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<インタビュー>岩田剛典が1stアルバムに込めた人生観、自由な創作活動につながる刺激とは
Interview&Text:高橋梓
Photo:Yuma Totsuka
パフォーマー、俳優、アーティスト、クリエイティブ・ディレクター……と幅広い活躍を見せる岩田剛典。1stシングル『korekara』で歌手デビューを果たしてから約1年、10月12日に1stアルバム『The Chocolate Box』をリリースする。「コロナ禍で自分の存在意義や仕事の根本について考えるきっかけをもらったことが、歌手活動をする大きなターニング・ポイントだった」と語る彼が、アルバムに詰め込んだ思いとは。作品についてはもちろん、岩田自身についても話を聞いた。
アートワークは“顔”
――1stアルバムのリリース、おめでとうございます。まず『The Chocolate Box』というタイトルが気になったのですが、どんな意味が込められているのでしょうか。
岩田:完成したアルバムを振り返ると、広い意味での愛や今まで生きてきた経験、僕の思いが色濃く出た1枚になったと感じました。なので、最初は“LOVE”や“LIFE”という類のワードを想定していたのですが、1stアルバムで仰々しいタイトルを付けるのがちょっと照れくさい自分もいて(笑)。そんななかで、好きな映画の中で「人生はチョコレートの箱のようなもの。開けてみないとわからない」という言葉があるのを思い出して、このタイトルになりました。
――そして、ジャケットのイラストも前作から引き続き、ご自身で描かれていますね。
岩田:僕、ジャケットなどのアートワークは、自分を表現する場としてすごくオイシイと思っていまして。クリエイティブ・ディレクターにお任せする方も多いと思うのですが、僕は絵を描くことも好きなので、「こんなオイシイところもらっちゃっていいんですか?」って感じなんですよね。
――“オイシイ”というのは、自分のクリエイティブをより多くの人に見てもらえる場所、というイメージでしょうか?
岩田:そうですね。音楽もアートワークも含めて、自分の世界観を一つの作品として世の中に打ち出せることが、表現者としてすごく幸せです。特にパッケージ作品におけるアートワークは“顔”。そこに自分なりのアルバムの解釈を描けるのはメリットしかないです。
――男女が抱き合っているイラストですが、これは先ほどおっしゃっていた“愛”を表していると捉えてよいのでしょうか?
岩田:はい。ただ“愛”っていろんな形があるので、それを1枚の絵で表現しようとすると抽象的になってしまいがちなんです。なので、いろんなことを連想できるようなアートワークを目指しつつ、自分が好きなタッチややりたいことを詰め込んでみました。色合いもこだわって、いろいろテストをしていて。パステル・カラーが印象的ですが、これは人肌を表しています。アルバムが出来上がった後に人間の温かみのようなものを感じたので、それを表現してみました。
――アートワークも然ることながら、楽曲も素敵なものばかりです。まず、先行配信されている「Ready?」は、“夜のドライブ”がテーマと伺っています。
岩田:トラックありきで詞を書いたのですが、実はそれと同時に(配信リリースの)ジャケットも描いていました。「楽曲の世界観を絵にしたらどうなるのかな」って実験しようと思って、トラックだけを聴きながら描いて。それをアートワークに使うことにもなりましたし、ミュージック・ビデオもまさにあの絵のような内容になりました。それに、歌詞にも絵を描いているときに出てきたものを落とし込みましたし、映像の打ち合わせやロケハンでも“マジックアワー”、“ドライブ”のようなものがリンクして。パフォーマンスに関しても「“歌って踊るアーティスト像”を世に打ち出す」とやりたいことが明確に決まっていました。
人生楽しんだもん勝ち
――全ては絵が起点になっていたのですね。トラックは前作の「korekara」とジャンルは同じだけどグルーヴが違う、という印象です。そこに乗っている歌詞も岩田さんが手掛けていいらっしゃいますね。
岩田:初めて聴いたときに、イントロとサビのトップラインのすごくクセになる感じが肝になると感じました。まずイントロはキャッチーで耳に残るので、それをいかに活かすかは作詞の段階でも意識していて。あとは疾走感があったので、わかりやすく“ドライブ”をコンセプトに置いたんです。他の曲では自分が伝えたいことや、世の中に打ち出したいメッセージ、愛を歌うこともあるのですが、「Ready?」に関しては難しい言葉を使わず、日常のなんでもないシーンを切り取っています。コンセプトが“ドライブ”というと、ドライブするときに聴く曲というようになってしまいますけど、僕の中では人生のハンドルを握っている感覚です。運転している道を人生と捉えてもらったらいいのかな。前向きに気負わず、自分らしく生きていこうというメッセージが込められています。
岩田剛典 - Ready? (Official Music Video)
――とりわけポイントになる歌詞はありますか?
岩田:サビですかね。特に後半のフックにある<Turn up the base line>以降は、ジャズ・クラブで演奏しているノリというか。バイブスで押し切るのがこの曲らしさ(笑)。意味なんてわからなくてもよくて、気持ちよくノれればいい。一番最後の<わかってんだろう?>はちょっと面白いフレーズとして入れてみました。フックになるかなって。
――バイブスで押し切る、とのことですが、パッと見たときに英語詞の割合が多いと感じました。これは、音やリズムを出すためなのですか?
岩田:あぁ、そうですね。この曲でいうと、やっぱり日本語だと相当ブレスを調整しない限り、キレが出なくて気持ちいい語感にならなかったんですよ。当てはめたときに単純に英語のほうが気持ちよかったんです。
――というと、最初は日本語で書かれていた?
岩田:全部日本語で書いたバージョンもありました。でも、やっぱりなにか違くて。トップラインのリズムに乗せたときに、日本語のカクカクした部分が出てきてしまって気持ちよくないと感じた自分がいたので、英語詞に切り替えました。
――たしかに、トラックのグルーヴ感が活かされているように感じます。そして、リード曲は1曲目に収録されている「Only One For Me」。
岩田:これはファンの方に贈る曲。デビューしてから10年以上の活動を支えてくださった皆さんへのメッセージで、出来上がった瞬間に「これがリード曲だな」と思いました。あと、歌詞を見ていただいたらわかると思うのですが、自分自身のことや、自分に言い聞かせたいメッセージも歌っているんですよね。けっこう僕の価値観や思想が出ている曲で、それが誰かの心に刺されば嬉しいです。
――岩田さんの価値観や思想が色濃く出ているのはどのあたりなのでしょうか?
岩田:全部そうですけど、特に2番かな。<旅路の途中で 深く息ついて/立ち止まってみる>と歌った後に<何を手に入れたかじゃなくて/何度笑って泣いたのかじゃね?>と続くのですが、これは今を生きる人たちが忘れがちな人生を豊かにする大切なことだと思っていて。人生楽しんだもん勝ちだと思いますし、自分にも言い聞かせたい言葉です。幸せの価値観は人それぞれですけど、自分なりに言葉にしたらこのワードが出てきました。
――今後MVが公開されたり、パフォーマンスされたりすると思いますが、見どころはありますか?
岩田:曲調も相まって、EXILEや三代目 J SOUL BROTHERSでやっているような激しいダンスではないんですが、踊っています。歌詞の世界観やワードを拾った振り付けにしていて、ちょっとポエティックなコレオグラフィになっていると思います。
岩田剛典 - Only One For Me (Official Music Video)
自分の実体験も
――ダンスを通してもこの楽曲の世界観が楽しめそうです。そして、今作は8曲もご自身で作詞をされていらっしゃいます。そもそも作詞をしようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
岩田:最初は「まずは1曲やってみよう」という感じだったんです。でも、いざやってみたら「パフォーマンスするときに気持ちが入るな」と思っちゃって(笑)。じゃあ次も、と繋がっていってほとんど作詞することになってしまいました。ただ、苦だったという気持ちは全然なくて。逆にそれぞれコンセプトを分けて作っていったので楽しかったです。ショート・フィルムの脚本を書いている感覚ですね。
――これだけ作曲をされるとスムーズにできた楽曲、苦戦した楽曲もあるのでは?
岩田:スムーズだったのは3曲目の「Keep It Up」。これは自分を鼓舞する楽曲です。インタビューなどいろんな所で発している僕の言葉が全部入っているんですよ。ファンの方が見たら「まさに岩田じゃん」と思う内容になっていると思います。生き急いでいるわけではないんですが、僕はよく「時間は有限」と言っていて。自分にもそう言い聞かせていますし、「今は今しかない」という思いで活動してきました。そういった思いを詰め込んでいます。ラップっぽいフロウにもチャレンジしているので、耳馴染みの良さも意識して刻んで、調整してという作業は繰り返しましたが、スムーズに完成しました。
――ファンの方の反応も楽しみですね。
岩田:本当に。これ、自分の実体験も入っているんですよね。<夏の陽炎のように>という歌詞が出てくるのですが、去年の夏に虫のほうのカゲロウを見て「悲しいな」と思ったんです。成虫になってからほんの数日しか生きられないので“命短い”、“時間有限”みたいなところがリンクしました。なんとなく季語を使ってオシャレに見せたわけではなくて、細かい実体験が入っているのがポイントです。
――苦労された曲はいかがですか?
岩田:コンセプトを立てるのに時間がかかったのは「Can't Get Enough」。曲を聴いたときに、最初はラブソングっぽい方向性にするのも悪くないなと思ったのですが、いったん2パターン走らせてみようと思って。いろんなワードをワーッと書き出しました。そうしているうちに「熱い感じにしたい」という気持ちになってきて、サビをストレートかつ強い言葉で作っていきました。それをもとにAメロ、Bメロを肉付けして。結果、すごく暑苦しい応援ソングになりました(笑)。背中を押すような、モチベーションを上げるような楽曲としてラインナップしようと思ってからは一気にワードが出てきましたが、コンセプトを決めるまでは一番時間がかかったかもしれません。
――様々なコンセプト、様々なジャンルの楽曲の作詞を手掛けていらっしゃって、多種多様なワードが使われています。どんなところからインプットされているのですか?
岩田:僕、日頃から気になった言葉を携帯にメモしているんです。本を読んで気になった言葉、ニュースで流れてきて気になった言葉、誰かが言っていて「いいな」と思った言葉。本当に何気ないことをメモしているので、それを使うときもあります。それにコンセプトを決めると、インスピレーションが湧いて言葉が出てきたりもしますね。あとは、映画からもインプットしているかも。「Monday」なんかは、2000年代初頭にたくさんあったアメリカのちょっとエッチなラブコメディ映画からヒントをもらっています。大人かつエロスも感じさせる軽快なラブソングというか、二日酔いみたいな楽曲をイメージして作りました。
――ちなみに、最近だとどんなワードを携帯にメモしたのですか?
岩田:(携帯を見ながら)“距離感”って書いてある(笑)。どこで聞いたか忘れましたが、この言葉を聴いたときに「距離感」という曲を作ろうと思ったんですよね。生きていくうえで距離感って大切だと思っていて、結局人間が抱えるストレスやプレッシャーって、人との距離感から生まれるんですよね。一人だったら感じないはず。なので、ストレス発散系か自己啓発系かはわからないですが、楽曲を作りたい。この先どこかで発表するかもしれませんね。
全てグループ活動に紐付いた活動
――そして、ソロ活動をスタートさせてから約1年経ちました。ご自身の中で何か変化はありましたか?
岩田:去年スタートさせて反響は大きかったですが、まだそこまで感じてはいないかな。ただ、今回ツアーを発表させていただいたので、今年のスケジュールが全部終わったときに、見える景色が変わっているのかなと自分で期待しています。まずはツアーを無事にやりきることが当面の目標です。
――ソロ活動もそうですが、グループ活動、俳優、クリエイターと、岩田さんのご活躍を拝見していると実にマルチだと感じます。
岩田:そう言っていただけることが多いですが、自分のことをマルチにやっている人間と思っていないし、感じたこともあまりないんですよね。言われてもピンとこないというか。僕、ずっと動いているのが好きなんです。それに、業種が違うことをやらせてもらっているので、仕事でストレスが溜まっても、別の仕事で息抜きになったりもしますし。仕事人間っぽいところがあるので、自分がやりたいことをやっているだけ。よくファンの方に「どこに向かってるの?」と言われるのですが、どこにも向かっていません(笑)。目的意識で活動していなくて、好きなことをやっているだけ。なので、逆に「俺はどこに向かっているんですか?」と聞きたいくらい(笑)。ゴールを決めたら終わりが見えちゃいますからね。
――分野が違う活動を成立させられているのも、岩田さんの多彩さがあってこそだと思います。
岩田:僕の場合は、グループ活動というベースがあるからできているんです。全てグループ活動に紐付いた活動だと思っていますから。なのでこの先、歳を重ねていってグループ活動をしなくなる日がもしきたときにどうするか、ですよね。それに、仕事のクオリティの精度が常につきまとってくるのも悩みの一つ。ちょっとずつ微調整をして精度を上げていくしかないのですが、仕事に関しては完璧主義者っぽいところもあるので落ち込む日もありますよ。
――微調整とはどういった作業をするのですか?
岩田:人様に出せるクオリティかどうかは自分で判断をしているので、自分の価値観を磨いて精度を上げていくしかないんですよね。若いときの勢いだけで乗り切れる時期はとうに過ぎているし、それが通用しない世界になりましたから。精度を上げていくことはファンの方への誠意でもあるし、自分の身を助けることにもなると思っています。
――なるほど。『The Chocolate Box』の収録曲然り、岩田さんの活動然り、非常に多角的です。どんなことから刺激を得ると、こんなにも多角的になれるのでしょうか。
岩田:音楽と映画からの刺激は大きいですね。このあいだも久しぶりに『グリーンマイル』を見返しました。あと、ハリウッド映画だけではなくてヨーロッパ映画も面白い。ただ光景を眺めるだけでも満足度が高いんですよね。僕は歌詞を書くにしても頭の中に情景を浮かべて言葉を出すので、見聞きしたものが自分の表現に変わってアウトプットされていくタイプ。なので、音楽や映画はジャンル問わずに見ています。HIP HOPの新譜やトレンドなんかもめっちゃチェックしていますよ。
――岩田さんにとって“刺激”とはどんな定義なのでしょうか?
岩田:うーん、自分の心が動くことかな。音楽や映画はもちろんですが、スマホに言葉をメモする瞬間なんかも心が動くので、一つの刺激だと思います。あとは、こういった業界で過ごしていると同じ1日はないので刺激には事欠かないのですが、逆にいっぱいいっぱいになってしまったときは“バカみたいに酒を飲む”みたいな刺激が欲しくなるんですよ。それは“頭がショートしそうなときに冷水を掛ける”という意味の刺激。それも自分のメンタル・バランスを保つためにも必要な種類の刺激です。それが結果的にクリエイトに結びつくこともありますしね。そう考えると、海外旅行のように自分から刺激を求めに行かなくても、日常生活の中に十分刺激があるのかもしれませんね。
――仰る通りですね……! では最後に、アルバムを手に取る方へメッセージをお願いします。
岩田:僕が音楽活動をしていることを知らない方もたくさんいると思いますので、食わず嫌いせず一度聴いていただけたら嬉しいです。応援してくださっている方々には自分なりに恩返しをしていけたらいいなと思っています。作品を通して皆さんからいただいた優しさや愛をお返しする意味でも、音楽活動を続けていきたいです。これからもどうか暖かく応援してください。
The Chocolate Box
2022/10/12 RELEASE
XNLD-10156 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.Only One For Me
- 02.Ready?
- 03.Keep It Up
- 04.言えない
- 05.Deep Dive
- 06.Monday
- 07.Can’t Get Enough
- 08.Rain Drop
- 09.The Way
- 10.Distance
- 11.Let Me Know
- 12.korekara
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