Special
<インタビュー>LiSA『LANDER』ソロデビュー10周年を越えて、着陸した先は――未来へのワクワクが詰まった6thアルバムを語る
Interview:一条皓太
Photo:Shintaro Oki(fort)
LiSAの通算6枚目となるオリジナル・アルバム『LANDER』が完成した。“着陸船”と名付けられた本作は、幅広いタイアップ・ソングを収めた意欲作であると同時に、ソロデビュー10周年イヤーを終えて新たなディケードに突入したLiSA自身の今を、さながら宇宙旅行の如く星から星へと航行する旅路に重ねたコンセプト・アルバムでもある。
改めて向き合ったアニメ作品の主題歌に託した想い。愛するロック・サウンドに委ねた衝動。盟友とも呼ぶべきミュージシャンたちに送るリスペクトと感謝。そして、旅路の末にたどり着いた“新しい自分=NEW ME”の姿。LiSA本人に大いに語ってもらった。
新たな活動が始まる感覚を覚えた
――念のため最初に質問させてください。今回の『LANDER』はベスト・アルバムではないのですよね? TVアニメ主題歌やドラマ主題歌からCM、ニュース、さらにはW杯の番組公式テーマ・ソングまで、ありとあらゆるタイアップを総なめしていて、まさに“全部ある”状態ですが。
LiSA:改めて考えてみても、たくさんのタイアップをご一緒させていただきありがたいと感じています。前作アルバム『LEO-NiNE』発売から約2年が経ちましたが、私自身も楽曲を並べてみて、活動の幅が大きく広がった2年間だったと感じました。
――思えば、シングル『炎』が発売されたのも『LEO-NiNE』とまさに同日。「炎」は『LANDER』に収録されるなかで最も過去作になりますが、そうした意味ではアルバムの核となる楽曲だったのでは?
LiSA:むしろ「炎」がなければきっと、このアルバムも今回のような世界観にはなっていなかったと思います。「往け」や「HADASHi NO STEP」といった様々なテイストの楽曲に挑戦できたこともそう。何よりあの曲のおかげで、アルバムを作った私自身が新しい景色や素晴らしい栄光を見せてもらえたし、同時に色々な責任を背負わせてもらえたので。
LiSA 『炎』 -MUSiC CLiP-
――早速ですが、今回のアルバム・コンセプトを教えてください。
LiSA:タイトルの“LANDER”は、新たな惑星に着陸する“着陸船”という意味です。というのも、今年4月まではソロデビュー10周年を大々的に掲げて、私自身もその目標に向けて走ってきたんですよ。そんな10周年から新たな11周年への駆け出し、あるいは橋渡しの意味を込めて、どこか別の目的地に辿り着くものをコンセプトにしたいなと。
――11周年以降の活動に向けた“ロケットスタート”のような意味合いも兼ねていそうですね。このタイトルはどのようにして生まれたのでしょうか?
LiSA:今回の収録曲「NEW ME」の制作途中にソロデビュー10周年目を終えて、また新たな活動が始まる感覚を覚えたんですよね。ソロデビュー11周年を迎えるうえでの楽曲として「NEW ME」を作ってはいたものの、それ以前にも「往け」の制作時期からなんとなく漠然と、暗闇を駆け抜けて、晴れの日も雨の日も乗り越えてきたなと振り返ることがあったんです。そんな想いが徐々にイメージになり、今回のタイトルがひらめきました。
――シングルとはまた異なるフルレングスでのアルバムだからこそ、作品を通して描きたかったストーリー・ラインもあるかと思います。
LiSA:それこそ1曲目「往け」は、不安を振り払いながら前へと進んでいく決意の歌なので、宇宙旅行の始まりにぴったりなテーマ・ソングのようですよね。5曲目「明け星」は旅の途中に訪れる星のイメージだし、本当に色々な場所を巡る曲順みたい。そこからラスト・ナンバー「NEW ME」で新しい自分の世界に辿り着いて、見事にゴール!(笑)
――たしかに「明け星」は、宇宙旅行というテーマにも沿った名前をしていますね。とはいえ、これだけ強力な楽曲揃いだと曲順を決めるのにも相当悩んだかと。
LiSA:すごく悩みました。特に中盤は難しかったのですが、スタートの「往け」とラストの「NEW ME」の立ち位置が自分のなかでしっくりとくる瞬間があって。するともう全体のストーリーが自然と思い浮かびました。
――中盤の曲順でスタックしたと。
LiSA:「明け星」「白銀」「炎」をどのように並べようかと。アニメ作品の主題歌として、楽曲が持つ世界観もとても壮大なものですし、私自身も大切な楽曲だと思っているので。もちろん、色々なアイデアを考えたんです。それぞれを散らばる形で置いて、1曲ごとにじっくりと聴かせることも。ただ、例えば「炎」がアルバムのラスト・ナンバーになると、作品全体が持つイメージもきっと大きく変わりますよね?
LiSA 『明け星』 -MUSiC CLiP-(テレビアニメ「鬼滅の刃」無限列車編 オープニングテーマ)
LiSA 『白銀』 -MUSiC CLiP-(テレビアニメ「鬼滅の刃」無限列車編 エンディングテーマ)
――もっとシリアスな全体像になっていたかと。そうした試行錯誤を重ねたうえで、この3曲をアルバム中盤に固めた理由は?
LiSA:ここで作品(「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」、「TVアニメ『鬼滅の刃』無限列車編」)の世界観に浸ってもらうことで、次曲「逃飛行」へのエネルギーとなり、「NEW ME」への旅の物語が続いていくイメージを明確に描けたからです。また、アルバム序盤の時点で、「dis/connect」や「シャンプーソング」といった新曲によって、これまでとは違う自分を見せられたことも理由のひとつでした。私なりに勇気ある決断をしたつもりですが、結果的にこの曲順で大正解だったと思います!
やっぱりロックしかなかった
――取材序盤から作品の核心に迫るお話をたくさん聞くことができました。
LiSA:あの、全然違う話になるんですけど……。
――なんでしょう?
LiSA:『パロディウス』っていうゲーム、知っていますか?
――う~ん、思い浮かばないですね……。
LiSA:私より年下の方だと知らないかも(笑)。スーパーファミコンとか、新しめの機種だとPSPでも遊べたんですよ。
――ちょっと検索しましょうか。……あ、この派手なイラスト、見たことあります。
LiSA:本当ですか!? 宇宙空間を通って、次々と別の世界に切り替わっていくんですよ。人魚の世界、水中の世界、たしかお菓子の世界もあったかな。イラストもけっこう奇抜だし、しかも、めちゃめちゃ難しいんですよ。当時のゲームとか、容赦なく最初の面に戻されるものが多くて。
――いわゆる“平成レトロ”なあるあるが詰まったゲームですよね。ところで、なぜこのお話を?
LiSA:『LANDER』って『パロディウス』のイメージに近いと思っていて。宇宙が舞台だし、色々な世界を巡って旅をするし。
――なるほど、そこに繋がる流れだったのですね(笑)。ここからアルバム・オリジナル曲をピックアップして掘り下げていきますが、それこそ『パロディウス』のように次々と景色が切り替わる楽曲ばかりでした。各楽曲の方向性はどのように決まっていったのでしょう?
LiSA:前提として、タイアップで明確な色を持つ楽曲や頼もしいシングル楽曲がアルバムの柱になってくれていたので、その隙間に入れる楽曲では自分の素直な気持ちを歌いたいと考えていたんです。10周年を一生懸命に駆け抜けて、しばらくはその余韻に浸っていたかったからこそ、最初に生まれた楽曲は穏やかな曲調の「シフクノトキ」でした。
――新曲の大半がロックだからこそ、「シフクノトキ」というのは意外でした。
LiSA:本当はこんなにロックにするつもりはなくて(笑)。“作ろう”と思っていたのではなく、気づいたら生まれたものなんです。というのも「シフクノトキ」を作り終えてから「また次のライブをしたいな」「最近、なぜか鬱憤が溜まっているかも」という気持ちがふつふつと湧いてきてしまって。
『シフクノトキ』 -MUSiC CLiP-(カバヤ・ピュアラルグミCMソング)
――当初に思い描いていたルートから徐々に外れていったと。
LiSA:そういうこと(笑)。自分の気持ちを最大限に表現してくれるのは、やっぱりロックしかなかった。
――そんなロックでいえば、3曲目「dis/connect」はオントレンドな“日常系ロック”のように、言葉が詰め込まれた歌詞が印象的です。
LiSA:ピアノとギター、そして私の歌がどんどんと絡まるような楽曲ですよね。「dis/connect」はトラックが先にあって、そこに私自身の悩みや心のなかで渦巻いている気持ちを歌詞として素直に吐き出しました。それこそ1日で書き上げたかも。
――この長い歌詞をたった1日で!?
LiSA:そうなんです。ありがたいことですが、色々な責任を感じる場面も多かったからこそ、すべてをサウンドのせいにして、自分だけの気持ちをぶつけていいと言われているような感覚になれたんです。
――続く「シャンプーソング」は、どのような経緯で生まれたのでしょう?
LiSA:今回のアルバムでは、自分の好きなことを、自分の好きな人と、感情のままに表現してみたいと考えていて。そのうちのひとつが、佐々木亮介さんと一緒に曲作りをすることだったんです。佐々木さんが身を置くa flood of circleは、どんな時代であっても一生、芯を貫いてロックンロールをしているバンドなので、ロックを作るのならばぜひお願いをしたいなと。タイトルも佐々木さんが名付けてくださったもので、「色々な鬱憤やモヤモヤをLiSAちゃんが洗い流してくれたらいいのに」と仰っていました。
――「dis/connect」に続く“鬱憤晴らし系”の楽曲ですね。
LiSA:明るいサウンドなのに少しだけ切ないというか、ポップなのにべらぼうには明るくないというか。どこか闇を感じる楽曲ですよね。
自分自身が本当は何をしたかったのか
――同じロック・チューンでも、12曲目「悪女のオキテ」はまた少しテイストが違います。この楽曲には特に、LiSAさんの王道なダークさが滲み出ていている一方、今回のアルバムではいい意味で、それがギャップとなっている気がします。
LiSA:伝わりました? 実は「悪女のオキテ」はアルバム収録曲が出揃った後に、私が無理くり入れたものなんです(笑)。全体を通し聴きしたとき、頼もしいシングル曲が揃っているぶん、私はまだもう少しだけ心の内をさらけ出しきれていないんじゃないか。それに、たくさんの方々と曲作りをさせていただいたからこそ、ここで改めて腕試しができるんじゃないか。そう思ったものの、とはいえ人に迷惑を掛けるわけにはいかないので……自分で一曲作りました(笑)。
――たしかに「悪女のオキテ」のみ、作曲欄がLiSAさん単独名義ですね。
LiSA:そうなんです。「こんな曲あるんですけど、入れてもいいですか!」と楽曲を持参して収録させていただきました。
――そんな経緯だったんですね。とはいえ当時、すでに13曲が出揃っていたなかで、この楽曲をアルバム後半に配置した理由は?
LiSA:次の「dawn」の前に、アップテンポな曲でもう一走りをしたい気分だったので。やっぱり私は、80%で走ることができないんですよ。80%で今日を終えることを、私自身が許せないんだなって。
――ところで、今回のアルバムではところどころでボコーダーによるボーカル・エフェクトを取り入れていたり、ギターのローをあえて切ったりと、これまで以上にサウンドにおける遊び心が光っていました。LiSAさんの歌声も、いい意味で素材のように扱われている印象がありましたが、そのあたりは意識的に取り組まれたものなのでしょうか。
LiSA:言われてみると意識的なところだったかも。自らサウンドにオーダーを加えた部分こそないですが、曲選びをする段階で無意識的にそうした楽曲を好んでいたんでしょうね。というのも、自分の声を使って、エッジのあるサウンドやシリアスでソリッドな雰囲気を表現したかったんです。梶浦由記さんと共に作り上げた「明け星」「白銀」「炎」から“歌心”というものを勉強させていただいた感覚があって、だからこそ今度はその力で別の表現に挑戦してみたかったので。
――ソリッドなテイストと聞いて、まず「逃飛行」が思い浮かびました。こちらはサビの直前までが打ち込みでそれ以降が生バンドと、かなり攻めたトラックでしたね。
LiSA:「逃飛行」は本当に頭脳派な楽曲なんですよね。この楽曲はクラシカルなメロディにポップスの要素を落とし込んでいますが、梶浦さんの表現にも同じ印象を抱いていて。そんなイメージが、直前の「炎」から上手く繋げられたのかな。
――歌詞がどこかヒップホップ・テイストで、LiSAさんが過去に作品を提供されてきたtofubeatsさん(「た、い、せ、つ Pile up」編曲)や女王蜂のアヴちゃん(「GL」作詞作曲)のエッセンスも引き継がれているようでした。
LiSA:たしかに。この楽曲自体、ヒップホップのような耳触りの部分もあるからこそ、今回のメロディが自分のなかのヒップホップらしさを誘ってくれたような気がします。私自身、作詞時に歌鳴りといいますか、口で歌いたくなる言葉を最初に音で詰め込むようなスタイルなんですよ。
――なるほど。最後に「NEW ME」ですが、この楽曲だけ編曲者の人数が驚くくらいに多いですね。
LiSA:この楽曲はまず、堀江晶太くんとイメージのベースを作り上げて、それを今年春に開催したツアー【LiVE is Smile Always~Eve&Birth~】のリハーサル現場に持っていったんです。そこで、バンド・メンバー全員が自分の担当パートを制作してくれて。なので、編曲欄にバンド・メンバーが勢揃いという(笑)。
LiSA 『NEW ME』 -MUSiC CLiP-
――そんなエピソードが。実際のところ、今回のアルバムを通して“新しい自分=NEW ME”を見つけることはできましたか?
LiSA:新しい自分ではないですが、本当に大事なものは何だったのか。あるいは、自分自身が本当は何をしたかったのかを再確認する機会になりました。
未来へのワクワク感
――アルバムの話からは少し外れますが、LiSAさんはキャリア全体を通して、一曲分の歌詞を書き上げるのに要する時間は長くなりましたか?
LiSA:楽曲によりけりですね。それこそ、タイアップ楽曲は原作や脚本を読むところから制作が始まるので、私の気持ちが仕上がるだけでは歌詞を書き上げられないんです。それに、劇中での音楽の役割や、作品の一部を背負う責任感を意識しながらなので、完成までにはどうしても時間が掛かりますね。
――たしかにタイアップ楽曲には、歌詞の基となる作品と向き合う時間が必要でしたね。とはいえアーティストのなかには、一筆書きで書き上げた歌詞のほうがハイクオリティになるタイプも存在します。
LiSA:たしかに。でも私自身は、楽曲ごとに向き合っている時間でいうと、平均してそこまで変わらないと思うんですよ。
――というと?
LiSA:例えば「dis/connect」は歌詞を一日で書き上げましたが、トラックを聴いたその日から、日常のなかで「dis/connect」について考えていた時間は、他のタイアップ楽曲ともそこまで大差はなかったなと。あと私は、生活のなかで感じたことを日頃からメモする癖があるので、そうしたメモを取っている時間も含めると、むしろ一曲ごとの作詞にかかる時間はものすごく長いのかもしれないです。
――LiSAさんの作詞スタイルは、アウトプットよりもインプットに比重が置かれていそうですね。作詞をするうえで、以前よりも技術的に難しいことをしようと試みたりは?
LiSA:それがなくて(笑)。私は作詞をするとき、歌いながら歌詞を書くんですよ。それも、言葉ではなく音のイメージでばーっと。それで後から、その音に言葉の意味を付け足していくんです。だから技術というより、自分自身の人生経験や知識が増えるほど、表現力のある歌詞を書けるようになっていくんじゃないかな。
――よくわかりました。今回のアルバムには「往け」で作曲を務めるAyaseさんや、「一斉ノ喝采」を作曲した竹内羽瑠さんら、いわゆる後輩世代のクリエイターも参加しています。デビュー当時こそ自身よりも年齢が上の作家がほとんどだったかと思いますが、キャリア6枚目のアルバムともなると逆に、LiSAさんに影響されてきただろう方々と音楽を共にすることになるんですね。
LiSA:お二人とも一緒に楽曲制作をさせていただいて、とても刺激的だなと感じました。生きてきた世界線が違うからこそ、彼らの作るメロディは私のなかから生まれてこない類のものだし、自分の同世代に視野を広げてみたとしても、きっと同じ音楽は作れないと思う。音楽のなかに彼らが生きてきた世界が描かれるからこそ、そこに別の世代である私の歌が重なることで、新たな発見がたくさんあるんですよね。
LiSA 『往け』 -MUSiC CLiP- (『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』主題歌)
LiSA『一斉ノ喝采』 -MUSiC CLiP-
――反対に、例えば歌詞提供など、LiSAさんご自身のエッセンスを後輩アーティストに託したい想いは?
LiSA:もう少し修行させてください(笑)。
――いやいや、もうすでに素晴らしいキャリアをお持ちかと(笑)。
LiSA:でも本当に、誰かに対して歌詞を託せる方々の覚悟は物凄いものだと思います。歌詞って、つまりは自分自身の思想そのものじゃないですか。自分が認めているものでも他人がそうだとは限らないし、そんな意味を持った言葉や思想をシンガーに託すという行為は、すごく責任のあることだなって。だからこそ、私は作詞家さんに感謝を忘れることはないし、誰かに歌詞を託すにはまだ覚悟が足りていない気がするんです。
――LiSAさんだからこその想いがあるのですね。それでは最後に、『LANDER』を通してファンの方々にどんなメッセージを伝えたいかを教えてください。
LiSA:このアルバムを作り終えて、これからの未来にワクワクしています。それはLiSAとしての活動も、一人の人間としてもそう。たくさんの経験を重ねて、新しい音楽が生まれてくることにすごく心がときめくんです。『LANDER』を聴いてもらうことで、そんな未来へのワクワク感が皆さんのもとにも届けばうれしいな。
関連商品