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<わたしたちと音楽 Vol.4>長屋晴子、peppe(緑黄色社会)音楽と向き合う中で外してきた、“女性だから”という枠
米ビルボードが2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。2022年はオリヴィア・ロドリゴが、過去にはビヨンセやマドンナなど錚々たるメンバーが受賞した名誉ある賞だ。Billboard JAPANでは、これまでニュースでアメリカの受賞者を発信してきたが、今年はついに、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足。女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』がスタートした。
今回のゲストは4人組男女混合バンド緑黄色社会の長屋晴子(vo, g)とpeppe(key)。高校時代にバンドを結成し活動10周年を迎えた今年、初の武道館公演を成功させるなど飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍している。しかし最近までボーカルの長屋は「このままでは続けられない」という思いを抱え、壁にぶつかっていたという。その壁をどうやって乗り越えたのか、そんな彼女の隣で過ごしてきたpeppeの思いや、乗り越えた先に見えてきたものについて聞いた。
(Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Live Photo: Azusa Takada)
性差を超えて、個性や内面を表現している人に憧れる
――お二人の、“憧れの女性”について聞かせてください。
長屋晴子(以下、長屋):私は大塚愛さんです。小さい頃から音楽や歌うことが好きだったのですが、大塚愛さんと出会ってさらに惹かれていきました。すごくキャッチーな「さくらんぼ」という曲を好きになったのですが、「かわいい!」という第一印象の奥に覗く関西弁でフレンドリーな人柄のギャップや好奇心旺盛な様子が魅力的だなと思ったんです。今でも、そのとき大塚愛さんに感じたような個性の強さやユニークなギャップを持っている女性に魅力を感じますし、自分もそうありたいなと思っています。
peppe:私は幼い頃から今まで強く一人の対象に憧れを持ったことがなくて、様々な人の良いところをピックアップしてリスト化して、“憧れの人物像”を描いてきました。リストに挙げた要素をできるだけ取り入れていって、自分をその”憧れの人物像”に寄せていくというか……その人物像を一言でいうなら、“凛とした女性”でしょうか。普段何か選択をするときにも、「凛とした女性ならどうするか」という視点を潜在意識に持っている気がしています。英語を勉強したり、本を読んだり、なるべく人から見られている意識を持ったり、小さいことでも積み重ねていきたいと思っています。
――お二人のことを“憧れの女性”としているリスナーもいると思うのですが、音楽活動に“女性であること”が影響していると思うことはありますか?
長屋:私が歌詞を書けば、それは女性目線ということにはなりますよね。女性を主語にした歌詞を男性が書くこともできるけれど、本質的な部分は書ききれないと思うので、そこは自分の素直な感情表現に意義があると思っています。あとボーカルとしては、高音が伸びる男性が増えてきて音域が広くなっている傾向があるので、自分の出せる低い声の限界を悔しく感じますね。
peppe:そういう生物学上の違いで制限はあるよね。私はキーボーディストとして、男性と比べて手が小さいのは残念ながら事実。でもその上で、弾き方など表現の面で自分の個性が出せるように意識しています。
“綺麗じゃない部分”も出していきたいと思った
長屋:あとは、世間から見たキャラクター像が限定されやすいというのは感じます。私は素の自分や内側にあるものを生々しくさらけ出しているバンドのステージや演奏に心が動かされるけれど、そうして表出するのは“綺麗な部分”だけではないはずじゃないですか。“綺麗じゃない部分”まで表現することで増す深みってあると思う。だけど私自身もバリアを張っているところがあったかもしれないし、周りからもそれを期待されているような気がしていて……。
peppe:長屋とは最近その話をしたんです。私は気がついていなかったけれど、言われてみて改めて考えると共感できる部分もありました。長屋は特にボーカルとして露出も多いですし、そう感じることが多かったのかもしれませんね。
長屋:自分自身、期待されている自分を見せることに甘んじていた部分もあります。SNSにも表面的に評価してもらえるようなコンテンツをアップしたり。でもそうしていたのは自分なのに、「綺麗ですね」という褒め言葉に対して素直に喜べない時期がありました。「見てほしいのはそこじゃない、歌を聞いてほしいし、もっと内面の燃えたぎっている部分を見てほしいのに」って。みんなの中で“理想の長屋晴子”、”理想の緑黄色社会”が固められてしまっていることがもどかしかったんです。
――その気持ちはメンバーにも共有したんですか?
peppe:武道館公演前に、メンバー全員で話し合いました。なかなか難しい部分だなと思いながらも、話してくれてみんなの共通認識になったから気がつけたこともあって、それに対しての対処はメンバーそれぞれ違うと思うのですが、気持ちがわかって良かったです。
長屋:peppeが「自分たちもその世間の期待に甘えていたよね」と言ってくれたのを覚えています。期待してくれているのは嬉しいし、それに乗っかるのは楽なんです。反発も起きないし。でも私が、もうその状態ではいられなくなってしまって、武道館公演では思いっきりやることにしました。メイクや髪型が崩れても、変な顔になっても、気にせず空っぽになるまで思いっきり。多少ピッチが乱れても、ハートの部分を伝えたいと思って、今はステージに立つようにしています。
深い部分で、多くの人に伝えていきたいことがある
――長屋さんの変化を近くで見ていて、peppeさんはどういう心境でしたか。
peppe:長屋の、音楽に向き合う熱意を感じました。私も、“女っぽく”見られるのを避けて意識的に衣装をパンツスタイルにしているようなこともあったのですが、長屋ほどそのことについて深くは考えていなかったかもしれない。同じバンドにいて同じ女性であっても、100%同じように感じることはなくて、私には私の進み方がある。だからこそ、メンバーがどう感じているかをその都度知っておかないと、バンド自体が崩れてしまうと思いますし、話してくれて良かったです。それにそのときは、メンバーだけじゃなくてスタッフもみんないるところで話ができたので、変化のタイミングになったのではないでしょうか。
長屋:私自身、話ができてすごく楽になりましたね。色々と吹っ切れて、ステージ上での振る舞いを変えられたことも自分を救いましたね。あとは先ほどお話しした歌詞に関しても、同じだと思うんです。女性であっても、自分の情けない部分や醜い部分までさらけ出して、リアルな気持ちを伝えていきたい。“強い女性”に憧れるけれど、いつもそうはできないところまで含めて、歌っていきたいですね。でも女性だけに届けたいというわけではなくて、そうすることで、男性からも女性からも共感してもらえるものになるんじゃないかと思います。広く伝えるために、歌詞の中での一人称をあえて“僕”にしようかなと思った時期もありました。でも言葉尻だけじゃなくて、もっと深い部分で多くの人に伝わるものを作っていきたいと今は思っています。
様々な価値観が受け入れられる今だからこそ感じること
――そういった意味では、緑黄色社会は男女分け隔てなく、多くの人からの支持を集めているバンドですね。
長屋:性差に関しての感覚って、世代によっても違うと思うんです。私たちのファンの方々からはあまり偏った意見を聞くことはないので、フラットな価値観の人も多いんじゃないかな。バンドを始めた時から、「国民的な存在になりたい」と思って歌ってきたので、年齢も性差も関係なく多くの人に聞いてもらえている今の状況はありがたいし、嬉しいですね。
peppe:本当にそうですね。でも業界に関していうと、まだ女性比率が少ないと感じるときはあります。私たちとしても、男女混合バンドだからこそ女性スタッフがいてくれると良いなと思うのですが、なかなかいないことも多くって……今となってはあまり気にせず、体調が芳しくない時には包み隠さず話すようになりました。音楽の話からはそれてしまうけれど、これまではテレビ番組を見ていてもメインのMCは男性で、アシスタントが女性という構図がお決まりでした。性別は関係なく能力のある人が然るべきポジションにつける、フラットな世の中になると良いなと思っています。
――色々と変化しつつある過渡期なのかもしれないですね。そんな今、振り返ってみてキャリア1年目の自分にアドバイスをするとしたら、何を伝えたいですか?
長屋:私は、今の時代に青春時代を過ごしたかったなと思う時があります。どんどん楽になっている気がしていますね。ファッションや髪型、価値観もより様々なスタイルの人がいますし、“ありのまま”を受け入れるムードがありますよね。その感じがすごく楽しい。
peppe:私たちが学生だった頃は、もう少しみんなが同じ一つのものを追いかけて、それが流行につながっているところがあったよね。そのラインから外れるのがこわかったりして。
長屋:それが今は多様な系統が受け入れられているから、自分の好きなようにやりやすくなった。自分がこの時代に青春を過ごしていたらどうなっていただろうと思うけれど、そう感じられるのもこの年齢になったからかな。その年頃だったら何かに流されそうになっているのかもしれないですね。でもそれって「自分で自分の枠を作って、可能性を狭めているんだよ」って、昔の自分に伝えたいです。
プロフィール
愛知県出身の4人組バンド。愛称は“リョクシャカ”。高校の同級生(長屋晴子、小林壱誓、peppe)と、小林の幼馴染・穴見真吾によって2012年に結成。2013年、10代限定ロックフェス【閃光ライオット】準優勝を皮切りに活動を本格化。2018年、1stアルバム『緑黄色社会』をリリース。以降、映画、ドラマ、アニメなどの主題歌を多数務めるなど躍進。結成10周年となる2022年はアルバム『Actor』をリリースし、自身最大規模の全国ツアー【Actor tour 2022】を開催。9月には初の日本武道館公演を成功させた。11月にはドラマ『ファーストペンギン!』主題歌「ミチヲユケ」を表題とした6thシングルを発表。長屋晴子の透明かつ力強い歌声と、個性やルーツの異なるメンバー全員が作曲に携わることにより生まれる楽曲のカラーバリエーション、ポップセンスにより、同世代の支持を多く集める。
関連リンク
緑黄色社会 × 日本武道館 “20122022”
2023/01/04 RELEASE
ESBL-2626 ¥ 5,500(税込)
Disc01
- 01.Alice
- 02.merry-go-round
- 03.Bitter
- 04.始まりの歌
- 05.アウトサイダー
- 06.陽はまた昇るから
- 07.愛のかたち
- 08.inori
- 09.想い人
- 10.夏を生きる
- 11.Shout Baby
- 12.マイルストーンの種
- 13.時のいたずら
- 14.Re
- 15.Actor
- 16.キャラクター
- 17.S.T.U.D
- 18.あのころ見た光
- 19.sabotage
- 20.Mela!
- 21.ブレス
- 22.またね
- 23.これからのこと、それからのこと
- 24.Behind The Scenes & Interview
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