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<ライブレポート>渋谷を熱狂に包んだ【TOKYO CALLING 2022】最終日、注目の新世代バンド4組をレポート――TRiFOLiUM/クレナズム/bokula./ねぐせ。



コラム

 9月17日から19日までの3日間、それぞれ新宿、下北沢、渋谷のライブハウスを舞台とするサーキット・フェス【TOKYO CALLING 2022】が開催された。ライブハウス・シーンを盛り上げる多様なラインナップに加え、今年は武蔵野音楽祭、スペースシャワー列伝、LONG PARTY RECORDSといった外部イベント/レーベルとのコラボ・ステージ、FanStreamとTikTokでの生配信、さらにはオフィシャル・ロゴとビジュアル・イメージ・ポスターのNFT販売なども企画され、規模感も例年以上に拡大された。

 最終日の19日、渋谷ではBIGMAMAやthe telephonesをはじめ、これまでも全国各地のライブハウスを揺らしてきたロック・バンドたちの熱演が繰り広げられた。一方で、地元を中心に活動し、東京でのライブ自体が貴重なアクトから、SNSのバイラルがきっかけで一気に飛躍を遂げたライジング・スターなど、新世代の若手バンドたちの存在も無視できない。

 本稿では、日本のアーティストに国内だけでなく、世界で活躍できる場を提供するディストリビューター『The Orchard Japan』がサポートする4組のバンドを紹介。邦楽ロックやポップスのライティング、インタビューを中心に幅広いメディアに寄稿している音楽ライター、蜂須賀ちなみによるライブレポートをお届けする。

TRiFOLiUM

Text:蜂須賀ちなみ
Photo:中山優瞳

 16時半の渋谷Star loungeには札幌の4ピース・バンド、TRiFOLiUMが登場。【TOKYO CALLING】には今年初出演。また、東京でのライブ自体も1年ぶりとのことだ。彼らは、無心で楽器を掻き鳴らすイントロを経て「海岸線」でライブを始めた。落ち着いたトーンで統一した衣装をはじめ、どことなくクールな雰囲気を纏ったバンドだが、笑顔に楽しそうに躍動的なサウンドを鳴らす姿からは無邪気さが透けて見える。メンバーがコーラスする間奏はみんなで歌ったら気持ちよさそうだが、今はシンガロングできないため、観客は拳を上げてバンドに応える。それを見て藤田逞(Vo/Gt)が「いいね、TOKYO CALLING! いけますか!」と投げかけてからサビへ。この1曲目を挨拶に変えると、イントロのギターリフやファルセット中心の歌唱が印象的な「革命」、ドラムのキックにベースラインが重なって始まる少しダークな「Fake」を続けた。





 MCのあとはバラード「灯日」を届けたTRiFOLiUM。等身大の温かさを感じさせる場面と、渾身の演奏で壮大なサウンドスケープを描く場面、その両方を行き来する緩急豊かな演奏だ。藤田の透き通った歌声を真ん中に据えつつ、ボーカルとともに歌い、ダイナミクスをつけるバンドの好演が光る。「影と街」の演奏からも、4人が同じ呼吸を共有していることが感じられた。「1年ぶりの東京、楽しかったです。必ずまた来ます。札幌からTRiFOLiUMでした」と伝えると、ラストには「写真」をセレクト。バンドを代表して「ありがとう!」と声を張る藤田だけでなく、他のメンバーも同じ口の動きをしている。目の前の観客への感謝の気持ちを胸にラストスパートをかけた。





クレナズム

Text:蜂須賀ちなみ
Photo:中山優瞳

 「TOKYO CALLING、よろしくお願いします!」と萌映(Vo/Gt)が挨拶して始まったのは、福岡で結成された4ピース・バンド、クレナズムのステージ。シューゲイザー由来の轟音が早速場内を埋め尽くし、分厚いバンド・サウンドの中で萌映が声を張る。1曲目は「白い記憶」。鮮烈なオープニングだ。対して2曲目の「杪夏」は疾走感溢れる曲調で、メロディ・ラインもかなりポップ。客席から手拍子が起き、拳も多数上がるなか「ひとり残らず睨みつけて」で畳みかける。MCでは、萌映が【TOKYO CALLING】に出演するのは3年ぶりだと明かし、「すごい、(観客が)いっぱいいる。胸が熱くなります」と喜びを噛み締める。





 先ほどのアッパー・チューン2連投から感じられたのはバンドの“動”の側面だが、MC後は“静”の側面を感じさせるアンサンブルで観客の集中力を引き出した。バンドの演奏や萌映の歌唱が観客を「この音楽を見届けたい」という気持ちにさせたのか、バラード「花弁」が終わっても客席は静寂に包まれ、観客は楽曲の世界に入り込んでいる様子だ。白眉は「わたしの生きる物語」。逆光の照明がメンバーのシルエットを浮き上がらせるなかでのイントロ、曲の一人称が憑依したかのようなポエトリー・リーディング、アウトロにおける熱量の高い演奏。どれも一人ひとりの心に焼きついたことだろう。ここまでを終え、萌映が「ありがとう」と伝えると、バンドに温かい拍手が送られた。そしてボウイング奏法によるギター・プレイも印象的な「青を見る」で終了。叫ぶようなバンド・サウンドがサッと止み、萌映のボーカルだけが残るシーンでは多くの人が息を呑む。感情の起伏、物語を感じさせる演奏で観客を最後まで魅了した。





bokula.

Text:蜂須賀ちなみ
Photo:清水舞

 広島発の4ピース・バンド、bokula.は「この場所で.」でライブをスタート。自分の胸を高鳴らせる音楽を求める人が集まるサーキット・イベントだ。ライブハウスのことを歌ったこの曲に共感を覚えた観客も多かったことだろう。大勢の観客を塊としてではなく、あくまで“一人ひとり”と認識したうえで、聴く人の目を見て歌うえい(Gt/Vo)のボーカルがまっすぐに飛び込んでくる。えいの投げかけるたくさんの言葉や勢いを感じさせるバンド・サウンドから伝わってくるのは、メンバーの前のめりな気持ち。4つ打ちによるハイテンポ・ナンバー「uzai」ではフロアが大いに盛り上がった。「ラブソング歌います」と紹介された「溢れる、溢れる」までを終えてMC。ここでは、えいが「まだまだいけますか、TOKYO CALLING! 最高です!」と喜びつつ、「僕の全貯金残高4円ですが、それでも何とかここに立ってます!」と暴露。メンバーの飾らない人柄も愛される要因だろう。





 早弾きのギター・ソロもあった「2001」のあとは、「夏の新曲やります」と8月にリリースしたばかりの「夏の迷惑」を披露。さらに、ドラムのフィルインで空気を変えると、温かいムードの「バイマイフレンド」へ。ボーカル、ギター、ベース、ドラムだけではなく観客の手拍子も一緒になり楽曲が形作られていくなか、「優勝」と満足気な笑みを浮かべる4人。幸福感はそのままにテンポアップとともにメロコア風になるアウトロを爆走すると、ラストは「愛すべきミュージック」。えいが「今日をきっかけにまたみなさんと会えますように」という言葉とともに<悲しい時に歌え 君が信じてる愛すべきミュージック/眠れない夜に1人きりにはさせない>と歌う同曲を届け、リスナーとの絆を結んだ。






ねぐせ。

Text:蜂須賀ちなみ
Photo:清水舞

 13のライブハウスのうち、渋谷CLUB QUATTROのトリを務めたのは、名古屋発の4ピース・バンド、ねぐせ。だ。2020年8月に結成、コロナ禍でも配信リリースやSNSなどを通じて楽曲が広く認知されたバンドで、今年の夏は大型フェスにも複数出演。満員の観客が手拍子し、歓迎ムードでメンバーを迎えた。「宇宙で一番あったかい音楽を鳴らしに来ました。未来に乾杯しよう!」と最初に演奏したのは「片手にビール」。挨拶代わりの1曲目を終え、続いては「グッドな音楽を」。ビール・ジョッキを掲げるように拳を上げたり、T. Rexオマージュのギターリフに身体を揺らしたりしている観客の姿から、楽曲が十分に浸透していることが窺える。バンドの調子もばっちりのようで、ステージから何度も「最高!」という声が聞こえてきた。2年連続の【TOKYO CALLING】出演、そして今年はトリということで、MCではりょたち(Gt/Vo)が「すごく重要なところにブッキングしていただきました。ありがとうございます!」と語った。





 その後も「猫背と癖」「日常革命」「スウェット」と日々の何気ないワンシーンを切り取った楽曲群を披露。本編ラストは「スーパー愛したい」。曲中には「TOKYO CALLING、最高!」(しょうと・Ba)、「来年もよろしく!」(なおや・Gt)、「再来年もよろしく!」(りょたち)、「一生よろしく!」(なおと・Dr)と今の気持ちをそれぞれに叫び、わんぱくに駆け抜けたのだった。その後、止まない拍手に呼ばれて再登場すると、「あのとき(1年前)よりも元気にライブできるようになった。そこが一番変わったのかなと思います」と手応えを語ったメンバー。リスナーと喜びの感情を共有しながら、ねぐせ。の音楽はますます拡大していきそうな予感。「4人で歌う?」と全員で声を合わせて始まった、この日最後の曲「ベイベイベイビー!」が爽やかな余韻を残した。



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