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<インタビュー>Deep Sea Diving Clubが土岐麻子とのコラボレーションで表現した現代のシティポップ



インタビューバナー

 Deep Sea Diving Clubが「Left Alone feat.土岐麻子」をリリースする。“TENJIN NEO CITY POP”を掲げる彼らにとって、土岐麻子はまさしくその音楽の先達である。これまでも複数のコラボ曲をリリースしてきた彼らだが、本作の制作では一層新鮮な刺激があったのだろう。心地よくグルーヴするリズムと、レトロな音色で華やぐメロディの上を、谷颯太と土岐麻子のボーカルが駆け抜けていく。夏の終わりの侘しい季節を、疾走感のある曲に描いた新曲である。フィーチャリング・ゲストに土岐麻子を招いた動機から、「ハイブリッド」をテーマにしたという制作背景、バンドとしての今後の展望など、メンバー全員に語ってもらった。(Interview & Text:黒田隆太朗 / Photo:堀内彩香)

夏の終わりの寂しい感じを表現したかった

――土岐さんとは面識はあったんですか?

谷 颯太(Gt./Vo.):いや、実はまだお会いしてないんです。

――じゃあ制作はすべてリモートで?

鳥飼 悟志(Ba./Cho.):そうですね。とてつもないボーカルトラックが、バン!とブチ込まれた曲です。

:なので楽曲としては完成しているけど、まだ実感がないというか。再来週にミュージックビデオを撮るので、恐らくそこで初めてお会いできるんじゃないかなと思ってドキドキしています(笑)。

Deep Sea Diving Club「Left Alone feat. 土岐麻子」MV

――なぜ新曲に土岐さんにオファーしたんですか?

:4人でそれぞれ曲を作って夏のコンペをやったんですけど、「Left aAlone」はその時大井が書いてきた曲なんです。

大井 隆寛(Gt./Cho.):そのコンペで一番だった良かった曲が、ひとつ前に出した「フーリッシュサマー」(鳥飼作曲)なんですけど。「Left Alone」もフューチャリングゲストを入れたら良い曲になるんじゃないかって言ってもらえて。僕は学生時代にCymbalsのコピバンをやっていたくらい土岐さんの歌が好きで、今回ダメ元でもいいから聞いてみてくださいってお願いしました。

――バンドの音楽的にも、土岐さんの音楽はルーツにありそうですね。

鳥飼:そうですね。僕も大学の頃にCymbalsをコピーしてました。このジャンルに入っていったのもCymbalsがきっかけだったので、そういう意味でも思い入れがありますね。

:曲のリファレンスをメンバーで出す時に、これまでもよく入ってました。

出原 昌平(Dr./Cho.):そうだよね。僕たちも“TENJIN NEO CITY POP”と打ち出して活動しているので、同じシティポップという括りで見ても大先輩です。


Photo:堀内彩香

――新曲には土岐さんの声が合う予感があったということですか?

大井:そうですね。今回新しい試みとして、僕のギターで作ったデモを元に、打ち込みっぽく仕上げていったんですけど。キーボードの音色を入れていく中で、土岐さんの声が入ったらより良くなるんじゃないかと思いました。

――サウンドとしても、これまでよりも洗練された印象を受けます。

鳥飼:今回はバンドの音にこだわるのではなく、ハイブリッドを意識してアレンジを詰めていきました。ドラムは生の音と電子ドラムを両方入れていて、ベースも生のスラップとシンセベースを共存させています。その上で洗練する形を模索した感じですね。

:土岐さんのシティポップ三部作の最終作と言われている『PASSION BLUE』にたぶん4人とも影響を受けていて。あの作品はシティポップと謳いつつもラップっぽい曲があったり、打ち込みベースの曲が多かったりするアルバムになっていて、恐らく「Left Alone」はそういう方向に導かれていったんじゃないかと思います。

土岐麻子が2019年にリリースしたアルバム『PASSION BLUE』

――制作はどんな風に進んでいきましたか。

:自分達でたたきとなるデモを作り、そこに仮歌を入れていただいて、本レコーディングに入ってからまた土岐さんに投げて、そこに歌を入れていただいて……という繰り返しで進めていきました。歌詞はAメロまでが男性視点、サビから女性の視点になっています。一番を丸々自分が書いて、二番を土岐さんにお願いしていますので、自分が書いた箇所をその人が歌うという構成ですね。

――土岐さんの歌詞は情景が浮かびますね。

鳥飼:確かにストーリーがくっきりした感じがありますね。

――歌詞のモチーフはありますか?

:大井が「この曲は波のようだ」と表現してくれたんですけど、自分も音に青いイメージがあったので、海を舞台にして書きました。ただ、そこに部屋という対象的なものを並べているんですよね。最初は部屋の描写から始まり、繁華街のイメージに移って、最後に海に行くという感じですね。

――繁華街やネオンの光を思わせる歌は、このバンドの音楽性にぴったりですね。

:やっぱりシティポップって、ネオンがギラギラと光る昭和の活気ある時代のイメージがありますね。僕は当時を知らない世代ですけど、音を聴いた時になんとなく想像できる風景があって。それはたぶんノスタルジーとしてみんなが持っているのではないかなと思うんです。夜の街に出ていくこと、そこには人がいてパワーがあってあったかいんですけど、それぞれが孤独でいるっていう状態が僕にとってのシティポップのイメージなんですよね。

――「フーリッシュサマー」も夏の曲でしたが、今回は夏の終わり頃へと少し季節が移っていますね。

:真夏というよりは、秋が近づく頃のイメージ。汗を気にせず踊れる季節という感じです。あと、別れ際のラブソングって、普通はどちらか一方が相手から離れていくという曲が多いと思うんですけど、これはお互いに離れていくような構成にしたいと思っていました。

――なぜ?

:たとえば「3年目の浮気」など、昭和歌謡のデュエットってそういう曲が多いと思うんですよね。「Left Alone」は珍しくタイトルから決まった曲なんですけど、東京の遠征の時にデモをもらい、そこで歌詞を書こうとした時、僕もそういう楽曲にチャレンジしてみようと思いました。なんとなく、別れの曲の方がスムーズに出る感覚があったんです。

――それは谷さんの性格ですか?

:夏の終わりの寂しい感じが凄く好きなんです。みんなの服が半袖から長袖に変わって、陽が落ちるのが早くなるあの時期の寂しさって、お互いに関心がなくなっていく時期に凄く似ていると思うんですよね。人と別れるのは悲しいんですけど、ちょっと気持ちよさを感じるポイントでもあって、そこを表現したい気持ちはありました。

――音楽で寂しさを表現したい?

:そうですね。自分はノスタルジーという感情が一番好きで。たとえばみんなで遊んでいる時、5時の鐘が鳴って帰ろうという時間が凄く嫌なんですけど、そこでバイバイと言っている友達の後ろで夕日が沈んでいくイメージがずっと自分の中にあるんですよね。あるいは、泥だらけになって家に帰った自分が、お風呂に入るか悩んでいる時に感じるご飯の匂いや、お母さんがまな板で野菜を切っている音が好きで、僕が作品にしたいと思ったのはそういう時間帯、そういう風景なんです。

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制作を通して感じた土岐麻子の凄さ

――サウンド的には華やかな音色や、軽快なテンポ感が気持ちいいですね。

大井:作っている時から、疾走感のある音をイメージしていました。リズム隊が16分で細かく動いているところに、上モノのギターを長めに入れることで、その感じを出していけたらと思っていました。

――楽曲だけでなく、土岐さんの声そのものに凄く疾走感がありますよね。ドライヴしていく感覚というか。

:ドライヴって言う言葉がまさに。

鳥飼:土岐さんの声に引っ張られていく感じがあるよね。

――リズム隊の演奏についても少し聞かせていただけたらと思います。身体が動く曲だと思いますし、ベースはかなりブイブイいってますね。

鳥飼:そうですね(笑)。シンベとエレキベースが同時に鳴っている感じのトラックだったので、お互いに邪魔し合わず、ふたつで一個のベースとしてのグルーヴを作ることを意識しました。アレンジャーさんに提示してもらったシンベ一本でもカッコよかったんですけど、スラップも曲のイメージにハマる音でしたし、ネオンの香りがするようなベースの音色がいいかなと思い、生音の部分も上手くアプローチしていきました。


Photo:堀内彩香

――打ち込みの音に対するドラムのアプローチで意識したことはありますか?

出原:シティポップと言ったらドラムマシーンのリンドラムだったり、TR-808だったり、その時代の音っていうのがあると思うんですけど。「Left Alone」ではそういったサウンドをアレンジャーさんに提示してもらいました。

――なるほど。

出原:ハイブリッドというテーマもあったので、その上で生音の良さを出すことを考えました。そこでハイハットだけは1曲を通して生音でグルーブを作り、バスドラは打ち込みで鳴らして、スネアはショットを録ってそれを並べていくという作業をしたんですよね。そうしたら凄く独特なグルーヴになりました。

:ハットが生なのは凄く活きているよね。

――少しレトロな音色も、楽曲の雰囲気に合っています。

出原:名器と言われるものでサウンドを作っている効果ですね。

:ドラムは特にそうだよね。あと、ボコーダーが頭に入っているんですけど、あそこは2000年初期のフレンチ・ダンスミュージックのイメージというか。ダフト・パンクみたいな感じを思っていました。

鳥飼:あと、歌謡曲っていうのも結構言ってたよね。

:下メロはそうだね。歌謡っぽくしたいと思っていました。なので結構いろんな時代の音を取り入れてはいるんですけど、やっぱり80年代、いわゆるシティポップ全盛期の頃の音には仕上がっているかなと思います。そこに自分達が通ってきた新しい要素を入れることによって、今の時代のシティポップを作れたかなと。


Photo:堀内彩香

――まさにハイブリッドというテーマで1曲仕上げたという。

:そうですね。ただ、ハイブリッドという呼び方をしていなかっただけで、これまでもそういう考え方はあったと思います。

出原:何かをミックスしていくこと、クロスオーバーさせていくっていうのは、バンドの根底にあるものですね。それが今回の楽曲では、土岐さんとコラボするという点での新旧のシティポップだったり、電子と生音のミックスという形になったという感じです。

:メンバーのそれぞれ好きなものも違うし、自由でありたいんですよね。なので「1回やってみてから考えよう」っていうのをよく言いますね(笑)。

鳥飼:曲を作る時には新しいことをやってみようっていうのは、今後も僕たちの合言葉なんじゃないかな。

――土岐さんとコラボした楽曲が完成したことで、どんな刺激や気づきがあったと思いますか?

:ボーカルの音のぶつけ方や、声の重さの乗せ方に発見がありました。土岐さんの語尾って抜けが気持ちよくて、抜けるところにはハイがいるんですけど、言葉が聴こえた時にはちゃんと下の低音が支えているので、しつこくもなければ薄くもない、曲に合った歌い方をしていて、そこは凄く勉強になりましたね。

大井:俺が一番感動したのはハモですね。サビの後半に土岐さんが提案してくれたハモのパートがあるんですけど、ふたりの声がどちらもメインに聴こえる、ツインボーカルみたいなハモリがあって。そこがめっちゃ気持ちいいんですよ。

:あのパートが曲にめちゃくちゃ良い影響を与えているよね。

出原:やっぱり歌という点に関しては、土岐さん凄すぎましたね。楽器みたいな声だなって思います。僕は普段作曲ソフトを使うんですけど、パソコンでイジっている時に似ているというか、普通じゃありえないアーティキュレーションで凄いですね。

:あと、完成した曲を聴いていると、自分のパートが若いなって思います。一番のAメロは頑張って都会に行っている子、というイメージなんですけど、二番はベランダでゆったりテレビを見ながら都会を見下ろしているぐらいの余裕を凄く感じる箇所になっていて。自分としては食らいついていこうという気持ちがあったんですけど、改めて聴いてみると、ああ……っていう(笑)。

出原:全てを包み込むような声だよね。


Photo:堀内彩香

――3月に初のアルバム『Let’s Go! DSDC!』を出してから、早くも今年2曲めのシングルになります。アルバムを発表して以降、新しいモードに入っている感覚はありますか。

鳥飼:アルバムからは全員で曲を作るようになったんですけど、それは大きい変化だったなと思います。

:より曲に幅が出るようになったよね。あと、アルバムまでは福岡でレコーディングしていたんですけど、「フーリッシュサマー」から東京で録るようになって、そういう環境の変化も大きいですね。出原がアレンジからミックスまでやれるので、これまではアレンジもメンバー内でやっていたんですけど、シングルからはアレンジャーさんの力を借りるようにもなりました。

――制作の一部を、人に委ねるようになったと。

:そうやって新しいことにチャレンジしているので、フィールドが変わった感じはありますね。

――今後やってみたいことはありますか?

:うちのバンドの音的に、野外のライブはやってみたいですね。あと、まずは地元のフェスに出たいです。【Sunset Live】とか【CIRCLE】とか素晴らしいフェスがあるので、そういうところにも出ていきたいです。

鳥飼:音源もね、もっと多くの人に聴いてもらいたいよね。

出原:僕はスーパーヒーローになりたいですね。

:スーパーヒーロー?(笑)。

出原:今バンドが4年目くらいなんですけど、だんだん考え方が変わってきて。最近めちゃめちゃメンバーと話すようになったんです。昔はみんな、プライベートであんまり遊ばなかったから。

鳥飼:個人主義というか、ほっといたらひとりで無限に暇を潰せる集団なんですよね。

:だから以前は出原が無理くり遊びの約束を作って、繋ぎ止めようとしてくれていたんですよ(笑)。でも、最近はコミュニケーション取るようになったよね。

鳥飼:音楽の趣味もどんどん近づいていってると思う。

:それはある!

――たとえば?

出原:ルイス・コールとか。

:あとジェイコブ・コリアーでしょ?

出原:それとヴルフペック。

:好きな音楽はバラバラだったけど、最初から唯一趣味が合ったのはヴルフペックだよね。こうやって話をしたらわかってくれる仲間になってきたというか、最近は朝まで喋ってたりしますね。

鳥飼:で、そこで喋ってたらスーパーヒーローになりたくなったの?

出原:そう! 『アベンジャーズ』みたいだなと。個人志向で頑張ってた人たちが集団になったら、凄いと思うんだよね。

鳥飼:ああ、それはカッコいいね。みんなで曲を作るようになってからは、各々ミュージシャンとしてのスキルが上がった気がするんです。そうやって一人ひとりが自立したミュージシャンになった結果、もっとオモロいことができる感じはありますね。

:だからこの4人じゃないとできない何かを求めていきたいですね。いろんなジャンルをクロスオーバーさせてきたことで、何か新しいものができるんじゃないかと思いますし、せっかく人間が集まって一つのことをやっているので、今までの地上にない新しい何かを作りたいと思います。

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