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吉永達世(つばさエンタテインメント社長)インタビュー「スパフルや水カンなどTikTokチャート13週首位を獲得!つばさレコーズの歴史とヒットの秘訣を語る」
2000年代に無名の新人だった女性シンガーソングライター・川嶋あいをスターダムに押し上げ、2010年代にはパンク系アイドルの先駆け的存在・BiSや新時代のトリックスター・水曜日のカンパネラなどをブレイクさせてきたつばさレコーズ。創業以来、唯一無二のポップアイコンを輩出してきた同社が2022年、またもや音楽シーンに新たな旋風を巻き起こしている。
Billboard JAPANチャートのTikTok Weekly Top 20において、THE SUPER FRUIT「チグハグ」が6週連続首位、水曜日のカンパネラ「エジソン」が3週連続首位など、約5か月間の中で13週にもわたって首位を獲得。幾多数多のメジャーレーベルがTikTok戦略に躍起となっている中、何ゆえにつばさレコーズはこのような突出した現象を生み出すに至ったのか。
その歴史と秘訣を知るべく、つばさレコーズ含むつばさグループ各社を経営するつばさエンタテインメント代表取締役社長/CEO・吉永達世にインタビューを敢行した。
Interviewer:平賀哲雄
女子高生のクチコミマーケティング~川嶋あいとの出逢い
--00年代、10年代、20年代にわたって個性的なアーティストを輩出し続けているつばさレコーズ。この音楽レーベルを立ち上げたきっかけから伺っていきたいのですが、以前から音楽ビジネスに強い興味を持たれていたんでしょうか?
吉永達世:全くなかったですね。当時は女子高生ブームが凄くて、女子高生のクチコミからモノを流行らせるような会社をやっていたんですよ。それがつばさエンタテインメントの基盤となるアイ・エヌ・ジーという会社なんですけど、実際は全く違うものではありますが、分かりやすく言うとインフルエンサーマーケティングみたいなことを渋谷でやっていたんです。女子高生の中で流行らせたい商品のプロモーションを頼まれて、多い年には200件ぐらいの商品を扱っていました。当時の女子高生ブームには大きく関わっていましたね。ただ、そうやってクライアントから頼まれてモノを売る仕事ばかりしていたので、それに次第に疲れ果ててしまって「自分たちの商品を売りたいな」と思い始めるんです。そのタイミングで、道端で歌っていた川嶋あいとたまたま出逢ったんですよ。--運命の出逢いですね。
吉永達世:それで彼女を売り出そうと思ったのが2002年。ただ、アイ・エヌ・ジーでの本業は本業でもちろんやらなきゃいけなかったので、学生たちと別に会社を立ち上げたんです。それがつばさレコーズの前身となるダブルウィング。で、2003年の2月14日にI WiSH名義の『明日への扉』(フジテレビ系バラエティー番組『あいのり』主題歌)をリリースしたら、いきなりセールスチャート1位を獲っちゃったんで。あれは衝撃でしたね。めちゃくちゃコスパが良かったんですよ。学生たちで売り出したら億単位の売り上げが入ってきたわけですから(笑)。--そもそも川嶋あいさんのどんなところに魅力を感じて「売り出そう」と思ったんですか?
吉永達世:僕自身は堀ちえみ「青い夏のエピローグ」のレコードとKiroro「長い間」のCDしか持ってないぐらい(笑)そんなに音楽に興味があったわけではなくて。でも、たまたま川嶋が道端で一生懸命歌っていて……『マッチ売りの少女』以外の何者でもなかったんですよ。ただ、歌は上手いし、声がすごく綺麗だなと思って。だから比較じゃないんです。この子とこの子を比べてこっちを選ぶとかじゃなくて、もうその子しかいなかったというか、僕の中では川嶋しかいなかった。それで「この子、何とかしてあげよう」と思った。ただそれだけです。--慈愛の気持ちが芽生えたと。
吉永達世:最初はボランティアの気持ちが強かった気がします。当時15歳だったんで。なので、彼女はその後『あいのり』の主題歌に起用されたり、目標だった渋谷公会堂でのワンマンライブを実現したり、いろいろ結果を出していくんですけど、最初からそこを狙っていたわけじゃないんですよ。2002年の6月ぐらいに彼女の故郷である福岡まで契約しに行って、その2ヵ月後の8月20日にお母さんが亡くなってしまって、彼女は天涯孤独になってしまったんです。それで「僕らで何とかしよう」ということで、まだ音楽業界にまったく人脈なんてなかったんですけど、それでも全力でいろんなところに奔走して。だって、そのまま放っておいたらどうなるか分からないじゃないですか。親を亡くして、行き場を失い、夢しかない。でもその夢はお母さんを楽にさせる事だったんですよ。だったら僕らがお母さんの代わりになって一緒に夢を叶えようと。大変でしたけど、僕たちが新しい家族になろうと思っていろいろやっていましたね。- つばさレコーズの異端児イズム~BiS、水カンなどへ
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つばさレコーズの異端児イズム~BiS、水カンなどへ
--そんな川嶋あいさんをブレイクさせていく中で、音楽を売っていく為に必要なノウハウやネットワークを手に入れていったんですかね?
吉永達世:いや、逆ですよ。川嶋が売れたことによっていろんなオファーが来るようになったんですけど、僕らはそれまで違う世界にいたから音楽業界の常識を知らないわけですよ。それで横の繋がりとかを気にしないで好き勝手やっていたら「調子に乗ってる」と思われたわけです。だから、音楽業界から総スカンですよね。--それだけ異端児的な存在だったんでしょうね。
吉永達世:そうなんです。突然、音楽業界に入ってきて自由に動き回っているし、スタッフは常識のない学生しかいないし、まわりからすると「何やってんだ、あいつらは!」なんですよ。今はもう雪解けしていますけど、その当時は何も知らないから好き勝手やっちゃって大変でしたね。--ただ、その異端児イズムみたいなモノは、川嶋あいのマネージャーだった矢嶋さん(矢嶋健二/現ツインプラネット社長)、BiSのマネージャーだった渡辺さん(渡辺淳之介/現WACK社長)、水曜日のカンパネラのマネージャー・福永さん(福永泰朋)等々、2010年代以降のつばさレコーズで活躍していくアーティストやスタッフにも引き継がれていますよね。
--社長室が虎の穴だったわけですね(笑)。
吉永達世:みんな、社長室で僕を出し抜く方法を学んでいったんです。僕みたいな動物を制覇できたら、他に怖いものなんてないから(笑)。ただ、彼らはズルいんですよ。僕の悪いところは消して、良いところだけを吸収して、それを自分たちのオリジナルに昇華して活躍している。そりゃ上手くいきますよ。こっちは道を切り拓いてやっているんだから、僕にもそのやり方を教えろっていうね。近々、メモ持って聞きに行ってやろうかなと思っています(笑)。--そして、2022年現在。つばさレコーズはどんな会社になってきているなと感じていますか?
吉永達世:面白くなってきましたよね。やっと流れが来たのかなと思っています。僕がずっと疑問に思っていたことのいくつかがここ数年で崩壊しているので、すごくやりやすい環境になったなって。例えば、ファブリーズとかジョイって延々と売れ続けているじゃないですか。でも、曲って売り出した瞬間に売らないと聴かれないまま終わっちゃうモノだったんですよ。それが最近は擦られる時代になっている。つまり良いモノを作っておけば、長いこと楽しんでもらえる状況になってきているんです。それはテレビのタイアップとかなかなか取れない、既存の音楽業界のルールの中で戦える術を持っていなかったウチのような会社にとっては、ようやく勝負を挑める土壌が出来たということなんです。それで僕は2020年に復活したんですよ。関連リンク
ひらめブレイク~THE SUPER FRUITなどTikTok13週首位
--具体的には、どのような流れで復活されたんですか?
吉永達世:川嶋を売り出してから6年ぐらい音楽をやって、それ以降は他の連中に任せて僕は音楽業界から離れていたんですよ。でも、2020年にコロナ禍になって「どうだ? 売り上げは」とスタッフに聞いたときに「コロナだから厳しいです」と言われて。誰もがコロナを理由に売れないと言っていたので、それで「じゃあ、俺が一瞬で売ってやる」と宣言して売ったのが「ポケットからきゅんです!」のひらめだったんです。僕からしたら、コロナ禍は最大のチャンスだったんですよね。歴史がすべて証明しているんですけど、こういうとんでもないことが社会に起きたときって、必ず文化が生まれる。だから、このコロナ禍のあいだにいろいろ仕込んで、コロナ禍から明けたときに一気に広げる文化を創ろうと思っていたんですよね。ただ、ひらめが売れたときに「よし、売った!」と天狗になっちゃって(笑)。もっと広い視野で新しい文化を創ろうと思っていたけれども、その一発が想定よりあっという間に広がったので、鼻高々になって忘れちゃったんですよ。「ポケットからきゅんです!」が想定以上にブレイクして、デビューした年にTikTok大賞、マイナビティーンズの年間トレンドランキング1位を獲得、TVCMに3本起用されたりと社会現象みたいになって。▲ひらめ「ポケットからきゅんです!」
--ただ、その「ポケットからきゅんです!」をきっかけにつばさレコーズ発の楽曲が次々とTikTokでブレイクを果たしました。THE SUPER FRUIT「チグハグ」が6週連続首位、水曜日のカンパネラ「エジソン」が3週連続首位など、約5か月間の中で13週にもわたって首位を獲得。この状況にはどんな印象を持たれているんですか?
吉永達世:TikTokについてはすごく勉強しましたけど、いまだに詳しいわけではないんです。なので、別にTikTokにおける対策を練って狙い撃ちしたというよりかは、時代の流れの中でたまたまマッチしたメディアがTikTokだったという印象。だから「TikTokでバズらせる」というアプローチは考え方として持っていないです。インフルエンサーだけでは意味ないと思っていますし。例えば、今、目の前にあるコーヒーを流行らせてくださいと。それを有名ティックトッカーやインフルエンサーに渡して「美味しいです」と言ってもらう。それで注目はされますし「飲んでみようか」と思うかもしれないけど、そこまでじゃないですか。重要なのは、それがどういうものか表すキーワードなんですよ。そのキーワードなしにバラまいたところで流行るわけがない。もちろん偶然当たるモノもあるかもしれないけど、長く愛される商品にするのは無理だと思うんです。--そこを理解しているから、今現在、つばさレコーズの多くのアーティストや楽曲がブレイクしていると?
吉永達世:そもそも良いモノじゃないと何をやっても売れないんですけど、その良いモノとプロデュース能力の掛け合わせ。そこで相乗効果を生んでいくわけですけど、それを上手くいかせるには成功体験に裏付けされた感覚やセンスが重要なんです。どんなキーワードを使うかの話もそうですけど、先ほど名前を挙げた淳や福永はソレを持っていると思うんですよね。彼らはソレを死にものぐるいで体験してきたんで、体の中に売れる方法を身に付けているからアーティストや曲をヒットさせられるんですよ。だから僕らは強いんです。タイアップも獲れないし、CMも獲れないし、ただ良いモノを作っていくしかなかった会社なんですけど、それゆえに育まれた感覚を持って戦える状況が今出来上がっていると思うんですよ。どのレコード会社も「TikTokで当てなきゃ」と苦戦している中、ウチの楽曲が35週中13週も1位を獲っている。これがすべてを証明していますよね。--今の話を聞く限り、この先もヒットを連発していきそうですね。
吉永達世:次、また新しく仕掛けていこうと思っている計画がありまして、今メンバー募集中です。とんでもなくヒットさせますから見ていて下さい。とんでもない女子高生軍団を作りますから。その先は音楽以外のエンタテインメントも手掛けていきたくて。例えば、55年ぐらい変わっていない日本を代表するキャラクター、キティちゃんを超えるモノを作っていきたいとも思うし、エンタテインメントに関わることだったら、まだまだやれることがいっぱいあるんで。音楽ってみんな分かりやすく狙ってくるじゃないですか。でも、まだ狙われていない分野ってたくさんあるんで、そこに向けてもいろいろ仕掛けていきたいですね。Interviewer:平賀哲雄
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