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<インタビュー>Murakami Keisuke これまでの自分に区切りをつけるリスタートナンバー「Midnight Train」リリース



Murakami Keisukeインタビュー

 デビュー5周年を迎えた2022年は、爽快な春の風を感じさせる「Alright」、心に沁みるバラード「なんのために」と、異なる魅力を響かせてきたMurakami Keisuke。最新曲「Midnight Train」は、自身のルーツであるR&Bやソウル・ミュージックのフレーヴァーを活かしつつも、日本発のシティポップな要素も加えた、極上のグルーヴィーな楽曲に仕上がっている。真夜中の街を駆け抜けていく風景、そして彼の音楽へのピュアな衝動がうかがえる。

 12月4日には東京・渋谷で5周年&バースデーを記念したワンマン公演も決定。未来に向けて走り出した彼の現在の心境を尋ねてみた。(Interview & Text:松永尚久)

――2022年6月でデビュー5周年を迎えられました。心境に変化はありましたか?

Murakami Keisuke:これまでのさまざまな出会いにより、自由な環境で音作りができるようになりましたね。以前はやりたい音が頭の中にありながら、一度「J-POP」というフィルターを通して表現していた感じでしたが、それを使う必要がなくなり、より肩の力を抜いて、シンプルに自分自身と向き合えるようになりました。でも、決してこれまでの時間が無駄だったわけではなく、むしろたくさんの方々の協力で、自分ひとりでは手繰り寄せられなかった世界を見せてもらえたからこそ、辿り着いた現在なのではないかと思います。

――2022年は、春に前向きな心境を描いた「Alright」、6月にはバラード「なんのために」と、バラエティ豊かな楽曲をリリースされていますね。

Murakami:「なんのために」までの作品は、これまでの自分自身に一区切りつけるためというか。今まで制作してきた楽曲、そこに込めた思いを、ちゃんと残しておきたかったという気持ちが強かった部分がありますね。でも、今回の「Midnight Train」は、より自分の根源にあるソウル・ミュージックの部分を表現できた曲です。


――この楽曲は、いつ頃に制作されたものなのですか?

Murakami:実は3年前くらいに出来上がっていた楽曲で(笑)、ずっと発表できる機会を探していました。ようやく自分が作りたい音楽の方向性が見つかったこのタイミングにリリースすべきではないかと、僕を含め、スタッフ全員の総意で決めたものです。制作した当時は、アシッドジャズのような雰囲気だったのですが、刻々と時代が変化するなかで、「そのまま発表するのはちょっと違うのかな?」と感じて、日系ブラジル人であるRenato Iwaiさんにアレンジをお願いして、現代の流れに沿う音にしていただきました。

――ベースの音が、暗闇のなかを駆け抜けていく疾走感と、不思議な高揚感を漂わせる甘美なアレンジに仕上がっていますね。

Murakami:当初聴いた時は、ベースの「圧」が強いなという印象でした。それをマスタリングすると、ちょうどいい音のバランスになっている。シンプルだけど、繊細に考えられて構築されたサウンドだなと思いました。実は、日本で作る音楽って、音の「圧」が他の国に比べて弱いという印象があったのですが、その違和感がここでようやく解消された気がします。

――楽曲に関しては、どのような風景をイメージして制作されたのですか?

Murakami:僕が1日で最も音楽に没頭できる時間が深夜なんです。周囲が寝静まっている頃に浮かれる静寂のなかで、ひとり自分の好きな音楽を通じて旅をしている背徳感があり、テンションが上昇して、列車のようなスピードで今まで見えなかった世界へ導いてくれる。その風景や過程を楽曲にしました。

――緩急のあるメロディ展開も、未知の世界へ連れていってくれるようなドラマ性がありますね。

Murakami:実はこの楽曲は2コードくらいしか使っていないんです。マルーン5をはじめ、僕が好きな楽曲は、いかに少ないコードで、楽曲をドラマティックに展開させるかということにこだわった、メロディの主張が強いものが多いので、その影響がここにも表れているのかなって思います。そういうメロディを作るのが好きであると同時に、得意なんだろうなって最近思うようになりました。

――また、洋楽テイストがあると同時に、山下達郎さんなどに代表される「シティポップ」の影響も感じさせますが?

Murakami:日本人が洋楽らしいテイストを取り込んでいくと、自然と山下さんの音楽に近づくということを最近知りました(笑)。海外で流行っているものをコピーすることもできるのですが、そこに日本の民謡などから生まれたアイデンティティを加えると、正しい方向性の先には山下さんの音楽があるというか。いかに日本人らしさを追求しながら、グルーヴを効かせられるのかを考えると、自然に辿り着く場所が、そこなんだって。日本語でグルーヴすることの完成型は、もうだいぶ前から出来上がっていたんだなって、思いました。

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ここが再スタートの始まり
最終的に大きなものに繋がっていく

――歌詞に関しては、こだわりはありますか?

Murakami:今回は自分の音楽の体験をそのまま歌詞に表現した感じですね。

――そこにラヴソングの要素も散りばめられているような?

Murakami:ラヴソングというよりも、同じ体験をしたことのある「音楽仲間」へのメッセージですね。音楽って、映画同様に、それに触れている時間だけは、現実とは異なる世界へ導いてくれるツールだと思っていて、そういう聴き方を普段されている方に向けている感覚です。

――楽曲が完成してみて、ご自身の音楽への思いに変化はありましたか?

Murakami:自分自身が思う音楽に一歩近づけた感覚です。以前は自分に求められていること・自分ができることにギャップを感じていたのですが、ようやくそれが解消されたというか。自分の力を発揮できる場所をようやく見つけられたという手ごたえを感じています。今後、自分から生まれる音楽が楽しみになってきました。新たなチャプターの始まりをここで表現できた気がします。

――また、この楽曲のジャケットも素敵ですね。

Murakami:楽曲を聴いた北海道のアートディレクターの方が、写真をコラージュさせて完成させたものだそうです。とてもアートな仕上がりになっていますよね。

――Murakamiさんの顔が登場していないのも珍しいですね。

Murakami:ここが再スタートの始まりであり、今後発表していく楽曲を通じて、自分の作りたい音楽の輪郭が見えてきて、最終的に大きなものに繋がっていくイメージで活動していく予定なんです。なので、このアートワークも、ひとつの大きな作品の1ピースというか。今後、発表していく作品を交えて徐々に見えてくる世界があると思うので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。

――ミュージック・ビデオの完成も待ち遠しいところです。ここ最近はストーリー仕立ての内容になっていましたね。

Murakami:今回は、歌詞の世界を演出するというよりも、音そのものを楽しんでもらえる仕上がりになっていますので、ぜひチェックしていただきたいですね。

――そして、12月4日にはワンマンライブ【Keiʼs room vol.10 ~5th Anniversary & Birthday Live~】も決定しています。

Murakami:今回はギターの弾き語りで、デビューからの5年間を総括するようなステージにしたいと思っています。これまで発表してきた楽曲はどれも大切で、今後も歌い続けるのですが、さらにフットワーク軽く活動していくために、ここでひとまず区切りをつけて、観客のみなさんと一緒に思い出の写真アルバムをめくるような感じで振り返るものにできたらと思っています。実は、発表していながらも一度もライブで披露していない楽曲が何曲かありまして。パフォーマンスする機会を作らなくては、という気持ちもありました(笑)。もちろん「これから」を感じていただける楽曲も披露するつもりですよ。

――1日2ステージをこなされるそうですね。かなり内容の濃いパフォーマンスを楽しめそうです。

Murakami:許される状況になっているのならば、観客のみなさんとコール&レスポンスがしたいですね。それができなくても、音楽や僕自身を身近に感じられるようなステージにしたいと思います。2022年最高の温かい思い出を、みなさんとここで作ることができたらいいですね。

――バースデーライブでもあるので、そういう演出も?

Murakami:僕は、あまり誕生日とかにこだわる性格ではないので、「なくてもいいのでは?」とも思っていますが、もしかしたらそういう要素もあるのかもしれません(笑)。

――観客のみなさんからのサプライズもあるかもですよ?

Murakami:そうしていただけるのなら嬉しいですが、気軽に足を運んでいただくことが何より最高のプレゼントです!

――このライブで2022年の主な活動を締めくくると思うのですが、2023年はどういう1年にしたいですか?

Murakami:たくさんの音楽を発信する1年にしたいですね。今まで、楽曲を発表しても「Murakami Keisukeってどういうミュージシャンなんだろう?」って思っていた人が多かったはずなんです。そのボヤッとした印象にちゃんと輪郭をつけて「こういうミュージシャンなんだ」と思っていただけるような作品を残したい。また、結果を気にせず、楽しいことにフォーカスしながら活動を続けたいですね。

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