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<インタビュー>寺嶋由芙×西寺郷太「渋谷で5時」カバー対談――90年代の名曲を新解釈、制作過程と手応えを語る

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Interview:もりひでゆき
Photo:Yuma Totsuka

 「古き良き時代から来ました。まじめなアイドル、まじめにアイドル。」をキャッチコピーに掲げる寺嶋由芙が、ニューシングル『恋の後味』をリリースした。作詞にいしわたり淳治、作曲にジャンク フジヤマと神谷樹を迎えた表題曲は、自身初のシティポップ・サウンドを鳴らすナンバーで、本人も「曲も歌詞も自分にとっては新しい挑戦になりました」と語る仕上がりとなっている。

 そしてカップリングには、90年代の名曲「渋谷で5時」のカバーを収録。鈴木雅之と菊池桃子によるこのデュエット・ソングを、寺嶋は相方に西寺郷太を迎えて新たに再解釈。編曲はMISIA、加藤ミリヤ、東京女子流などを手掛ける松井寛。西寺いわく「クリームソーダを飲みながら夕方の喫茶店で由芙ちゃんとサンリオの話で盛り上がってるみたいな」光景が目に浮かぶ、踊れるサウンドと二人のご機嫌な歌声が楽しい今回のコラボレーションについて、二人に対談形式で語ってもらった。

一人でやらせてもらえることを純粋に楽しみたい

――寺嶋由芙さんと西寺郷太さんがコラボするのは2018年10月リリースの「君にトロピタイナ」以来になりますか。

西寺:そうですね、うん。

寺嶋:その直前にヤノフェス(2018年3月開催の【YANO MUSIC FESTIVAL 2018~YAONのYANO FES~】)で一度お会いはしていたんですけど、楽曲提供をお願いすることになったのは「君にトロピタイナ」のタイミングでしたね。

西寺:僕はいろんな方とコラボレーションするんですが「君にトロピタイナ」はプログラミングや演奏までほぼ自分一人でやった曲で。奥田健介にギターを弾いてもらった以外かな。「郷太さんの思った通りにやってください」みたいなノリで大部分を任せてもらえたので、すごく思い入れが強くて。自分としてもすごく好きな曲ですね。

寺嶋:せっかく郷太さんにお願いするのだから、私としては郷太さんの作る世界観にどっぷり入らせてもらいたかったところがあって。その曲を今も「好き」と言っていただけるのはすごく嬉しいです。あと、あの曲はみんなで手拍子できる部分を作っていただいていたんですけど、コロナ禍になってからはそれにものすごく助けられたというか。コロナ禍でオタクたちはコールできなくなってしまったんですけど、「君にトロピタイナ」で鍛えられてきたクラップ力で常に現場を盛り上げてくれたんです(笑)。そういう意味ですごく感謝の気持ちが強い曲でもあります。




寺嶋由芙 - 君にトロピタイナ(Official Music Video)


――最初のコラボを通して、郷太さんは寺嶋さんのボーカルにどんな印象を持ちましたか?

西寺:自分はバンドがあってここまで来たから、ソロアーティストに対してはまずそもそものリスペクトがあるんですよ。なおかつ由芙ちゃんは事務所に属さずフリーで活動しているわけなので、いろんなことを全部自分で考えている。そうやって自分の足でしっかり立っている姿が純粋にかっこいいなと思うし、それは当然、歌にも現れていますよね。強さやたくましさを感じさせてくれるシンガーだなと。

寺嶋:わ、光栄です! ほんとありがとうございます。




西寺:あと、アイドル・グループに曲を書いた場合、メンバーが卒業しちゃうと曲が役目を終えるというか。歌われなくなることも往々にしてあるから、それがすごくもったいないなといつも思っているんですよ。

寺嶋:あー、たしかにそうですね、うんうん。

西寺:でも、由芙ちゃんの場合はずっとソロで頑張ってくれているから、曲も永遠に愛され続けていくわけで。それもすごくありがたいなとは思ってますね。

寺嶋:そうやって言っていただけるのは本当に嬉しいですね。私としてはグループやバンドで協調性を持ちながら活動している方のほうが偉いと思っているんですけど(笑)。

西寺:バンドやグループを続ける大変さはよくわかるんだけど。

寺嶋:だからこそ私は、すべてを一人でやらせてもらえることを純粋に楽しみたいなと常々思っているところがあって。すべてを独り占めできて、本当にいろんな経験をさせてもらえる恵まれた立場だと思うので、それをちゃんと大事にしていきたいなとは思っていますね。

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マーチンならぬゴーチンに

――そんなお二人が2度目となるコラボレーションとして、鈴木雅之さんと菊池桃子さんの「渋谷で5時」をデュエットでカバーすることになりました。どんな経緯で実現したのでしょうか?

寺嶋:プロデューサーの加茂(啓太郎)さんのアイデアで「渋谷で5時」をカバーしようということになったんですけど、私にとっては初めてのデュエットになるので、お相手に関してはまず怖くない方がいいなと思ったんですよね(笑)。そもそも私はゆるキャラと並んで歌うことは多いんですけど、あまり人間の方と並ぶことがなかったですし。

西寺:ある意味、俺もゆるキャラみたいなもんだけどね(笑)。

寺嶋:いやいや(笑)。しかも郷太さんは学校(早稲田大学)の先輩でもあるし、音楽面でも勝手にたくさんリスペクトさせていただいしているので、またご一緒させていただきたいなと思ってお願いさせてもらいました。

西寺:去年の夏に旅行でロンドンとリバプールとパリに行ったんですけど、帰って来た日のタイミングで今回の話を聞いて。由芙ちゃんからデュエットの依頼が来てると。しかも曲が「渋谷で5時」だと。その瞬間、2度聞きしちゃって。「え!?」みたいな(笑)。急に東京に帰ってきた感が凄くて。

寺嶋:あはははは。





西寺:僕自身もカバー・アルバムの選曲をしていた時期だったので、由芙ちゃんサイドから挙がってきた選曲にビックリして。いわゆる評価の固まった“シティ・ポップ・ブーム”のその先というか。加茂さん凄いなと(笑)。

――郷太さんは鈴木雅之さんとも縁があるので、納得の人選ではありますけどね。

西寺:そうそう。実は僕、2019年に「BAZOOKA」という曲でマーチン(鈴木雅之)さんをプロデュースさせてもらったことがあって。そのときのマーチンさんはもうノリノリのアニキみたいな感じだったんですよ。初対面なのに「郷太! お前、音楽好きだろ?」みたいな。デモを渡して「これを生で録り直して……」と言ったら、「郷太、このままいくぞ。このデモの感じがかっこいいんだよ、郷太!」みたいな。そんな体験があったから、今回「渋谷で5時」をデュエットする話をもらった瞬間、そのときのマーチンさんの顔がバーンと浮かんできて。その衝撃もあったんですよね。「そうか。今回、俺はマーチンならぬゴーチンになるのか」と思って(笑)。

寺嶋:あははは。引き受けていただけて本当によかったです。前回は郷太さんの世界に飛び込ませていただきましたけど、今回は恐れ多くも並んで歌わせていただけることになったので、それが私としては楽しみでしょうがなかったです。

西寺:ただ「渋谷で5時」ってデュエットとはいえ、改めて聴くと90%ぐらいマーチンさんが歌っているんですよ。由芙ちゃんに誘われてデュエットをOKしたけど、ほぼ俺のパートばかりになるけど「大丈夫なの?」と。原曲通りだと全然、由芙ちゃんの歌うところないやんっていう(笑)。

寺嶋:そうですよね(笑)。そこは加茂さんも含めていろいろ話し合うなかで、歌割りをちょっと変えさせていただいて。最初は全部ひっくり返すのもありかなと思ったんですよ。私がマーチンさんのパートを、郷太さんが菊池桃子さんのパートを歌うっていう。でも、今回は新解釈な歌割りでいいのかなということで、二人の歌の分量を調整させていただきました。

西寺:けっこう変わってるよね。あともうひとつ。マーチンさんってハスキーな太い声で歌っているイメージがあるけど、実際はかなりハイトーン。この曲もけっこうキーが高くて。しかも、由芙ちゃんに合わせて原曲の半音上げに変更したので、歌うのがしんどくて。20代の頃の自分に戻ったかのような高音で張る感じになったから、そこに関してはスタジオで加茂さんをちょっと恨みましたけどね(笑)。




寺嶋由芙 - 渋谷で5時


――今回、郷太さんはシンガーに徹している感じですよね。

西寺:そうですね。「渋谷で5時」は僕にとってもチャレンジだったので、今回は歌手として参加して、歌だけに専念するほうがおもしろいんじゃないかなと思って。歌手としてオファーをいただけることが純粋に嬉しい気持ちもありますしね。その結果、アレンジャーとして松井寛さんを呼んでもらえたので。大抵自分のチームで音楽を固めてきたので、今回、このタイミングでトライできたのは僕としてはすごく良い経験になりました。

寺嶋:昔からのお知り合いなんですよね?

西寺:そうそう。2000年代に【申し訳ないと】というDJイベントでよくご一緒していて。松尾潔さんプロデュースの歌手K君の「Last Love」という曲の作詞を僕がしたんですが、そのとき編曲してもらって以来の仕事でした。MISIAさんや東京女子流の編曲を聴いてリスペクトしていたので。今回、15年ぶりにスタジオで会えたのは嬉しかったですね。

寺嶋:松井さんがとても楽しいアレンジにしてくださいましたよね。サウンドに合わせて今回はたくさん踊る振り付けにしてもらったりもしたので、原曲とはまた全然違った雰囲気を味わっていただけると思います。

西寺:ニュー・ジャック・スウィング的な、いわゆる90年ぐらいのサウンドでアレンジしてるからね。松井さんならではの解釈が加わって、よりおもしろい仕上がりになったところはあると思います。

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曲の世界、役柄にグッと入り込むスイッチ

――ボーカルのレコーディングはどんな流れで進んだんでしょうか?

寺嶋:最初にまず郷太さんが歌ってくださったんですよ。

西寺:そうでしたね。僕が最初にいろいろ試しながらニュアンスを作っていったところはあったかな。

寺嶋:「ちょっと優しく歌ってみるね」とか「もうちょっと強くするね」とか「あえて裏声をいっぱい使ってみるね」とか、本当にいろいろ変化させながら何度も歌ってくださって。で、最終的なニュアンスが決まっていったんですけど、そこに至るまでの過程を全部見せていただいていたぶん、私としてもすごく歌いやすくて。それは自分一人だけではなく、他のシンガーの方と一緒にやるからこそ味わえた感覚でしたね。普段の自分はもう好き勝手に歌っているんですけど(笑)、今回は郷太さんが見せてくれた過程を共有することで自然と歌い方が変化したところもあって。それがすごく楽しかったんです。自分的には……いつもよりちょっと大人っぽい歌になったと思ってるんですけど、どうでしょうか(笑)。




西寺:うん。曲の構造上、ベストなキーよりは低いところで歌ってはいると思うんだけど、由芙ちゃんらしい上品さが出た歌になってると思う。この曲の歌詞をマジメに読めば不倫っぽい内容だと思うんですよ。若い女の子とおじさんの恋というか。でも、待ち合わせが渋谷で5時だったり、原曲のMVではマーチンさんがクリームソーダを飲んでたりして、ちょっとギャグっぽいんですよ(笑)。

寺嶋:けっこう健全な感じですよね(笑)。

西寺:うん。その感じが今回のアレンジはより見えていると思うんですよね。欲望渦巻くミッドナイトな恋愛というよりは、もうちょっと明るい雰囲気というか。由芙ちゃんの歌も含めて、なんとなくカラッとしてる感じはするかな。

寺嶋:あー、たしかにカラッとしてますね。アレンジの力もあるとは思うんですけど、ドロッとした感じは全然なく、爽やかに楽しく踊れる曲になってます。

西寺:男女の恋愛というより、クリームソーダを飲みつつ夕方の喫茶店で由芙ちゃんからサンリオの話を講義されているみたいな(笑)。MVを観ても、マーチンさんもいい意味でコメディ的で“今”っぽいんですよね。寺嶋由芙というアーティストのカラーを感じられる「渋谷で5時」になったんじゃないでしょうか。




――イントロとアウトロに入る寺嶋さんのセリフも聴きどころですよね。

寺嶋:内容的には本家へのリスペクトを持って完コピしつつ、そこに“LINE”とか“プレミアムフライデー”という令和の時代を感じさせるワードを入れてみたりしました。セリフのレコーディングは自由にやらせてもらいました(笑)。

西寺:そこはもう由芙ちゃんの独壇場ですから(笑)。誰も何も言うことなく、どんどん進んでましたよ。サッカーで喩えるなら、絶対外さないPKみたいな感じですよね。「私、蹴ります!」と言って5回連続でゴールを決めるみたいな(笑)。

寺嶋:あははは。この曲はぜひカラオケで歌って欲しいですね。せっかくのデュエットなので、「今日は自分がゆっふぃーのパートやるから、君はゴーチンね」みたいな感じで、誰かと気軽に楽しく歌ってくれたらなって。男同士でも女同士でも、みんなでどんどん歌ってください!

西寺:男性ボーカルはわりと高いので頑張ってください(笑)。

――「渋谷で5時」が収録されるシングルには、表題曲として「恋の後味」も収録されています。こちらは寺嶋さん初のシティポップ・サウンドになっています。

寺嶋:実は今までシティポップはやっていなかったんですよ。サウンド自体も初めてな感じだし、いしわたり淳治さんが書いてくださった歌詞も今までにはない雰囲気で。これまでは宛て書きのようにアイドル・ゆっふぃーの人格がちらつく歌詞が多かったんですけど、今回は自分とは別のところに主人公がいる感覚がすごくあって。苦い恋の後味を噛みしめている子の思いを私が歌で物語っている感じなんです。曲も歌詞も自分にとっては新しい挑戦になりましたね。




寺嶋由芙 - 恋の後味(Official Music Video)


西寺:曲の中には求められる役柄というのがあると僕は思っていて。どんな歌でもその役になりきって歌うと上手くいくんですよ。僕がプロデュースする人にはそういうことを言ってあげるようにはしてるんだけど。曲の世界、役柄にグッと入り込むスイッチを作るといいと思うんだよね。

寺嶋:そっかー。今までの自分にはそういうスイッチがなかったので、これからはそのスイッチを入れようと今思いました(笑)。自分のあるがままの姿で歌うのが大事という説もあるじゃないですか。でも、そういう感覚だと曲の世界に乗り切れないこともあったんですよね。その理由が今ちょっとわかった気がします。

西寺:いろんな考え方があるけど、僕の場合はどこかシンガーは俳優と同じだと思っていて。まず曲が最優先、そのうえで自然な響きで歌う人が好きかなぁ。

寺嶋:いしわたりさんが今回、自分とは違う主人公の思いを歌詞で描いてくださったのも、もしかするとそういう理由だったのかもしれないですよね。今、腑に落ちた感じがします。

西寺:女優さんのような向き合い方をすると、きっとシンガーとして長く続く気がして。これまでのスタイルももちろん大切だけど、新しい方向に舵を切るのもまた素敵なことかなと僕は思いますよ。

寺嶋:来年の2月で丸9年、10周年が見えてきた今がそのタイミングなのかもしれないですね。郷太さんからいただいた言葉をここからしっかり噛みしめようと思います。ありがとうございました!

西寺:由芙ちゃんのおかげでマーチンさんからも『ゴーチン? いいじゃん!!』ってお墨付きをもらえたので僕からも感謝したいです(笑)。




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