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<インタビュー>YUKI、「自分を振り返るということが“今”になる」――ソロデビュー20周年を締めくくるアルバム『パレードが続くなら』
Interview:矢隈和恵
YUKIが、2月1日にニューアルバム『パレードが続くなら』をリリースした。
自身のソロデビュー20周年イヤーのラストを飾る、じつに11枚目のオリジナルアルバムとなる同作。「過去の曲を振り返ることはあまりしてこなかった」と語るYUKIだが、20周年の節目を迎え、これまでのキャリアを見つめ直すことで新しく気づかされたこともあったという。“ソロシンガー・YUKI”のこれまでと現在を詰め込んだようなこの作品について、彼女らしいナチュラルでまっすぐな言葉で語ってもらった。
私が歌ってきたさまざまな楽曲の進化系が、今の私なら作れる
――20周年を締めくくるニューアルバム『パレードが続くなら』の制作はいつ頃から始められていたんですか?
YUKI:2021年に行っていた全国ツアー【YUKI concert tour “Terminal G” 2021】の後半ぐらいから、レコーディングに入りました。【“Terminal G”】のときに、2022年はソロデビュー20周年だから、20周年を迎える2月から2023年2月までのいわゆる記念イヤーの1年を、どうやって過ごそうか、お祝いしようかということを話している中で、20年間の私の音楽、“YUKI”はどういう歌を歌ってきたんだろうということを改めて考えてみたんです。
――そこで何が見えてきたんですか?
YUKI:この20年間は試行錯誤の連続で、どういう楽曲が私に合っていて、どういう歌が私にとって良いもので、どういうことを音楽活動の中でやっていけばいいだろうということの実験をずっとやっているような感じでした。こういう曲をやりたいな、ああいう曲を歌いたいなというものを作ってきていたけれど、結局、“私から見える世界”みたいなものを歌詞にしているので、私は歌詞の制作と歌唱だけで、楽曲は作ってないけれど、そこには“私”が確かにいるということに気がついたんです。今まで作ってきた楽曲の中に、音楽のジャンルや楽曲の性質みたいなものがあるとしたら、私が歌ってきたさまざまな楽曲の進化系が、今の私なら作れるなと思ったんです。
――そこでまず、昨年の5月にリリースされた3曲入りEP『Free & Fancy』、そして、11月にリリースされた3曲入りEP『Bump & Grind』の楽曲を制作されたんですね。
YUKI:『Bump & Grind』のリード曲「My Vision」は、私が今までやっていたようでやっていなかったロックの曲で、今、私ができるバンド・サウンドになっています。そして、アルバム『joy』の制作から始まったハードディスク・レコーディングの最新系が前作『Terminal』だったんですけど、そこからさらに振り切ったダンスミュージックができないかと詰めていったのが『Free & Fancy』に収録されている3曲です。今まで培ってきたものが『Terminal』のときに何かひとつ見えたなという確信があったので、そういう楽曲と、ロックンロールでインディーポップな私の2つの面に分けて、EPを2枚出すのは面白いなと思って、そこから始まりましたね。それと同時に全国ツアーでホールとアリーナ公演を開催して、20周年のお祭りにしようというのは決まっていました。
――そのとき、もうアルバムのビジョンはあったんですか?
YUKI:2枚のEPに収録された曲たちが、アルバムに収録されることによってさらに良くなるような曲で周りを固めたいとは思っていましたけど、このEPたちが、自分の中ではアルバムに近いぐらいの完成度で、私としては3曲ずつがそれぞれ完結した1枚になっていたので、これをまたさらに1枚のアルバムとしてまとめるにはどうしたらいいんだろう、どの曲を入れてどの曲を外そうか、と結構考えました。これを考えていた時は20周年のツアー中でもあったんですけど、ツアーをやっていくうちに、これは全部入れるべきだなということに気がついたんです。一昨年、私が20年間の自分を総括するならば、どういう自分なんだろうということを考えたとき、今までの私の延長線上にある何かというのは、このEPの曲たちでできているなと思ったので、このEPの曲たちに準じて作っていけばいいというか。だったら、こういう曲が足りないなとか、YUKIの音楽に不可欠な楽曲を作っていけばいいんだと、このアルバムを作っていく中で考えていきました。さらに、去年のツアーを通じて、そこで感じたことが、こういうアルバムになったということですね。
『パレードが続くなら』 Teaser Movie
お客様の前で歌えるのなら、もうなんでもやるぞ
――アルバムの1曲目は「パレードが続くなら」です。この曲はアルバムタイトルにもなっていますね。
YUKI:レコーディングを続けていく中で、なかなかアルバムタイトルが決まらなかったんですけど、「パレードが続くなら」を入れると決めたときに、まだ自分の中でツアーをやっている気持ちが全く抜けていないことに気がついて。「パレードが続くなら」はホールツアーでしか歌っていないんですけど、ホールツアーが終わっても、この曲が出来たときの気持ちがずっと続いていました。それで、アルバムの曲を作っているときにも、この曲がやっぱり今の自分をリードしているなと思って。20周年の締めくくりに「パレードが続くなら」というのはいいなと思いました。あと、「パレード」という言葉からは、楽しいだけではなく、哀愁や切なさ、賑やかだけではない印象を私は受けるんです。
――どこか物悲しさもありますよね。
YUKI:この間、サイエンス雑誌で生物の死についての特集を読んだんですけど、それを読んでいたら、本当に人生は短いなと思ったんです。死に向かって生きているとわかっているのは人間だけで、パレードというのは、そういうことなのかもしれないなと思って。例えば、お祭りは神様への感謝の気持ちを込めて歌ったり踊ったりする。神様は楽しいことが好きだから、楽しんでいる人にご褒美が来るんです。日本にもいろいろなお祭りがありますけど、どんなにつらいことや苦しいことがあろうと、どんな状況だろうと、お祭りをする。私のパレードは、それに近いのかもしれません。【YUKI concert tour “Terminal G” 2021】のときも思いましたけど、生演奏で、お客様の前で歌えるのなら、もうなんでもやるぞというか。それができるんだったら我慢も我慢ではないんです。
――まさに『Terminal』から今回のアルバムまでの、一昨年からのYUKIさんの2年間を表す言葉というか。
YUKI:だから、〈私が見ている 素晴らしい世界 あなたに見せたい〉というワードが自分から出てきたことは、とても嬉しいです。自分の人生は楽しいだけではない、つらいことも苦しいことも、全て含めて素晴らしいということなんです。
――アルバム2曲目は、EP『Bump & Grind』に収録されている「タイムカプセル」。YUKIさんならではのロックでパンクな楽曲になっています。
YUKI:「パレードが続くなら」という曲は、私の20年間の進化版みたいな曲だと思うんですけど、「タイムカプセル」はその私の20年間を行き来しているような曲で。歌詞を書いているときはそんなことは思っていなかったんですけど、すごく面白いなと思いました。
――これが2曲目にあることで、勢いが出ていますよね。
YUKI:「パレードが続くなら」は助走みたいな感じで、このアルバムを表すプロローグですね。そして、ここから勢いよく始まっていくというイメージです。ギターも5本ぐらい音が重なっているんですけど、すごく気に入っています。ツアーも一緒に回ってくれた名越(由貴夫)くんが、この曲と「My Vision」の全アレンジとプロデュースをやってくれていて。私の中にあるガレージパンクの要素を最新の形にしたいなと思っていたら、名越くんが、こういうギターサウンドにしてくれました。
――その「My Vision」は勢いがあって、最新のYUKIさんのロックという感じがしました。
「My Vision」 / YUKI
YUKI:仮タイトルは「リーディンググラス」というタイトルでした。私ももうリーディンググラスがないと小さな文字が見えなくて。でも、私はずっと視力が良かったので、目が悪くなるということが初めてで、困るというよりも面白いと思ってしまったんです。私はこれまで、目に見えるもの/見えないものというテーマで歌詞を書いたこともありますし、「はらはらと」という曲でも〈目に見えない物すべて 繋がる無限の環〉と歌っています。リーディンググラスが必要になって面白いと思ったのと同時に、私が見てきた今までの美しい景色や素晴らしい笑顔、そういうものは、目が悪くなっても見えているなと思ったんです。そして、〈幻のような人生ならば / 霞んでも ぼやけてもいい〉と書いているように、そのぐらいはっきりしない人生だったら、別に見えても見えなくてもどうでもいいのかな、と。でも、君の笑顔だけははっきり見たいんだというのは、すごく素敵だなと思って。
やっぱり私は“変わらない”
――「私の瞳は黒い色」という曲は、YUKIさんがこれまでも書いてきた、シンプルなメロディの歌ものに仕上がっています。
YUKI:この曲のアレンジは、初めてリトル・クリーチャーズの鈴木正人さんにお願いしました。この曲は仮歌のときに、もう〈私の瞳は黒い色 / くせっ毛で まとまらない髪質は悩み〉と歌っていて、サビまでありました。弾き語りのデモ音源はギター1本で、すごく素直なメロディだったので、デモ音源の段階からメロディは変えていないですね。
――これは子どもの頃の、お母さんとの思い出を歌っているんですか?
YUKI:両親ですね。両親からもらったものを描いています。家族はいつからか自立していって、一緒に暮らすことがなくなる。そうなると、もうあの小さい家族ではないというか。そういうことはずっと思っていて、いつか描きたいなと思っていたんです。
――聴いていて、懐かしい気持ちになるというか、あったかい気持ちになります。
YUKI:両親の、嫌だなと思っていたところばかりが本当に似るんですよね。私は、体が母にそっくりで、手とか足の指とかそっくりで、時々本当に母を見ているみたいな気持ちになるんです。顔もどんどん似てきて。昔はそれが嫌だなと思っていたこともあったんですけど、それは親からもらったものなんだなと思って。そういう気持ちを描きました。
――「私の瞳は黒い色」というのは、印象的なタイトルですよね。
YUKI:タイトルはいろいろ考えたんですけど、やっぱり歌い出しの〈私の瞳は黒い色〉が面白いなと思いました。もしラジオで流れたら、その1行目の歌詞を聴いただけで、「それでそれで?」「そこからどうなるの?」と、すごく気になると思うんです。そういう歌い出しがいいなと思って。そういう意味でも4拍子でミディアムな聴きやすい曲になっています。私はこういう曲をいつも作ってきていて、それがいつもアルバムの肝になっていくというか。今回もそういう曲を作りたいと思っていたので良かったです。
――最後は〈黒い瞳は 黒いまま〉なんですね。
YUKI:そうですね。やっぱり私は“変わらない”ということですね。やっぱり、頑張って変わろう変わろうと思って、ちょっとずつですけどね。ま、昨日よりは今日かなと思ってきましたけど。やっぱり両親からもらったものはそのままだなと思いますね。
銀杏BOYZ・峯田和伸からの提供曲
――「Dreamin’」は、銀杏BOYZの峯田和伸さんの作詞作曲です。いつも歌詞はYUKIさんが書かれていますが、今回、なぜ峯田さんにお願いすることになったんですか?
YUKI:私は歌の中でいろいろな主人公になるのが好きで、そういう物語性のあるポップスをたくさん歌ってきたんですけど、でもそこに透けて見える自分というのは、やっぱりいるわけで。どうやっても出てくるそれが私の個性であり、人間力なのだとしたら、もうそこがなくならない限りは何を歌ってもいいんじゃないかと思ったんです。どういう歌を歌っても大丈夫だ、と。峯田くんには以前、ゲストボーカルで呼んでいただいたり、銀杏BOYZのトリビュート・アルバムでカバーさせていただいたりしたことがあって、一度、曲を作っていただきたいと思っていたのでお願いしました。それで、歌詞も全て作っていただきたいというお話をしたら快諾してくださって。
――YUKIさんからは、どういう楽曲にしてほしいというようなリクエストはされたんですか?
YUKI:やっぱり峯田くんの一番いいところというか、すごく青い、春を感じるラブソングで、ちょっとキラキラしているけど切なくて。そういうのが峯田くんの曲の良いところだと思うので、そういう曲で、私が今歌うのなら、ということでお願いしました。
――本当に可愛い歌で、キュンキュンが止まらないです。
YUKI:最後の「だいすき」の連呼は、峯田くんのデモ音源には入っていなかったんですけど、歌っているうちに私が思いついて、最後に「だいすき!」と叫んだら、すごく面白くなってしまって、そのまま使いました。これは「どんどん君を好きになる」から続く、大好きシリーズです。
自分の身体は、自分の思う通りにできる
――そして、「Naked」は打ち込みの曲ですが、頭とサビ終わりに出てくる印象的なコーラスが耳に残ります。
YUKI:まさに、あのコーラスを入れたかったんです。
――意気揚々と歌うYUKIさんの姿が見えるようです。この曲は、早くライブで聴きたいなと思いました。
YUKI:ライブはすごく盛り上がると思います。〈Naked〉のところは、みんなに歌ってほしいですね。「Naked」は音粒も良くて、これはヘッドホンで聴いてほしいぐらい、すごく気持ちのよい音になっています。元々素晴らしい音であがってきたんですけど、ブラッシュアップされて、ミックスでさらに良くなりました。
――「Naked」というのは、「ありのまま」というような意味ですが、この歌詞ではどういうことを言いたかったんですか?
YUKI:自分が着飾ったり、メイクをしたり、自分がこうありたい、こうなりたい、というようなことはもちろんお洋服とかでも表現できるんですけど、そうではなくて、自分の身体を使っていろいろなことができるんです。私は喉が生楽器なので、私の身体で勝負するという歌にしようと思いました。この〈隠せない嘘も 流す涙も / あなたになる Naked〉というところが、この歌で私が言いたいところです。自分の身体は、自分の思う通りにできるんです。中身も、食べ物や口に入れるもので変えていける。昨今、ボディポジティブというのが叫ばれていて、どんな身体でも愛せばいいじゃないということが言われていますけど、まさにそういうことを歌っていますね。身体はただの入れ物だけど、中身は自分次第でどうにでも変えられる。自分の好きな自分になれるんです。私はお洋服がすごく好きなんですけど、それより自分の身体のほうが自信がある。まだまだ踊れるし、まだまだ山登りもできる。鍛えている自分の身体があれば、誰かを助けてあげることもできるんです。
最新であり、回顧的なアルバム
――今回のアルバムは、全てにYUKIさんの“最新”が詰まっていますね。
YUKI:最新であり、回顧的なところもありますね。今まで私は、新しいものを作っていくことのほうが好きすぎて、自分の過去の曲を振り返ることはあまりしてこなかったと思うんです。でも今回、20周年のツアーで歌ったからこそ、わかったというか。最初は、20周年の感謝の気持ちを込めて、全国のファンの皆さんに「ありがとう」を歌で伝えるぞ、ツアーを滞りなく絶対にきちんと終わらせるぞと思ってやっていたんですけど、途中から、自分を振り返るということが“今”になるんだということに気づいたんです。それはすごく新鮮な感情でした。20年の自分を振り返り、こういう曲を作って、こういうふうに歌ってきたんだなということを、各地のライブで何度も歌っていくたびに感じたというか。各地で喜んでくださるお客様が目の前で見られて、それを見て、私はすごいものを作ってきたんだなということがわかったんです。この20周年というものが、そういうことにも気づかせてくれたと思います。
――そして、アルバムの最後は、現在のYUKIさんの心境が詰まった「鳴り響く限り」で終わります。この曲で終わると、まだまだ続いていくんだなと思えます。
YUKI:「パレードが続くなら」で始まって「鳴り響く限り」で終わりですから、これからも続くんですね。2022年は20周年を記念するツアーがあって、お祭りとしてたくさんの皆さんのお耳やお目にかかる機会もあったので、すごく幸せな1年だったと思います。こんな素敵な20周年を迎えられるとは思っていなかったですけど、それらを忘れないようにと思って、こういうアルバムにしたんだと思います。
――アルバム・ジャケットは、さまざまな色の衣装に包まれたYUKIさんが印象的です。
YUKI:映像作家の平野絢士さんにアルバム・ジャケットのアートディレクションをお願いしたんですけど、彼がこの『パレードが続くなら』というタイトルから思い浮かぶアイデアをいろいろと出してくれて。それがすごく素敵だったんです。このジャケットは、デザインなど色を扱う業界の方が使うカラーホイールというものがあって、それは色彩のグラデーションが円形に表されているものなんですけど、パレードが永遠に続いていくイメージで、音階を時計盤みたいに、C、C#、D、D#、Eというように円形に12個並べるんです。そこにカラーホイールを重ねあわせて、この「パレードが続くなら」で使われているコードの構成音やメロディラインの音階をカラーホイールで見てみると、こういう色の分布になるんです。その色をこのジャケットに使ってくれていて。これが「パレードが続くなら」のコードの色なんだと思ったら、すごく素敵だなと思って。このジャケットもすごく気に入っています。
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