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<インタビュー>yonawoが東京での共同生活の中で生んだ『Yonawo House』を語る

インタビューバナー

Interview:黒田 隆憲
Photo:堀内彩香

 今年3月に「ベッドタイムサウンド」をテーマに掲げた5曲入りのEP『Prescribing The... 』をリリースしたばかりの4人組バンドyonawoが、早くも通算3枚目のフルアルバム『Yonawo House』をリリースする。本作は、その名の通り自分たちのプライベートスタジオ「Yonawo House」にて制作された初のアルバム。これまで福岡を拠点に活動していた彼らが首都圏に移住を決め、共同生活をしながら作り上げた意欲作だ。例えばchelmicoの鈴木真海子、大分出身のラッパーSkaaiをフィーチャーしラップに挑戦した「tokyo」など、これまでの彼らにとっては「新機軸」ともいえる楽曲も収録。共同プロデューサーに元never young beach、PAELLASの阿南智史を迎え、アナログテープやアナログシンセなどを積極的に導入することで、より温かみのあるオーガニックなサウンドに仕上がっている。

共同生活から生まれた『Yonawo House』

――まずは、このタイミングで上京を決意した経緯を教えてもらえますか?

荒谷翔大:今までもバンド・メンバーと曲を作っていたんですけど、(音楽活動を始めて)5年経って、そろそろバンド・メンバーと一つのコンセプトを持った1枚を作りたいと思ったのが、そもそもの発端ではあります。俳優業ってまさにそうなんですけど、いわゆるメジャー作品とインディーズ作品というか、多くの人に観てもらうことを前提に作ったものと、よりインディペンデントに表現としてやったものって、やっぱりどこか違うと思うんです。そういうものを音楽業でも作ろうと思って。ちゃんと多くの人に聴いてもらえたり、タイアップに起用していただくことももちろん大事なことだから、そういう作品はメイン・ストリートの菅田将暉の曲としてあって。それとはまた違うものというか、なんならこうやって取材を受けるほどのことでもないというか(笑)。本当に“静かな旅”(『クワイエットジャーニー』)のほうをセカンド・ラインとして作ろうという、自由な表現が今回の作品です。

――共同生活をすることは、最初から決めていたんですか?

荒谷:上京するならシェアハウスにみんなで住んで、そこが住居兼スタジオになったらいいねとは話していました。それで物件を探して、都心から少し離れた場所ですが一人ずつ部屋のある一軒家を見つけました。(斉藤)雄哉の部屋が制作スペースみたいになっていて、そこにみんなで集まって曲を作ったりアレンジを練ったりしていますね。

野元喬文:ドラムもめちゃくちゃ爆音は出せないんですけど、ある程度ミュートして低音が出過ぎないようにすれば、一応そこでもレコーディングが出来る環境です。ドラム以外の楽器、例えばホーンやパーカッションなども昼間だったら余裕で録音できますね。

――では今回のアルバム『Yonawo House』も、作曲からレコーディング、ミックスまでほとんどそこで行ったのですか?

斉藤雄哉:いくつかの曲はドラムをワーナーのオフィスで録りましたが、それ以外の作業、曲作りからアレンジ、プリプロ、録音そしてミックスまで全てYonawo Houseで行いました。エンジニアリングも、僕と阿南(智史)くんでやっています。

――今回、共同プロデューサー/エンジニアとして阿南さんが関わることになったのはどんな経緯だったのでしょうか。

斉藤:ミックスエンジニアを誰に頼むかスタッフを含めて話し合っていたときに阿南くんが候補に上がりました。それで、顔合わせも兼ねてYonawo Houseに来てもらい、「今こういう曲をやってて」みたいな話をしているうちに楽しくなってきちゃって(笑)。阿南くんからも「ここは、こうしたら?」みたいなアドバイスをもらっているうちに、気づいたら共同プロデューサーみたいな立ち位置で関わってくれるようになっていました。

荒谷:デモの段階から阿南くんと考えた曲も結構あるんですよ。例えば「Lonely」のイントロは阿南さんのアイディアで、そこからみんなで膨らませていきました。

斉藤:阿南くんが入ったことで、録り音にもすごくこだわれるようになったのは大きかったですね。例えばシンセもプラグインソフトではなく本物のアナログシンセを使ったりして。音のクオリティは、以前よりも良くなりました。

――これまでに比べてアルバム全体の統一感があると思ったのですが、その辺りは意識しましたか?

斉藤:特に意識はしていなかったのですが、もしそう思っていただけたのだとしたら、ミックスエンジニアをビッシーくんと阿南くんが担当してくれたのが大きかったのだと思います。仕上げの段階でテープを通したりしているので、その影響もあるかなと。




――ちなみに、アルバムを制作する上で何か影響を受けていたり、リファレンスにしていたりする作品はありましたか?

荒谷:例えば「tonight」は、最初BPMがめっちゃ遅かったんですけど、雄哉がハマっていたDijonというアーティストの「The Dress」を聴いてから、ビートをかなり意識して作り直しましたね。強いビート感に優しくてソウルフルな声を乗せていくDijonさんの表現に感銘を受けて、歌い方もかなりいろいろ試して自分の声の成分にフォーカスしてみました。この曲は、慧に教えてもらったブルーナイルの繊細な感じにもインスパイアされました。

斉藤:他にも色々ありますね。「sunset」は、ダニエル・シーザーの「Japanese Denim」の影響が大きいですし。

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上京と変化

――自分たちのルーツやリファレンス元に対して、衒いのないリスペクト精神を感じるのもyonawoの魅力だなと改めて思います。配信リリースされ、好評を博した「tokyo feat. 鈴木真海子, Skaai」はどんなふうに作りましたか?

荒谷:真海子さんと対バンツアーをやるとなった時に、プロモーションのためYonawo Houseでインスタライブをやったんですけど、その時に今年友達になったSkaaiも加わってくれて。そのときに雄哉が最近作ったトラックなどを聴いてもらって、「そういえば今フィーチャリングアーティストを探しているところだった!」となり、だったらこの仲の良い3人でやったらどうだろう?と。そんなゆるやかなノリで決まったコラボです。

ラッパーさんはリリックを作る時、何かテーマがあった方がやりやすいかなと思ったので、ちょっと難問かもしれないけど「東京」をテーマにしました。僕たちも上京したタイミングだったし、Skaaiも大分から同じくらいのタイミングで上京していて。真海子さんはずっと東京で生まれ育っているので、それぞれにとっての「東京」を歌ったら面白くなるんじゃないかと思ったんです。そしたら真海子さんもSkaaiくんも、一発目で素敵なリリックを送ってくれました。




――ちなみに、上京してきて東京の印象はみなさんどう変わりました?

荒谷:福岡は、いい意味でゆるくて周りと自分を比べることもあまりなかったのですが、東京に来てアーティストの方たちをはじめ、いろんな人たちとの出会いもあったし、その中には僕らと同じように地方から出てきて頑張っている人もたくさんいて。そういう人たちと自分を「比べる」というわけじゃないんですけど、やっぱりたくさん刺激をもらっていると思います。

田中慧:僕は基本、家からあまり外に出ない方なのですが、それでもライブは福岡にいた時よりもたくさん観に行っていますね。以前から気になっていた古着屋にも行けたし。そうやって今までとは違う環境に身を置いたことで、自分の内側にある新しい感覚に出会ったりもして。「こういうのが自分は好きだったんだな」と気付かせてもらうことが多くなりました。

――どこかお気に入りの場所とかできました?

田中:下北沢にメンバーもよく行くお店があって、オーナーさんと福岡で会ったときに「ぜひ遊びにきてください」と言ってもらって。結構遅くまでやっているので、終電逃しちゃった時とかお邪魔することが結構ありますね。

斉藤:慧が言ったように、ライブもそうだし美術展にしても、福岡には有名なものしか来ないけど東京だとすごく小規模なギャラリーもあるし、音楽やアートの最新の情報にすぐアクセスできるのは便利だなと思います。今年春に東京オペラシティ アートギャラリーでやっていた、『ミケル・バルセロ展』は特に印象に残っていますね。

野元:僕は、東京ってヤスリみたいな場所だなと思いますね。

斉藤:え、どういうこと?(笑)

野元:ヤスリって、石とかを磨いてダイヤモンドみたいにピカピカにきれいにしてくれるけど、場合によってはボロボロに削られてしまうこともあるじゃないですか。自分と向き合うことが多い場所だし、そこで磨かれピカピカにしてもらえることや、切磋琢磨し合ってお互いに成長することもある反面、自分自身が削られてしまったり、消耗してしまったりする場合もあるなって。

――確かに、磨かれるのも消耗してしまうのも自分次第という場所かもしれないですね。

荒谷:すごい、リリックが書けそうな喩えだね(笑)。

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思い入れのある楽曲

――今作で特に印象に残っている曲、思い入れのある曲というと?

荒谷:今回、「tokyo」でラップっぽいことに挑戦したのは大きかったです。特に、“そんなおれの東京”の部分は、以前ラッパーの担当をしていたスタッフからのアドバイスで入れたフレーズなんです。自分一人じゃ出せなかった言葉で、これライブで歌う時毎回なんかゾクゾクします(笑)。

めちゃくちゃ気に入っていますし、これを入れたおかげで例えば「Lonly」の“愛すべきだぜ 拗ねてないで”とか、思い切りよく書けるようになったところがあって。すごく印象に残っていますし思い入れもあります。

野元:今回、ドラムを組む時に阿南さんと一緒にゴーストノートを足してみたり、「涙もがれ」では、ドラマーが叩かないであろうループを組んで、それを敢えて叩いてみたりしました。エレクトロとかそっち系のサウンドも好きで、「ダンス」や「日照雨」ではハットをめっちゃ細かく刻んでみたり、フィルターをオートメーションで書いたり。
阿南さんとビッシーさんと、テープに一回ドラムトラックを落とし、そこでピッチを変えてドラムの速さを決めたりするのも、今までやったことがなかったし、そこでグルーブがガラッと変わるのもめちゃくちゃ面白かったです。




斉藤:「日照雨」のドラムは、のもっちゃんと慧がiPadでデモを作ったんですけど、それを書き出したら結構音が変わってしまって。iPadで作ったドラムのバランスが良かったので、iPadにインターフェイスをつなぎ、そこからテープレコーダーに直接ぶち込んでからDAWに2ミックスで入れるということをやったんですけど、そういうアナログ的な発想も楽しかったですね。

田中:「tokyo」は雄哉が作ったトラックなんですが、雄哉自身も酔っ払った状態で作ったらしく(笑)、ところどころグリッドに合ってなくて、でもそこが心地いいグルーブになっていたので、その上にベースを乗せるのは難しかったですね。「ここはジャストよりもちょっと後ろかな」とか、いい塩梅を見つけるのに時間がかかりました。でも今回、阿南さんや雄哉に見てもらいながらベースを弾いたり、フレーズも一緒に考えてもらったりして。「hanasanai」は結果的に雄哉がベースを弾いているんですけど、これも一緒に考えたからこそ生まれた、一人では思いつかないようなベースラインになったなと。いろいろと引き出してもらった感があります。

斉藤:僕はもう、全部が死ぬほど大変だったけど(笑)、思い入れがあるのは、最後に出来た「Yesterday」かな。

――「Yesterday」、いい曲だなと思いました。これまでにない路線ですし。

斉藤:めっちゃいい曲ですよね。サビのメロディもリリックも超いいし。アコギをメインにしたポップソングって僕ら初めてなんですよ。前作『遙かいま』に収録されている「美しい人」もアコギの曲ですが、ちゃんとバンドサウンドの中にアコギが入っていて、しかもメインになっている曲は作ったことがなかったから、レコーディングはめちゃくちゃ大変でしたね。阿南くん主導でなんとか形になりましたけど(笑)。

――11月からはツアーも始まりますね。もうリハーサルなど始まっているのですか?

斉藤:先日、第1回目のリハがありました。前のツアーの時と同じく今回もシーケンスによる同期は使わず、人力アレンジでどこまでやれるかに挑戦するつもりでいて。ただ立ち位置に関しては、今まで4人で向かい合って演奏するライブが多かったんですけど、今回は荒ちゃんがギターを持って歌う曲や、楽器を持たずに歌う曲が増えそうなので、もうちょっと外側に向いたライブができたらいいなと思っています。「お客さんに向けたライブ」を意識したいですね。

荒谷:yonawoとしては内向きと外向き、どちらの要素も大事にしながらこれからも活動していきたいです。

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