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<インタビュー後編>鈴木雅之×服部隆之、オーケストラと挑む新たな『DISCOVER JAPAN』ツアーを語る

インタビューバナー

 今年ソロ・デビュー35周年を迎えた鈴木雅之が、5年ぶりとなるオーケストラ公演【billboard classics 鈴木雅之 Premium Symphonic Concert 2022 featuring 服部隆之 ~DISCOVER JAPAN DX~】を開催する。2011年の東日本大震災をきっかけに“今こそ歌う「日本のうた」再発見”をテーマに、オーケストラ・アレンジで制作されたカバーアルバム『DISCOVER JAPAN』。その後シリーズ化され、今年2月には、過去3作品から厳選したナンバーに加え、新録音曲+シリーズ以外で歌ってきたカバー曲で構成された集大成カバーベストアルバム『DISCOVER JAPAN DX』を発売。今回はこのアルバムからさらに厳選した楽曲をもとに、同アルバムのサウンドプロデューサーであり、鈴木の最強のパートナー・服部隆之の指揮によるオーケストラ・アレンジでのシンフォニックツアーだ。強い信頼関係で結ばれた二人へのクロスインタビューが実現。シリーズ集大成のアルバムの世界観を、二人はどう表現しようとしているのか。シリーズの成り立ちから、二人がどうやって作っていったのかを知ることで、このコンサートの楽しみ方がまた違ってくるはずだ。(Interview & Text: 田中久勝 / Photo: 三浦憲治)

『DISCOVER JAPAN』のこれまでとこれから

――『DISCOVER JAPAN』シリーズを重ねてきて感じたことはありますか。

鈴木雅之:僕がちょうど50代の終わりから60代に差し掛かるタイミングでの『DISCOVER JAPAN』シリーズでもあったので、還暦を迎えるって、やっぱり自分の中ではひとつのボーダーラインだと思っていて。還暦をクリアして、1年ぐらいで『~Ⅲ』に到達していて。そこがゴールだと思っていたのに、いや、もっとやれることがいっぱいあるし、届けなきゃいけないものがあるんだ、という思いに駆られるぐらいのものを提示してくれたのは、やっぱり服部隆之だと思っています。だから『~Ⅲ』を作った時自分の中では、「あれ、これもしかしたら、自分のピーク、ここに来たかもしれない」っていうぐらいに、声の伸びも含めて「いや全然60代いけるじゃん」っていう思いになりました。やっぱり、褒められて伸びるタイプなんですよ(笑)。

服部隆之:リーダーも褒め上手なんです。ミックスの作業をしている時、ヴォーカルレベルが一番大事で、言葉がきちんと伝わるようにということに注力して作業していると、「このストリングスもっと欲しいよな。ブラス、もう少しキてる方がかっこよくない?」とか、僕がアレンジを施してるストリングスやブラスの音のことを、ちゃんと気にしてくれていて。そんなことをヴォーカリストから言われたのは初めてでした。ちょっとしたギターのリフを「あれが好きなんだよ。それもっと出そう」って言ってくれたり。曲の中で一瞬しか出てこない音でも、そこが琴線に引っかかったらピックアップしてくれるんです。だからこのシリーズはミックスも楽しいんですよ。それでまたオーケストラの人達から「ここからのアレンジ、すごくよかった」と褒められると、僕も褒められて伸びるタイプなので、リーダーと2人でお互いに育っている感じでしょうか(笑)。



鈴木雅之

――確かに『~Ⅲ』はものすごくエネルギーが充満してるというか、高まってきている感じがしました。

鈴木:そうだと思います。日本の歌の再発見というコンセプトだから、いわゆるヒット曲じゃないものも取り入れたいと最初から思っていて。だから『~Ⅰ』は本当に自分の思い入れが強い、ヒット曲というよりも粒ぞろいの名曲を、ということを意識した作りだし、でも『~Ⅲ』は「君は薔薇より美しい」しかり、お茶の間のヒット曲も選曲しています。


――例えば「エイリアンズ」は原曲のイントロを活かしたアレンジですが、やはり原曲のパワーみたいな部分は意識してアレンジしているのでしょうか?

服部:そこは考えています。これは絶対原曲通りじゃなきゃだめというのもあるし、かと思えばもう完膚なきまでに変えてしまうものもあります。

鈴木:あるね(笑)。そこはオリジナルを意識するというより、やっぱり服部隆之色に染めあげて欲しいという思いはあります。このシリーズで取り上げる曲は、1曲1曲歌力があるので、自分がヴォーカリストとしてそれをどう料理できるかが大きなテーマだけど、でもその曲の色々な背景も含めて、服部隆之色に染め上げてほしいと、下駄を預けています。

服部:下駄を預けてくださったのは本当に嬉しいんです。なかなかそういう現場はないです。


――このシリーズがこの後どうなるのか、気になります。

鈴木:エンターテインメントの世界に身を置いている以上は、色々なことに挑戦していきたいっていうのは、常々思っています。だけどやっぱり『~DX』を今年リリースしているし、「これで最後だね」っていう思いはいつも伝えてます。


――ますます今回のシンフォニックツアーが楽しみになってきました。

鈴木:やっぱり『DISCOVER JAPAN』と銘打って、オーケストラをバックに服部隆之の指揮のもと歌えるこの瞬間を味わいたかったんです。オーケストラ・ディ・ローマとのコンサートはちょっと変化球だったというか、『DISCOVER JAPAN』という形の伝え方ではなく、ローマの人たちと日本の名マエストロとヴォーカリストが組むというトライアングル、という見え方でした。でも今回はやっぱり『DISCOVER JAPAN』て大見得を切っているので楽しみです。


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日本のオーケストラとの共演

――今回のコンサートは東京だけではなく北海道、福岡、兵庫、愛知で開催されます。

鈴木:「やっぱりその土地、その時々のオーケストラの音が違うから面白いですよ」って隆之が教えてくれて、自分はまだそれを味わったことがないので非常に楽しみです。


――やっぱりそれぞれのオーケストラの癖のようなものがあるのでしょうか。

服部:音の出し方とかアンサンブルの作り方の癖がそれぞれあります。でもいい音楽を追求しているところは共通しているので、そうするとリーダーのように本当に素晴らしいシンガーのバックをやる時は、やっぱり弾き方もちょっと前のめりになります。「この歌に、どういう音色でどういうふうに伴奏をつけていこうか」とか、「リーダーがこういうふうに歌ったら、やっぱりそこはもう少し厚く弾こうか」とか、もちろんこちらの指示もありますが、それぞれのオーケストラのクリエイティブを楽しむことができます。


―――歌が演奏を煽り、演奏が歌を煽る。

鈴木:相乗効果ですよね。オーケストラ・ディ・ローマとやった時もやっぱり絆が生まれました。最後の打上げの時オーケストラの人がみんなで「夢で逢えたら」を口ずさんでくれて、感動しました。



服部隆之

―――『~DX』の一曲目に収録されていて、ツアーのオープニングナンバーでもあった「怪物」のカヴァーは、マーチンさんの今年を象徴している一曲だと思います。言葉数が多くて、超難解な譜割の曲ですが、この曲をとりあげた理由を教えて下さい。

鈴木:『~DX』をやろうという時にまず掲げた楽曲が「怪物」(YOASOBI)で、隆之に「最後って言ったけど、オオカミ少年がオオカミが出たといったけど、実は本当にオオカミがいたんだよ。コロナっていうオオカミだったんだよね」って話をして。だからもう一度、デラックスという形で届ける使命があるんだ、と。コロナ禍で色々な音楽を聴く時間ができて、“怪物”=コロナという意味合いで自分の中でリンクさせることができて。この曲を厳密に紐解いていくとものすごくいいメロディなのに、あまりのスピードにそれを感じないまま終わってしまうことがよくあって、でも鈴木雅之流のビート感に寄せていくと、最高のオーケストラファンクになるんじゃないかなって検証できました。それで今の自分のテンポで、これを服部隆之のアンサンブルで歌ったら、ものすごいものができると思いました。色々なアーティストがこの曲をカヴァーしてYouTubeにあげているけど、みんなテンポを落とすってことは絶対していなくて。だからせっかくやるんだったら、違うアプローチでもっと自分がナチュラルに歌い込めるところに到達できないかなと思いました。

服部:まずBPM150ぐらいのテンポを125まで落として、でもそのテンポを落とすというその潔さにびっくりしました。そうなったときに、自分の歌がどう生きて、どう立つのかがはっきり見えていたのだと思います。テンポを落とすことでボーカルの整合性は取れますが、サウンドの方は下手すると失敗するかもしれない。よくできていている楽曲で、アレンジも素晴らしいので、テンポが少し遅くなっても、原曲のエッセンスを生かそうと思いましたマーチンさんは「怪物=コロナ」と言っていますが、僕は単純なので「怪物=スリラー」なんです。それで最初にミステリアスでおどろおどろしい、サスペンスな音を付けることにしました。組曲っぽい感じに仕上がっていると思います。

鈴木:やっぱりあのストリングスのアンサンブルで、ああやって絡んできてくれたから、心地よくて「もう、これこれ」みたいなところに到達したんだよね。


――「怪物」は今回のコンサートでは…

鈴木:やりますよ。今回もオープニングでいきます。このミュージックビデオは630万回を超えるくらい再生されて(9月23日現在)、たくさんの人に届いていると実感しています。鈴木雅之とこの曲の組み合わせに驚いてくれる人や、「アレンジした人天才かも」というコメントもあって、お互い褒められて伸びるタイプだから(笑)、出し惜しみしないでコンサートの頭でこの曲をガーンと観せることで、つかみはOKだと思う。


――セットリストが楽しみです。

鈴木:『DISCOVER JAPAN DX』ツアーをやり切って、そことあまり一緒にならないようにというのがまずあって。だから『~DX』に入らなかった楽曲もやってみたいし、これが鈴木雅之と服部隆之のディスカバーですというものをみせるということを基点に考えています。


――シリーズに入っていない曲も、今回隆之さんが新しくアレンジして披露する可能性もある。

服部:そういう曲もあるかもしれません。このコンサートで取り上げたものが、ある意味、またデラックスなんです。CDで発売した『~DX』とはまた違うデラックスさを感じて頂ける『DISCOVER JAPAN』のコンサートという位置づけで、楽しんでいただきたいです。 だから「怪物」も演奏しますが、今回リリースしたものとはまた違うデラックスバージョンになります。

鈴木:僕らが2011年に『DISCOVER JAPAN』シリーズを立ち上げて、10年やり続けているという自負があります。今は色々なアーティストがオーケストラと共演していますが、それが一般的になる前から、我々はそのクリエイティブを提示しながら10年やってきたという思いがあります。今回いよいよその集大成をビルボード・クラシックスという舞台でできるということを、また提示できているような気がしています。10年やってきている自分たちのプライドと思いの全てを届けることができたら嬉しいです。


 前編のインタビューはこちら

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