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<インタビュー>甲田まひるが向き合う2000年代J-POPの魅力 3rd EP『Snowdome』を語る

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Interview:Takuto Ueda
Photo:Yuma Totsuka

 甲田まひるが、通算3作目となるEP『Snowdome』をリリースした。表題曲は“ドライブ・デート”をテーマに仕上げた、切ない恋のウィンター・ソングとなっている。

 自身の出自であるジャズはもちろん、USヒップホップやK-POPなど、ジャンルも国境も軽快に飛び越えながら、それらを独自のポップ・センスに昇華させてきた彼女。プロデューサーに安室奈美恵、三浦大知、BTSなども手掛けるSUNNY BOYを迎えたこの「Snowdome」に込めたのは、愛する2000年代のJ-POPへの憧憬だ。宇多田ヒカル、安室奈美恵といった平成を代表するポップス像に、Z世代の彼女ならではの視点でアプローチしたサウンドは、懐かしさと新鮮さを絶妙なバランス感覚でブレンドしている。

 また、カップリング曲「SECM (Sausage Egg & Cheese Muffin) 」は、US在住のビートメーカー、yung xanseiをアレンジに迎えて制作。本格的なヒップホップ・トラックに強いメッセージ性を孕んだリリックが合わさり、表題曲とはまた違う形で甲田まひるのエッセンスが散りばめられた意欲作だ。

 甲田自身が「自分がやりたかったものに近い作品になった」と語る本作について、話を訊いた。

かなり自分がやりたかったものに近い作品になった

――通算3作目となるEP『Snowdome』です。前作『夢うらら』のインタビュー時に「もし次のリリースが冬になるなら、クリスマスっぽい曲とか作ってみたいです」と仰っていましたね。

甲田:言ってましたね。

――実はその時点で表題曲「Snowdome」の構想があった?

甲田:いや、そのときはまだなかったです。その場の思い付きで言っただけでした(笑)。曲を作っているときも「そういえばインタビューで言ったな」と思いました。

――では、制作がスタートしたのはいつ頃ですか?

甲田:9月中旬頃から始まって、10月にレコーディングしたと思います。『夢うらら』をリリースしたあと、すぐに次の曲のことを考え始めましたね。

――その時点ではどんな楽曲像を思い描いていましたか?

甲田:まず“ウィンター・ソング”という明確なテーマがあって。あとは、そろそろ自分の中の“ポップさ”を出していきたいなと思っていました。





――甲田まひる名義でのデビュー作『California』を出した頃から、ずっとご自身の目指すポップス像についてはお話しされていましたよね。

甲田:そうですね。今回はかなり自分がやりたかったものに近い作品になったと思います。ただ、もともと目指していたポップスに向かっていくなかで、それまでに自分がやってきたジャズとか、いろんな要素のレイヤーも挟みたかったし、だからこそ「California」や「夢うらら」みたいな曲が生まれて。なので、自分的には“変化”というより“次”って感じですね。

――ジャズをはじめヒップホップ、ロック、K-POPと幅広い音楽からインスパイアされつつ、自分なりのポップスを突き詰めてきた甲田さんですが、今作「Snowdome」は一番“J-POP感”を感じさせる仕上がりでした。

甲田:もともと2000年代のJ-POPっぽい曲を作りたくて。とはいえ、今っぽいサウンドにもしたかったし、そのあたりのバランス感はうまく表現できたかなと思います。

――具体的な作曲の流れは?

甲田:いつも通り、ピアノでコードを考えながらDTMで作ったんですけど、この曲はサビ始まりにしたかったので、まずはサビから作りました。ドラムの音とかピアノのループ感は自分が好きな昔っぽいテイストにつつ、耳に残るフックやメロも意識して制作しましたね。

――ちなみに、2000年代のJ-POPで特にお気に入りのアーティストは誰ですか?

甲田:もともと宇多田ヒカルさんは大好きで、ずっと聴いていました。あとは、安室奈美恵さんもすごく憧れていて。J-POPはいろいろ聴くんですけど、中でもその年代の曲やアーティストは特に好きで、歌の練習のために聴いたり、カラオケでよく歌ったりもしていました。

――フェイバリットを1曲挙げるとしたら?

甲田:中島美嘉さんの「雪の華」とか。しっとり系が特に好きですね。青山テルマさん feat.SoulJaさんの「そばにいるね」とかもそう。2000年代ってヒットした曲が多い時代というか、私から見たらいい曲がたくさんあった年代というイメージがあって。




中島美嘉 『雪の華』 MUSIC VIDEO



青山テルマ feat.SoulJa / そばにいるね


――ファッションの分野でも“Y2K”が流行っていたり、2000年代のカルチャーが近年、再び注目を集め始めていますよね。でも、そういったムーブメントの中心には、甲田さんのような10代~20代前半のユーザー、つまり“リアルタイムではない世代”がいる。いまの若者たちがあの年代のカルチャーに惹かれるのって何故だと思いますか?

甲田:リアルタイムで体験していないからこそ、なんじゃないかなと思います。音楽そのものだけじゃなく、経済的にも今と比べてド派手だった印象で。そういう平成の自由な感じに憧れるというか。自分たちの世代はわりと逆の傾向で、生きることに窮屈さを感じている子が多いから。

――ストリーミングの市場が拡大しているとはいえ、音楽産業全体で見れば縮小傾向はまだまだ続いていますからね。そういう業界的な豊かさが今よりあった時代だし、常に閉塞感が付きまとう社会的なムードも現代特有かもしれません。

甲田:いまはやっぱり不安が大きいのかなと思うんですよね。昔の音楽番組の映像とかを見たら、嘘みたいなセットを組んだりしていて。いまにはない、ああいう爆発的な感じがあったカルチャーだから魅力的に感じるんだろうなと思います。

――もちろん平成や2000年代にも負の側面がなかったわけじゃないですが、例えば平成生まれから見た昭和のイメージってやっぱりバブリーだし、それと同じような見え方なんでしょうね。振り返ったときに、華やかで煌びやかな部分がどうしても鮮烈に映る。

甲田:実際に曲を聴いていても、やっぱりそういうところが印象に残りますね。カルチャー的には結局、生まれたものが大きいと思うし、私たちはそのエッセンスを取り入れて、ちょっとでも元気になりたいというか、いまにはない勢いを欲してしまうところがあるんだと思います。

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シチュエーションは“ドライブ・デート”

――今作はプロデュースにSUNNY BOYさんが参加しています。このあたりの経緯は?

甲田:私がぜひお願いしたかったんです。もともと作品ごとにいろんな方と一緒に作りたいとは思っていたけど、今回はやっぱり自分の思い描いているポップス感に近い方にお願いしたいなと思って。

――甲田さんから見て、SUNNUY BOYさんはどんなプロデューサーというイメージがありますか?

甲田:やっぱり安室奈美恵さんの「Hero」などを手掛けられているので、すごく憧れのプロデューサーさんです。それにご自身がヴォーカリストだったことや楽器を弾かれるということもあり、キャリアが長い方なのでいろいろ学べたらいいなと思ってオファーさせていただきました。特に歌心がある方とご一緒したいと思ったのが一番のきっかけです。

――過去二作の表題曲と比べても歌メロが際立った曲ですよね。ラップもほとんどがメロディ・ラップで、いままで甲田さんがやってこなかったタイプ。

甲田:そうですね。ちょっとエモ・ラップ系の。やっぱり曲がこういう感じなので、聴いている人に届く歌を歌いたいと思って、日頃のレッスンでも意識して取り組みました。

――レコーディングでもSUNNY BOYさんがディレクションを?

甲田:はい。リモートで最初は心細かったけど全然大丈夫でした。SUNNYさんのディレクションが上手なので。ラップはいつも通り、自分で自由にやらせていただきましたけど(笑)。

――特にこだわった部分があれば教えてください。

甲田:今回メロの感じが洋楽的な部分が多いんですけど、歌の中にも躍動感を出すような歌いまわしが今までの自分にはなかった部分なので、その場で何回も練習して臨みましたね。歌の抑揚って自分ではけっこう出しているつもりでも、かなり意識してつけないと音源になったときに出ないので、そこはちゃんとクリアに感じられるようにしたいと思いました。





――ラップについては?

甲田:ちょっとゆったりめのG-DRAGONみたいなイメージでした。それこそSouljaさんのバースが入ってくるイメージ。男性目線で書いている歌詞でもあるので、そのあたりはちょっと意識しました。過去二作と比べて半分ぐらいの時間で、4テイクぐらいを録って終わりましたね。

――歌詞はストーリー仕立てで、まさしく冬にぴったりな切ないラブソングになっています。

甲田:シチュエーションはドライブ・デートがいいなと思って。周りにドライブ・デートしてる友達がけっこう多いんです。付き合っている男の子の車に乗せてもらった、みたいな話もよく聞いていて。車の上に雪が積もっていて、その中でルーム・ランプを点けながら……みたいなイメージから“スノードーム”というモチーフも出てきました。そこから切ない気持ちをスノードームに閉じ込めたい、みたいなストーリーが生まれていった感じです。

――“ドライブ・デート”と聞くと、順調に進む幸せな恋模様をどうしても思い浮かべてしまうのですが、この曲はそうではないですよね。

甲田:そこ、最初はめっちゃ迷ったんですよ。どっちの方向性で書こうかなって。でも、「夢うらら」とかカップリングの「ごめんなさい」とかもそうでしたけど、書いていくうちに暗かったり切ない方向に行きがちで。でも、それが自分だよなって感じではあります。

――「夢うらら」もメッセージ的には前向きな応援歌でしたよね。でも、それをそのまま一筋縄で表現しないのが甲田さんらしいというか。

甲田:あはは。そうですね。そういう気質なんだと思います。いつかハッピーな曲も書きたいですけどね。

――作詞はスムーズでしたか?

甲田:けっこうサビが苦戦しました。メロウな曲に乗せる言葉ってやっぱり難しくて。ラップ以上に細かい意味まで考えなきゃいけないというか。こういうタイプの作詞は初挑戦でした。

――ミュージック・ビデオはどんな仕上がりですか?(※取材は公開前)

甲田:最高です。イメージ通りの世界観にできあがったと思うので。撮影している時点から手応えを感じていました。過去二作とはまた違う感じですね。

――見どころを紹介するとしたら?

甲田:歌詞にも出てくる車のビートルを実際に用意してもらったのと、あとは雪を降らせたシーンも綺麗なので見てほしいです。過去の回想シーンと今現在のシーンに分けて作っていて。そういうストーリー的な内容は、見ていて共感してもらえる部分なんじゃないかなと思ってます。




甲田まひる(Mahiru Coda) - Snowdome -


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自分のただ好きなものを残したい

――カップリング曲「SECM (Sausage Egg & Cheese Muffin) 」についても聞かせてください。打って変わってバキバキのヒップホップですね。

甲田:最初はプロデューサーも決めずに作り始めて。その時点でがーっとほとんど書き上げて、最後にビートとアレンジを誰に頼もうか考えたんです。タイトルに関しては……スタバのソーセージ・マフィンって食べたことあります…?

――スタバではないかもです。

甲田:ないかぁ。でも、別にスタバじゃなくてもいいんですけど、私って外出中にこういうタイプのマフィンをよく食べるんですよ。具はチーズと卵だけ、みたいな。コンビニとかでもあると思うんですけど。

――最近はよく見かけますよね。

甲田:好きすぎて、最近はちょっと控えるようにもしていたんですけど、思い出しちゃって。そういう自分のただ好きなものを残したい、曲の中に入れてあげたいと思ったのと、やっぱりラップなのでレペゼンしたいなって。自分はこういう人間だって宣言する、強めの曲にしようと思ったんです。そこから<MY STYLE>みたいなフレーズも出てきたんですけど、他人から見たら質素なパンみたいなものでも、自分にとっては欠かせないもの、めちゃくちゃ好きなものだったりする。それが“MY STYLE”なんだって意味合いで捉えてもらえたらなと思っています。




――<派手なDaysに憧れるけど/ときめくものOnly>というラインもありますが、決して見た目豪華なハンバーガーではないかもしれないけど……

甲田:「なんでそれ?」みたいなものだとしても、私はそれが食べたいんですよね。それってまったく違う価値観じゃないですか。他人の物差しで測られても…っていう。

――この感情はどんなところから湧いてきたんですか?

甲田:これはもう普段、生きていて感じることですかね(笑)。ラップって何でもアリじゃないですか。自分の身近にあるリアルがやっぱり大事だなとも思いつつ、この曲を聴いた誰かにも当てはまったりするっていう、そのバランス感が楽しくて。ラップはそういう遊びができるから、今回は好き放題やりましたね。

――アレンジはyung xansei。どんな流れで進めていきましたか?

甲田:自分だけで作ったデモは、歌詞がほとんど決まっていなくて、メロとフローだけがあるような状態で。yung xanseiはもともと知り合いだったわけじゃなくて、普段はアトランタに住んでいるんですけど、たまたま東京にいたときにライブで出会ったんですよ。そこで挨拶ださせていただいて、それ以降は会ってないんですけど、お願いしたら引き受けてくださって。yung xanseiがやってくれるなら、もう好きにやってほしいなと思ったので、そのこともお伝えして。けっこう自由に作っていただきました。

――そもそもyung xanseiにお願いしたかった理由は?

甲田:私も最近のトラップとか日本語ラップとかも聴くので、そのあたりの最先端のシーンでビートを作っている方というのは本当に理想だったんです。自分が作った曲が直近に出会った人と偶然重なったというか。

――アレンジの第一印象はいかがでしたか?

甲田:自分の好みにドンピシャなサウンドだったので、すごくテンションが上がりました。最初にデモを送ったときは、ちょっと整える感じで打ち直しをしてくださったんです。でも、「好きにアレンジしてもらって大丈夫です」とお伝えしたら、すぐにこれが返ってきて。なので、実質やり取りは一度だけ。その迷いのなさがかっこいいなと思いました。「私も歌録り頑張ろう」って刺激にもなりましたし。

――こちらの歌録りはセルフ・プロデュースですよね。

甲田:そうです。一人でやったんですよ。自分との戦いでしたね。

――表題曲とカップリング曲入りのEPがこれで3作目なので、楽曲数は6曲になりました。そろそろアルバム制作も視野に入ってきたのでは?

甲田:カップリング曲って毎回、表題曲を作り終えてニュース出ししたあとにレコーディングしたりしているので、意外とリード曲にも負けないぐらいの手応えがあったりして。「カップリング良かったよ」みたいな声もいただくし、気持ち的には全曲ミュージック・ビデオを作りたいぐらいなんです。なので、そうやってどんどん曲を出していきたいとも思うし、アルバムも今作を作り終えてから考え始めましたね。

――ここから先、どんな音楽を作っていきたいですか?

甲田:アルバムは近いうちに作りたいです。それに合わせてライブもやりたいですし。今回もまた、今までと違うところに進めた感じというか、ステップアップできた手応えがあるので、だんだんと目指している部分が見えてきたのかなと思います。ただ、「Snowdome」と「SECM (Sausage Egg & Cheese Muffin) 」って全然違う方向性だけど、熱量は一緒なんです。もしかしたら「やってることばらばらじゃん」と思われるかもしれないけど、今後もこういうスタイルでやっていくんだろうなって。

――いろんな楽曲にチャレンジしつつ、自分の琴線に響く音楽という軸はぶれないと。

甲田:ポップスをやりたいとは言っているけど、そうじゃない曲も好きで書いてるので。それぞれ熱量があれば、それだけで自分のスタイルだと思います。

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