Special
<わたしたちと音楽 Vol.3>JUJU 傷ついた経験の度に、歌える曲が増えていく
米ビルボードが2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。2022年はオリヴィア・ロドリゴが、過去にはビヨンセやマドンナなど錚々たるメンバーが受賞した名誉ある賞だ。Billboard JAPANでは、これまでニュースでアメリカの受賞者を発信してきたが、今年はついに、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足。女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』がスタートした。
今回のゲストはJUJU。2022年3月には、敬愛してやまない松任谷由実さんのカバーアルバム『ユーミンをめぐる物語』を発売。2022年11月23日に公開された映画『母性』では、主題歌に新曲「花」を提供するなど、活動19年を超えて活躍はさらに飛躍している。パワフルな歌声で女性たちに勇気を与え続けるJUJUだが、彼女自身も女性たちの音楽から力を得てきた一人だという。
(Interview & Text:Rio Hirai(SOW SWEET PUBLISHING))
ベクトルの違う“憧れの女性たち”から、良いとこ取りをしてきた
――JUJUさんの「憧れの女性像」を教えてください。
JUJU:私の憧れの女性2大トップは、小さい頃からずっと松任谷由実さんとREBECCAのNOKKOさんです。お二人が作っている音楽が大好きなのはもちろんですが、それぞれが作品で描いたり自身が体現している女性像にとにかく憧れていて、小学生のときに出会ってから今まで強く影響を受け続けています。ユーミンから感じたのは、都会的でお洒落な大人の女性像。恋愛はもちろん、それ以外のことについてもコミュニケーションがとにかく洗練されていて、「こんな女性になりたい」と思ってきました。でも実際の私は“野良猫気質”でそんなにスマートではいられなかったりもして。そんなときに心の拠り所になったのがNOKKOさんでした。どこか野性味ある自由な女性像に救われてきました。どちらも強くて凛としていて、揺るがない。ベクトルが違うお二人ですが、私は自分にとって都合良く”良いとこ取り”をして、自己肯定感を高めるのに役立てていたのかもしれません。
――松任谷由実さんとNOKKOさんの音楽との出会いは、JUJUさん自身にどんな影響を与えてきたのでしょうか。
JUJU:私は、小さい頃は人の顔色を窺ってしまう子供だったんです。お二人のような強い女性に憧れつつも、なかなかそうはできなかった。私は18歳でニューヨークへ行ったんですけど、そこで出会った人々に「自分の生きたいように生きるべきだ」と教わりました。自分が生きる速度は自分で決めないと苦しくなってしまうと、思い知らされましたね。その経験を経て、改めて“憧れ”を実践できるようになったというか……実際に理想として描いていたような心持ちで過ごせるようになった気がします。日本に帰国してからも、色々な事情によって自分の信念が揺らぎそうになると、ユーミンやREBECCAの曲を聴いて軌道修正しています。
性別以上に、人のそれぞれ全く異なる部分を尊重したい
――JUJUさんが活動していく上で、“女性であること”をハードルに感じた経験はありますか。
JUJU:今のところ、全くないです。シンガーとしてデビューして今年で19周年目になりますが、私自身の活動で「これは女だったからやりづらかった」という経験は、改めて思い返してみてもないと思います。ただ、周りを見渡してみると仕組みを変えていく必要性は感じます。社会の仕組みって、60年以上前の高度成長期に作られたものだったりして、今の時代にそぐわないものも多いですよね。「女性のために」と作られたシステムでも、本当に必要なものを見極めて、時には時代に合わせて変えていかないと。例えば産休制度に関しても、本当は画一的な決まりじゃフォローしきれないですよね。女性でも男性でも、人それぞれ体力や家庭環境などのポテンシャルが全く違うのに「決まっているから」とルールだけに縛られてしまうと、デメリットの方が大きいことだってあるかもしれません。
――産休制度というお話が出ましたが、11月23日に発売された「花」が主題歌に使われている映画『母性』はその名の通り、母と娘を描いた物語ですね。
JUJU:『母性』という映画は女性が軸となるお話ですが、主題歌のタイトルの「花」には、“女性として”はもちろん、“人として”生きていくうえで「全ての個人を尊重しようよ」という思いを込めています。小さいときから、私たちは花には色々な種類があるのを知っていますよね。道端に咲いている名前も知らない花や、お花屋さんで作ってもらった立派なブーケに入っている花まで、咲くタイミングも咲き方もバラバラだけれどみんな良い。自分が決めた場所で、自分が決めた咲き方で、自分が好きな色で咲ければそれで良いよね、という思いで歌わせていただいています。この曲が、聴いた方が自分の心に素直になれているかを思い返すきっかけになったら嬉しいです。もしも「女性だから」という理由で悩んでいる方がいるとしたら、「“私”はこれで良いんだ」と思っていただきたいですね。
――お話を聞いていると、お考えに「人がそれぞれ多様であること」が根付いていらっしゃるように感じます。そう考えるようになったのは、いつ頃からなのでしょうか。
JUJU:子供の頃からだと思います。身の回りに、“変わった大人”がたくさんいたんです。家族を始め私の周りの大人たちは、そこに子供がいたってお構いなしと言うか、何も包み隠さない人ばかりだったんです。普通だったら、「子供にそんな話を聞かせちゃいけません!」となりそうなことも開けっ広げ。「いつかどこかで耳にするくらいなら、私たちの前で聞いておきなさい」という意識があったのかもしれません。何かわからないことがあればその場で身の回りの大人に聞けば良い。その方が、変な理解をしないで済むだろう、と。うちの親たちが集まっているところに、泣きながら悩み事を相談しに来る人がいたりして。でもそういう環境で育ったからこそ、「普段は楽しそうな人でも、こんな悩みがあるんだな」と想像できるようになったり、「大人の世界は大変なんだな」と子供ながらに思うようになりましたね。そのあとに行ったニューヨークは、人種も使う言語も様々な人たちが集まるところだったけれど、「表向きは見えなくても様々な悩みや問題を抱えている」というのは、私が子供この頃から見てきた世界と変わらないと思いました。
どうしても落ち込んでしまうときに歌う曲がある
――ある意味、英才教育を受けて育っていたのですね。JUJUさん自身は、悩みや問題とどう向き合ってきたのでしょうか。
JUJU:辛くなったときに、昔友達にもらった手紙を思い出すんです。そこに書いてあったのは、「どう過ごしても、1日は1日ですよ」という一言。生きていると色々なことがあるし、辛いときもある。それでも毎日は続くし、どう過ごしたとしても同じだけ時間は過ぎていく。ならば辛いことにばかり時間を使わないために、あまり重く捉えないようにしよう。私はその手紙から、そういうメッセージを読み取りました。だって、生きているうちで今日が一番若いわけじゃないですか。そして今日より明日の方が、1日大人になっただけ賢くなっているかもしれない。だから歳を重ねるのも怖くないし、何かを始めるのに遅すぎることもない。やっぱり、「どう過ごしても1日は1日」なんです。だから、どうやったとしてもうまくいくと思えば良い。でも、そう思えば良いはずなんだけど、ダメダメになることもあって……。
――わかってはいても、ダメになるときもありますよね。「どう過ごしても1日は1日」と思えないときの、対処する術はあるのでしょうか。
JUJU:私は往生際が悪いので、自分がダメな状態になっても自分のことを諦められないんです。ちゃんとしたいと思った時に自分を奮い立たせてくれるのは、ホイットニー・ヒューストンの「Greatest Love of All」の一節。「私は誰かの影に隠れた人生は生きない。成功しようが失敗しようが、少なくとも信じるままに生きたいの。何を奪われたとしても、私の尊厳は奪わせやしない」という歌詞に勇気をもらいました。自分を奮い立たせたい時に、この一節を大きな声で歌うようにしています。
――JUJUさんがそうやって自分を奮い立たせてステージに立つ姿やその歌声に、勇気をもらっている人もたくさんいると思います。
JUJU:そうだったら嬉しいな。何か痛い目にあっても、そこから学ぶことがたくさんあったら良いですよね。私は子供の頃から歌が好きで、ずっと歌手になりたいと願って、幸運にもその夢を叶えられた。それでも嫌なことや悲しいことはあるけれど、その度に「あぁ、これでまた歌える曲が一曲増えた」と思うから破綻せずに続けられています。歌を歌わない人でも、そう思えることがあるんじゃないかな。
プロフィール
シンガー
18歳で単身渡米。ニューヨークでシンガーとしての実績を積んだのち、2004年8月に「光の中へ」でメジャー・デビュー。2006年「奇跡を望むなら…」のヒットでブレイク、その後も「やさしさで溢れるように」「明日がくるなら」など、聴き手の物語に寄り添い、多彩なボーカル表現溢れる数多くの作品をリリース。ジャンル、洋邦問わず名曲を歌い継ぐこともライフ・ワークとし、カバー・アルバム『Request』シリーズやジャズ作『DELICIOUS』シリーズなどを発表。2020年4月には4枚組52曲収録のオールタイム・ベスト・アルバム『YOUR STORY』が大ヒットを記録。2022年3月、カバー・アルバム『ユーミンをめぐる物語』(Produced by 松任谷正隆 松任谷由実)をリリース。11月23日にはシングル「花」(映画『花』主題歌)をリリース。2023年5月より全国47都道府県で6年ぶりにライブ・ツアー【スナックJUJU】が“開店”することを発表している。
関連リンク
関連商品