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たむらぱん 【SOSOSOS】
2010.09.07(TUE) at Shibuya O-EAST|ライブ写真&セットリスト
2010年の音楽シーンはかなり悲惨な状況だ。才能あるアーティストが史上最強の作品を必死に生み出しても、現状のファンに絶賛される以上の広がりをなかなか見せることが出来ず、オリコンTOP10入りしてもセールス枚数は寂しい結果で終わっている。アーティストの熱量に状況が追いついてくれない。気付けばン十万枚もCDが売れるのはアイドルのみで、音楽での純然たる勝負をしている者たちは数少ないコアなリスナーと小さな村で生きるしかなくなっている。
たむらぱんは2010年でメジャーデビュー3年目となるアーティストだ。インディーズ時代から現在と遜色のないハイクオリティな楽曲を次々生み出し、それをMySpaceにアップしてみたら一気に注目されてメジャーシーンへ。と書くと相当なラッキーガールな気もするが、2007年春まで彼女はちっともラッキーじゃなかった。むしろ、とことん報われなかった人と言ってもいい。頭の中を開いて何を考えたり、想像したりしているのか見てみたいと思わせるほどの、天才的な音楽センスを持ち合わせていながら。たむらぱんなんていうキャッチーな名前でありながら。聴けば誰もが「良い曲」と言う傑作をいくつも出しておきながら。CDは売れないし、ライブには客来ないし、みたいな状況がかなーり長いこと続いたのである。
故に突然変異だった。その頃からたむらぱんを知ってる自分からすると、hotexpressであらゆるトップアーティストのページのアクセス数を凌駕したり、MySpaceに爆発的なリアクションがあってアルバムがばんばん売れたり、メジャーデビューが決まっちゃったりする状況は。
で、この日もそれは起きた。マジックショーのようにぐるぐる回る光に照らされた赤い幕が開くと、エマーソン北村(key)をはじめ、実力あるバンドメンバーを従えた彼女はぐんぐん伸びる声で『バンブー』『ちょうどいいとこにいたい』『ハリウッド』をノンストップで畳み掛けながら、ひたすらステージの上ではしゃぎ回る。その姿に客席からは自然発生的に熱いハンドクラップが鳴り響く。なんだこの熱気は? たむらぱんも「なんかもう終盤?アンコール?」と驚いていたが、この日のオーディエンスのテンションは、厳しい残暑が続いていた外の温度よりも高かった。彼女に「先日、お誕生日だったの」と言われ、お決まりのバースデーソングをみんなで歌いだすも、途中でやめるというシュールなリアクションも取ってみせる(笑)。
最近のたむらぱんのライブは笑顔も誘うし、涙も誘う。僕の知る範囲で言えば、昨年の【ARABAKI ROCK FEST.09】でのステージから、もっと具体的に言えば『ゼロ』『ジェットコースター』『十人十色』を歌うようになってから、彼女のライブは実にエモーショナルになった。歌詞の一語一句がその声や音はもちろん、ちょっとした間の取り方やドラマの組み立て方によって、凄まじい効力を発揮するようになっている。故にスパークポイントが非常に多く、それは百戦錬磨のライブバンドたちにも匹敵する領域に入ってきたと言っても過言ではないレベルだ。けれど、今年の春に開催した【パンタスティックツアー】もそうだが、そのステージの熱量にオーディエンスが追いついてくれない。他のアーティストのライブならモッシュなりオイオイコールなり巻き起こる臨界点まで達しても、客席が揺れない。
揺れなかったのだ、この日まで。セットリストを見てほしいのだが、あらゆるネガティブを空に放り投げるような開放感と、子供も踊り出すキャッチーさを兼ね揃えた『SOS』を皮切りに、まずはたむらぱんとバンドが全身全霊モードに。その熱量は続く『十人十色』で更に上昇し、深く息を吸い込んで最後のサビに突入する瞬間に大きなスパークが生まれる。そして木漏れ日のように僕らを照らすミラーボールの光と共に、新曲『ラフ』。幻想的なサウンドスケープの中、焦燥感を徐々に掻き消していくストーリーが展開されるのだが、その過程から僕らは一瞬たりとも目が離せないでいた。凄い曲。そして、目指すべきものを今日も明日も見つめる為の、戻っても戻っても突き進んでいく為の『ゼロ』が響き渡る。
更に、次のワンマンライブを来年2月に代官山UNITで行うことを発表すると、全身全霊を使ったポップミュージックの魅力を骨の髄まで体感させる時間帯へ。『責めないデイ』『へぶん』『ぶっ飛ばすぞ』が畳み掛けられる訳だが、もう誰もがたむらぱんに負けじと歌い叫んで踊ってはしゃぎ回っていて、会場に放たれた熱量は間違いなくたむらぱん史上ナンバーワンであった。また、アンコールのラストに満を持して『ジェットコースター』をぶっ放したりするもんだから、みんなまたその体と心を躍動させちゃって、その姿にいろんなもんを超えてみんな必死に生きようとしてるんだなと感じたりしちゃって、それが力強くて美しくて、また泣きそうになる。
このようにたむらぱんの周囲は突然変異する。理想的な方向へと。
その理由は近い将来に実現する特集&インタビューで紐解くとして、今回はこの不思議な現象をもうひとつデカいスケールで起こしてくれることを、私はたむらぱんに期待しているのだ。ということを伝えたい。2010年の音楽シーンはかなり悲惨な状況だ。もちろん、それを打破しようと懸命に様々な壁とぶつかり合ってる者はたくさんいるが、簡単に希望の光は姿を現してはくれない。けれど、彼女が持つゼロ精神、バンブー精神、ラフ精神、どうにかして今を楽しみながら、しなやかに生きようとする姿勢を持ってすれば、そこに突然変異は起きるのではないかと、私は期待してしまう。
セットリスト
【SOSOSOS】
2010.09.07(TUE) at Shibuya O-EAST
- 01.バンブー
- 02.ちょうどいいとこにいたい
- 03.ハリウッド
- 04.テレパシー
- 05.マイホームタウン
- 06.ハレーション
- 07.アミリオン
- 08.グランパ
- 09.ストーリーテラー
- 10.ちゃりんこ
- 11.SOS
- 12.十人十色
- 13.ラフ
- 14.ゼロ
- 15.責めないデイ
- 16.へぶん
- 17.ぶっ飛ばすぞ
- En1.ズンダ
- En2.ジェットコースター
Writer:平賀哲雄
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