらった。
2ndアルバムに込めた苦悩や葛藤
――まずは今回のアルバム『Specter』について、全体のコンセプトやテーマについて聞かせてください。
星街:1stアルバムはアイドルらしいというか、キラキラした楽曲が多くて。次のアルバムをどんな作品にしようかと考えたとき、「天球、彗星は夜を跨いで」とか「GHOST」みたいな路線の曲をもうちょっと歌ってみたいと思ったんです。ああいう曲だったら、普段の配信とかでは出せない活動の苦悩みたいなものを昇華できると思って。あとは、2ndライブを生バンドで演りたいと思っていたので、バンド・サウンドの曲も増やしたいと思いました。
――タイトルの“Specter”は幽霊という意味で、まさしく星街さんの「GHOST」を思い出させます。
星街:そうですね。その「GHOST」の進化形としての『Specter』みたいな。そんな感じで運営さんと相談しながら決めました。
GHOST / 星街すいせい(official)
――楽曲提供陣がバラエティ豊かな本作ですが、人選のポイントは?
星街:そういうダークな曲を書くのが上手な人だったり、バンドサウンドが上手な方だったり。あとは、1stで頼みたかったけど、諸事情で頼めなかった方にお願いしました。
――その中でAyaseさんはどういったポジションですか?
星街:ありがたいことに1stがとても好評だったので、そこにぶつけられる新しいリード曲をどなたに書いていただこうかと考えていて。Ayaseさんの楽曲は私自身もすごく好きだったし、ここで楽曲提供していただけたら最強だよねという話を運営さんともしていたら、それが叶ってよかったです。
――オファーを受けたとき、Ayaseさんはどんな心境でしたか?
Ayase:僕のボカロの曲をカバーしてくれているのも聴いていたし、すごく嬉しかったです。すごく素敵な歌声を持っている方だと思っていたので、ぜひぜひという感じで受けさせていただきました。
星街:ありがとうございます。
Ayase:いえいえ。
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Hoshimachi Suisei 2nd Solo Live “Shout in Crisis”
- 2023年1月28日(土)
- ※アーカイブチケット販売中
- 特設サイト
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VTuberとしてどこまで行けるか
――Ayaseさんの「シネマ」や「幽霊東京」のカバー動画もアップされていますよね。星街さんから見て、Ayaseさんはどんなクリエーターという印象がありますか?
星街:いろんなトレンドへの嗅覚が長けているというか、すごく勉強していらっしゃる方なんだろうなと思っていました。
シネマ / 星街すいせい×奏手イヅル×アステル・レダ(Cover)
幽霊東京 / 星街すいせい(cover)
Ayase:自分では流行り物を作っているという自覚はないんですけどね(笑)。一番のインプットは、人のインタビューを聞いたりすることだったりするんですよ。例えば家具を作っている方のインタビューとか。
――音楽以外のクリエーターとか。
Ayase:そう。何かしら別のクリエイティブをやっている方。その人の持っているこだわりとか、どういうふうに生きてきたか、みたいなインタビューを見ると曲を書きたくなるんですよね。そういう自分の知らない世界のこだわりって新鮮でかっこいいじゃないですか。それで自分もかっこいいことをやりたいと思ったときに、表現方法が音楽になるっていう。そういう間接的なインスピレーションで曲を作ることのほうが多いなって、最近気づいたんですよね。
――Ayaseさんはバンドをやっていたこともあるけど、リスナーとしては世代のJ-POPがルーツだったりしますよね。そうやってメインストリームの音楽を聴いてきたからこそ、クリエーターとしてのご自身のルーツにもなっているという感覚はあるんじゃないですか?
Ayase:ですね。最強のJ-POPを作りたいという気持ちはずっとあるので。いろんな新しいエッセンスが加わったとしても、現代の最強の歌謡曲を作りたいという想いは変わらないです。
――星街さんはどんな音楽がルーツなんでしょう?
星街:はっきりとしたものはないんですよね。あははは。すごい音楽を聴いたときにモチベーションが高まったりはするんですけど。
――例えば最近聴いた曲だと?
星街:最近すごいなと思ったのは、ウタちゃんの「ウタカタララバイ」ですね。すごくインパクトが強い曲だなって。けっこう音楽ルーツについて訊かれることが多いんですけど、はっきりこれと言えるものが出てこなくて。ひとつ思い浮かぶのは、ボカロとかネット・ミュージックですかね。わりと影響を受けている気はします。あと、好きな曲の方向性で言えば、宇多田ヒカルさんや椎名林檎さんなんですけど、これは両親の影響だと思います。
――では、アーティストとして目指していること、目標についてはいかがでしょう?
星街:VTuberがアーティストをやっていること自体が面白いことなんじゃないかと思っていて。なので、VTuberとしてどこまで行けるか、VTuberが世間にどれくらい浸透して、どれくらい認めてもらえるか、というチャレンジが今は楽しいです。アーティストとしてというより、アーティストをやっているVTuberとして、新しい道を切り開いていきたいなと思っています。
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活動者同士のシンパシー
――ちなみに、AyaseさんはVTuberという存在に対してどんな印象を持っていましたか?
Ayase:僕もけっこう見ているんですけど、次世代のテレビタレントみたいなイメージですよね。マルチにいろんなコンテンツにチャレンジしていて。歌も歌うし、バラエティ的なこともやるし、ゲーム実況もする。YouTuberの派生というより、テレビタレントの進化系みたいなイメージがあります。
――今でこそコンテンツとしてもかなりポピュラーになってきましたよね。そんななかで、星街さんが「VTuberとして境界線を超えていきたい」と思うようになったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
星街:私がホロライブに入った頃、VTuberとしてはキズナアイちゃんが先頭で頑張っていた時代なんですけど、同じVTuberを好きでいてくれる人たちの中にも境界線みたいなものがあった気がしていて。そもそもVTuberはそこまで大きなコンテンツじゃないのに、内々で分裂していたら廃れてしまうと思ったんです。それぞれ箱(=事務所)とかもあるけど、そういうのは関係なく、今はみんなで手を取り合って頑張っていかなきゃいけないという想いがあって。その頃からVTuberをもっと発展させたい、もっと面白いものにしていきたいという気持ちはあったと思います。
――黎明期におけるカルチャーの発展に必要なのは、ジャンルや形態、あるいは企業の壁を超える大きなユニティですよね。だからこそ、ボカロもニコニコ動画の一大コンテンツになりえた。
Ayase:そうですね。僕はボカロPと名乗っていながら、めちゃくちゃボカロの文化に詳しいというわけではないので大したことは言えないけど、でも、僕はちょうどボカロを始めたとき、たまたまsyudou、すりぃ、ツミキの3人と出会って、すぐにリアルでも仲良くなって。いまだに毎年、全員の誕生日にプレゼントを送り合っていたりするんですけど、SNS上でもそうやって仲良くしているから、それぞれのファン同士の交流にも繋がったりしたと思います。
――VTuberも違う事務所のタレント同士でコラボしたり、それによってVTuber全体のファンダムが拡大していたり、まさしく発展期の最中にあるかと思います。取材日的にはつい先日、星街さんが『THE FIRST TAKE』に初出演したことは、VTuber業界の勢いを象徴する出来事でもありました。収録を振り返っていかがでしたか?
星街:いや、緊張しましたね。本当に一発撮りなんだと思って(笑)。なので、その一発に本当に心を込めました。どういうやり方が一番注目してもらえるのかとか、いろんな人に相談して吟味しましたね。
――こだわったポイントは?
星街:歌自体はいつも通り、とにかく上手に歌おうと頑張って。あとは、最初の自己紹介とかは一切なしで、いきなり歌い出すことでインパクト重視でいこうと決めました。見た目で「なんだこれ?」と思った人に歌で自己紹介みたいなアタックというか。
星街すいせい - Stellar Stellar / THE FIRST TAKE
――そして、取材日時点では未解禁ですが、第二弾として2ndアルバム収録曲「みちづれ」も『THE FIRST TAKE』で公開予定です。こちらはAyaseさんの提供楽曲。星街さんからは楽曲のイメージとして、どんなリクエストを出していたんですか?
星街:さっきもお話しした通り、2ndアルバムには活動における苦悩とかを詰め込むつもりだったので、そういう曲たちを引き連れた百鬼夜行みたいな曲を作ってほしいとお伝えしました。お化け大量みたいな感じで、その真ん中で歌って踊っているような。
――Ayaseさんは具体的にどんなところから制作をスタートさせましたか?
Ayase:めちゃくちゃ極論として、まず第一にいい曲じゃないといけない。そのための要素としてメロディーや歌詞はもちろん、やっぱり歌声も大事で。それですいせいさんが過去に出している歌をとにかく聴いて、どんなレンジ感がかっこいいかとかを考えて。そのうえで、最初にリモートで打ち合わせをさせてもらったとき、活動していてどういうことが悩みかを聞かせてもらったんです。そこで話してもらったことは、僕らみたいなアーティストが感じる苦悩とやっぱり似ていて。人前に立つことでのいわゆる有名税だったり、そこから派生する悩みというのは共通してあるし。もちろん「みちづれ」はすいせいさんのことを歌っているけど、個人的に思っていることも織り交ぜながら作っていきましたね。
星街:Ayaseさんがすごく話を聞いてくれて、「うんうん」と頷いてくれたりして。私の愚痴大会みたいでした(笑)。
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難航した「みちづれ」のレコーディング
――星街さんの歌声に関してはどんな印象ですか?
Ayase:オリジナル曲だと最初に「Stellar Stellar」を聴いて、まず「めっちゃきれいな声だな」と思いました。
星街:ありがとうございます。
Ayase:それでいて、すごく力強い。「これは生で聴いてみたいな」というのが一番初めの感想でした。力強さと透明度を持っているなって。なので「みちづれ」も、そういう歌声のイメージ先行で作れましたね。こういう歌声の持ち主ってなかなかいなくて。めちゃくちゃいい声の人でも、それをちゃんとイメージとして説明できるとは限らない。その点、すいせいさんの歌声は力強くて透き通っていて、真空管みたいなイメージが浮かんだので、そういう部分では曲も作りやすかったです。
――星街さんはご自身の歌声をどう自己分析しますか? 客観的に見て、どんなところに強みがあると思います?
星街:私自身、いつも自己分析はしているんですけど、すごく難しくて。他人の歌声はいろいろ分析できるというか、この人はこういう声だな、こういう音域が得意なんだろうな、みたいに思えるんですけど、自分のことになるとどうしても難しい。逆に私がクリエーターさんやエンジニアさんに「私ってどこのキーが得意だと思います?」とか「私ってどういう曲が合っていると思います?」と訊いたりしていて(笑)。自分の歌声の魅力に関しては、いまだにずっと悩みながら歌っています。
――1stアルバムの制作やMidnight Grand Orchestraの活動を通して、徐々に見えてきた部分もあるのでは?
星街:そういう意味では、いろんな色に染まれるのかなとは個人的に思っていて。ミドグラだったらミドグラとしてイノタクさんのサウンドに染まれるし、この2ndアルバムもたくさんのクリエイターさんがいて、それぞれの色に染まれているのかなと思っています。
――星街さん自身が「こんなふうに染まれるんだ」という驚きがあった1曲を挙げるとすれば?
星街:「TRUE GIRL SHOW」ですかね。たくさんの声色を使い分けていて、ラップのときの声とか、セリフのときの声とか、そのセリフ終わりのところで出てくるちょっとクールな声とか。そうやってころころ歌声を切り替えるのが面白かったなと思います。
――話題を「みちづれ」に戻しますが、最初に上がってきたデモ音源を聴いたときの感想は?
星街:すごくAyase節が効いていて最高だなと。
Ayase:(笑)。
――主にどういうところに感じました?
星街:やっぱりメロですかね。Ayaseさんが作ったんだろうなって、きっと町中で聴いても分かるメロというか。
Ayase:あまり言葉を詰め込まないメロを作りたいなと思って。なので、サビとかけっこう抜いてるんですよ。今まで作ってきた曲と比べたら、譜割もあまり細かくしていなくて。百鬼夜行というテーマを聞いたとき、大体はおどろおどろしいイメージが出てくると思うんですけど、今回はその先頭で行進しているような曲だと思ったので、ドッシリしていてほしかった。その一方で、ちゃんと悲哀も込められているという。余裕があって堂々としているんだけど、その中心部分に弱さがあるよな、そういうギャップを感じられるサビにしたかったんですよね。
星街すいせい - みちづれ / THE FIRST TAKE
――歌詞に関してはいかがでしょう?
星街:サウンドに関してはデモの後にも「こうしてほしい」みたいなやり取りがあったんですけど、歌詞は特に修正してもらう部分もなく「オッケー!」みたいな感じでした(笑)。最初にミーティングしたとき、けっこうとりとめのないお話をしてしまったんですけど、いい感じにまとめてくださってすごいなって。私は曲を作るとき、対象を限定的にしたくないと思っていて。私自身のことだけを歌うのではなく、いろんな人が聴いたときに共感してくれるような曲にしたい。そういう歌詞になっているんじゃないかなと思います。
――<人の世はいついつまでも/間違い探しばかり>だなんて、うんざりするけど本当にその通りだと思うし、それでも人生の旅路を“愉快なパレード”にしてしまおうという強さからは、きっとリスナーも勇気をもらえるだろうなと思いました。レコーディングはいかがでしたか?
星街:いや、めちゃくちゃ難しくて。Aメロはすごく低いけど、サビはけっこう高めだし。それで収録当日までキーを一つ下げるか、そのままで歌うかすごく悩んだんですよ。キーを下げたらサビがパワフルになるんですけど、元のキーだとAメロが鮮明になって。悩んだ結果、Aメロは世の中を皮肉っている感じを出して、そのぶんサビの<これはパレードさ>でドカンとインパクトが出せたらいいなと思って、今のキーになりました。
Ayase:こんないやらしいメロディーをよくぞ歌ってくれたなって。
星街:ふふふ。
Ayase:いやらしいメロなんですよね。けっこう細かく階段を作ったりして。さらっと歌えるようなメロを書かないことは自覚しているんですよね。なので、よくぞ歌ってくださいましたっていう。
――そんな「みちづれ」の一発撮りはいかがでしたか…?
星街:大変でしたね。
Ayase:あははは。
星街:アルバムのレコーディングもめちゃくちゃ難航したのに、それを一発撮りって……。めちゃくちゃ練習していきました。これは私の歌い方の癖でもあるんですけど、ファルセットと地声をころっと変えるときがあって、それをAメロの低さで実践するのがけっこう難しくて。それこそ本当に針の穴に糸を通すような感じで、特に力を入れて歌いました。
――では、最後に。2ndライブ【Shout in Crisis】も控えています。このインタビュー記事が出る頃には終了していますが、どんなライブになりそうでしょうか?
星街:来てくださったみなさんが忘れられないようなライブになったらいいなと思っています。初の生バンドでやるライブなんですけど、演出面もけっこうこだわってまして。ライブが終わったとき、1本の映画を見終わったような気持ちになれる仕掛けをいろいろ用意していて。なので、そういう気持ちになってくれていたらいいなと思います。
【チラ見せ】Hoshimachi Suisei 2nd solo live "Shout in Crisis"
(c) 2016 COVER Corp.
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