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<コラム>(sic)boyと米ラッパーnothing,nowhere.がコラボ、対照的な二人の感情が紡ぐ「Afraid??」を読み解く



コラム

Text:ノイ村

 UKの注目ラッパーLancey Fouxとタッグを組んだJP THE WAVYの「Lucky Star」(2021年)、カニエ・ウェスト『イーザス』などで知られるBrondinskiが全面プロデュースしたTohjiとLOOTAの『KUUGA』(2021年)などに代表される通り、近年の日本のヒップホップ・シーンにおいて、海外のプロデューサー/アーティストとのコラボレーションはもはや珍しいものではない。それも、かつて見られたような、ある種の「話題作り」のようなものではなく、双方のフィーリングが合致したことによって生まれる本来の意味での「コラボレーション」。そんな動きが次々と生まれている。

 11月23日に配信リリースされた(sic)boyとnothing,nowhere.のコラボレーション曲「Afraid??」もまた、まさにそんなコラボレーションの一つと言えるだろう。

 楽曲について語る前に、まずは両者について簡単に紹介しておきたい。東京都出身の(sic)boyは、自身がSoundCloudにアップロードした音源が話題となったことをきっかけに本格的にキャリアをスタートさせ、2020年にリリースされた「Heaven’s Drive feat. vividboooy」は、YouTubeの再生回数が1,200万回超えという大ヒットを記録。以降もlil aaronとのコラボ楽曲や、アメリカのアーティストたちと共にロサンゼルスで制作したアルバム『vanitas』をリリースするなど精力的に活動を続け、現在の日本のヒップホップ・シーンで最も注目を集めるアーティストの一人と言っても過言ではない。


(sic)boy,KM - Heaven's Drive feat.vividboooy


 一方、1992年にアメリカ・マサチューセッツ州で生まれ、バーモント州で育ったnothing,nowhere.ことJoseph Edward Mulherinもまた、自身の音源をSoundCloudにアップしたことによってブレイクのきっかけを掴んだ経歴の持ち主だ。2017年に1stアルバム『Reaper』をリリースした際には、ローリング・ストーン誌やニューヨーク・タイムズ誌といった老舗メディアを含む多くの音楽ファンからの注目を集め、翌年にはパニック!アット・ザ・ディスコらを擁する米国の人気音楽レーベル<Fueled by Ramen>と契約を結ぶ。以降もブリンク 182のドラマーであり、マシン・ガン・ケリーなどのプロデュースでも知られるトラヴィス・バーカーとのコラボEP『BLOODLUST』やフォール・アウト・ボーイのピート・ウェンツとのコラボ楽曲をリリースするなど、こちらも精力的な活動を続けている。


nothing,nowhere. x Travis Barker - destruction (Official Video)


 出自も世代も異なる彼らだが、両者の音楽性や表現の在り方には共通する部分も多い。90年代~2000年代のエモーショナルな、オルタナティブなロック・ミュージックに大きな影響を受けながらも、2010年代のヒップホップにおけるトラップ・シーンの熱狂にリアルタイムで触れたことによって、その両方を織り交ぜたハイブリッドな音楽を鳴らすようになったこと。日々を過ごす中で抱く自らの内面にある感情を、たとえそれがネガティブなものであろうとも、素直に、リアルなままに吐き出して表現しているということ。SNSなどの手段を通して積極的にファンと交流し、コミュニティを支えると同時に、自身もまたコミュニティに支えられていることなど、枚挙に暇がない。

 (sic)boy自身、以前からnothing,nowhere.のファンであることを公言しており、今回のコラボレーションは本人にとっても念願が叶った形だろう。だが、恐らくnothing,nowhere.側にとっても、全く異なる環境やルーツで育ったはずの彼に対して、どこか近いフィーリングを感じ取っていたのではないだろうか。今回のコラボレーションでは、両者に加えてリル・モジー「How I Been」といった話題作を手掛け、近年注目を集めるヒップホップ・コレクティブ、AG CLUBのメンバーでもあるSaint Patrickがプロデュースに関わっているが、叙情的な音使いを得意とする彼の起用もまた見事な人選だと言えるだろう。まさに理想的なコラボレーションがここに生まれたというわけだ。


Afraid?? feat. nothing,nowhere. (Visualizar by JACKSON kaki)


 今回のコラボレーション楽曲に付けられたタイトルは、「怖いのかい?」という意味を持つ「Afraid??」。トラックを再生すると<何も怖くないよ/君がいない夜を超える>という(sic)boyの言葉が飛び込んでくるが、その歌声は力強い一方で、今にも泣き出してしまいそうな儚さを内包しており、メランコリックな音色がその感情にそっと寄り添うように響く。(前作「君がいない世界」では<きみがいない世界は/きっとくだらなかった>と歌われていたにもかかわらず)誰かと離ればなれになってしまい、身も心もボロボロの状態となってもなお、「Afraid??」という問いかけを否定して必死で前へと進もうとする姿が、感情の爆発を表現するかのようなヒリヒリとしたギターのリフと力強いヒップホップのビートによって描かれていく。

 何より印象的なのは、(sic)boyの紡ぐ言葉が、外側への怒りと、それでもなお訪れる痛みを描いているのに対して、nothing,nowhere.は徹底的に内省的で、孤独の中で苦しくもがき、やがて諦めすら感じさせる姿を描いているということだ。だが、対照的とも思える二人の感情は、あくまでサビのフレーズへと帰結していく。様々な要素に溢れた「Afraid??」だが、聴けば聴くほどに、情景を想像するほどに、その言葉の強度が増していく。二人のアーティスト、二つの音楽性、「孤独」を前にした人物が抱く二つの感情。そんな様々なクロスオーバーを重ねることで「何も怖くないよ」というシンプルなメッセージが描かれていることに気付き、ハッとさせられる。

 「Afraid??」が描こうとしているのは、今という時代を生きる人々への希望の言葉だ。だが、言葉一つでは、そこにはもはや説得力など存在しないだろう。この楽曲が胸に突き刺さるのは、今、それを言うことがどれほど大変で、どれほど複雑な感情の上に成立しているのかを、(sic)boyとnothing,nowhere.が深く理解し、それを音楽によって見事に表現しきっているからだ。彼らの躍進と、今回のコラボレーションは、そんな今の時代の「リアル」を象徴しているとも言えるのではないだろうか。

 また、(sic)boy自身は、今回の楽曲のミュージック・ビデオのコメント欄において、(記事中でも言及した)前作と今作の歌詞の繋がりに触れるとともに、その言葉が年末に開催予定のワンマンライブのタイトル【HOLLOW】に繋がっていることを示唆している。本楽曲のリリースや様々な大舞台を経験するなど、大きな飛躍を遂げた(sic)boyの一年だったが、まだまだ終わる気配はないようだ。今回のコラボレーションをきっかけに知ったという方も、是非、これからの動きに注目していただきたい。

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