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<インタビュー>竹内アンナ 黒田卓也&マーカス・Dとのコラボ、初の3か月連続配信リリースで見せる新境地
Interview:永堀アツオ
Text:Maiko Murata
Photo:Shintaro Oki(fort)
自在な作曲センスと確かなギタースキル、そして透明感のあるキュートな歌声が魅力のシンガー・ソングライター、竹内アンナ。そんな彼女が、現在行っている3か月連続配信リリースの第2弾として、「made my day feat. Takuya Kuroda / Marcus D」(以下「made my day」)を10月26日にリリースした。曲名の通り、フィーチャリングにジャズ・トランぺッターの黒田卓也と、ビートメイカーのマーカス・Dを迎え、これまでになくチルで大人っぽい表情を見せている。
Billboard JAPAN初登場となる今回では、自身初の試みとなった3か月連続配信リリースのことから、ジャンルにとらわれずに様々な姿を見せる彼女の今後の展望まで、たっぷりと語ってもらった。
初めての連続リリース
――現在、3か月連続配信リリースを行っている最中ですが、7月に配信リリースされた「泡沫SUMMER」から振り返ってもいいですか。竹内さんのアーティスト像がよりカラフルに変化した印象を受けていました。
竹内アンナ:私の中では、去年の夏にリリースした配信シングル「ICE CREAM.」がターニングポイントになっていて。当時、デビューから3年経って、自分で勝手に“私らしさ”を決めつけていた部分があったなと感じていたんですね。だから、それ以降は、一度、知らず知らずのうちに作っていた枠組みを取っ払って、自分らしさも人の目も気にせずに、思いきり振り切ってやってみようと思うようになって。曲作りや言葉選びに関しても、また違うフェーズに入れたかなという実感があったし、「ICE CREAM.」からは毎回、振り切ることの大切さを大事にしています。
――ニューレトロ/80’sシティポップに焦点を当てたサウンドになっていましたね。
竹内:そうですね。だから、「泡沫SUMMER」も思いきって振り切って、一緒に作ってるチームとシティポップのサウンドを研究して、一気にポップに寄せていこうと思っていました。
――歌詞も、その後の配信3か月連続リリースと繋がっているように感じました。「泡沫SUMMER」と第1弾「あいたいわ」はどちらも〈深夜2時〉の場面設定になっていますよね。
竹内:正直に言うと、特別何か大きな繋がりがあるわけではないんです。主人公も全部、別の人を立てているので。自分が曲を描くときは毎回、必ずショートストーリーみたいなものを挟んで作っているんです。その主人公は毎回、別の人が立っている。だから、お話の流れは繋がってるわけではないんですけど、テーマは一貫しています。
――3曲に通じるテーマというのは?
竹内:簡単に言うと、“すごく些細なことを大げさに描く”ってことですね。「泡沫SUMMER」は夜中にベランダでちょっと悩んでる、そのワンシーンを描いてるだけであって。「あいたいわ」も夜に電話するかしないかで迷ってるだけ。壮大なことを1曲に詰めるっていうよりは、ただのワンシーンをどれだけ丁寧に突き詰められるかということを、「泡沫SUMMER」のときから考えてて。だから、主人公は違うけど、ワンシーンは描くっていうのは共通していますね。
――夏の夜のベランダで〈電話しちゃおうかな〉と悩んでた女の子が、部屋に戻って、「あいたいわ」でさらに悶々とした時間を過ごした後に電話して、午前2時なのに相手が会いに来たというラブストーリーを想像していました。続く、第2弾「made my day」で午前4時、午前5時と時間が流れていくので。
竹内:確かに、蓋を開けてみるとすごく綺麗に繋がっていますよね。それは本当に偶然で、最初はリリースする曲の順番も違っていたんです。第3弾を1曲目にしようと思っていたくらいなんですけど、実際にこうして並べてみると、歌詞がすごく綺麗に繋がっていて。でも、それは、意図していなかったことですね。
――サウンド的には、「あいたいわ」はどう振り切ろうと思ってましたか。
竹内:夏にせっかく「泡沫SUMMER」というポップなサマーソングを出したので、そのままポップの波に乗っちゃおうと思って。「さらにポップってなんだ?」ってことで、ポップを突き詰めて、振り切ろうと思っていました。
――さらなるポップとは?
竹内:まとまったら負けというか(笑)。それは歌詞にも言えることなんですけど、サウンドもどれだけ大げさにできるかっていうのを考えながらやっていて。だから、ただ電話をするしかしないか悩んでる歌、っていうすごく小さなシーンなんだけど、ハープが入っていたり、たくさんの弦楽器を入れてもらったりして。
――ディズニー映画のテーマソングくらいのスケール感がありますよね。
竹内:確かに。脳内オーケストラじゃないですけど、この女の子が考えてる脳内で、とにかくいろんな楽器が鳴ってるっていうのを表現できたらいいなと思ったんです。
「あいたいわ (Lyric Video)」 / 竹内アンナ
――ラップも入っています。
竹内:ラップも、どこまでできるかな?みたいな。詰め込めるとこまで詰め込もうっていう、遊び心だけでやっています。私にとっては連続リリース自体が初めてだったので、せっかく短いスパンで出させてもらえるんだったら、いい意味で“遊びたいな”と思って、それぞれ、今まで自分がやってこなかったジャンル感にトライしたんです。「あいたいわ」ほどポップな曲もそんなにやったことがなかったし、めちゃくちゃBPMも速いし。
――速いパッセージのラップだけの曲も聴きたくなりました。
竹内:全部ラップの曲はまだ作ったことがないんですよね。今までやったことないジャンルにトライしてみたい、思ったことをやろうっていう気持ちで全部作ったんですけど、掘れば掘るほど、まだやったことないものがたくさんあるなと思って。3か月連続配信シングルを作った後に、「まだこれをやってないからやってみたいな」っていう、新しい制作意欲も生まれました。
リリース情報
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初めての一人旅、楽曲制作
――続く、第2弾「made my day」はローファイ・ヒップホップのようなビートになっていますが、どんなところから作り始めましたか?
竹内:これも“些細なワンシーンを切り取る”というテーマは一緒ですね。「あいたいわ」がすごく大げさに切り取ったとしたら、「made my day」はすごく丁寧に切り取りたいな、というところから始まって。ちょうどこのときに、初めての一人旅に行ったんです。曲作りをするという名目で秩父に行って。それも、行くのを決めたのは当日の夜中……たぶん2時とかだったんですけど(笑)。
――午前2時から午前5時にインスピレーションが湧くことが多いのかな?
竹内:あはははは。私が曲を作りたくなるピークなんですかね。明日のスケジュールは空いてるし、締め切りも近いから行こうと思い立って。その時間に宿を予約して、次の朝、バタバタで出て行ったんです。
――どうして秩父だったんですか?
竹内:1時間半ぐらいで行ける範囲で、かつ、自然が多いところに行きたいなと思って。電車に乗って、秩父駅からバスで30分ぐらいのところに行ったんですけど、とにかく自然がすごく多くて。宿から出ずに、ご飯を食べて、お風呂に入って、曲作りをして。その環境が良かったので、リラックスした状態で、「よし作るか!」となってできた曲です。
「made my day feat. Takuya Kuroda / Marcus D (Lyric Video)」 / 竹内アンナ
――フィーチャリング・アーティストを迎えたのはあとからですか?
竹内:そうですね。曲ができて、アレンジを詰めていったときに、「金管楽器欲しいよね。一緒に口ずさめたらいいよね。この曲、絶対合うよね」という話になって。スタッフさんから、黒田卓也さんの名前が出たんですよ。「え? 黒田さんにお願いできるんですか?」ってびっくりしちゃって……。私、前から黒田さんの曲を聞かせてもらっていたんです。最初に聞いたのが、ホセ・ジェームスのアルバム『ノー・ビギニング・ノー・エンド』(2013年)で、めっちゃカッコいい!と思って、そこからずっと聞いてるんですけど、やっぱり一聴しただけで黒田さんだとわかるのがすごいなって。だから、黒田さんのお名前が出たときに「絶対に黒田さんと一緒にやりたいです」ってお願いしたら、たまたま来日されていたタイミングで。レコーディングも日本でしてもらって、私も立ち会えたんです。その次の日には黒田さんのライブも観に行かせてもらったし、とにかく贅沢でしたね。
――レコーディング現場はどうでしたか?
竹内:1音目を出していただいたときから、もう「これだ!」って感じでした。私は黒田さんのトランペットのファンだったので、ただただ楽しかったですし、幸せでしたね。自分の曲の中に閉じ込めてもらえる、っていうことがすごく嬉しかったです。
――アウトロでは、一緒にハミングしていますよね。
竹内:黒田さんにレコーディングしていただいた後に、私もスキャットのように、黒田さんのフレーズをなぞるように歌ってみました。ただ、最後のフレーズがめちゃくちゃ難しくて「ちょっと難しいです」って泣きつきながら(笑)、何回も聞いて、なんとか無事に口ずさめました。
――さらに今回は、ビートメイカーのマーカス・Dさんも参加しています。
竹内:「黒田さんにお願いしたいよね」となった時に、ビートもやっぱりもっとドープなものがいいなと思って、マーカス・Dさんにお願いしました。最初に秩父で作ってたときは割と、「さわやかな歌になるといいな~」みたいな感じだったんですけど。
――そうですよね。自然に囲まれた田舎で作ったとは思えないサウンドに仕上がっています。
竹内:お二方のおかげで、だいぶ深いところまで行けたなと思いますね。
――リラックスしていたっていうところは繋がってるのかもしれない。チルっぽいムードでとてもメロウなメロディになっています。
竹内:そうですね。さわやかでありつつも、どこか気怠さみたいなのが出たらいいなと思っていて。実はこの曲、誰もグリッドに合っていないんですよ。私の歌も全部遅れてるし、合ってないのが正解、みたいな。とにかく後ろへ、後ろへと気怠くやってもらって。それがあったから、私も後に後ろに気持ちよく歌えてよかったですし、お二方のおかげですごく素晴らしいものに仕上がったなと思っています。
――歌詞は、どんな風景を切り取りたかったんですか。
竹内:窓の外がちょっとずつ夜から朝に向かって、明けていく。その1時間か2時間ぐらいを描いています。これも、ただ部屋の中で、ふたりでいる幸せな空間ですね。私としては、別にこの中に特別なことはひとつもない。いつも通りの日常ではあるんですけど、切り取り方によってはそれが特別になるなと思っていて。たとえば、スイカを食べているときも、ふたりで並んで食べるから美味しいよね、とか。ふたりで並んで飲むコーヒーが美味しかったとか。そこにフォーカスしてみると、それって実は幸せなんだよねって思うんです。普段の日常は別に映画やドラマみたいに劇的なことが起こるわけではないんだけど、自分の当たり前の日常の中を一つひとつ覗いてみると、その中に小さな幸せが隠れてるなと感じていて。そういう些細なところを丁寧に、額縁で切り取るように歌えたらいいなと思っていました。
――竹内さん自身の日常の「ささやかな幸せ」というと、何が思い浮かびますか。
竹内:私は、幸せのハードルを下げていて(笑)、なんでも幸せって思うようにしています。たとえば、信号に引っかからなかっただけで、今日はいい一日だって思う。あとは、電子レンジと湯沸しポットが同時に出来上がったらラッキーって思うし。どっちもタイミングよくできた、一緒に食べれるなって、すごく嬉しくなる。本当にそれくらいで幸せを感じるし、この歌詞も正直、それぐらいのレベルの話をしているんです。見る人が見たら「大したことないじゃん」って思うかもしれないけど、「自分にとっては、それが幸せなんだよね」みたいな。それでいいと思うんです。「あいたいわ」も「made my day」も、別に大したことは起きていないけれど、あなたにとってそれが劇的な感情の揺れであるんだったらそれでいいと思う。大したことないけど、それがあなたにとって幸せなんだったら、それでいいじゃんと思うんですよね。
――タイトルにはどんな意味を込めましたか?
竹内:これも“あなたが私の1日を作ってくれた”っていう、英語の慣用句ですね。1番は最初のデモから丸ごとあって、ほとんど変わっていないんです。最初に出てきたのが〈You made my day〉というフレーズ。言葉遊びがすごく好きなので、口ずさみながら、「何か似てる言葉ないかな」って探したときに、〈夢まで〉を〈You made my day〉っぽく歌ったら面白いなって思って。それは「あいたいわ」でもやっているんですけど。
――〈あいたいわ〉=〈LOVE VS WHAT?〉というフレーズがありますね。
竹内:そうですね。むちゃくちゃな当て字になってるんですけど(笑)。耳で聞いたときと、歌詞で見たときの2回、驚きがあると面白いなと思って。私も他のアーティストさんの歌詞を見たときに、「こんなこと言ってたんだ! 面白いな」と思うことがよくあるので、自分の曲でもそんな部分を作りたいなと思ってて。特に今回は意識してやっていますね。
――これまでにないジャンルにトライしつつ、歌唱法や声色もそれぞれ違っていますよね。
竹内:3作続くので、歌い方も3作変えたいなと思っていました。だから、割とバラバラの歌い方を意識してますね。「あいたいわ」は、とにかく“会いたい”っていうことを訴える曲だけど、重くならないようにポップに歌いたいなと思っていて。“会いたいんだよね”っていうことを、部屋の中でひとりカラオケしてるような気持ちで歌ったんです。「made my day」は逆にささやくように、マイクに近づいて歌いました。この曲の主人公ふたりで、小さい声で喋っている、みたいな気持ちで歌いましたね。
――鳥のさえずりも入ってましたが、これは秩父で?
竹内:いえ、秩父で録ったわけではなくて、音源で探しました(笑)。秩父に行った日は大雨に降られちゃって。山の方なんで、急に天気変わるんですよね。「え、そんなに大変なことになってるの?」って思うくらい、めちゃくちゃ警報も鳴っていて。雷の中で作りました。
「届いた後はもう“あなたの曲”」
――(笑)。リスナーには、楽曲がどのように届いたらいいなと思いますか。
竹内:自分が作っている間は“私の曲”だと思っているけれど、届いた先では自由に聴いてもらえたらいいなと思っていて。曲を作り始めたときからずっと一貫して、届いた後はもう“あなたの曲”だと思っているから、自由に受け取っていただいて構わないです。自分のシチュエーション、自分のお話に当てはめて聴いてもらえたらいいなと思っています。
――まだ発表前ですが、第3弾はどうなりそうですか。ハイパーポップなものがあり、好きなミュージシャンをフィーチャリングしたドープでローファイなビートがあり……。
竹内:そうですね。デビューのときから見ても、今まで作ってきた曲の振り幅は自分自身でもすごいなとは思うんですけど……。この4年間でいろんなジャンルにトライしてみていて、それでもまだやりきれてないことがたくさんあるんです。だから、まだできてないことをやるのも楽しいし、また原点に立ち返って、そこをさらに掘り下げていくというのもどんどんやっていきたい。幅も深さももっと広げていきたいなと思っているし、今ちょうど、この3か月連続配信の後の曲を作ってる最中なんです。それもまた面白いものになっているし、この3曲があったからこそできるなと感じていて。毎度毎度、皆さんに新鮮な驚きを届けたいなと思ってるので、ぜひ楽しみにしていてもらいたいですね。
――また、現在は重要文化財や現代建築物、劇場、カフェなどでの弾き語りツアーを開催中です。
竹内:この曲たちが、ライブでやるとまた別の顔をするんですよね。「あいたいわ」はもう弾き語りでやっているんですが、11月のライブからは「made my day」もひとりでの弾き語りでやるつもりをしていて。また全然違った顔、全然違った曲になるので、そこでも別の驚きをみんなに届けられるかなと思っています。
――「made my day」はビートも出していないんですか?
竹内:そうですね。今は、完全に自分のアコギと歌だけのいちばんシンプルなスタイルで弾き語りツアーをやっているので、ビートも一切出さずにやっています。だから、弾き語り用のアレンジを考え直して作っていて、音源とは全然違った雰囲気になると思いますね。他にも、「ソロライブ」として機材をガッツリ使ってやっているライブもあって、その時はサンプラーと手元のループマシーンを使うので、それもまた原曲とは違う感じになるし、バンドも入れたライブもあります。自分の場合、見ていただくライブによってアレンジが全然変わるんです。それは、やっている私にとっても面白いし、みなさんが聴いていても面白いと思うので、ライブにもぜひ遊びに来てもらいたいです。それこそ、「made my day」はBillboard Liveでやったら絶対に合うなと思っていて。あのステージにはまだ立ったことがないので、いつかBillboard Liveツアーをやってみたいですね。
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