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<コラム>The 1975『外国語での言葉遊び』リリース、来日公演も決まった彼らが記すバンドの最新モードとは



コラム

Text:村上ひさし
Photo by Samuel Bradley

 原点回帰という言葉が正にピッタリ。通算5作目となるニュー・アルバム『外国語での言葉遊び』で、The 1975が“如何にもThe 1975”と思わせるサウンドを鳴らしている。実のところ、フロントマンのマシュー・ヒーリーは今年8月の来日時に「The 1975のサウンドとは、どんなものなのかを考えながら作った」とも語っており、「The 1975を原点に回帰させたい、ということだけは分かっていた」と明かしていた。彼らの原点とは、つまり2013年の彼らのファースト・アルバム『THE 1975』を指している。一旦初心に戻り、リセットしたいと考えたのには、やはり賛否両論を巻き起こした前作があったからに違いない。


Photo by Samuel Bradley

 2020年5月にリリースされた彼らの前作『仮定形に関する注釈』は、新型コロナウイルスの到来を告げるかのように、ケオティックで混沌としていた。全22曲、81分という長尺なのも理由のひとつだが、それ以上に、まるでランダムな思想を掻き集めたかのように多様なスタイルの楽曲が次から次へと繰り出さるその様が、リスナーを大いに困惑させた。ありとあらゆる要素がギッシリ詰め込まれ、脈絡なくあちこちへと飛び交っていた。ロックからハウス、フォーク、カントリー、ロー・ファイ、テクノ、アンビエントまでが神出鬼没し、フィービー・ブリジャーズやFKAツイッグスの参加はともかく、環境活動家グレタ・トゥーンベリのスピーチが飛び出し、ジェンダー、環境、テクノロジー、メンタル・ヘルスなどのソーシャル・イシューも満載。「あのアルバムほど2020年のカオスを正確に映した作品は、他にあまりないと思う」とマシュー自身も振り返っている。と同時に「いろんな意味で僕らの最高傑作だと思う」とも語っており、決して後悔しているわけではなさそうだ。

 そんな野心的かつ、時にエゴイスティックとも思われた前作から一転。約2年半ぶりのニュー・アルバムは、よりシンプルで目的意識のはっきりしたサウンドに特化されている。言い換えるなら、聴き手に寄り添ったアルバムと言えるだろうか。全11曲、43分余りという非常にコンパクトな構成が聴きやすく、しかも各曲がキリッと引き締まっている。リード・シングル「ハピネス」や「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・ユー」といった楽曲は、聴いているだけで心がワクワク浮き立つ、あのThe 1975節が全開だ。足元から地面が離れていくようなこの感覚は、正しく彼らの初期ヒット「チョコレート」や「ザ・サウンド」などを彷彿とさせる。一方、「オール・アイ・ニード・トゥ・ヒア」、「ヒューマン・トゥー」、「ホエン・ウィー・アー・トゥゲザー」といったナンバーでは、ピアノや弦楽隊、アコースティック楽器が優しく導入され、しっとり聴かせてくれる。親密度の高さが絶品で、是非とも静まり返るライブ会場で耳を傾けたいものだ。曲によってはサックスなども多用されており、アルバム全体としては、これまで以上に音色への拘りを窺わせている。もちろん彼ららしいアンビエントな要素も聴こえれば、アトモスフィアリックなムードも漂っている。が、あえて手を広げすぎず、スッキリとまとめ上げられた印象だ。



 プロデュースを手掛けるのは、これまでと同様、ヴォーカルのマシューとドラマーのジョージ・ダニエルが中心だが、今回新たにジャック・アントノフも共同プロデューサーとして参加。当初はボン・イヴェールなどを手掛けるプロデューサー、BJバートンも参加していたが、途中からジャックが起用されることに。そのジャックの紹介で、ジャパニーズ・ブレックファストのミシェル・ザウナーがバック・ヴォーカルを務めていたりも。因みにジャックはテイラー・スウィフトを手掛けているため、10月21日リリースのテイラーのニュー・アルバム『ミッドナイツ』にThe 1975も参加しているのでは? と噂が上ったが、マシューはかねてから否定しており、実際のトラックリストにも名前は見つからなかった。


Photo by Samuel Bradley

 歌詞の内容に関しても、かなり変化が聴こえてくる。ほとんどの曲が愛に関するもの。人間関係について歌われている。これまでのように政治的だったり、社会的だったりするステイトメント的な題材は影を潜めて、人間同士の関わり合いがメインとなっている。デビュー当初からセックス、ドラッグ、さらにはインターネットを巡る日常を歌って、ミレニアル世代の代弁者として名を馳せた彼らとしては、大きく異なっている。レディオヘッドの1997年作『OKコンピューター』への返答とも言われた彼らだが、30代半ばに差し掛かった今では、世代感覚では括りきれないものがあるはずだ。。彼らのマネージャーであるジェイミー・オボーンが設立したレーベル<ダーティ・ヒット>(リナ・サワヤマも所属)のノー・ロームやビーバドゥービーといったZ世代のアーティストらとコラボを重ねる中で見えてきたThe 1975の現在地なのかもしれない。


 だが、一見意味不明なアルバムのタイトル『外国語での言葉遊び』をはじめ、マシューらしさは健在だ。思わせぶりなのか、真理を突いているのか、はたまた哲学的な命題を投げかけているのか、今ひとつ不明なのは変わらない。The 1975というバンド名が、ビートニク作家のジャック・ケルアックの小説『路上』の裏表紙に誰かが走り書きした日付から取られているのからも窺えるように、文学的かつ詩的なのも彼ららしさ。シニカルでアマノジャクなのにロマンティック、真摯で本気だと思っていたらふざけていたりと、相反するキャラも魅力的だ。

 これまでに発表した4枚のアルバム、その全てが本国イギリスでNo.1を獲得してきたThe 1975。日本でも2013年のプロモ来日以来、回を重ねる毎に着実に会場を大きくして、今年8月の【サマーソニック】では、遂にヘッドライナーを務めるまでに成長。2023年4月の単独来日公演も既に決定している。海外ではエド・シーランのスタジアム・ツアーのサポートを断って、親密度の高い屋内会場でのツアーを実施するとの報道も為されており、日本ツアーもそれに準じるものとなるはずだ。今や世界中の音楽フェスでヘッドライナーを務めるまでになった彼らが、ファンとの接点を求めて、同じ視点のレベルへと降りてくる。それこそ本作で謳われる原点回帰とも一致しているのではないだろうか。

※文中のマシューの発言は、全て2022年8月に行われたuDiscoverMusicJPのインタビューより。

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