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<わたしたちと音楽 Vol.8>佐々木舞(YouTubeアーティストリレーションズ) 音楽業界で全ての女性が、ハードルなく輝けるように

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回のゲストは、YouTubeでアーティストリレーションズを担当する佐々木舞。2018年にはYouTube公式チャンネルで『FUJI ROCK FESTIVAL』の配信をスタートさせるなど、プラットフォームを提供しながら運用をサポートすることで、アーティストの活動の場を広げている。現在のポストに就くまでに国内外で音楽ビジネスに関わってきた彼女は今、日本の音楽シーンをどのように見つめているのだろうか。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo:Kae Homma)

帰国して気がついた、音楽業界の景色の違い

――現在佐々木さんが所属するアーティストリレーションズという部署では、具体的にどんなことをやっていらっしゃるのでしょうか。

佐々木舞:アーティストにYouTubeをプラットフォームとして活用していただくために、様々な提案をし、運営をサポートするのが私たちの業務です。公式チャンネルの積極的な運用方法やライブ配信など、音楽チームで提案できることは日々多角的に増えているんですよ。


――なるほど。ただプラットフォームを開放するだけではないのですね。コロナ禍でオンラインでの音楽の楽しみ方も変化していて、YouTubeを活用するアーティストはより一層増えているように感じます。

佐々木:ライブや音楽フェスといったイベントが開催できない、制作活動自体も不自由になりリリースも延期せざるを得ないなど、言わずもがな音楽業界にとってコロナ禍のショックは計り知れません。そんな中、YouTubeではアーティストやレコード会社など音楽関係者の方々に向けて、活用方法に関してのセミナーをオンラインで開催しているんです。「YouTubeを売り込みたい」というよりも、「一緒に頑張りたい」という思いで実施した取り組みでした。結果的に無観客でのライブ配信やアーティストのプライベートなスペースでの弾き語り配信など、アーティストとファンが繋がる場としてご活用いただき、行動制限がなくなった今でもそのプラットフォームでの展開は拡大を続けています。


――佐々木さん自身は、現在のポストに就くまでにはどのようなキャリアを積んできたのですか。

佐々木:音楽は物心ついたときからずっと好きで、大学を卒業して国内のレコード会社に就職しました。その後はサンフランシスコへ。アテがあったわけではないのですが、自分で調べて「働きたい」と思った会社に連絡して面接のアポを取り付けて、音楽のデジタル配信のディストリビューションを行うスタートアップ企業に就職したんです。


――国内外の音楽業界で仕事を経験した中で、国内と海外の違いを感じたことはありますか。

佐々木:日本に帰ってきて感じたのは、業界全体を見渡したときの男性が占める割合の大きさです。サンフランシスコで勤めていた企業では、エンジニア部門やマーケティング部門のトップなど要職に就いている女性も多かったので、帰国してからあらためて「要職に就いているのはダークスーツに身を包んだ男性ばかり」という状況を実感しました。


――そういった状況が生み出されているのには、どんな原因があると思いますか。

佐々木:これは音楽業界に関わらず、日本にはまだ「育児や家事は女性がやるものだ」という性別役割分担意識が根強く残っているのを感じますね。海外とひとことに言っても、もちろん地域によって違いがありますが、サンフランシスコは特にリベラルな考えの人が多く暮らす街だったので、日本に帰ってきたときに感じた差が大きかったのだと思います。


女性アーティストがメッセージを発信しやすい社会を作るために

――現在のGoogle社の状況はいかがでしょうか。

佐々木:Googleには“多様性・公平性・包括性”を重んじる企業理念があります。実際、音楽チームに所属している人の男女の割合は半々。私の主観になりますが、性別よりも、個人のキャリアやスタイルが重視されて適材が適所に配置されている印象です。リモート勤務も、コロナ禍になる前から認められていましたし、女性が出産や育児を経験しながらキャリアを継続するためのサポートが用意されています。また社内に留まらず、女性のリーダーシップを促進するために、マネジメント層及びリーダーを目指す個人双方に向けた“Women Will リーダーシッププログラム”というトレーニングプログラムも提供し、効果を上げています。


――Googleのようなグローバル企業がサポート体制を充実させ、女性の社会進出をリードしているのは心強いですね。話の対象をアーティストに移しますが、Billboard Japanが発表するビルボードジャパン総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”の2022年の年間チャートでは、TOP10のうち女性アーティストは2組(AimerとAdo)、TOP100圏内では、男性58組、女性27組、混合は15組となっています。このようにランクインするアーティストの割合は常に男性が女性を上回っているのが現状です。国内にも素晴らしい女性アーティストはたくさんいるはずですが、この結果についての見解をお聞かせいただきたいです。

佐々木:私はアーティストではないので代弁はできませんが、いちリスナーとして、女性アーティストが何か強いメッセージを発信しようとしたとき、社会に受け入れる体制が整っていないのを感じることはあります。テイラー・スウィフトやビヨンセ、リゾなど、グローバルで記録を打ち立てている女性アーティストの多くは社会に対して強いメッセージを発信しています。彼女たちが支持されているのは、そのメッセージに心を動かされている人が多くいることの証でもあるのではないでしょうか。日本では、そこにまだハードルがありそうですね。


――日本では「音楽に政治を持ち込むな」という論争も発生したくらいですし、女性が声を上げることに関してアレルギーを持っている人が一定数いるのを感じます。

佐々木:そのことだけが理由ではないかもしれませんが、グローバルのチームから「日本国内で、突出した個性や主張のあるアーティストが思い浮かばない」というフィードバックを受けたことがありました。グローバルな音楽マーケット全体で考えた時に、インパクトが小さいと。実際は、きゃりーぱみゅぱみゅさんのように、日本独自のカルチャーを世界に向けて発信し【コーチェラ・フェスティバル】などで成果を上げているアーティストもいますし、春ねむりさんのように、海外からの評価が国内を上回っているようなアーティストもいるんですけどね。彼女たちをはじめとした国内の素晴らしい才能を世界へ向けさらにプッシュするのは、YouTubeのようなグローバルに開かれたプラットフォームに課せられた課題でもあると思っています。


――確かに、その意見はショッキングですね。佐々木さんご自身はこれまで、どんなアーティストに心を惹かれてきたのでしょうか。

佐々木:“女性だから”憧れていたというわけではないのですが、やはりマドンナのインパクトは大きかったですね。中学時代にJ-WAVEを通して聴いた『エロティカ』には衝撃を受けました。音楽はもちろん、ファッションやメイクまで刺激的で、「周りのことを気にしすぎなくて良いんだ」と感じたことは今の考え方にも影響していると思いますし、2016年に【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック】を受賞した際の彼女のスピーチにも心を突き動かされました。





――マドンナがセンセーショナルなデビューを果たした1982年から40年以上の時が経ち、女性を取り巻く状況も変化しましたが、佐々木さん自身が何かその変化を実感することはありますか。

佐々木:私がキャリアをスタートさせた頃は、音楽業界でキャリアを積むためには“男勝りに頑張る”ことが求められていました。でも今は、そもそも“男性=家庭を顧みずにがむしゃらに働く”時代でもないですし、身体的な性別の違いを無視して無理をするのが美徳でもありません。性別に関係なくキャリアアップすることで得てしまう権威性によるハラスメントにも気をつけるべきですし、精神的にも肉体的にも余裕を持つことが、自分にとってもチームにとっても良いパフォーマンスに繋がると思っています。


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