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<インタビュー>back numberが辿り着いた新境地、清水依与吏が新作『ユーモア』を語る【MONTHLY FEATURE】
Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、約4年ぶりのオリジナル・アルバム『ユーモア』をリリースしたback numberのインタビューをお届けする。
2022年は2年半ぶりの有観客アリーナ・ツアー【SCENT OF HUMOR TOUR 2022】を開催した彼ら。同時に、コロナ禍の影響で中止となった2020年のインターハイがきっかけで作られた楽曲「水平線」が、YouTube上で初めて公開されてから2年が経ち、気づけばバンドの新たな代表曲となり、リスナーとの強いつながりを生み出した1年でもあった。
『ユーモア』はその「水平線」に加え、「エメラルド」から「アイラブユー」までのシングル表題曲と新曲をコンパイルした計12曲を収録。これまでにない感覚で臨んだというアリーナ・ツアーを経て、彼らが辿り着いた“ユーモア”の境地、バンドの現在地が刻まれた本作について、清水依与吏(Vo, G)に話を訊いた。(Interview & Text: Takuto Ueda)
――まずは2022年について。どんな1年だったと振り返ることができますか?
清水依与吏:4月にスタートしたアリーナ・ツアー【SCENT OF HUMOR TOUR 2022】の印象が強いですね。あのツアーはなるべく気負わずにというか、できれば楽しくやりたいというふうに思っていて。今までは「ツアーが終わったらこうなっていたい」「だからこういう努力をして……」みたいにちょっと気負っていた感じがあったけど、コロナを経て、自分自身を甘やかしてあげたり、ちゃんと楽しい時間を作ってあげたりするのってすごく大事だなと思い知ったので。
――肩の力を抜くというか。
清水:【one room party】というファンクラブ向けのライブがあるんですけど、それに近い空気でしたね。ずっと眉間にしわ寄せながらやっていたら、苦行のまま終わってしまうなと思って。もちろん楽しいだけじゃなくて、いざステージに上がれば責任感とかなんやかんやが付き纏ってくるんだけど、でも大前提に楽しさを置いてツアーを回れたのはすごく大きかったかな。
――清水さんがコロナに感染されて一部公演が延期となりつつ、9月には幕張メッセにてファイナルを無事迎えました。
清水:ファイナルをやれたとき、今までとはまったく違う景色が見えたんですよ。自分たちが満足するためのツアーだったはずなのに、最終的には喉の渇きに気づいたというか。もっとできるんじゃないかという不思議な感覚でした。あの感覚って何だったんだろうと考えながらアルバムの仕上げ作業を進めていくなかで、改めてユーモアという言葉に向き合って。
――その渇望感の正体って何なんでしょう?
清水:なんかこう、楽しいもストイックも全部ひっくるめての本気みたいな。そういうところにまだ辿り着けていなかったかもしれないという、新しい感じでした。一言じゃ言い表せなくて。ものすごくギラギラしているけど、同時にものすごくナチュラルでもある。絶対に並列に置けないと思っていたものが混在して、そこにある感覚というか。そういう境地に行けそうなヒントを得た気がしていて。それに向き合って考えるために、3人でスタジオに入っていろいろ実験したりしていました。
――それがアルバムの制作期間でもある?
清水:そうですね。でも、ツアー中にも「ベルベットの詩」や「アイラブユー」は作っていて。特に「ベルベットの詩」は作詞に苦戦したんですよね。たぶん10パターン以上書いたけど、まったく納得できなくて。それで頭の回路もおかしくなってきた頃、最終的に普通の言葉というか、なんの奇もてらえないような歌詞が出始めて。これは恥ずかしいぞと思いつつ、むしろそれが心地いい状態というか、「ああ、これでいいんじゃん」みたいな感じになったんです。バンドを始めた頃に戻ってきたような感覚でもありました。
――ツアーを回って様々な気づきや学びがあったのかと思いますが、それらが今回のアルバムにどんなフィードバックをもたらしたと思いますか?
清水:いつの間にか「普通に考える」ということができなくなってしまったなって。ベタであることとか、ある種の初心みたいなものを失っていたと思っていて。そういう、自分たちが「普通に考えたらこれでいいじゃないか」と思うことを素直にやれる強さは、それこそツアー中に「ベルベットの詩」を書いたあたりから感じるようになりましたね。思ったことを思った通りに歌う、すごくナチュラルな状態の自分に帰ってきたような。それは思っていたよりもストイックなことだったけど、少なくとも昔だったらありえなかった精神バランスだなと思います。もし自分がコロナに罹らず、何事もなくファイナルを終えていたら、たぶんまったく別のアルバムになっていたんじゃないかな。
――その心境の変化は特にどんな部分に影響しているのでしょう?
清水:「秘密のキス」や「ゴールデンアワー」とかはツアーが終わってから書いたので、特に歌詞の面で影響を受けていると思います。この2曲に関しては、アルバム制作の終盤で「あれ、まだあれもこれもやってないじゃん」「この色とこの色が必要じゃん」と思って作った感じで。
――なるほど。この2曲はアルバムにおいてどんなエッセンスだったのでしょう?
清水:1曲目の「秘密のキス」は最後に書きました。なので、このアルバムでやっていなかったback numberを全部入れた、みたいな感じでしたね。最近はシリアスなタイアップ・ソングも多かったですし、ほかにも例えば「水平線」は人間としての芯を捉えようとするような曲だけど、自分としてはもう少しアルバムでボケたかったというか。その欠けていたピースを埋めるだけだったので、この曲はけっこうスムーズにできました。
――今のback numberの本領を発揮した曲でもある?
清水:そうですね。「久々に得意な感じで書いたわ」みたいな。例えばタイアップって、相手の土俵で相撲をとるような感覚なんですよ。それでも相手を倒せるのが横綱だと思うし、それはそれで美学として向き合ってはいるけど、自分たちで一から土を固めて作った土俵の上で自分たちで舞う、みたいな曲を1曲目にしたかったんですよね。「怪盗」と迷ったけど、やっぱり新曲で始まりたかったし。
――対する「ゴールデンアワー」はいかがでしょうか?
清水:この曲も「ベルベットの詩」や「アイラブユー」みたいな曲を作ったからこそ、こういうテイストになったと思っていて。改めて、自分の身の回りの環境や世の中に対して、自分がどういうふうに向き合っているかを書いておきたいなと。
――骨太のロック・サウンドに乗せた、バンドの反骨精神が感じられるリリックが印象的です。
清水:ありがたいことにback numberというバンドの規模は広がり続けていると思うけど、正直、自分たちが一番売れてるだとか、日本のど真ん中にいるような感覚になったことなんて一度もなくて。ヒット・チャートを見ていると、毎年新しい才能がどんどん出てくるし、先輩もずっと活躍していてすごいなと思いつつ、音楽がその人の胸のどのくらい奥まで入っていったかを測るランキングなんて存在しないじゃないですか、今のところ。ドームでライブをやれるのも、1対1で向き合ってくれるみんなの気持ちの結晶なわけだし。まぁ、職業なので数字にも向き合わなきゃいけないけど、そこに過去は書いてあっても未来が書いてあるわけではないので。
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リリース情報
アルバム『ユーモア』
2023/1/17 RELEASE
<初回限定盤A(1CD+2DVD)>
UMCK-7194 7,480円(tax in)
<初回限定盤A(1CD+1Blu-ray)>
UMCK-7193 8,580円(tax in)
<初回限定盤B(2CD+1DVD)>
UMCK-7196 7,480円(tax in)
<初回限定盤B(2CD+1Blu-ray)>
UMCK-7195 8,580円(tax in)
<通常盤(初回プレス、1CD)>
UMCK-7197 3,300円(tax in)
公演情報
【back number “in your humor tour 2023”】
3月18日(土)・19日(日)大阪・京セラドーム大阪
4月1日(土)・2日(日)愛知・バンテリンドーム ナゴヤ
4月8日(土)北海道・札幌ドーム
4月15日(土)・16日(日)東京ドーム
4月22日(土)・23日(日)福岡 PayPayドーム
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