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<インタビュー>claquepot、1stアルバム『the test』を通して提起する「自分は自分でいい」というテーマ
Interview:蜂須賀ちなみ
Photo:Yuma Totsuka
2019年より表立った活動を開始、作詞作曲のみならず自身の作品すべてのプロデュースを手掛ける謎のシンガーソングライター・claquepot(クラックポット)。コンスタントな楽曲リリースを行い、少ないメディア露出にもかかわらずじわじわと支持を広げてきた。そんな彼の初めてのフルアルバム『the test』には、かねてより親交があったというNovel Coreを迎えたリード曲「blue print feat. Novel Core」のほか、2019年7月以降にリリースしてきた作品もまとめられ、これからclaquepotを知るリスナーにもうってつけの作品に仕上がっている。
今回は、徐々にメディアへも顔出しを解禁しているclaquepotに、Billboard JAPANとして初めての撮り下ろしインタビューを実施。アルバムについてはもちろん、「claquepot」としての活動をどう捉えているのか、“もう一方”の活動との違いまで、彼のアティチュードが深く伝わる話を聞くことができた。
claquepotは“趣味の延長線上”
――2019年2月の「むすんで」リリースとともに本格的に活動をスタートさせてから、約4年が経ちました。それ以前からYouTubeに楽曲をアップしていて、当時は趣味のような感覚だったとのことですが、今の自分にとって、claquepotでの活動はどのような場所ですか?
claquepot:ずっと変わらず、趣味の延長線上にあるものではありますね。始めた当初は、その時の環境でできる範囲内のことをやっていましたが、続けていくうちにできることが増えて、自分の頭の中にあるイメージをより実現できるようになっているのが楽しいです。
――当初は顔出しをしないスタイルで、その理由について「印象づけをしたくない」とおっしゃっていました。“人”を軸に展開されるエンタメに対して違和感を持っていたのでしょうか?
claquepot:違和感はめちゃくちゃありました。僕の場合は双子の弟の活動もあるので、“そういう人たちの派生でしょ?”という情報から入って、曲も聴かずにシャットアウトする方々が一定数いたんですよ。だけど本来は曲先行であるべきだと思っているので、そういう人たちに引っかからないような動きをしようと心がけながら活動していた時期はありましたね。
――最近は少しずつ顔出しもされていますよね。心境に変化があったのでしょうか?
claquepot:そうですね。今は少しだけ認知度が広がって、遊び心を持って「こっちは双子ですよね」と言ってくれる人も増えたので、あんまり細かくやらなくても楽しいかなと思い始めました。
――そしてこのたび、1stフルアルバム『the test』が完成しました。claquepotにとって初のフルアルバムですし、CDをリリースするのも今回が初めてですね。
claquepot:はい。「home sweet home」(2019年7月にリリースされた配信シングル)以降のシングルが全部入っているので、ベストアルバムを作らせてもらったような感覚です。来年から活動の進め方や仕組みをちょっとだけ変えようと思っているので、その前にいったんセーブしておこうと、アルバムをリリースすることに決めました。CDを出すことにしたのはファンの方から「盤を出さないんですか?」という質問をいただいたのも大きかったんですけど、僕自身、CDの大事さに最近改めて気づかされたのもあって。
――というと?
claquepot:山下達郎さんのアルバムが聴きたくて、ストリーミングにはないから、CDショップに買いに行ったんですよ。お店に行って、目当てのものを探して、レジに持って行って、家に帰ってから開封して……ということを数年ぶりにしたんですけど、それがすごく楽しくて、「そういえばCDってこういうものだったよね」と改めて思ったんです。今って、たとえばファンクにハマったとしても、ファンクのプレイリストを聴いたらそれで終わりというふうになってしまいがちじゃないですか。僕もそこに片足を突っ込んでいたけど、音楽にハマりたての頃は、友達の誰かが海外からビデオを持ってきて、それをみんなで何回も観て……ということをやっていたし、そのプロセスがあったからこそ、思い出込みで体に入ってきたんだと思い直して。
――それに、そのジャンルの音楽がどの国のものなのか、どんな時代背景から生まれたのか、どんな服装の人が演奏しているのか、アートワークはどんなテイストなのか……という情報は、プレイリストを再生するだけではわかりませんしね。
claquepot:本当にそうですね。僕らの世代はそういう感覚が染みついている最後の世代だから、時代遅れと言われても、そういうものは死守していこうと特に最近は思っています。やっぱり今は配信が主流だし、ボタンひとつ押せばすぐに音楽を聴けるのは便利ですけど、その分流れもすごく速くて。その流れに頑張ってついていく必要はないのかもしれないと感じているところですね。
『the test』というタイトルの意味
――このアルバムに『the test』というタイトルをつけたのはなぜですか?
claquepot:最初は『the best』にしようと思ったんですけど、安直すぎると思ったので、韻を踏みながら違う言葉にしようと考えていきました。2019年に出したEPが『DEMO』(デモ)で、2020年に出したEPが『press kit』(関係者向けの資料)だったんですよ。あと、自分の転換点になった「resume」(履歴書)という曲があるんですけど、基本、周りの人に認めてもらうまでの道のりを歩んでいるというか、資料を常に提出しているようなイメージがあって。
――常にプレゼンをしているような?
claquepot:そうです。たとえばライブを開催すると、もちろん来てくれたお客さんに届けることが最優先だけど、業界の人たちも観にくるじゃないですか。その時にどう受け取ってもらえるかというのも込みでライブをしているので、常にコンベンション(業界関係者向けの見本市)をやっているような感覚があるんです。で、この4年間で資料はある程度まとまってきたから、そろそろ試験をやってみようという意味を込めて、今回は『the test』という名前をつけて。
――面白い考え方ですね。
claquepot:claquepotの活動って、ニッチだと思うんですよ。世の中にはマイノリティを軽んじる人がいるので、そこに対してずっと提議しているような感覚はあります。あっちの活動も、元をたどればマイノリティから始まっているので。
――確かに、アンダーグラウンドで泥臭く積み重ねていた頃にはこちらのことなんて見向きもしなかったくせに、努力が実って評価がついてくるようになった途端、こちらの文脈を無視して、手のひらを返してすり寄ってくる人たちっていますよね。このアルバムには、そういう人に対して強い言葉を発している曲も収録されていて。
claquepot:「resume」なんてまさにそうですね。新卒のサラリーマンにも当てはまるように書いているんですけど、社会的に上の立場の人の中には若い人を軽んじる人もいるので、それはやっぱり気になります。「いや、履歴書読んでないじゃん」って言いたくなるというか。
――その感覚はすごくわかります。「resume」では風見鶏のように態度を変える人を批判していますが、claquepotには“世間のスピードに合わせず、自分のスピードを大事にすればいいんだ”と歌っている曲が多いですね。
claquepot:確かに。「世間よりも速く行こうぜ」と歌っている曲と「世間よりも遅くたっていいんじゃない?」と歌っている曲、両方あります。「自分は自分でいいでしょ?」というテーマが全体を通してありますね。
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僕は僕のスタンスで、前向きなことを書けばいい
――あと、思考を止めないといいますか、何秒か前に自分が歌ったことに対してすら懐疑的でいる姿勢が真摯だと感じました。たとえば「ahead」は冒頭で〈進め〉と連呼していますが、2番では〈進めって自分に言い聞かせてるだけで/気持ちよくなって満たされるのは/もういいかい? まだだよ〉と展開していきます。人の思考は常に変化するもので、確固たるものではないという感覚があるのでしょうか?
claquepot:僕自身、ひとつの目標に向かってまっすぐ進むタイプではなく、途中で違う道を探ってみるタイプで、疑ってかかったり斜に構えたりする節があるんですよね。それなのに「前に進もうぜ!」と無理やり歌うのは違うし、ストイックな曲はストイックな方々が書いたほうが説得力があるし、僕は僕のスタンスで前向きなことを書けばいいやと思っています。あとは、claquepotの活動を追ってくれている人、この活動を理解してくれている人が増えてきた実感から、「こっちではもっと言いたいことを言ってもいいか」という気持ちになれたのもあって。頑張りすぎず、ありのままのスタンスで書くことを意識した結果、途中でひっくり返しちゃうような曲が生まれがちになっているのかもしれないです。最近は、聴いてくれている人たちの中には、意外と僕属性の人もいるんだなと感じているところですね。
――「pointless」という曲にある〈ワンルーム限定のルール変更〉という歌詞は、claquepotの活動を象徴するフレーズであるように感じます。要は、曲を書く時のセオリーからあえて外れるのを楽しむスタンスというか。
claquepot:確かに。セオリーに沿って曲を書くのも勉強になるし楽しいんですけど、claquepotでは、「セオリーを意識せずに曲を作ってみたらどんな結果が出るだろうか」という実験をしているんですよね。たとえばこのアルバムには、「home sweet home」や「finder」、「tone」のようなやわらかいラブソングがいくつか収録されているんですが、こういう曲の歌詞を書く時は、ピークポイントをちょっとずらすことを意識しているんです。ラブソングって“出会い”か“別れ”を題材にしている曲が多いと思うんですけど、僕はそこをピークにするのが嫌だから、別れる手前とか、出会ったあとの後日談とか、ちょっとズレたところを意識的に切り取っているんですよね。出会いと別れを描いたいい曲は世の中にたくさんあるので、隙間を埋めるように曲を書く方が自分には合っているなと思います。
――なるほど。先ほどclaquepotの活動を“ニッチ”と表現していたのが気になったのですが。
claquepot:たとえば、超有名なアーティストの方がいるとするじゃないですか。1枚目のシングルも、2枚目のシングルも、3枚目のシングルも、全部チャートで1位を獲るような。そのあと4枚目のシングルでガクッと売り上げが下がることもあると思うんですけど、僕はその4曲目を好きになるタイプだったんです。小学生の頃からずっとそうでした。昔からそういうことが多かったので「なんで僕の好きな曲は世間からは受け入れられないんだろう?」と思っていたんですけど、大人になってからもずっとその感じが続いていて。
――だからこそ今は、claquepotの活動を通じて自分のニッチな趣味を追求していると。それと同時に、あちらの活動では、ヒットソングを狙って作るということを楽しんでやっていらっしゃいますよね。
claquepot:そうですね。楽しんでいますし、多分、自分の中にはたくさんのチャンネルがあるんだと思います。あっちの活動の時はいろいろと考えながら曲を作っているんですけど、claquepotに関しては、より趣味要素の強いチャンネルというか、いろいろな思考はいったん置いておいて、「やりたい」と思ったことをとりあえずやってみよう、というコーナーなんです。自分が本来何をしたくてこの業界に飛び込んだのかというと、やっぱりこういう活動がしたかったからだろうなと思うので、どっちも楽しいけど、最終的な着地点はここだという感覚はありますね。
――アルバムの1曲目には、Novel Coreさんをフィーチャリングゲストに迎えた新曲「blue print feat. Novel Core」が収録されています。この曲はどのように作っていきましたか?
「blue print feat. Novel Core」 / claquepot
claquepot:この曲のトラックは「flying」と同じくフィンランドの友達(Tido)に作ってもらったんですけど、彼とやりとりをしている中でこのトラックを聴いて、「これはコア(Novel Core)が今までやったことのなさそうなジャンルだな」と思ったんです。そもそもコアとは「一緒に曲を作りたいね」という話を前からしていたので、「じゃあこれで行こう」というふうに作り始めた記憶があります。コアとはLINEでやりとりをして、「あんまり温度を上げず、淡々と歌ってくれ」というふうにラップのディレクションもさせてもらったんですけど、「こういうの、最近やってなかったんですよね。楽しそうです」と言っていましたね。
――レコーディングはいかがでしたか?
claquepot:コアはピッチ感がいいですし、リズム感もめっちゃいいから、テイク数をそんなに重ねないんですよ。すぐに録り終わったので、「やっぱりコアはすごいな」と思いました。あと、僕らふたりは声質が似ているんですよ。しかも声質だけではなく、しゃくりあげ方とか、歌う時の癖まで似ていて。
――それは思いました。
claquepot:僕らですら分からなくなるくらいでした(笑)。なので、ミックスの処理で若干差をつけたんですけど、それがなかったらもっと似ていたと思いますね。
――歌詞はどのように考えていきましたか?
claquepot:コアも俺も、大きなものに吞まれそうになりながらいろいろ考えてソロ活動をしているということで、立ち位置がちょっと近いなと思ったんです。だからそういう目線の歌詞にしたいと思ったのと、この曲を聴いてくれる人に対してもちゃんと意味のある内容にしたかったので、「自分の目で見たもの、自分の耳で聴いたものをちゃんと信じましょう」という提起も含まれています。リスナーの方には「流行っている音楽だから聴いてみよう」ではなく、自分が本当にいいと思えるものを聴いてほしいなと思いますし、「そういうものをこっちだって作っていますよ」という言い方をしたかったですね。
――最後に、今後の活動について聞かせてください。
claquepot:曲作りは変わらず続けていきますし、リリースペースを落とさずにいきたいですね。あと、コロナ禍で出られなかったフェスもいっぱいあったので、来年はそれを回収できたらと思っています。まとめると、曲を出してライブもやるという、いわゆる普通のことを普通にやっていきたいという話になるんですけど。
――いちばん大事なことでもありますよね。
claquepot:そうですね、コロナ禍を経て、“当たり前”の大切さを改めて実感しているところです。
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