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Day1「音楽チャンネルを運営するクリエイターが、チャンネル収益を最大化する方法」

インタビューバナー

 自身の楽曲をより多くの人に聴いてもらうために、今やYouTubeチャンネル運用や楽曲のデジタル配信は欠かせない。そのため、ファンを増やすためにクリエイターが気にしなければならないことは、年々増え、かつ複雑になってきている。

 しかし一部のトップクリエイターを除き、多くのクリエイターは、個人でインディペンデントな活動をしているはず。作品を制作しながら、自分で著作物の管理・運用までを独学でこなすのは至難の業なのではないだろうか。

 ついては、プラットフォーム運営の立場からGoogle、ディストリビューターとして日本で唯一のYouTubeの認定推奨配信パートナー企業であるNexTone、音楽出版事業を行うドワンゴ、実際のクリエイターの目線としてボカロPのEasyPopに、複雑化するYouTubeチャンネル運用についてインタビューを行った。

 Day1の今回は、「音楽チャンネルを運営するクリエイターが、チャンネル収益を最大化する方法」について。Googleでディストリビューターとの連携を担当する瀧口氏、NexToneでディストリビューション事業の全般を担当している垣内氏に話を聞いた。(Interview & Text:ヒガキ ユウカ / Photo:Ryuji Tatsumi)

UGCの存在は権利者の収益に直結している

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――近年UGC(User Generated Contents:いわゆる一般ユーザーによる投稿動画)の広がりは音楽業界からも注目され、ビルボード・ジャパンでも2020年に「Top User Generated Songs」のチャートが新設されました。UGCは公式コンテンツのヒットにも、影響を及ぼす存在になっているのでしょうか。

瀧口:間違いなくヒットに欠かせない要因になっています。UGCが活発になった背景には、コロナ禍以降YouTubeにおけるユーザー利用が、ユーザーそのものの数、そして一人当たりの視聴回数・時間、すべてにおいて大きく増えたことが作用しています。

 チャートをご覧いただけるとわかりますが、インターネットやYouTubeを中心に活動しているアーティストの楽曲が、上位に入ってきている。UGCの力が大きな後押しとなっており、もはやオフィシャルのコンテンツと同じぐらい、UGCには力があると言えます。


垣内:コンテンツID(※)の申立件数を見てみると、人気曲では1曲で10万件を超える申し立てが発生しています。これら全てのUGCがコンテンツIDの収益源となっているので、コンテンツホルダーへの分配額も、クリエイターの収益において、大きなシェアを占めるほどインパクトのある数字になってきています。

※コンテンツID=著作権者が自分の所有するコンテンツを含む YouTube 動画を発見しやすくするための、柔軟性の高い自動識別システム。ユーザーが投稿する動画にコンテンツID登録済みの著作物が含まれていると、自動的に申し立てが発生する仕組みとなっている。

――そんななか、YouTubeはクリエイターへの収益還元について、どういった体制で運用されているのでしょうか?

瀧口:クリエイターのみなさん、特に今回は音楽活動をされている方に向けた記事になると思いますが、みなさんに向けて我々としてはしっかり収益を還元していきたいと思っています。その方法として、コンテンツIDによるAVOD(広告配信)収益、サブスク配信によるSVOD収益があります。

 YouTubeを「公式コンテンツをアップする場」という位置づけで見ている方もまだいるのではないでしょうか。我々としてはそれだけではなく、自身の作品を見ていただくことでファンの方と繋がり、交流し、ファンの方を増やしていく、いわばSNSのようなコミュニケーションツールとして活用いただきたいと思っています。

 そうした活動をしていくなかで、我々はきちんと収益を還元させていただく。こういった形で、我々はアーティストさん・クリエイターさんをサポートできればと考えております。

 個人で活動している場合、ご自身でミュージックビデオや楽曲をYouTubeで発表しても、コンテンツID登録をしなければ、YouTubeの仕組み上ではUGC等からの収益を得ることができる著作物の扱いにはなっていません。YouTubeにおける音楽著作物運用の仕組みに乗るためにはコンテンツID登録をしていただく必要があるんですが、それができるのがNexToneさん始め、YouTubeのパートナーとなっているディストリビューターです。


垣内:我々がサポートしているチャンネルを見てみると、どうしてもコンテンツID運用の難易度が高いことや、一見複雑に見えるがゆえに収益を取りこぼしているようなケースが散見されます。そのような部分を、チャンネル運用のパートナーとして、ひとつずつ紐解いて収益の最大化に向けてサポートをさせて頂いています。


――素朴な疑問だったんですけど、YouTubeの収益モデルってなんでこんなに難しいんでしょう……?

瀧口:仰る通りで、我々としても「もっとシンプルにできたら」という思いはあります。ただ一方で、著作物が使用されたUGCをより正確に検出・特定してしっかり収益を還元させていただく。そこにはいろいろな権利者様が関わっているので適切に対応させていただいています。


垣内:複雑がゆえに細かい徴収や、権利者が望む細やかなコントロールが実現できている側面もありますよね。UGCのマッチング精度も高く、申し立ての取り下げや許可リストなどのコントロールも可能です。さらにポリシーの設定も自在にできるので、それらを国ごとやアセットごとにコントロールできます。となると、当然複雑になってくるので、完璧にオペレーションするにはそれなりのスキルとノウハウが必要になってくる、もはや専門的な領域だと感じています。


瀧口:アーティストさんやクリエイターさんは表現者もしくは発信者であり、作品の制作に専念したいだろうとは思います。それに対して著作物を管理運用すること、たとえば第三者のUGCに使われたときに、収益化するのかどのような対応をするのか。そういったことは別のスキルやノウハウが必要になってくる。そこをサポートしてくださるのがディストリビューターの皆さまなんです。

 アーティストさん・クリエイターさんにはクリエイティブ活動になるべく専念いただき、投稿した著作物の管理運用や収益化といった実務的な領域は、専門の方にお任せいただくのが良いのかなと思います。だからこそNexToneさんのように、仕組みと知識の両面でしっかりサポートされる会社さんの存在は重要なんですよね。


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日本唯一のPDPとして、NexToneができることとは?

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――そこでPDP(Preferred Distribution Partner:推奨配信会社パートナー)というワードが出てくるわけですね。NexToneはアジアパシフィックで初めてのPDP事例だそうですが、具体的にどういった立場なんでしょうか?

瀧口:PDPというのは、YouTubeが推奨する音楽配信パートナー企業のことです。昨年の11月にNexToneさんにこのPDP(推奨配信会社パートナー)になっていただきまして、日本では現状NexToneさんのみとなっています。


――それはすごいですね。なぜNexToneさんは推奨配信会社パートナーになることができたのでしょうか?

瀧口:NexToneさんはディストリビューターとしても長きに渡るノウハウが蓄積されている企業であり、インディペンデントなアーティストさん、クリエイターさんをサポートされていらっしゃいます。特にYouTubeにおいては、音楽配信、コンテンツID運用、チャンネルサポート、この三本柱が非常に重要なんですね。NexToneさんはこれらを全面的に支援されていて、運用のノウハウ・知識・経験・品質・運用体制すべてを高いレベルで整えていらっしゃいました。

 何より、全てのアーティスト・クリエイターが、活動を通してファンと交流して、最終的にちゃんと収益を上げていく……YouTubeが目指すこのエコシステムの実現に深く共感いただいています。信頼のおけるパートナーさんであるということで、PDPになっていただこうという話になりました。


垣内:当社は2014年からコンテンツIDの運用を開始しています。運用体制もだいぶ整ってきたなという自負はあったものの、推奨配信会社パートナーになるにあたっては、システムの連携、体制の構築、YouTubeエコシステムに関しての研究など、様々な準備に1年ぐらいはかかったと思います。Googleさん側にも、私たちがクリエイターや、お取引先のレーベルの方々にどういうことを提供していきたいのか、私たちの考えや方向性をお伝えし、いろいろなご担当者から緊密なサポートを頂きました。 


――PDPであるNexToneさんに、YouTube関連の運用を任せることで、権利者にはどんなメリットがあるのでしょうか?

垣内:運用の効率化と収益の向上という両側面においてメリットがあります。その中でも特にご紹介したい施策としては、「ミュージックチャンネル化」を行う取り組みです。チャンネル登録者数1,000人と視聴時間4,000時間のハードルをクリアすることで、YouTubeパートナープログラムに申請できることは、ご承知の通りかと思います。ただ音楽コンテンツを扱うクリエイターの場合、YouTubeパートナープログラムよりもミュージックチャンネル化をしたほうが多くの恩恵を享受できます。当社ではそのミュージックチャンネル化をするお手伝いをしています。

 ミュージックチャンネル化をすると、チャンネル収益が大幅にアップします。最近の事例でいうと、ミュージックチャンネル化を行ったことで、チャンネル自体の収益が1.5倍以上も向上したような事例もあります。さらには、著作権使用料をより確実に徴収できるようになることや、各種チャートにミュージックビデオの再生回数が集計されるようになるなど、様々なメリットがあります。

 ご自身でチャンネル運営されているクリエイターの方々の中でも、まだあまりご存じない方が多いと思うので、特に注力してクリエイターさんにご案内しています。これも先ほど瀧口さんが仰った三本の柱、すなわち音楽配信、コンテンツID、チャンネルサポートを主軸とする全般的なYouTube上のサポートをするための一環です。

 加えて、当社を介する大きなメリットは、公式アーティストチャンネル化の自動手続きです。次の章で詳しくお話しします。


公式アーティストチャンネル化すると、登録促進と露出増大につながる

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――公式アーティストチャンネルとは何でしょうか?

瀧口:公式アーティストチャンネルとは、YouTube上でアーティストチャンネルを見つけやすくするための仕組みのことです。YouTube上にはもともと、アーティストさんご自身によるチャンネルと、配信されている楽曲が集まる「トピックチャンネル」というものがあります。トピックチャンネルとは、配信楽曲やMVといった音楽作品がまとめられたもの。つまりデフォルトの状態では、YouTube上に2つのチャンネルが存在しているんですね。

 公式アーティストチャンネル化をすると、この2つが統合され、1つのアーティストチャンネルになります。分散していたユーザーのアクセスが一か所に統合されるので、チャンネル登録が促進されます。チャンネル名の横に「♪」のマークがついているものを見たことがあるユーザーさんもいると思いますが、これが公式アーティストチャンネルの目印です。

 またアーティスト名でYouTube検索をしたときに、通常の検索結果とは別枠で表示されるんです。ここには楽曲のリストも合わせて表示され、より発見しやすくなりますし、登録者数を増やす促進になります。


垣内:チャンネルのアナリティクス画面では、より詳細な分析データが表示され、UGCに関するデータも見られるようになります。あとはアーティストカードが生成され、ファーストビューで表示されるようになるなど、検索面でも実効性のあるメリットがあります。


瀧口:YouTube上での理想的なエコシステムは、冒頭にお話しした通りチャンネルを中心としてファンをつくっていくSNS的な活動です。公式アーティストチャンネル化をすると、YouTube Musicで配信している楽曲も紐づきますので、チャンネルに動画をアップロードする→楽曲も加わる→ユーザーに発見されやすくなる→ユーザーがチャンネルや作品を見る→いいねやコメントといった交流が発生する。YouTubeのアルゴリズムでは、ファンとの交流の活性度が高いものは、より多くのユーザーに見てもらった方が良いという評価になり、視聴後のレコメンドに表示されるなどさらに発見されやすくなります。このサイクルが強化されるのも、公式アーティストチャンネル化のメリットです。


――どうすれば公式アーティストチャンネル化できるのでしょうか?

垣内:申請の条件としては、YouTube Musicに1件楽曲を配信していることだけなので、皆様気軽にできますよね。レーベルやディストリビューターから申請を行った後、YouTube側でそれをレビューして承認を受けるという流れになります。その中で、PDPであるNexTone経由であれば、Googleさんと自動申請システム連携をさせていただいているので、スピーディーな申請ができるというわけです。公式アーティストチャンネル化を行うことで受けられるメリットはとても大きいので、ご自身のチャンネルに♪マークがまだついていない方は、是非申請のご連絡をお待ちしています。


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気軽に投稿できるYouTube ショートは、新しいファンとの接点になる

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――昨年日本でもYouTube ショートが実装され、力を入れていらっしゃるそうですね。

瀧口:従来のYouTubeといえば、長尺の動画を投稿・視聴するサービスという印象があると思います。一方でYouTube ショートは、スマホで簡単に投稿ができるので視聴ユーザー自身が投稿者として参加することができます。また、YouTubeクリエイターやアーティストにとってはYouTubeショートをきっかけに長尺動画をいかに見つけていただくか、チャンネルを発見していただくか、そういったところでプラスに働きます。

 ファンの方が、好きなアーティストさんの曲やお気に入りの曲を使って、自分自身で動画を投稿しようと考えるとします。でも普段YouTubeを見ている側の人にとって、1から動画を作るのはすごく大変なことだと思うんです。YouTube ショートの場合は、好きな楽曲を選んで、簡単なステップでスマホから投稿できます。そうするとYouTube上にあるUGC――YouTube ショートはUGCというより「UGC的な短尺動画」になりますが――の数が増えていきます。

 その結果、YouTube上で、楽曲を使ったYouTube ショート動画がどんどん増えていきます。YouTube ショートの動画にはオフィシャルコンテンツにつながるリンクが貼られていますので、オフィシャルの長尺の動画にもたくさんの人がくる。ファンが投稿したYouTube ショートが、オフィシャル動画への呼び水のような機能を果たすようになります。今やYouTubeはミュージックビデオのような長尺動画に加えて、短尺動画の両方を活かして自身のチャンネル活動を最大化できるマルチ・フォーマットのプラットフォームになっています。


――現状、権利者の方々はどんなふうに活用しているのでしょうか?

垣内:歌ってみたやチャレンジ系の動画はもちろん、アーティストの方でしたらライブの楽屋裏の映像を上げたりすることもありますね。プライベートで遊びに行ったときの映像に、自分の曲をBGMにして投稿することで、普段の活動とは違う一面を見せるとか。既に様々な事例が出てきていますし、ショート自体の機能もどんどんアップグレードされているので、そのあたりも非常に可能性を感じています。


瀧口:音楽をする方にとってYouTubeというと、MVやティザー映像、ライブ映像など、公式のカチっとした映像作品を上げていく方が多いんですが、YouTube ショートの場合はスマホで撮ってその場でアップできるカジュアルさが特徴です。アーティストさんのオフショット的な動画を上げることでファンが喜んだり、バズのきっかけにもなったりします。


まとめ:音楽チャンネルを運営するクリエイターが、チャンネル収益を最大化する方法

UGCはヒットに欠かせない要因。併せてコンテンツIDは既に大きな収益の柱になっている。

YPPからミュージックチャンネル化することで多くの恩恵を享受できる。

公式アーティストチャンネル(OAC)化することで、アルゴリズムのサイクルが強化される。

YouTube ショートはチャンネルへの呼び水として効果を発揮する。

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