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たむらぱん 『ノウニウノウン』インタビュー
「その瞬間にすべてを出せなかったら、明日それを出せるか分からない。だからすべてを出そう」的な迫力が今のたむらぱんにはある。それを感じたのは4月に行われたワンマンライブ、そして【ARABAKI ROCK FEST.09】でのステージを観てなのだが、どこまでも伸びてゆく歌声と音楽は、僕らの涙を誘うほどの熱量に溢れていた。で、ニューアルバム『ノウニウノウン』を聴いてみたら、世界中のカオスをカオスごと空へ放り投げるような、とんでもない内容になっており、思わず笑ってしまった。たむらぱんこと、田村歩美が如何にしてこの領域に辿り着いたのか、話を訊いた。
とにかく勢いが凄いと思うんです
--今日はアルバム『ノウニウノウン』についてはもろろんなんですが、まず4月2日に渋谷CLUB QUATTROで行われた【しあわせにライヴ】について話を聞かせてください。自身にとってはどんなライブになりましたか?
たむらぱん:ステージをふたつ用意したりして、ワンマンならではの内容でライブができたと思います。あと純粋に足を運んでくれた人たちのおかげで、自分も楽しませてもらったっていうのが大きくて。だからまた次にワンマンをやるときは、新たに面白いことを考えなきゃと今から想像力を掻き立てられています。
--最初から最後まであそこまでぶっ飛ばしているたむらぱんのライブって、初めて観た気がするんですけど。
たむらぱん:そうですね。一夜限りのワンマンですし、どうせなら果てるまでじゃないですけど(笑)出来る限りのパワーでやりたいっていうのは思いました。
--どんどん想いが前に出ていってしまうようになってません?
たむらぱん:やっぱり「自分が作ったモノを観たり聴いたりしている人がいるんだ」っていうのをどんどん実感できるようになっているので、そこは大きいと思いますね。自分で作ってるモノなんだけど、でも自分のモノじゃなくていいっていうところもあるんで。そういうところは変わってきてると思いますし。自分が何かするってことに時間とかお金とかを掛けて観に来てくれたりする、それって凄いなって前よりも思うようになった。その影響が出てるんだと思います。
--今「どんどん想いが前に出ていってる」と言いましたが、たむらぱん史上最もエモーションを感じたのが、実は先日の【ARABAKI ROCK FEST.09】で。特に今回のアルバムに収録されている新曲『ジェットコースター』と『十人十色』は、なんか降臨してましたよね?
たむらぱん:ハハハ!
--自身の手応えとしてはどうだったの?
たむらぱん:『十人十色』は個人的にも好きな曲でしたし、ああいう雰囲気のモノを堂々とライブでやれる機会って今まであんまりなかったんですけど、今回アルバムに入るってことで大々的にやれる嬉しさがあって。純粋にそういう気持ちも大きかったりとかしましたし。『ジェットコースター』は確かライブで歌ったのが2回目とかだったんですけど、今まで経験したこと、技術的な部分も含め、そういうモノがすごく詰まった作品になっているので「聴いてくれ!」みたいなところはあったと思うんですよね。しかも『ジェットコースター』と『十人十色』って曲調が全然違うけど、自分にとってはどちらも「たむらぱんだぞ」と堂々と言える大きい曲だなと思ってるので、だから自分でも凄く曲の中に入ってたと思いますし。あとそもそも私は跳ね返りのない場所っていうのが基本的に好きで、ショッピングモールとかもそうなんですけど(笑)。そういうところで歌えるっていうのは、楽しいんですよね。
--あそこまでエモーショナルで他のプレイヤーや観客もそこに引っ張られるぐらいのライブが毎回やれたら、一気にファン増えますよ。少なくともフェスに足を運ぶような音楽好きの心は鷲掴みにできると思います。
たむらぱん:今まで自分のことを見たことのない人たちの前でライブをやるって、あんまりなかったと思うんですよ。だから今年はそういう意味でもいくつか出るし、自分にとっても良いきっかけになるなっていうのもありますし。あと、ロックフェスとかだとサウンドの迫力的には他のバンドとかに到底敵わないと思うんですよ。だから自分にできることって言ったら、ちゃんと拘って書いている歌詞とかがちゃんと伝わるようにパフォーマンスすること。そういうことを冷静に考えられる日でもあったんですよね、アラバキの日は。バンドで野外でライブをやるのはあの日が初めてだったので。だからこれからの良いきっかけになれば良いなって思ってるんですけど。
--そんな訳で、ちょっと覚醒しつつある、もしくは覚醒しちゃってるたむらぱんのですね、メジャー第2弾アルバム『ノウニウノウン』なんですが、もう「これでもか!」って感じですね、このアルバム。ちょっと怖いぐらい、どの曲も爆発しちゃってませんか?
たむらぱん:今回はどの曲を聴いても大丈夫だよ、みたいなところがあって。今までは「この曲聴いてほしいけど、こっちも聴いておいてもらわないと不安」みたいなところがあったんですけど、今回はないんです。とにかく勢いが凄いと思うんですよね、頭からの飛ばしっぷりが凄い。
Interviewer:平賀哲雄
“無理やり精神”に賛同してくれる人たち
--このアルバムに向けての『ハレーション』以降のシングル曲を聴いててね、今回は濃いアルバムになりそうだと思っていたんですが、そのシングル曲たち以上に濃い新曲が目白押しっていう。
たむらぱん:そうですね。今回は自分の中の個人的な拘りがありつつも、みんなが聴けるような状態にまで持っていくことができた。っていうのは、『チョップ』とか作ったりしてて、こういう雰囲気の曲をアルバムに入れることを納得させるにはどうすればいいんだ?みたいなところの策略をちゃんと考えられるようになったんです。変な話なんですけど(笑)。
--前作『ブタベスト』は非常にバランスが良いし、いつでもどこでも聴けるアルバムとしては理想的だと思うんですけど、個人的な感想としては『ハロウ』の熱量には勝っていなかったと思うんです。でも今作はメジャーデビュー以降、田村歩美の血となり骨となったスキルをフル活用しながら、『ハロウ』以上の熱量を生んでいる。
たむらぱん:そうかもしれない。これでもう辞めちゃうんじゃないか?って思うぐらい(笑)。
--でも本当に全部出したんだろうなって。それこそ次のことなんて考えずに。
たむらぱん:そうなんですよ! 私は今すごく自分でも気付いてない、自分が次にできることに期待をしていて。そういうのもあるんですよね。多分、今の自分を全部出して無くなっちゃったとしても、できることは残ってて。そこに気付かないだけで。すごくポジティブな考えなんですけど。だからこそ1回こういう形でバァ~!って全部詰めちゃった。
--その思考ってさ、すごく原点に『ゼロ』で歌っていたことがあるような気がするんですが。
たむらぱん:今となって『ゼロ』に対して私が思うことは、常にゼロって思っていれば、ダメなときも衝撃が無いんですよね。だから常に自分は増えてもないというか。もちろん向上はしていた方が良いんだけど、向上したそこもゼロって思うみたいな。常に自分がゼロって思っておけば良いんじゃないかなって。そこはやっぱり元になってると思う。お財布を開いて100円しかなかったら驚くけど、毎日100円しかなかったら全然驚かない。今はそういう感じ(笑)。
--で、『ゼロ』のあとに『ちゃりんこ/ちょうどいいとこにいたい』を出したじゃない?「改めまして、よろしくお願いします、たむらぱんです」みたいなシングルを。そしたら、分かりやすくメジャーなタイアップまで続け様に取れちゃって。あの流れには当然ラッキーもあったけど、田村歩美の狙いもあったよね?きっと。
たむらぱん:『ちゃりんこ』に関してはリリースすること自体に問題があったというか、結構揉めてはいたんですよ。この曲はあんまり良くないんじゃないか?みたいなところもあったりして。でもどこか自分の中で「きっと良いって言ってくれる人がいる」っていう想いがあったんですよね。だからこの『ちゃりんこ』っていう曲は、リリースすることに対して結構賭けみたいなところがあって。でも出してみたらラジオとかでもたくさん流してもらえたりとか、大人から子供まで聴いてもらえたりとか、これがきっかけでいろんな活動ができたりとかして。それによってあのとき自分が曲げなかったっていうことが、ちょっと自信になったと思うんですよね。今までやっぱり自分の作ってるモノって、自分では納得してるけど人を納得させるまでの自信っていうのはなかなか無くって。でもやっぱりそこで賛同してくれる人がいないと作り続けられない。そういう意味で『ちゃりんこ』っていう曲は、自分で意思を持っても大丈夫だ、もっと規模の大きいところで自分に自信を持ってても大丈夫なんじゃないかって思えたきっかけになりました。
--で、自分の曲じゃないけどロッテの新商品ガム「Fit's」CMソングまで歌うことになって。ワンマンもやって、フェスでもすげぇステージやってのけて、そしてアルバムがこの内容って、まぁとりあえずファンからしたらすげぇテンション上がりますよね(笑)。
たむらぱん:アハハ!
--今のたむらぱんの状況、単なる偶然の連鎖というよりは、たむらぱんないし、そのチームが全身全霊で呼び込んだモノな気がするんだけど、実際のところどう?
たむらぱん:それは絶対にそうだと思う。元々インディーズの頃も無理やり続けていたっていう感じだったじゃないですか。辞めちゃうっていうこと自体がもう出来ないからずっと続けていたところがあって、もう“無理やり精神”みたいなモノはその頃からかなり培われていたと思うんですよね。で、今はその“無理やり精神”に賛同してくれる人たちと活動ができるようになったから、強引さが増したんです(笑)。良い意味でそういうところはあると思うんですよね。偶然もすごく大きいけど、その偶然に出逢うために無理やりにでも続けていることってあると思うし。多分続けてなかったらその偶然もないし。だからそういう意味でファ~って流れてきた感じじゃないですね。なんとなく歩いてたらここに居たって感じはしない。
Interviewer:平賀哲雄
“また”っていうのは、有りそうで一番無いこと
--で、そのひとつの集大成とも言える『ノウニウノウン』の収録曲について、時間が許す限り聞いていきたいんですが、まず『ジェットコースター』はどんな想いから生まれたものなの?
たむらぱん:不可抗力って言うんですかね、自分の力とかそういう問題じゃない、世の中的にもうどうしようもないこととか、そういうことがもし起きたとき「それを抹消したり乗り越えないと前に進めないんだ」みたいな考え方じゃなくて、それはそれで置物のように捉えて、それをちょっと避けながら進む前向きさも良いんじゃない?みたいなポジティブソング。ジェットコースターっていう乗り物を人生の上がり下がりに喩えて歌ってるんですけど、どうせだったら今あるどうしようもないことも楽しんで、まぁ楽しめなかったら避けておいて。もしかしたらすごく傍にもっと楽しいことがあるかもしれないし。あんまり執着してると見えないこともあるかもしれないし。っていう感じの、熱い感じじゃないんですけど、でもなんかフッと抜けれるような。その「どうしようもないことは、どうしようもないことで置いておいて」みたいな精神はこの曲から始まって、大きくアルバム全体に繋がってると思うんですよね。だからこの曲はアルバムのテーマ曲っぽい。サウンド的にも、アレンジとか各メロの雰囲気とか、この曲が一番いろんな要素が込められてる曲なのかなって思います。
--「どうしようもないことで置いておいて」っていう表現がありましたが、その置いておくことに対する罪悪感や嫌悪感を抱いて歩いていくっていうよりは「どうしようもなかったね、あれ(笑)」って笑い飛ばしながら進んでる感じですよね。
たむらぱん:そうですね。あと、避けて進んでたら、その避けていたことが出来ることに変わってるかもしれないし。意外と小さいことだったんだなって気付いて。可能性を無くしたくないっていう願いが強くあるんです。避けて進んでしまう瞬間は怖かったりもするけど、トータルで見たときの、お得感を感じる方を選択したいっていう。
--真っ直ぐに進んでも倒せなかったけど、別の道選んだらすげぇ強い武器見つけて、倒せるようになったみたいな(笑)?
たむらぱん:そうそう!そういう感じです。正面から見たら大きい岩だったけど、横から見たら板だった、とか(笑)。
--続いて『十人十色』、この曲はイントロとかAメロを聴いてると、わりと最後までディープにぐちゃぐちゃした感じになるのかと思わせながら、そのカオスごと「それを素晴らしい色に染めたいんだ」って力強く未来へと放り投げてみせるっていう、嘘みたいによく出来た曲ですよね。
たむらぱん:ハハハ! 確かに。この曲だけ演奏を初めてのメンバーとやって、ギターの人は音色とかが凄く面白かったりする人で。自分の中でこの曲には絶対的なストーリーがあったので、どうしてもその人に弾いてほしかったんです。その音が欲しいっていう。そういう拘りを大事にしつつ、でも自分でも「よくまとまったな」みたいな印象はあって。派手さと地味さを上手く入れたかったんですけど、それがよくまとまったなって。ちょっと新橋っぽくて良いですよね。
--(笑)。この曲のめっちゃ吸い込んで吐き出すように歌うところあるじゃないですか。あれはアラバキでも泣きポイントでした。
たむらぱん:あそこは演奏的にも歌的にもこの曲の一番のポイントで。あそこがダメだったらすべて終わりぐらいの。
--今作収録の新曲って『テレパシー』も『ごいん』も全部の曲が「空」とか「前に」とか「良いもんです」とか、ポジティブワード満載じゃないですか。このモードが、多分=このアルバムの熱量の凄さだよね。
たむらぱん:「絶対的にこうしなさい!」じゃないポジティブワードを良い感じで見つけられるようになったんです。で、そういう言葉を前よりも躊躇なく、抵抗なく言えるようになったところがあると思うんですよね。そこを素直に出せてる感覚が良いのかもしれないって思って。絶対100%「こうしなさい」みたいなところは、やっぱり未だに言い切りたいと思わないし、自分も言われたら嫌だし、みたいな感じで思ってるんですけど、でもそっちの方向を見るぐらいにはなってる。「こういうことをやっても良いんじゃない?」っていう種類のポジティブ。自分たちで納得すれば、それで良いんじゃない?っていう。それがちょっとしたエネルギーを生むきっかけになる。
--そのアルバムの最後を『スクランブル街道』にしたのは?
たむらぱん:この曲は『ハロウ』にも入れていたんですけど、自分の中で聴いておいてほしい曲のひとつではあったんですよね。今、自分がスクランブルに立っている、この場所に住んでいる現実と、そこに居なきゃいけないからこそ「どう生きる?」ってところを描いてるんですけど、それが上手く『ジェットコースター』みたいな感覚と繋げられる気がしたんです。たくさん人が入り乱れてるところに自分が来ちゃって「なんか、他人ばかりで寂しい」って思う感覚を、逆に「こんなにたくさんの人と出会ってるなんて、すごい」っていう風に変える。今どうしようもないところを良くするために解釈を変える、みたいなところが繋がってるなって思って。あと一番重要だったのは、最後の歌詞が“?”で終わってるところで。これによって次がある印象が生まれて、また1曲目から聴ける。それで最後をこの曲にしたんです。
--先程アラバキレベルのライブを毎回やれたら云々って言いましたけど、今後このアルバムを引っ提げていく以上は、否応なしにあのレベルのエモーションだったりエネルギーは必要になりそうですね(笑)。
たむらぱん:そうですね(笑)。これからは“1回きり”っていう感覚をすごく大事にしたい。“また”っていうのは、有りそうで一番無いことなのかもしれないって最近はすごく思うので。なので“1回”を大切に扱っていきたいと思いますし、そういう感じでライブにも触れていきたいなと思う。
Interviewer:平賀哲雄
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