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Day2「音楽チャンネルを運営するクリエイターが最低限知っておきたい、著作権徴収の仕組み」

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 2日目は、「音楽チャンネルを運営するクリエイターが最低限知っておきたい、著作権徴収の仕組み」について。Day1ではチャンネル収益を最大化する方法についてインタビューを行ったが、今回はさらに詳細なメカニズムを、Googleで音楽パートナーシップチームを統括する鬼頭氏、NexToneで著作権運用の窓口をはじめ幅広いサポートを行う伊藤氏にインタビューした。(Interview&Text:ヒガキ ユウカ / Photo:Ryuji Tatsumi)

・DAY1「音楽チャンネルを運営するクリエイターが、チャンネル収益を最大化する方法」

コンテンツIDでUGCからも著作権使用料を徴収

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――改めて、YouTube上で作詞者・作曲者が収益(著作権使用料)を得る方法を復習させてください。

鬼頭:YouTubeから著作者(作詞者・作曲者)へ還元できる収益分配は、現状大きく2つがあります。

 1つは、オフィシャルコンテンツの配信による収益還元。もう1つは、オフィシャルコンテンツの音源や映像を使ったUGC(User Generated Content)、いわゆる二次創作のコンテンツからの還元です。これはコンテンツIDによって成り立っています。もともとYouTubeの歴史はUGCから始まっていて、オフィシャルのコンテンツホルダーから提供されているものはあまりなかったんです。YouTubeの成長と共に徐々にコンテンツホルダーの理解が増えていって、オフィシャルコンテンツがどんどん投稿されるようになっていきました。そういった背景もあり、UGCで使われている権利物について、どうすれば権利者さんにコントローラビリティーと収益をお戻しできるかを急いで考え、2007年にはコンテンツIDという仕組みを実装したという流れです。

――コンテンツIDとはどんな仕組みなのでしょうか?

鬼頭:コンテンツIDとは、YouTube上で「権利物がどのUGCにどう使われているか」を検出する仕組みです。原盤や録音物を持つ権利者が、音源情報のコンテンツIDを登録いただくと、「フィンガープリント」という技術を使って、特定がスタートします。「フィンガープリント」は、音や映像の特徴点の情報を符号化する技術です。ユーザーがアップロードした動画をフィンガープリントでスキャンすることにより、同じ特徴点の音声情報もしくは映像情報が含まれたUGC動画を検出します。その特定したUGC動画に対して、以下の3つの選択肢を権利者が選んで適用することができます。

・アップロードさせたままにして収益化をする(マネタイズ)

・収益を生まない形で動画の視聴者に関する統計情報を入手してそのまま視聴可能にする(トラック)

・権利者側の意図しない使われ方なので視聴不能にする(ブロック)

 これによって、権利物が使われたUGC動画の一つひとつの対応をコントロールすることができるのが、コンテンツIDの基本的な仕組みです。


――アップロードしたときはブロックしなくていいやと思っても、途中で意向や事情が変わって、「やっぱりブロックしたい!」となることもありますよね。

鬼頭:そうですね。昔、法人で事例がありましたが「一定期間だけUGCを認めます」というキャンペーンのような取り組みをされた企業様がいました。「〇月〇日から〇月〇日まではブロックしませんが、それ以降はブロックします」といった具合です。そういうふうに、時間が経ったら対応を変えることはできます。

 最近多いのは先ほどと逆のパターンで、ある楽曲の販売もしくは配信開始日まではブロック設定にして、配信開始後はマネタイズ設定にするという方法です。特に原盤のほうでよくある話で、ある意味発売開始前のリーク対策ですね。

伊藤:コンテンツIDは音源と映像を両方登録できるので、クリエイターの方は、出来る限り音源や映像のコンテンツID運用を行うことをお勧めします。著作権の徴収の精度向上にも繋がります。

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原盤が使われていないUGCも特定できる

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――たとえばインストから制作した歌ってみたや、弾いてみたのように原盤が使われていないものも特定できるんですか?

鬼頭:できます。コンテンツIDでは原盤そのものの特徴点情報に加えて、原盤からメロディの特徴点情報を抜き出すことができます。そうすると原盤そのものが使われていなくても、メロディーラインの特徴点が共通していれば、特定できます。この技術により、原盤を使っていない歌ってみたや弾いてみたのUGCをチェックできるようになっています。


伊藤:自分で弾き語りをした場合なども、音源のフィンガープリントでは楽曲利用が検知できないので、メロディーマッチング用のフィンガープリントで検知することになります。一方で、たとえばボカロPさんが配布しているトラックを使った歌ってみた動画を投稿した場合は、原盤を使っているので音源のフィンガープリントによって楽曲利用が検知されます。

 弾き語りの場合は音源を使ってないので、著作権だけ使用していることになります。一方原盤を利用した歌ってみた動画の場合は、原盤と著作権の両方を使用しています。ここの違いが重要で、弾き語りの場合は、著作者は著作権使用料を受領できますが、原盤は使っていないので、原盤権利者(レコード会社やクリエイター本人など)は原盤使用料を受領することは出来ません。まとめると、フィンガープリント(音源マッチング&メロディーマッチング)によって各動画でどの楽曲が利用されているかの特定が行われ、著作権データベースと音源データベースが連携することにより、その特定された楽曲が何回再生されたかなどの情報が各権利者へのレポートされることになります。もちろん支払いも。

――フィンガープリントの精度はどれぐらい高いんでしょうか?

伊藤:原盤のマッチング精度は非常に高いと思います。一方、メロディーマッチングの方は、どうしても世の中に似ている曲が存在するため、メロディーマッチの対象を無理に広げ過ぎると必要以上にマッチしてしまい、混乱が生じるリスクがあります。よって、原盤のマッチングより、精度は下がると認識しています。

 ですから、ある程度のところまではスキャンで絞って、その後は我々NexToneなど管理事業者が人力で見て、聴いて、確認することが必要になってきます。そうしないと、誤った申し立てがたくさん生まれて、権利者間でトラブルになってしまうということにもなりかねません。

 メロディーマッチ、すなわち著作権のみを使用した動画の特定に関していうと、人的なチェックが必要なのが現状です。NexToneではそこにリソースを割いて、この対応を行っています。

 この作業によって、いかに正しく拾って権利者に分配できるかどうかが、管理事業者の腕の見せどころであるとも言えます。またNexToneでは外部のパートナー企業とも連携して、マニュアルマッチングの精度向上対策も行っています。


鬼頭:メロディーマッチについては、もうひとつ難しい部分があります。たとえば僕が人の曲の歌ってみたを投稿したとします。でも歌がへたくそ過ぎて、特徴点を再現できていないせいで、コンテンツIDのスキャンに僕の動画が引っ掛からないということもあり得るんです。

――せ、切ないですね……!

鬼頭:切ないんですけど、あくまでも歌っているのは人の曲ですし、本来であればメロディーマッチで補足しなければいけない。これが難しい所です。

 一方で別の事例では、とある曲をアラビア風のスケールでアレンジして、ギターで弾いてみた動画がありました。スケールを変えていても、あくまでその曲を弾いているので、当然権利物を使っていることになります。このケースでは、しっかりとコンテンツIDが機能し、権利物の利用が自動的に特定できていました。

――アレンジして弾くことで、原曲と違うバージョンで楽しむことを目的としたUGCも多いと思います。でも、作品のもとには原曲があるわけですし、「あの曲のアレンジなら聴いてみよう」という人もいますよね。

伊藤:原曲と違って聴こえても、権利物を使っていることには変わりありません。移調しても楽曲は楽曲なので、そこはちゃんと特定していかなければならないですよね。

――ただそうなってくると、人気曲を持っている方などは、フィンガープリントで特定されるUGCもかなりの数になってきそうです。収益管理の作業が膨大になってしまいませんか?

鬼頭:たとえば僕が権利者だとして、僕の楽曲が使われた際にどう対応するかをあらかじめ設定しておけるんです。僕が「アイラブユー」という曲を作ったとして、「『アイラブユー』がUGCで使われたら、基本的に全部収益化しよう」と考えた場合は、その曲のポリシーを「マネタイズ」に設定してコンテンツIDを登録しておきます。

 そうすればあとは何もしなくても、システムが自動的にUGCを捕まえにいって、広告が入り収益化できるような形になっています。ですので、UGCを一つひとつチェックする必要はありません。


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申し立てに対するよくある誤解とは?

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――YouTubeにおける音楽著作物の運用に関して、啓蒙が足りていないと感じる部分はありますか?

伊藤:権利物を使用しているチャンネルには申し立て、すなわち「これは〇〇の管理作品ですよ」という情報が届くんですが、初めて見るとびっくりしてしまう方もいらっしゃいます。

 本来は受け入れていただくしかないものなんですが、びっくりして、「違います、私そんな悪いことしてません」という意味で異議申し立てを行われることがあるんです。

 そうなった場合は、弊社の担当部門のスタッフから一件一件丁寧に仕組みを説明しています。「これは〇〇という曲を使っているので特定されました。この申し立てを受けて、使用料の徴収を行うことによって原曲の著作者にちゃんと使用料が行く形になるので、ご理解くださいね」という説明を、2017年から一件一件やり続けています。膨大な量になりますが、正しく権利者に分配するために重要な作業なんです。

――学生の投稿者も多いでしょうし、UGCを投稿しようとしたらいきなりものものしい通知が来たとなると、怖くなってしまう気持ちはわかりますね。

伊藤:もちろんGoogleさんが用意している説明のページもあるんですが、なかなか読むのも大変だと思います。そのあたりは我々もわかりやすいページや動画をつくったりして、啓蒙していきます。

 あとは、海外の著作権管理団体ともデータ上連携されているので、外国で何か問題が起きた場合や、誤ったデータが入っている場合は連絡をして修正していただいています。

鬼頭:申し立てには、コンテンツIDでヒットした場合と著作権でヒットした場合、あるいはその両方があります。概要欄の下の部分に表示されて誰でも見られるようになっているせいか、時々「違法団体から来ている」なんて噂が立つことがありますが、YouTubeからきちんと契約させていただいている方々なので、違法ということはありません。

 ただ、そもそもフィンガープリントのマッチングが正確でない可能性もあるので、不安なときはご自身が契約されているディストリビューターに聞いてみると、ちゃんと法人同士・会社同士で対応していただけるはずです。

伊藤:著作権の申立てが海外管理団体から行われることはありますが、違法な団体だったケースはこれまで確認したことはありません。NexToneでは、申立てが行われていない動画に対して積極的に申し立てを行っていますが、逆に間違って申立てが行われている場合、必要に応じて海外団体に連絡して取り下げるなどの対応も行っています。

――とはいえ、まだまだ難しい部分も多い仕組みだとは思います。YouTubeチャンネル運用全般について、権利者が何かわからないことや不安なことがあったときには、まずどこに聞けば良いのでしょうか?

鬼頭:文字が多くて恐縮なんですが、YouTubeには膨大なヘルプページがあります。一回そこで検索してみていただくと、意外といろんなことの回答が載っているので、文字の多さにめげずにまずはそこをしっかり読んでいただけると幸いです。

 また我々は、「YouTubeクリエーターアカデミー」といって、基本的なYouTubeの仕組みについて説明したエデュケーションサイトを運営しています。そちらではチャンネル運用に関するさまざまなヒントや、よく皆さんに誤解されそうなことなどを、ケースごとに説明しています。

 Google検索で、「YouTube 〇〇」と検索していただくと、そういったオフィシャルのマテリアルがたくさん出てきますので、まずはぜひご活用いただきたいと思っています。

伊藤:まずは鬼頭さんが仰ったように、YouTubeが用意しているものを読んでいただくのが一番だとは思うんですが、すごく複雑ではあるんですよね。一般の方があれを全部読んで理解するのは、なかなか難しい部分もあると思います。よって、「NexToneの管理楽曲を使いたい」または「使ったんだけど、これどうしたらいいんだろう」という場合は、NexToneにお問い合わせいただければ個別にサポートさせていただきます。


まとめ:音楽チャンネルを運営するクリエイターが最低限知っておきたい、著作権徴収の仕組み

コンテンツIDの目的は収益最大化だけでなく、自分の作品の使われ方を適切にコントロールすること。

楽曲の二次利用には、主に原盤情報と著作権情報の二種類がある。著作権使用料はメロディーマッチングで徴収。

申し立ては、コンテンツIDに登録されている作品が使われたときに自動的に行われる。

自身のチャンネルの状態をチェックして、不安があればディストリビューター等に相談しよう。

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