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博報堂DYグループコンテンツビジネスラボによる『音楽ヒット予測研究 Vol.8』~生活者データとチャートデータで振り返る2022年の音楽シーン



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 先日、発表されたBillboard JAPANの2022年年間チャートを振り返ると、アニメなどの大型タイアップでの躍進や、TikTok発での躍進、オーディション番組発での躍進など、昨年度と比較して多種多様なヒットシーンが見られる1年であった。音楽のヒットは、必ずリスナーによる音楽コンテンツ消費行動が起点となっているのは言うまでもないが、2022年はどのようなリスナーたちによりシーンが支えられ、盛り上がりを見せたのだろうか。

 前回の連載に続き、第8回目となる本連載では、コンテンツファン消費行動調査(※2)を活用したリスナー特性の分析とBillboard JAPANのチャートデータで、2022年の音楽シーンを振り返りたいと思う。(Text: 三浦 慎平)

音楽コンテンツ消費行動が活発な注目すべき3つのクラスタ

 まずは、コンテンツ消費行動調査データにより、国内の音楽利用層にどのような特性を持ったリスナーがいるのかを俯瞰するために、音楽利用層によるアーティストの併用のされ方でリスナーのクラスタ分析を行った。各クラスタについて、音楽コンテンツに対する年間平均支出金額と1日の平均利用時間の2軸でマッピングした結果が図1である(※4)。



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図1:各クラスタの音楽コンテンツに対する年間平均支出金額と1日平均利用時間の関係性



 マッピングを見ると、両軸の全体平均を境目に「お金も時間もかけずに手軽に音楽を楽しみたい層」、「お金を気にしながらも音楽は思う存分楽しみたい層」、「お金も時間も惜しまず熱狂的に音楽を楽しみたい層」の3層に大別され、さらに異なる9のクラスタが見られる。その中でも特に注目したいのが、音楽コンテンツへの年間平均支出金額と1日利用平均時間の両者が全体平均を上回っている「推しを全力応援する男性アイドルファン」「パフォーマンス重視で動画コンテンツに熱狂するダンス&ボーカルリスナー」と、年間平均支出金額は全体平均以下であるが、1日利用平均時間において平均を上回っている「SNSでキャッチした曲は抑えておきたい早耳リスナー」である。どのようなアーティストが彼らのリスナー特性に刺さり、音楽コンテンツ消費行動を促したのか。コンテンツビジネスラボメンバーの解説とともに見ていきたい。



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図2:各クラスタの年間平均利用金額・1日利用時間の特徴



「推しグループを全力応援する推し活層」を盛り上げたアイドルは?

 「推しを全力応援する男性アイドルファン」は、女性比率は7割を超え、ジャニーズやジャニーズ Jr.を中心に聴いており、推し活やファンクラブ利用で推しを応援する、いわゆる推し活をしている層であることがわかる。



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 2022年を振り返ると、この推し活層を盛り上げたグループとして、まずはSnow Manが挙げられるだろう。Snow ManはBillboard JAPANの2022年年間総合アルバム・チャート“Hot Albums”で1位獲得、さらに年間総合シングル・セールス・チャート“Top Singles Sales”では1~3位を独占するという快挙だ。さらに、カラオケポイントの年間累計は、昨年度との比較で2.2倍となっており、ジャニーズなどのアイドルの中では最も伸長した。



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図3:Snow Manのチャート推移(2022年年間)※ポイント数は非公開のため非公表



 Snow Manのチャート推移を見てみると、2022年に発売されたシングル『ブラザービート』『オレンジkiss』は、いずれも発売前にWikipedia PV数のピークができており、話題化に成功して盛り上がった状態で発売日を迎えていることがわかる。また、いずれのシングルのタイトル曲がメンバーが出演する映画の主題歌であることもニュース性が大きかったであろう(「ブラザービート」はSnow Man全員が出演した映画『おそ松さん』の主題歌、「オレンジkiss」は岩本照さん主演の映画『モエカレはオレンジ色』の主題歌)。 秋には2nd アルバム『Snow Labo. S2』を発売、そのアルバムが年間総合アルバム・チャートで1位を決めるという、素晴らしい2022年のフィニッシュである。

 次に触れておきたいのが、紅白初出場のJO1だ。JO1は2020年にデビューし、LAPONEのグループでは初めての紅白出場となる。年間シングル・セールス・チャートTOP10にも入っており、PRODUCE 101 JAPANのときの熱量をそのままに、ファンを熱狂させていることがうかがえる。また、「コンテンツファン消費行動調査2022」によると、「友人や知人、家族と一緒に、コンテンツの感想で盛り上がるのがすきだ」という意識が78.2%(全体差分+42.5pt)と高く、オーディションのように、一人でひっそり推すというより、みんなで推しを応援する行動を楽しんでいるのではないかと考えられる。紅白放送時もJAM(JO1のファン)がTVの向こう側で一緒になって応援している姿が今から想像できる。

 同じくLAPONEの後輩グループであるINIは、年間シングル・セールス・チャートで2022年にリリースしたシングル2枚ともTOP10入りしており、今後の活躍が期待される。来年の紅白では、JO1とINIがコラボする様子が見られることを期待しながら、「推しを全力応援する男性アイドルファン」の心を捉えた2アーティストの今後の活躍も楽しみにしていきたい。(Text: 谷口由貴)

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「パフォーマンス重視で動画コンテンツに熱狂するダンス&ボーカルリスナー」の関心を集める「SEVENTEEN」

 「パフォーマンス重視で動画コンテンツに熱狂するダンス&ボーカルリスナー」は、8割以上を女性が占めており、中でも10~20代女性の割合が多い。よく聴く音楽ではK-POPのグループが多く、ダンスやパフォーマンスを重視する傾向にあり、オーディション番組も積極的に視聴している。加えて、支出金額も高く、国境を越えて熱狂的にK-POPグループの推し活を楽しんでいることがわかる。



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 2022年上半期、この層で特に注目を集めたグループといえば、やはりBTSが挙げられるだろう。BTSは、Billboard JAPANの2022年年間トップ・アーティスト・チャート“Artist 100”で5位を獲得し、衰えない人気をうかがわせている。しかし、6月に活動休止の発表があってからは、他のK-POPグループへの関心も高まりつつある。その代表グループの一つがSEVENTEENだ。SEVENTEENは、Billboard JAPANの2022年年間総合アルバム・チャートで4位と8位を獲得するという目覚ましい活躍を見せている。また、動画再生ポイントは昨年度比で2.8倍と、K-POPアーティストの中では最も伸長していた。



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図4:SEVENTEENのチャート推移(2022年年間)※ポイント数は非公開のため非公表



 SEVENTEENのチャート推移を見てみると、2022年で最もWikipedia PV数が高いのは、日本1st EP『DREAM』をリリースした11月~12月のタイミングである。タイトル曲の「DREAM」が地上波の情報バラエティ番組のエンディングテーマ曲にも抜擢されたうえ、初のドームツアーも開催されるなど、年末に怒涛の盛り上がりを見せた。

 また、この層で活躍を見せているのは、男性アイドルグループのみではない。紅白出場の決まったK-POPグループ3組は、TWICE、IVE、LE SSERAFIMとすべて女性グループなのだ。女性グループが人気の理由として、博報堂独自で行ったチャットインタビュー調査で韓流アイドルを支持している理由を聞いたところ、「とても綺麗で、歌もダンスも魅力溢れていて同じ女性として憧れがあり、目標にしている」「メイクだったりスタイル、ファッションなど憧れがある」等、同性だからこその憧れが挙げられていた。また、「コンテンツファン消費行動調査2022」でも、男性K-POPアイドルファン層と比較し、「好きな作品やアーティスト、キャラクターなどを意識した服装やアクセサリー、小物を身に着けたり持ち歩いている」が5.4pt、「SNSなどの動画コンテンツを見て、ふと欲しくなったものを購入したことがある」が5.3pt高く、ただ観るだけでなく、自分のファッション等の参考にしている様子もうかがえる。

  そんな支持の熱い女性アイドルの中でも、TWICEは安定的な人気から4回目の紅白出場を決めたが、IVEとLE SSERAFIMは結成から間もないタイミングで初出場を決めたグループである。IVEは8月に日本デビューしたばかりだが、Billboard JAPANの2022年年間総合ソング・チャート“Hot 100”でも44位にランクインするという快挙を成し遂げている。LE SSERAFIMは5月の韓国デビュー時のアルバムが日本を含む13か国のiTunesアルバムチャート1位を獲得し、一気に世界的スターとなった。IVEは日本デビューから約4か月、LE SSERAFIMは日本デビュー前に紅白出場が決定し、K-POPは異例のスピード出世が多い印象だ。来年の紅白では新たなK-POPグループの活躍も見られるかもしれない。(Text: 植月 ひかる)

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「SNSでキャッチした曲は抑えておきたい早耳リスナー」の共感を呼んだ「Saucy Dog」

 「SNSでキャッチした曲は抑えておきたい早耳リスナー」は、お金を気にしながらも、カラオケ利用や定額配信サービスを使い、TikTokなどで歌詞に共感した楽曲は積極的に楽しむリスナーである。そんな早耳リスナーからの共感を集めた注目すべきアーティストとして、Saucy Dogが挙げられるだろう。Saucy Dogは、ストリーミングポイントが昨年度比11.6倍で今年最も伸長しており、カラオケポイントは昨年度比16.7倍でAIに次いで2位となり、大きく飛躍している。



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 簡単に紹介すると、Saucy Dogは、2013年に大阪で結成し、2016年にメンバー再編成を経て再びスタートを切った日本の3ピースロックバンドで、代表曲「シンデレラボーイ」は、2022年10月に自身初のストリーミング累計再生回数3億回を突破するなど、現代の邦楽ロックシーンを牽引するアーティストとなった。プロファイルシートから分かるように、楽曲の視聴において「歌唱力」や「歌詞」を重要視する早耳リスナーであるが、Saucy Dogボーカル石原慎也の優しくも力強い歌声や、まるで物語を聞いているかのような繊細な歌詞が、そんなリスナーの心を捉え、多く共感を集めたのだろう。



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図5:Saucy Dogのチャート推移(2022年年間)※ポイント数は非公開のため非公表



 Saucy Dogのチャート推移を見ると、昨年末から上昇傾向が見られたストリーミングポイントは、今年に入ってからも順調にその値を伸長させ、特にミニアルバム『サニーボトル』を7月6日にリリース後に大きな上昇を見せている。特筆すべきは、同作に収録されている楽曲のほとんどがドラマ主題歌やタイアップソングである点だ。一部収録曲については先行配信が行われていたものの、多方面で活躍する彼らのアルバムリリースに多くの注目が集まった様子がうかがえる。 また、Wikipedia PV数に着目すると、11月14日集計開始週に大きな伸長が見られる。伸長の背景にあるのは、11月16日に彼らの紅白初出場が決定したことだろう。これまで若い世代を中心に支持を集めてきた彼らが、紅白という幅広い世代からの視聴が集まる場へ登場することで、今後どのようにファンを拡大し、チャートを賑わせていくのか目が離せない。(Text: 夏堀 雄太)

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  2. 国民的ヒット、ひいてはグローバルヒットに無視できない“アニメ”の存在
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国民的ヒット、ひいてはグローバルヒットに無視できない“アニメ”の存在

 さて、ここまで、音楽コンテンツ消費行動に積極的なリスナー層に着目し、彼らの音楽コンテンツ消費行動と国内の音楽シーンを盛り上げていたアーティストについて見てきたが、国民的なヒットの背景を見ていくうえでは、時間もお金もかけずに音楽コンテンツを楽しむライトリスナーの消費行動を促すことができたかも重要な観点であろう。

 2022年年間総合ソング・チャートを改めて振り返ると、TOP10のうち4曲がアニメタイアップであり、Spotifyが発表している「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」TOP10については、7曲がアニメタイアップであることからも、国内外でのヒットにつながる糸口として、今年は特にアニメの存在が大きく目立った。例えば、子供が主題歌を口ずさむのは、アニメの物語と楽曲のシンクロが強烈な体験として記憶に残ったためだろう。その結果、子供から親にも楽曲の存在が伝わる、または、その逆など、アニメ起点で性別、年齢問わずに幅広いリスナーに聴かれていった流れは容易に想像できよう。

 直近では『チェンソーマン』の異例のエンディングテーマ12曲がそれぞれ別のアーティストの楽曲とのことで話題になった。図6は、本コラムの執筆時点で配信リリース済のエンディングテーマのストリーミングランキングであるが、多くの楽曲がリリース後に100位以内にランクインしている。Kanaria「大脳的なランデブー」はストリーミングランキングでは100位圏外であったものの、ダウンロードランキングではリリース後、初週で27位をマークした。anoの「ちゅ、多様性」は、TikTokで「#ゲローチューダンス」でのダンスチャレンジが人気を集めている。その人気はデータにも現れており、12月14日公開の急上昇ソング・チャート“JAPAN Hearseekers songs”で初登場首位を獲得した。

 また、オープニングテーマの米津玄師「KICK BACK」が年間総合ソング・チャートで30位に挙がっていることも踏まえると、来年度以降も『チェンソーマン』を中心したヒット動向や、これから予定されているアニメタイアップとその動向からは目が離せないだろう。アニメと音楽の連動は、日本だからこそできるグローバルに向けたエンタメ発信法として、今後も精緻化され、国内アーティストの海外進出の意識を後押ししていく可能性が大いにありそうだ。



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図6:アニメ『チェンソーンマン』のエンディングテーマ12曲のストリーミングランキング推移



 最後に触れておきたいのが、2022年の年間総合ソング・チャートで「Aimer」、トップ・アーティスト・チャートで「Ado」の両者とも女性シンガーが首位を獲った点である。“Artist 100”が開始された2020年以降で女性アーティストが首位を獲るのは初の快挙であり、年間チャートの“Hot 100”でも同様である。ヒットチャートには女性アーティストが入りづらいとの指摘があるが(※5)、今回のAdoやAimerに加えて、これまでヒットチャートで上位に入り込むことができた女性アーティストにはどのような共通点があるのだろうか。

 コンテンツ消費行動調査を活用して、ストリーミングの広がりとともに、国民的ヒットとなった「あいみょん」と、Ado、Aimerの利用層の性年代構成比を見ると(図7)、いずれも女性利用層が全体との比較で多いことが分かる。つまり、重要なポイントとして、異性のみならず、同性からの共感が挙げられる。今回は、どちらもアニメタイアップが同性からの支持を集める追い風にもなったと考えられるが、K-POP女性アーティストの人気でも触れたように、音楽はもちろんのこと、ファッションやメイク等も含めて、アーティストが作り出す世界観への共感がフックの一つではないだろうか。



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図7:Ado/Aimer/あいみょんの利用層の性年代構成比



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おわりに

 コンテンツ消費行動調査とBillboard JAPANのチャートデータの分析から、価値観の異なる音楽ファンのクラスタが複数存在し、各音楽ファンが持つ、嗜好や価値観にマッチしたかたちで音楽のヒットが生まれていることが確認できた。音楽ファンが生息するサービスやSNSでの行動や展開されるコンテンツへの共感ポイントが複層化されるなかで、複数のクラスタの共感を掴んだアーティストが国民的なヒットにつながっていくであろう。23年度以降、どのような楽曲やアーティストがリスナーへの共感をどのように作っていくのか。すでに兆しが見え隠れしているが、今から楽しみで仕方がない。

 引き続き、コンテンツビジネスラボではBillboard JAPANが保有するチャートデータや博報堂DYグループが保有する様々なデータを活用して、リスナーの行動や価値観を起点に、ヒットの背景やそのメカニズムの解明をしていきたいと思う。

(※1)コンテンツビジネスラボとは

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独自調査「コンテンツファン消費行動調査」の知見をもとに、近年企業のニーズが高まっているコンテンツを起点とした広告やビジネス設計の支援を行う専門チーム。独自に提唱する「コンテンツファン発火モデル」を用いて、企業やコンテンツホルダーが実施するコンテンツを起点とした広告コミュニケーションの設計支援や、新規事業・サービス展開のマーケティング支援等を行っている。博報堂DYホールディングスのナレッジ開発職、博報堂のマーケティングプラナー、博報堂DYメディアパートナーズのコンテンツプロデュースの専門家などで構成されるメンバーは、スポーツ、ドラマ、アニメ、ゲーム、音楽など、さまざまなカテゴリの熱心なファンでもあり、コンテンツに対する豊富な知見と情熱を有している。


(※2)「コンテンツファン消費行動調査2022」調査概要
調査対象者:全国6000人
年齢:15~69歳(性別×年代×居住地域の人口構成比に従って割り付け)
調査手法:インターネット調査
調査時期:2022年3月8日~18日
調査・分析:博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター、博報堂DYメディアパートナーズ コンテンツビジネスセンター


(※3) Wikipedia閲覧数は、https://dumps.wikimedia.org/other/analytics/から取得 (CC-BY-SA 3.0) リスナーのアーティストに対する興味が検索行動として現れるデータとして活用。

(※4)各クラスタの詳細分析についてはここでは割愛し、コンテンツビジネスラボまでお問い合わせいただきたい。

(※5)「Inclusion in the Recording Studio? Gender and Race/Ethnicity of Artists, Songwriters & Producers across 900 Popular Songs from 2012-2020」https://assets.uscannenberg.org/docs/aii-inclusion-recording-studio2021.pdf


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