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<インタビュー>BLUE ENCOUNT、最新曲「Z.E.R.O.」に込めたバンドの未来への“結論”
Interview&Text:小川智宏
今年6月にベース・辻村勇太が2023年以降アメリカに拠点を移すことを発表したBLUE ENCOUNT。楽曲制作には引き続き参加しつつも、バンドにとって重要なライブの場ではサポートメンバーを入れて活動をしていくという、他にあまり見ない未来像には驚いたが、そうしたある種イレギュラーな“結論”の背景には、以下のインタビューで語られているとおり、れっきとした理由があった。
その結論を踏まえてスタートした今年、彼らはこれまで「青」「終火」という2曲を配信リリースしてきたが、それらを聴くだけでも、今のBLUE ENCOUNTが非常に前向きで挑戦的ないい状態にいることは伝わってくる。そしてそんな今年のBLUE ENCOUNTの集大成といえるのが最新曲「Z.E.R.O.」だ。15周年を迎えた名作アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ R2』のリバイバル放送のエンディングテーマとして書き下ろされたこの曲。シンプルではあるけどスケール感の大きなサウンド、作品に寄り添いながら今放つべきメッセージをストレートに届ける歌詞。ずっしりとした手応えを感じるこの曲には、来年から新たなスタートを切るブルエンの未来がひらけている。
来年以降への“結論”を経て
――今年はすでに配信シングルで2曲、今回の「Z.E.R.O.」を合わせて3曲が生まれてきているわけですが、2022年、ここまでのところを振り返っていかがですか?
田邊駿一(Vo. / Gt.):今年6月に、辻村が来年以降アメリカに拠点を移すという発表をさせていただいたんですけど、それをやっと言えたことでファンに対しても世間に対しても隠すものがないという状態になって。2021年4月に横浜アリーナでライブをやって以降の1年は、世の中にどういうふうにバンドの未来を発信していくかということを考えて悩んでいた時期でしたけど、今はすべてさらけ出せている。だからライブがすごく楽しいですね。やっとスタートラインに立てたような気持ちです。
――曲を聴いてもすごく自然体で、のびのびとバンドをやっている感じがしますよね。BLUE ENCOUNTは「この会場でライブをやるために」とか「こういうコンセプトのアルバムを作るために」とか、タイミングごとにテーマを持って進んできたバンドだと思うけど、今年はフラットに、オープンにやれているんじゃないかなと。
田邊:そうですね。今年はめちゃくちゃライブもやっていますし、イベントやフェスにもたくさん呼んでもらっているし。今は自分たちのツアーも始まっているんですけど、改めてBLUE ENCOUNTというイメージが本当にいい意味でフラットになって、楽しめているなっていう感じはします。人がBLUE ENCOUNTをどう思っているかはどうでもよくて、単純にその日僕たちがやりたい、伝えたいメッセージを持った曲たちを選んで演奏するっていう感じなので、本当にただただ楽しい。
江口雄也(Gt.):ツジ(辻村勇太/Ba.)の件をちゃんとファンに伝えることができたのがやっぱり大きいんです。それ以降、メンバー4人の関係性もこれまでで一番なんじゃないかというくらいよくなって。ちゃんといろいろなことを話し合えているし、一体感もあるので、その中で作る楽曲やライブも、ちゃんといいものを見せることができているなという実感があります。
――やっぱり話してくれたように、辻村くんのアメリカ行きをちゃんと発表できたっていうことは大きかったんですか。
田邊:それが一番でかいんじゃないですかね。発表に向けてすべてが整うまで、去年いっぱい、ギリギリまでずっと話し合っていて。その時期って指針がちゃんと見えないなかでツアーをやっていたので、そこで歯切れよく話せない自分もいたんですよ。「未来は大丈夫だよ」とも言えないし、みんなすごく言葉を選んで話していて。そういうのってBLUE ENCOUNTらしくないなって思っていたんです。ステージに立っていても「何を話せばいいんだ?」っていうのがずっとあったし、そういう悩みを僕もメンバーもそれぞれ抱えていたんだと思います。でもツジはもう決断しているし、そこで俺が口火を切って「結局どうする?」って言い出したら、そこで何かが壊れちゃうんじゃないかとも思って。
――辻村くんの選択というのは理解しながらも、バンドとしてどうするのかという結論が出せないままモヤモヤしていたんだ。
田邊:そう。というのは、去年の4月にやった横浜アリーナでのライブが、すごくいい日だったんですよね。2日間、それぞれに色の違うすばらしいライブができて、「この4人だからいいんだな」っていうのを再確認したんです。この4人がいいし、この4人でまだ何も成し遂げてないなって思った。辻村のことが決まっている中でそれを感じたので、ずっとモヤモヤしていたんですよ。そのことにツアー後半に差し掛かるときにやっと気づけたので、ツジにもストレートに伝えて、彼ともお互いにわかり合うことができた。もちろんツジの一回きりの人生だし、俺らにとっても一回きりの人生だから、お互い楽しまないといけない。でもこの4人の集合体ってまだ何も成し遂げてないから、その目標もちゃんと達成できるのが最高の人生なんじゃないかって。
――結論としては、辻村くんはブルエンのメンバーのままアメリカに拠点を移して、制作活動には参加するけれどもライブはサポートメンバーとやっていく、ということになったんですけど、これ、すごく難しい答えを出したなと思うんです。
田邊:そうですね。絶妙なラインですよね。
――正直それは成立するのだろうか?とも思ったけど、今の話を聞くと、そこに至るまでにはいろいろな思いや考えがあったんですね。
田邊:いちばんはもちろん4人で、今まで通りにやれるのがいいんですよ。でも彼が決断したことがすごく自分たちにもいい影響を与えたなと思うのは、コロナ禍もそうですけど、そういう状況が逆に僕らに選択肢を与えてくれたという部分もあるなと。この2年、ライブが思うようにできなくなっていって、今は元に戻りつつあるけど、昔足を運んでくれていた人が戻ってきていない現状もあって。そうなったときに大事なことっていうのは、ミュージシャンとして作品を、自分たちの音楽をまだ聴いたことのない人たちに届けることなんじゃないかと考えたんですよね。ライブは今もとても大事な場所なのでこれからもずっと守っていきたいんですけど、守るためにはどんどん「同志」を増やしていかないといけない。そのためにどんどん楽曲をリリースしていきたい。それならツジがアメリカにいても全然できるじゃんって。もちろんどうやっていくのかの模索はしていますけど、いろいろアイディアが出てくるだろうし、それによって確実にバンドは強くなっていくなと思っています。僕もDTMを今まさに勉強していますし。
――DTM? 今までやっていなかったじゃん。
田邊:そう。そういうのが嫌でMP3プレイヤーで作った曲を録音していた人間なんですけど。でも、今のフェーズのBLUE ENCOUNTには絶対に必要だということがわかりました。僕の頭の中をできる限りDTMで表現してみんなに伝えて、その世界観にみんなが合わせていくっていう。それができれば、ツジがアメリカに行っても瞬時に曲ができるので。
――今年出した「青」や「終火」もそうやって新しい作り方で作っていったんですか?
田邊:そうですね。まさに「青」から、辻村はレコーディングスタジオに来ずに、アメリカにいることを想定して家でフレーズをフィックスさせて、そのままデータに落とし込んでもらったものと僕らがスタジオで録ったものとガッチャンコして。でも今回の「Z.E.R.O.」は逆にスタジオで、みんなでレコーディングしているんですけど。
――しかも、そうやって新しいやり方で作られた2曲が、アグレッシブなギターチューンとメロディの美しいバラードという、BLUE ENCOUNTというバンドの2つの側面をはっきりと打ち出す曲になっているという。
田邊:そうですね。「青」はツジのアメリカ行きを説明した生配信を行った発表した日の深夜、日付が変わる瞬間にリリースしたんですけど、今の決意をみんなに曲として伝えたいと思って作った曲。久々に気持ちいいままに、バンドの代表曲を作ったなっていう感じはすごくありますね。
江口:田邊からデモが届いたときから、みんな満場一致で「これを作りたい」っていうモードになったので、もうそれがすべてでした。作る前から「この曲は自分たちにとって大事な一曲になるな」という予感がしていたので、お客さんにも「これぞブルエンだ」って言ってもらえたっていうのも嬉しかったですね。
田邊:最初がすごくブルエンらしいこの曲だったからこそ、新しいやり方でも作ることができたんだと思います。最初の一歩だったのでめちゃくちゃ大変でしたけど、いい試金石になりました。
――だからこそ、今回シングルにも収録することにしたんでしょうしね。「終火」もすばらしい曲で、ああいうラブソングも久々だなという感じがします。
田邊:うん、ここ2年はこういう曲を書いていなかったなって感じですね。「終火」は「青」ができる前に作ったんですけど、その時点でもうフルコーラスができていて。でも誰にも聴かせないまま、その後にツジの発表だったり「青」の制作があったりして、気がつけば夏にリリースするにはギリギリのタイミングになっていたんです(笑)。「青」がうまくいったのもあって、新しいやり方ですぐできるだろうと思っていたんですけど、やってみたらアレンジが結構大変で。“夏の終わり”がテーマだったんですけど、メンバーの中でもそのイメージが違っていたりして。データのやり取りで作っていくのは簡単だと思っていたけど、そうじゃないこともあるなって(笑)。
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「Z.E.R.O.」のかつてない“壮大さ”
――「青」では感じられなかったハードルも経験できたということですね。
辻村:やっぱり、一緒にスタジオにいないなかで気持ちを伝え合うというのは難しいんだなと思いましたね。
田邊:ただでさえ、たとえば辻村がここ数年の間に出会った景色とか音楽はブルエンにすごく影響を与えているし、メンバーそれぞれの人生経験が音楽になって、どんどん新しいジャンルの曲を生み出せるようになっているので。それがあったからこそ「Z.E.R.O.」も作れたんだと思うんですけどね。
――その「Z.E.R.O.」は4人で、スタジオで作っていったんですね。
田邊:そう。だからこれは早かったですね。まさにその2作を経て、いいことも悪いことも全部咀嚼しての制作だったので。これは 『コードギアス 反逆のルルーシュ R2』のエンディングテーマのお話をいただいてから作った楽曲だったんですけど、僕も今回曲を作るにあたってNetflixで一気見してハマっちゃったんです。単にバトルシーンだけじゃなくて、ちゃんと人間模様が描かれているし、主人公ルルーシュのダークな部分の湾曲した感じもおもしろいし、僕の好きな世界観だったんですよね。だから一気に世界が見えて、コード感もウワモノも浮かびました。
「Z.E.R.O.」Music Video / BLUE ENCOUNT
――この曲はBLUE ENCOUNTらしさもあるけど、じつはとても新鮮なものになっていて。この切れ味と壮大さって、意外とブルエンは表現してこなかったなって。
田邊:「壮大なのをやりたい」って言って作った曲って、今までそうなってなかったんですよね。それを目指した曲って山ほどあるんですけど、4人の中で満点ではなかった。最初の僕の弾き語りだけのほうが壮大だよね、みたいなこともあったし、それを伝えきれていないなと思っていて。そこはやっぱりDTMに出会えたから表現できたんだと思います。楽しみながら世界観を表現していくことができた。
――確かにすごくシンプルな音だけど、そのぶん一つひとつの強度が増しているというか。だから壮大なんですよね。田邊くんの中のイメージをちゃんと4人で共有して鳴らすことができたんだろうなと思う。
田邊:自分がDTMを触りだして、こういうことなんだっていうのがわかってきたのもあるし、それが4人ともできている。今年のブルエンの集大成が垣間見えているかもしれないなって思います。
江口:でもこの曲、ギターはめっちゃ難しかったんです。フレーズ作る段階から田邊駿一から言われていた壮大でドラマティックなイメージを自分の中でうまく咀嚼できなくて。自分の中では今まででもトップレベルの難関でした。どちらかというと洋楽に近いサウンドだと思うんですけど、僕はそこの道を通ってこなかった人間なので、このレコーディングに合わせて新しいギターを買ったり、消化するのに苦労しました。
高村佳秀(Dr.):ドラムはもう引き算するだけの作業。そこで足す作業をしなかったのがよかったのかもしれないです。それもDTM上でパターンの細かいところとか、ニュアンスとかを何十種類も試して、そこからどれを引いたらいいのかというのを考えることができたのでよかったのかなと思います。
辻村:ベースも自分の「今」をちゃんと出せたかなと思います。最初にデモを聴いたときからちょっとアメリカっぽいベースを弾きたいなと思っていましたし、僕自身洋楽が好きなので、同じコードを使っているのになぜか空が広く見えるみたいな感覚を表現したいなと。その匂いを感じさせることって今のブルエンにとっても悪いことじゃないなと思っていたので、ドラムの音はこうしてほしいとか、周りの音に対する注文は結構したりしていました。
アニメとの関係
――歌詞は『反逆のルルーシュ』に寄り添いながら真っ直ぐに書いている感じがしますね。
田邊:ゼロ知識から作品に触れて、全部の世界観を食らった後で熱いままに書き上げました。今回は15周年のリバイバルで新たにエンディングを担当するという形なので、最初は作品のファンの方からどう思われるんだろうって不安だったんですけど、これは単純に僕の新訳として、作品に出会ったときに思ったままに書けばいいんだなと思って。だから筆も進んだんだろうなと思います。
――BLUE ENCOUNTはこれまでも『銀魂゚』や『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』、『僕のヒーローアカデミア』などいくつもアニメとのコラボレーションをしてきましたけど、改めて作品に寄り添いながらメッセージを歌うのがうまいですよね。
田邊:ああ、そうですかねえ。でも確かに、その都度楽しんでやれていますね。普通の人じゃできないことじゃないですか。その作品の一つの歯車にもなれるし、柱にもなれるし。自分たちの曲が作品の未来にもバンドの未来になっていく、こんなに最高なものはないなといつも思いますね。
――しかも振り返ってみると、そうやって作った曲がバンドにとっても重要なものになっている感じもしますし。
辻村:ライブでやっても楽しいですからね。
田邊:『僕のヒーローアカデミア』のオープニングテーマになった「ポラリス」は、世界とブルエンを繋いでくれましたし。でもそれも海外で聴いてほしいからではなくて、単純に「この作品に合うものはこれしか出せません」みたいな感覚なんです。今後もきっとそういう感覚だと思うんですよね。日本人は日本人の視点でしか作れないし、僕は僕の圧力でしかギターを弾けない。いろいろなものが聴かれる時代になったからこそ、逆にそういう部分をフィーチャーしていくのもいいんじゃないかなって。幸いにも日本のバンドは本当にアニメのようなカルチャーが味方してくれているので、これからもどんどんやらせてもらって、結果的に世界にも届いたらいいなって思っていますね。
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