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<インタビュー>Yuto Uchino(The fin.)と社長(SOIL&“PIMP”SESSIONS)が語る、音楽業界のグローバルな働き方とFRIENDSHIP.DAOが紡ぐWeb3時代の音楽活動

インタビューバナー

 2022年1月、HIP LAND MUSICは、日本の音楽業界では先駆的な試みとなる、アーティスト主導のWeb3コミュニティ・プロジェクトを立ち上げた。それが「FRIENDSHIP. DAO(フレンドシップ・ダオ)」だ。音楽からの収益構造が変化する中、ストリーミングの次を見据える本プロジェクトは、アーティストと音楽をサポートする全ての人が繋がり、持続的な音楽活動でコラボレーションするためのコミュニティ運営を目指す。実現に向けて日本でいち早く、グローバル視点でWeb3を取り入れたFRIENDSHIP. DAOの可能性と目指すべき未来像について、日本に留まらず、海外での活動を続けているThe fin.のYuto Uchinoと、SOIL&"PIMP"SESSIONSの社長に話を聞いた。(Interview & Text:ジェイ・コウガミ / Photo: 板場俊)

「色々な人と繋がれることに、新しい音楽業界の未来を感じる」

ジェイ・コウガミ:まず最初に「FRIENDSHIP. DAO」の立ち上げのキッカケをお話し頂けますか?

Yuto Uchino:僕はデジタルディストリビューターのFRIENDSHIP.にキュレーターとして立ち上げ当初から参加してきました。その中でDAOの説明会に参加する機会がありました。チームと一緒にDAOのアイデアを広げていくうちに、FRIENDSHIP.の活動理念とDAOの親和性が高いことに気が付いたんですね。Web2.0で解決できない問題や、音楽ストリーミングを軸として発展してきた音楽市場で未だに解決出来ない問題を、DAOで変えていこう、とチームで決めたのが始まりでした。当時は丁度、海外でインディペンデントアーティストがNFTで音楽をリリースすることが話題になり始めた時期でした。仮想通貨を購入する人も、自分の周りに増えていましたので、Web3に関する情報は日常的に掴んでいました。ただ、僕はNFTと音楽の相性は良くないと当時から思っています。

コウガミ:どういう意味でしょうか?

Yuto:NFTが話題になった多くの事例は、高価格で取引された話題が殆どです。ですが、実際にNFTで音楽をリリースすることで、人に届いたのか、シェアされたのか、聴かれたのか。こうした懸念が解消できませんでした。

コウガミ:一方で、DAOは違った。

Yuto:DAOは概念的には新しい組織体を立ち上げ運営することです。AppleやSpotify、YouTubeといった大企業運営型のプラットフォームに集中する既存の構造とは別で、音楽に焦点を当てた組織を自ら作り、色々な人と繋がれることに、新しい音楽業界の未来を感じます。特に、業界内で見えにくい人のネットワークを、Web3の技術で可視化して、再展開する構造をFRIENDSHIP.DAOで考えています。


Yuto Uchino(The fin.)

コウガミ:Web2.0で解決できない音楽の問題は具体的には何でしょうか?

Yuto:僕がThe fin.で活動を始めた初期ですが、当時はインディーアーティストが自分でCDを作ってツアーで色々な都市を回って売る時代でした。ですが、今ではインディーアーティストの多くは、SpotifyやApple Musicで配信しても売上に繋がりにくくなってしまい、同時にCDも売れにくく、活動資金が中々集まりにくい問題があります。音楽ストリーミングビジネスでは、お金の流れが一極集中型に変わった一方、インディーアーティストやDIYアーティストがお金を集めにくい仕組みに変わりました。資金の一極集中的な分配は、アンダーグラウンドやインディーシーンの弱体化を助長させ、新しい作品を生む構造が機能不全に陥ることを懸念しています。

コウガミ:社長さんにも同じ質問をお聞きしますが、Web2.0で解決できない課題は何かありますか?

社長:日本と海外双方のファンをターゲットにしてきた僕たちから見ると、音楽へアクセスする方法が、海外と日本と完全に違っている点ですね。最近、面白いと感じたのですが、僕の周辺のアーティストが今、Bandcampで作品を売っているんですね。フレッシュな新曲をコンスタントにBandcampで発表していく方法が、海外だとアーティストの表現方法として成立しています。ジャズシーンの最新の潮流に乗って色々な国のアーティストが新しい作品をリリースして、国境を跨いで同時多発的に購入と流通が生まれています。新曲をリリースしつつ、同時並行でアルバムを作るアーティストもいたり、とにかくスピーディーですよ。一方で、日本だと、僕たちのようにメジャーレーベルと契約するアーティストはBandcampでの配信は諦めないといけないことは課題と捉えています。BeatportやTraxsourceなども含めると、流通は海外と日本では今でも乖離していますね。海外のスピード感を横目で見てますが、そこに自分が参加できないもどかしさは大きいですね。


社長(SOIL&"PIMP"SESSIONS)

コウガミ:BandcampやBeatportは、音楽ストリーミング以前の構造から生まれたサービスですが、アーティストや人が今、集まっているのは興味深いですね。

社長:BandcampにはSNS的な機能があるので、有名なDJの買った曲や、音楽的嗜好が合う人のお気に入りの曲が見れるんですね。誰が何を購入したかの音楽情報が自分のフィードに流れてくるので、新しい曲を見つける情報源になります。他にもニュースやラジオで新曲の情報を発信したりもしています。BandcampはWeb2.0と旧メディアの良い部分を融合したサービスですね。

Yuto Uchino:音楽業界自体がストリーミングに寄りすぎているのかもしれませんね。恐らく、Bandcampで販売するアーティストは、音楽ストリーミングだけでは再生されない問題に気付いたはず。アンダーグラウンドで活動するアーティストが脚光を浴びたり、リスナーが新しい音楽に出会う課題は消えないですよね。

コウガミ:FRIENDSHIP.DAOが目指す試みの一つは、あらゆるアーティストの収益化を持続化させる取り組みかと思いますが、どのような狙いが考えられますか?

Yuto:収益化や報酬を得ることの課題から話をすると、日本では仮想通貨で取引ができない法律が大きな問題です。ここが改善されると、The fin.やSOIL & “PIMP” SESSIONSのように、海外のリスナーやシーンで活動する日本人アーティストが、国外の人達と繋がりやすくなると思います。

社長:時間かかりそうですね。税制も含めた法整備になりますしね。

Yuto:FRIENDSHIP.DAOでアーティストが収益を得るには、現状は「ポイント制」の導入を想定しています。仕事の取引が発生した時や、コラボレーションが生まれた時、人の行動に対してポイントが発生する仕組みを考えています。例えば、The fin.の海外ツアーを手伝ってくれた日本人以外のメンバーがFRIENDSHIP. DAOに参加してくると、The fin.にジャンルが近しい新人アーティストが同じ人と繋がって、仕事を発注できるような、仕事の創出も目指す方向性の一つです。現状では法律の問題で無理ですが、将来的には仮想通貨を報酬の支払いなどに使っていければと考えてます。海外送金や取引にDAOや仮想通貨が使えるようになれば、日本人アーティストの可能性も広がるのではないでしょうか。

コウガミ:参加できる人は誰になりますか?

Yuto Uchino:第一弾では、FRIENDSHIP.でリリースしているアーティストです。最初は日本人アーティストが多くなると思いますが、今後、海外アーティストの参加も増えると予想します。その後は、音楽業界で働くあらゆる人に広げたいですね。この業界は沢山の個人事業主や中小企業が、ネットワークを形成して、動かしている業界です。ですが、そのネットワークはとても脆く、多くの繋がりは可視化されていません。業界で働く人同士でお互いにコミュニケーションできて、ビジネスの活性化に繋げることが、僕たちが考えるDAOの活用方法です。最終的にはリスナーも参加できるようにして、音楽を聴く人がアーティストと直接繋がってもらいたいです。

コウガミ:FRIENDSHIP.DAOは、新しい音楽レーベルの形ですか?

Yuto:FRIENDSHIP.DAOは音楽に関わる人全てが使えるサービスを目指していますので、レーベル的なアプローチとは違います。

コウガミ:具体的に目指す最初のゴールは何でしょうか?

Yuto:僕はあまり収益化は初期段階では考えていません。まずは、賛同者のネットワークを広げるためのコミュニケーションツール的な要素を強くしていきます。既存の業界構造によって埋もれてしまった才能や、スキルあるエンジニア、専門的な知見がある人に仕事のオファーやプロジェクトに参加する権利で繋がれるようにすることが目標です。先程、DAOは音楽レーベルとは違うという話をしましたが、これまでの音楽業界は会社や組織に所属する人がいる一方で、DIYアーティストやフリーランス、自営業の人も共存しています。副業をする人も多くいます。DAOという非中央集権型の組織形態では、音楽活動やプロジェクトへ参加する方法や、貢献の形も個人レベルで変わっていきます。音楽市場に合った組織形態だと感じています。

コウガミ:自分もアーティストのデジタルマーケティングに関する仕事に携わる立場の人間としては、海外でプロモーションできる人が日本以外で見つけられると、仕事でコラボレーションしたいと思いますね。

Yuto:僕もアーティスト仲間から「The fin.は中国のライブをどうしているのか?」など、専門的な質問をされます。海外で日本人アーティストをサポートできる人は皆さんが探していますね。これらのネットワークをFRIENDSHIP.DAOで可視化できると、相乗効果が広げられます。The fin.を担当した中国のプロモーターに連絡する人が増えれば、その人の仕事も増えますし、アーティストは現地のファンと繋がれます。それから、FRIENDSHIP.DAOでは、アーティストの作品にクレジット表記できるようにする予定です。どういう意味かというと、音楽ストリーミング時代になってから、作品のクレジット表記が無くなったじゃないですか。僕は、クレジットは音楽には重要と思っている派です。昔は、自分の好きなアーティストの演奏者や、好きなアルバムに携わったマスタリングエンジニアなど、クレジットから制作者を探せましたが、今はそうした情報が探しにくくなっています。FRIENDSHIP.DAOには、クレジット表記をブロックチェーン上に記録して可視化できる仕組みを取り入れています。DAO上で作品をリリースした時、演奏者やエンジニア情報を辿れたり、携わった別の作品も見れます。作り手全員にとってメリットになると考えています。

社長:音楽制作に携わる人だったら、”秘伝のレシピ”的な人には教えにくい職人的な技や、口頭伝承で知った情報、長年磨いてきたスキルがありますよね。それらがオープンソース化することは、他の作り手や業界にとって良いことと思う反面、情報が並列共有されていくことの不安もあります。作り手の価値観を変える必要も感じますね。

Yuto:秘伝のレシピ的な話ですけど、海外のエンジニアは凄く周りの人に教えてくれるんですよ。若手や年下、学びたい人に対して積極的に教えてくれる。それが、制作のスキルアップや、音楽シーンの活性化に繋がることを理解しているからこそ、情報を循環させるサイクルを自分たちが率先して回す節があります。良いものを共有する文化は大事ですね。


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  1. 音楽業界の新たな可能性
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音楽業界の新たな可能性

コウガミ:アーティストのお二人は、DAOに限らずWeb3の情報や知見を共有していく動きは、どう見られていますか?

社長:NFTを勉強し始めたアーティストさんは増えましたね。NFTを使って音楽をリリースする準備をしている方も周りにいます。昨年までは、投機対象としての仮想通貨が話題でしたが、それ以外の部分で可能性を感じているアーティストが多いですね。

Yuto:FRIENDSHIP.DAOでも、将来的にNFTリリースできる機能も検討したいです。ただ、僕は、NFTが音楽業界の問題を全て解決してくれる、的な考えはありえないと思っています。NFTが既存の業界構造に取って代わるわけではありません。サブスクリプション、CD、レコード、カセットに加えてNFTというフォーマットが一つ増えた感覚で捉えています。NFTの良い部分は、購入者をトレースできる機能です。ライブのチケットをNFTにしたら、毎回来る人が把握できますよね。そうすれば、特典を企画したり、ファンと繋がる方法を考えたりできるので、その意味でNFTは便利だと思います。

社長:僕は、著作権の呪縛からアーティストを開放してくれるのが、NFTじゃないかなとも考えますね。

Yuto:それは僕も感じますね。フランスの著作権徴収団体の「SACEM」(日本におけるJASRACと同様の業界団体)は既に、著作権とNFTを結びつけて、ブロックチェーン上で権利を管理する取り組みを始めています。ブロックチェーンで著作権や他の権利を保存して可視化すると、権利処理の問題が整備される可能性も高まりますよね。

社長:DAOやNFTを組み合わせると、音楽の売り方や買い方、作り方が一変する可能性は感じていますね。例えば、ジャズの作品を作りたいアーティストの賛同者には、成果物をNFTとしてシェアすれば、作品も聴けるし、誰かとシェアもできる。作品をNFTと連携できれば、サンプリングして二次創作する時のネタ元として記録されますので、アーティストには楽曲利用料を受け取れるかもしれません。大きく儲けることはできないかもしれませんが、逆に健全な活動ができて、権利も持てて、部室のような自分たちだけの隠れ家的な場所で音作りができる時代が来るかもしれません。

Yuto:部室、という表現は良いですね。社長さんの今のお話は、FRIENDSHIP.DAOに海外からプロモーターやレーベルが参加してくる未来像に近いです。つまり、DAOの中で、アーティストがプロジェクトを立ち上げると、新たに小さなDAOが生まれて、賛同者が集まるイメージです。例えば、日本人のインディーアーティストを聴いたアメリカ人プロモーターが「自分にアメリカツアーを任せて欲しい」と賛同したり、声を上げる人と繋がれるのが理想です。数年後にDAOから生まれたツアーやコラボレーション、取引記録を見つけたアーティストが、担当者に連絡を取ることも出来るので、新しいプロジェクトを立ち上げやすくなるはずです。

コウガミ:音楽業界に関わる人の働き方にも影響が生まれそうですね。

社長:スピード感を失わずに、今までリーチしてこなかった国のアーティストとコラボしたり、海外のエンジニアと一緒に作品を作れるようになれば良いですね。それを実現するのがDAOかもしれないし、メタバースかもしれないですね。

コウガミ:今後、登場すると思われるWeb3ネイティブなアーティストやクリエイターに対して、どのような期待がありますか?


ジェイ・コウガミ

社長:作り手としては、作品をより良い音質で作り続けたいです。ですが、音楽ストリーミングの時代になって、モバイルデバイスのスピーカーに最適化した劣化音質で再生される音作りが主流になってしまったので、Web3的な創作活動で高音質に対する価値感が復活するかどうかは気になります。それから、メタバース上での音楽体験やエンタテインメントの作り方には、関心はありますね。もちろん、リアルなライブ音楽はこれからも生き残りますし、無くしてはいけない。ただ今後、音楽体験がメタバース上のVRライブなどに分散していくと、更なる音質の劣化は危惧しています。

Yuto:僕が音楽に興味を持ち始めた時や、The fin.を始めた時は、世界の音楽をオンラインで聴くことができた時代でした。ネット上に情報がありましたし、YouTubeで世界中の音楽が時代問わず再生できることが日常でした。これからの世代は、世界中の音楽にアクセスできるだけでなく、世界中のアーティストとコラボレーションできる時代が日常的になっていくと思います。国や生活環境に関係なく、クリエイター同士が繋がれる様になるので、新しい音楽や今まで聴いたこと無い音楽が生まれると思います。僕はそういうコラボレーションで生まれた曲が早く聴きたいですね。僕も早くそうした創作活動を始めたいですね。

社長:海外志向の強い日本人アーティストやバンドは、Web3と相性が良いかもしれませんね。翻訳の技術も進化して来ましたので、言語の障壁は下がってきますよね。DAOやNFTなどを使って活動初期から英語でコミュニケーションしていくことが、広く世界と繋がる手段に変わっていくかもしれませんね。

コウガミ:本日はありがとうございました。


こちらの記事は令和2年度第3次補正 事業再構築補助金により作成


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