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<インタビュー>ROTH BART BARONに聞く 言語も意味も越えてアルバム『HOWL』が取り戻したもの
ASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文が設立した「Apple Vinegar Music Award」で大賞を受賞したり、人気音楽番組内で音楽プロデューサー・蔦谷好位置の年間1位に選出されたりと、その実力に注目が集まり、さらにアイナ・ジ・エンドと組んだA_oでの楽曲や、映画「マイスモールランド」の主題歌でも話題を呼んだROTH BART BARONが、11月9日(水)、7thオリジナルアルバム『HOWL』をリリース。そして11月11日(金)のBillboard Live OSAKAでの公演を皮切りに、同作を携えた【ROTH BART BARON『HOWL』TOUR 2022-2023】へと乗り出す。そこで今回はROTH BART BARON(ロットバルトバロン)、すなわち三船雅也に、ラジオDJ、インタビュアー、映像ディレクターとして多岐にわたり活躍し、ROTH BART BARONがアルバムを発表するごとに取材を重ねてきた竹内琢也がインタビュー。『HOWL』のことから、ツアーやアジアの今についてまでたっぷりと語ってもらった。(Interview: 竹内琢也 / Text: 服田昌子 )
普遍的な身体感覚を歌いたい
――ニューアルバム『HOWL』、聴かせていただきました。2018年『HEX』、2019年『けものたちの名前』、2020年『極彩色の祝祭』、2021年『無限のHAKU』、そして今年『HOWL』と5年連続でオリジナルアルバムを発表する熱量に驚いています。前作『無限のHAKU』のリリース直後に次作のアイデアがあるという話をしてくださって、それは『無限のHAKU』へのカウンターみたいなものということだったんですが、改めて教えてください。
三船雅也:『無限のHAKU』リリース直後は作品の持つ静謐なムードに対してストラグルしてたんでしょうね。HAKUに対してのカウンターに聞こえますか?(笑)
――前作との大きな違いを感じますね。
三船:そうですよね。今年は音楽周りならフェスティバルやイベントが復活して、現場チームも120%になって、でもまだ油断は許されず、そこのギャップがあった年だったなって。人々はオンラインやリモートのいわゆるニューノーマルに順応してきたけど、逆に身体性は失われていった気がします。実際に人と話すことも少なくなり、でもようやく街に人が戻り、その戻ってくる感覚と、二度と戻らない何か、変わんなきゃいけない何かがあって、その取り戻すべき普遍的な身体感覚を歌いたいなと。頭でっかちになって情報だけが肥大化する世界で、ライブをした方が何ギガバイトにも勝る効力があるということを『HOWL』に入れたいと思いました。心安らかにいようとするのが『無限のHAKU』だとしたら、『HOWL』は失われた何かを取り戻し、引っ張り上げ、新しいものに向かっていく。それがカウンターで、静(『無限のHAKU』)と動(『HOWL』)です。
――身体性っていうところだと、5曲目のタイトルトラック「HOWL」からダンスというか、肉体性が感じられるなと。ライブは意識していましたか?
三船:ライブで音楽を解放することと曲作りをすること、この二つは切り離せないですね。その二つは切り離せないですね。最近は個々数枚で培ってきた作品作りとライブを共有してくれる参加メンバーの音楽が溢れ出るバンドとしてのロット(ROTH BART BARON)がだいぶ完成してきたい感覚があって。例えるとバンドは一つの生き物で、小さい毛むくじゃらの何かを部屋で飼ってたら、巨大なドラゴンになってしまった!みたいな。それで手狭だなみたいな気持ちになるっていう(笑)。最近レコーディングをしてるとみんなが圧倒的に進化してて、モンスターを集めて演奏してる感じ。それが(『HOWL』)に閉じ込められていると思います。
――生き物の例えはすごくおもしろいと思います。前作の取材時も不死鳥の話をしたのを覚えていて、『無限のHAKU』は2020年のタフな期間で一度死んで灰になって回復していくところだったんですが、『HOWL』はその不死鳥が生まれ変わって飛び立つというイメージですか?
三船:真っさらな灰から不死鳥の小鳥が生まれて、でも生まれながらに血が通ってて心臓強いな!みたいな(笑)。『HOWL』は芯が強い感じ。弱々しさもあるけど、歌、楽曲、一つひとつの生命力が強い。だから、この子はきっとこの先も大丈夫だろう!安心できる感じ、というか(笑)。

――そんなエネルギーや衝動を感じる『HOWL』(吠えるの意味)は、やっぱり吠えるというのがテーマだと思いますが、5月に“吠えた”とツイートをされていたので、どれくらい前からそのテーマがあったのかな?と。
三船:5年前ぐらいからライフワークとして【HOWL SESSION】(ROTH BART BARONがゲストとその日限りのセッションを行うライブシリーズ)というのがあって。始めた当時は、決まったメンバーと音楽を続けたり、ルーティンで楽曲を作ることに危機感を覚えて進化しなきゃダメだなと思って、いろんな人とセッションするようになったんですよね。自分がオオカミのように吠えて、誰かが吠え返してくれたら、そこから新しい何か音楽やストーリーが始まるんじゃないか、というのがコンセプト。そしてその集大成みたいなイベントが、今年のゴールデンウィークに8日間毎日違った演目でやるという「”HOWL" at KAAT〜LIVE SHOW & 360° IMMERSIVE SOUND DESIGN 2022.5.1-8」という企画で、そのことを”吠えた”とツイートしました(笑)。体はボロボロで、スタッフの皆んなにも無理を言いながらの公演だったんですけど、内容はどれも本当にすばらしくて。その時の感覚やセッションが血肉となっていってコンセプトになっていったんだと思います。
――そういう意味でも肉体性というか、他者がいて一人で吠えてるわけではないということが大事なんですね。
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