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<インタビュー>anoが『チェンソーマン』とのコラボで拓いた新たな領域「ちゅ、多様性。」
anoが、新曲「ちゅ、多様性。」をリリースした。
この曲はTVアニメ『チェンソーマン』第7話のエンディング・テーマとして書き下ろされたナンバー。作曲を真部脩一(集団行動/ex-相対性理論)、作詞はあのと真部が共作し、編曲はTAKU INOUEが手掛けている。
「我愛你 酔いが覚めない」という歌い出しからユーモラスな言葉遊びが込められたサビまで、TVアニメ『チェンソーマン』7話で描かれる“とある場面”を彷彿とさせる、キュートさと中毒性を併せ持つこの曲。マキシマム ザ ホルモン、Eve、Aimer、Vaundyなど人気アーティストが担当し大きな話題を呼んでいる『チェンソーマン』の各回のエンディング・テーマの中でも、anoらしいユニークな仕上がりとなっている。
anoへのインタビューが実現。この曲の制作の裏側について、そしてクリープハイプの尾崎世界観が作詞作曲を手掛けた10月12日リリースのシングル「普変」について、話を聞いた。(Interview & Text:柴那典)
『チェンソーマン』7話じゃなかったら浮かばなかった言葉
――最初に『チェンソーマン』の話があったときの第一印象は?
ano:びっくりでしたね。自分が選んでいただいたのもびっくりだけど、12組のアーティストがエンディングを飾るのがすごいなって。そっちのインパクトがまず強かったです。
――『チェンソーマン』の魅力はどんなところに感じていましたか?
ano:幸せになりたいとか、僕たちみんなが一度思うようなことが根本的なテーマとしてあって。でも、そんな当たり前のことがすごく壮大になっていって。それはデンジの育ってきた環境もあるんですけど、デンジが自分の欲に忠実で、そこに純粋だからこそ、ぶっ飛んだ、常識のない、マンガならではの感じになっていて。僕自身も結局こういう活動していることって、自分の欲があるからこそ、そこにひた向きに頑張れると思っているので、重なる部分も多くて好きですね。
――好きなキャラクターをあげるなら?
ano:全員魅力的だから、選べないです。ポチタはやっぱりすごい可愛くて、自分の命と夢をデンジに捧げるのは自分だったら絶対できないなって思います。デンジも魅力的で、欲に純粋で、それが人間らしいんだけど、手段は選ばなくてめちゃくちゃなところ、その破滅的な感じが美しいと思って。両極端な部分を持っていて目が離せないキャラクターだなって思います。
――曲の制作にあたって、まずはアニメ制作サイドと打ち合わせみたいなものがあったりしたんですか。
ano:そうですね、ありました。一緒に作曲した真部脩一さんもいたんですけど、「7話のエンディングをお願いします」という話を事前に聞いていたので、その回のエンディングとして求めてくれることがどういうことかは大体わかっていて。「こういうことでいいんですよね」っていうことを話しました。その次から急に話が変わっていく、折返し地点みたいな回だったので、他のアーティストの方々とは違うような楽曲にしたいですね、みたいな話をしました。
――真部脩一さんとの共作は初めてでしたか?
ano:初めてです。
――あのさんは以前に相対性理論の曲を弾き語りでカバーしたりもしていましたよね。
ano:相対性理論は好きで、勝手に弾き語りをしていて。真部さんもその動画を観て、昔から知ってくれていたらしいんです。それであちらもやりたいと思ってくれていたらしいし、僕も今回一緒にやるなら真部さんがいいんじゃないかって提案させていただきました。
リクエスト一番多かったたぶん相対性理論さんです途中てきとーなってしまいましたLOVEずっきゅんも載せるねー。一個前はsyrup16gさんのさくらデス、 pic.twitter.com/lSECBYm9TO
— あの (@aNo2mass) April 3, 2020
――歌詞は共作とのことですが、どんな感じで制作していったんですか?
ano:TVサイズのワンコーラスを作っていくところからだったんですけど、まず僕が曲にしたいことを考えて、ある程度歌詞を書いていたんです。で、真部さんからもメロディを先行して送ってきてもらって。それを聴いて、改めて歌詞をハメていくみたいな感じで作っていきました。真部さんがメロディを送ってきたときに一緒につけてくれた歌詞もあったんですけれど、そこからはガラっと変えて僕が歌詞をつけて。それを送ったら真部さんも「あ、いいね。じゃあ、ここはこうしよう」とか「ここはこういう言葉を入れてみよう」みたいなラリーを3、4回やって。そんな感じで作っていきました。
――最初に書こうと思った出発点、とっかかりになったのはどんなところだったんでしょうか?
ano:『チェンソーマン』全体というよりは、7話の回ですね。トラウマというか、読んでて普通に「うえー」ってなるところで。僕は口の中にゲロ吐かれたりとかないから、こんなに気持ち悪い光景というか、気持ち悪い経験ってあるんだって思って。そこで純粋に感じたことを曲にしたいという。かつ、格好いい曲は他のアーティストさんが思いっきりやってくれると思ったから、そうじゃなくて、自分にしかできないことをやりたいと思って。可愛い感じとかポップな感じ、かつ、歌詞を読んだらカオスな感じを出したいと思って、そこをまず意識して入れていきました。だから、『チェンソーマン」の7話じゃなかったら自分には浮かばなかった言葉の並びでした。
――サビの「Get on chu!」というフレーズは、最初からあのさんのアイディアとしてあったんでしょうか?
ano:サビのメロが上がってきたときに僕の方で浮かんだ言葉で、メロがない段階では考えてなかったです。でも、真部さんの方の歌詞にあったわけでもなくて。やっぱりサビはキャッチーにしたかったし、『チェンソーマン』の7話はまさに「ゲロチュー」回だから、全面的に「ゲロチュー」って連呼しちゃっていいんじゃないかなって。メロを聴いて浮かんだ感じでした。
――『チェンソーマン』の7話じゃなかったら、このサビは出てこないですよね。
ano:そうですね。絶対にないですね。
――やってみてどうでしたか?
ano:楽しかったですね。こんなこと2度とないくらいのシチュエーションだったんで。それを無駄にせず歌詞にできたというか。7話だからこそっていうのもあるし、自分だからこそっていうところもあるし、最初は難しいとも思ったけど、いい挑戦になったと思います。
――歌詞やビジュアルは全体に中国っぽいモチーフがありますけれど、そのアイディアは?
ano:中国っぽくしようとかは全くなかったんですけど、Aメロの最初を僕が「我愛你」から始めちゃったから。「無問題」もそうだし、言葉で遊んだ場面が今回多かったから、そしたらどんどんそっち寄りになっていった感じです。響きを大事にしました。
――曲が完成しての手応えはどんな感じでしたか?
ano:自分的には、今までになかったような曲だから、果たしてこういう表現をしていいのかとかも思ったんです。これまで可愛い感じを遠ざけてきた部分もあったから。でも、そこを少し超えられたというか、自分的にまた表現が広げられたなというのはあって。そんな曲ができてよかったなっていうのもあるし。真部さんと自分がやる意味も持たせたかったから、お互いちゃんとぶつけ合って作れたので。早くみんなに聴いてほしいなって思ってます。
――ライブでも盛り上がりそうな感じがしますね。
ano:そうですね。振り付けもあるので、ライブでお客さんも楽しめるような曲になってるんじゃないかなって思います。『チェンソーマン』を意識した、奴隷っぽい感じもあるというか。マキマとデンジとの関係性とか、姫野との関係とか、いろんなことを意識したけど、作ってる時にはライブでのお客さんのこともちょっと意識して作った部分もあって。なんか、僕のファン、奴隷が多くて(笑)。そういうのもあって、喜んでもらえるといいなと思って書いたから。ライブは楽しみです。
尾崎世界観への信頼
――「普変」についての話も聞かせてください。これはあのさんにとってすごく大きな意味のある曲ができた感じがしますが、完成しての手応えは?
ano:自分にとってすごく大切な曲ができたという感じがありました。宝物をくれたというか。自分が思っていることを曲にすることはしてきたし、今後もしたいと思うんですけど、自分で自分のことを説明するのは苦手というか、嫌いだから、自分自身を説明するという曲は、やっぱり気がひけるっていうのがあって。そんな中で、尾崎(世界観)さんの言葉とか詩はすごく好きなんで、100%信頼してる気持ちもあって、今までの学校生活とか社会に対して僕が感じた感覚を全部書いて送ったら、それを上手く曲にしてくれたんです。本当に自分自身のことを歌ってる曲だなって思います。今までもないし、これからもあんまり自分じゃ書かないだろうなっていう曲ができました。
――尾崎世界観という人への信頼、この人だったらここまで踏み込んで曲にしてくれるという安心感みたいなものがきっとあったのではないかと思います。クリープハイプや尾崎さんの好きなポイントはどういうところにありましたか?
ano:やっぱり曲というか、詩ですね。尾崎さんの綴る言葉が好きです。 言葉って、良くも悪くも屈折して人に伝わったりするし、扱うのが難しいけれど、そのぶんいろんな意味を持っているものだから。尾崎さんは本当に人の心をえぐる言葉だったり、傷を治すような言葉だったり、そういうものを表現してる方だと思っていて。そこが好きです。だから共感することが多いし、尾崎さんも声のことで変って言われてきたし、自分もテレビとかで人から見られるようになって、何が普通で何が変だとかがわかんなくなってるってことも全部尾崎さんに伝えて。今までの経験とか、いろんなことを踏まえての信頼がありました。
――たしかに、尾崎世界観じゃないと、この曲は書けないと思いました。
ano:すごく向き合ってくれたみたいで。僕の声が楽器的だから「神かよ」とか「ムカつく」っていうワードが浮かんだって言ってくださったりとか、2番のAメロも、僕という存在がこの歌詞に対しての真逆にいると思ってるから詩にしたって言ってくれて。それは一番嬉しかったです。自分にとってもすごく強い武器になったし、本当にありがたいなと思います。
――2番には<顔出しなんてしなくても どこにでもある歌声で ありきたりを歌ってれば大丈夫 馬鹿みたいに回ってれば すぐに一億再生突破 地獄再生可能な負のエネルギー>というラインがあります。
ano:そこの歌詞は、 自分のひねくれてる部分を書いたのかなって思って聞いたら、そうじゃなくて、あのちゃんがその真逆にいるから出てきたっていうことを言ってくれて。そう見られてるっていうことが伝わっててよかったと思いました。これまで、自分がこだわりを持って音楽活動もタレント活動もしてきたことが結局無駄だなって思うこともめちゃくちゃあって。伝わんないんだなって思うことが本当に多かったから。なんで簡単な道を通らずにこうしてるかなんて誰にもわかんないし、自分はこだわりとか美学とか、いろんなものを持ってやってるんだけど、そんなの自分の中だけの話だから、伝わんないでしょって。 だからどうせ自分は遠回りするし、理解されないって思ってたけど、それが尾崎さんに伝わってたんだなって思って、そのことにすごく救われました。自分が反骨精神を持ってやってることもわかってくれてるんだって。
――このタイミングで「普変」という曲があるのは大きいですね。「ちゅ、多様性。」は遠くまで届いていくタイプの曲だけれども、「普変」はちゃんと自分の港に船をつないでおくための曲である。
ano:そうですね。まさにそうで、それがあるから、このタイミングで出したんですよね。そこは正直計算というより、自分的にしとかなきゃいけないことだと思っていたので。この曲があって、「ちゅ、多様性。」は、自分がこれからユーモアを持ってやっていきたいというところでのいい挑戦だったと思うので。よかったなって思ってます。
――では最後に。この先の活動に向けて、どんなことをやりたいと思っていますか?
ano:いくら遠くに届けるっていうことをやっていくとは言え、やっぱりいつも応援してくれてるファンの人が一番だと思ってるから、もうちょっとライブをする機会を増やしていきたいし、直接顔を見て言葉と音を届けていく機会を増やすだけじゃなくて、もっと世界観を大きく広げて楽しんでもらえるようにしていきたいなと思います。自分にしかできない表現で楽しませられたらいいなって思ってますね。
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