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たむらぱん 『ハレーション』インタビュー
たむらぱん、初のシングル盤にして初のサマーチューン『ハレーション』をリリース。メジャーにフィールドを移しててんてこまいらしいんですが、その分、凄まじく吸収モードでパワーアップ中。ヒップホップアーティスト・Shing02と共演もしたみたいだし、メタルバンド結成を企ててるなんていう噂もあるし。で、それだけ確実に世界を広げている今だからこそ、明確にしておきたかった彼女の“核”部分、そのリアル・イン・ザ・ファンシーワールドな音楽の正体を今回のインタビューでは探ってきました!
『ハレーション』を作った中で唯一の心残り
--『ブタベスト』リリースタイミング以来なんで、3ヶ月ぶりぐらいなんですけど、インディーズ時代に比べるとかなり短いインターバルです。大丈夫(笑)?
たむらぱん:まだまだ大丈夫です(笑)。
--この紙資料見るだけでも、雑誌の連載3つやって、ラジオのレギュラー3本やって、結構な周期でイベント出演もあって、あとMySpaceの更新?やっぱり充実度は違いますか?
たむらぱん:そうですね。やっぱりやらせて頂けることがたくさんあるっていうのは、凄く素晴らしいなって思いますね。
--ラジオはどんな感じの番組をやってるの?
たむらぱん:レギュラーでやってる番組は、週1回の1時間番組を1人で喋るという内容で、これはかなり自分の中ではMCとかの勉強になってると思っていて。1人喋りを出来るようになると、ライブのMCで何か問い掛けたときに返ってこなくても、自分で返事する技を使えるようになる(笑)。
--発信の場が着々と増えていくっていうのは、どんな気分?
たむらぱん:たまにドキドキします。例えば、今回のシングル『ハレーション』の話をするとして、毎日その内容が変わったりするんですよ。やっぱりその日の気分もあるだろうし、その日に思い付くこともあるだろうし、1日1日考え方は変化していくから。でもそうすると昔言っていたことが嘘じゃないのに嘘に聞こえちゃったりすることもあったりするのかなって。そういう不安はありますね。何かを言うってことに対して。まぁでも自分が言ってることだから嘘ではないと思うし、それが嫌ってわけでは全然ないんですけど「ちゃんと伝わってるかな?」ってところでドキドキします。
--「あんた、あのとき、あんな風に言ってたじゃないの」みたいなね。
たむらぱん:そうそう!でもその瞬間はそう思ってたんだよっていう。
--まぁでもその辺のキャラクターは、たむらぱんの曲を聴けばね。
たむらぱん:アハハ!そう言ってまとめておきます(笑)。
--で、曲作りしてる時間はあるの?
たむらぱん:結構やってますよ。先月とかは、一週間ぐらいで集中してガーって曲録ったりして。1日1曲ぐらいのペースでやってましたね。そういうノルマを作って。でもいろいろと並行しながらやっていくのは難しいですね。私はひとつのことを始めたら途中でやめることが嫌というか、「途中でやめなきゃいけなさそうだな」って感じると始めることもしたくなくて。でもそんなことを言ってられなくなってきたので、そこのバランスを上手く取れるようにならないといけないなと思っているところです。
--昨年リリースした『ハロウ』とかは、1年ぐらい制作期間に当てて作ってましたもんね。
たむらぱん:そうですね。今思うと、すごく夢のよう(笑)。
--今作『ハレーション』はいつ作ってレコーディングしたものなの?
たむらぱん:ラジオのコーナーで“ハレーション”を題材にした曲をどう作るか?みたいな企画をやっていて。ちょうど1年ぐらい前ですかね。それで作った曲です。なので去年の夏ぐらいにデモは出来上がっていたんですけど、その頃から「いつか季節モノのシングルを出せるかもしれない」っていう期待が自分の中であって。なので今回、夏を意識した『ハレーション』が夏にリリース出来たのが嬉しくて。
--朝昼夜を感じさせたり、いろんな場所を感じさせたりする曲はありましたけど、確かに季節はなかったですよね。
たむらぱん:そうなんです。しかもそれが現実の四季に合わせて世に出せるっていう。
--ちなみにその『ハレーション』、よく考えたらインディーズ時代も含め、初のCDシングルですよね。
たむらぱん:そうなんですよね。曲のタイトルがパッケージのタイトルになっていること自体初めてなので、変な感じです(笑)。
--シングルってことで何か考えたり意識したことはありましたか?
たむらぱん:両A面シングルの案があったんですよ。でも両A面にしたところで、どっちかが2番目になっちゃうじゃないですか。それは私が嫌だったので、リード曲はリード曲でしっかり決めて。あとは、パッケージを見て曲の雰囲気が分かるようにしたいなと思って、デザインも曲のイメージと統一させたりはしました。
--ちなみに『ハレーション』というワードはどこから出てきたんでしょう?
たむらぱん:これは私が作ったんです。携帯電話のボイスメモに入れていた仮歌にあった言葉を元に歌詞を書いていって、“心が晴れて”とか“バケーション”とか頭に浮かんだときに“ハレーション”っていう言葉が出てきたんですよ。バケーションに行って心を晴れさせるみたいなイメージの言葉として。で、「これは来た!」と思ってつい最近までテンション上がってたんですけど、元々ある言葉だったらしく(笑)。なので、今作『ハレーション』を作った中で唯一の心残りはそこです。自分のオリジナルじゃなかった(笑)!
--狙ってたのに。
たむらぱん:本当に狙ってたんですけど。ビックリしましたよ!
Interviewer:平賀哲雄
娯楽かつ日常に必要なものになる
--その『ハレーション』、自身では仕上がりにどんな印象や感想を?
たむらぱん:いつもはまとめて何曲かレコーディングするんですけど、初めて『ハレーション』はこの1曲のためだけにレコーディングをして。なので、曲の所々を細かく見ることが出来ましたね。いっぱいいっぱいの状況だと何かを見落としてしまったりもすると思うんですけど、今回はすべてを明確に見ることが出来たと思います。この曲はギターメインにしたくて、そこにストリングスをどうアレンジして重ねていくかっていうのがポイントだったんですけど、私はアレンジの勉強を本格的にしてきたわけではないので難しいところがいっぱいあったんです。それは前からあった課題で。でも今回のレコーディングでわりとそこの問題が解消されたんじゃないかなと感じていて。もちろんまだまだ改善点はいっぱいあるんですけど、現時点までの失敗はちゃんと報われたかなって。
--自分的にはどんなイメージを膨らませての、この曲の流れなの?
たむらぱん:最初は“水”とか“海”っていうイメージで、そこに光が反射してる感じをギターで表していて。波がざぶざぶしてて、暑さがどんどん近寄ってくるみたいな。で、そこからビッグウェーブ!みたいな。
--個人的にはですね、まぁサビだけ聴いたら、軽快なサマーチューンですけど、詞と曲の流れからは、かなり強引に自分を奮い立たせてる女の子って感じなんですけど(笑)どうでしょう?
たむらぱん:その通りですね(笑)。なんか、明るいだけの曲にしてもいいかなって思ったんですけど、結局、最終的にはちょっと戸惑っているような感じとかが入っちゃって。でもこの曲のドラムのフィルとかパターンとかが出来た時点で、夏の楽しさの中のちょっとした寂しさ。花火大会が終わっちゃった後の寂しさみたいな感じは入っていたと思うんですね。なのでそこは素直に出しつつ、でもどこかに向かっていける感じにもしたくて。で、女の子がちょっと強引に頑張ろうとしてる感じ、それをちょっと面白く捉えられるような感じは、夏の曲だし、そこにユーモア性はあった方が良いと思って。そこは意識しましたね。
--あ~もう!いろいろ大変・・・。あ、でも夏か。夏か!夏かぁぁぁ!!!みたいな。完全に夏任せなポジティブソングですよね?
たむらぱん:そうなんですよね。「水着が着れない」とか言ってるんですけど、なんで水着が着れないって思ってるのかって、わりと自分がそう決めてるだけだったりして。人って自分で自分の限界を決めがちだから。でもそういうところから何かを理由にして開放するというか、ちょっと広げるというか。そこを表現したくて。それを、水着着れないと思ってたけど夏の勢いに任せて「着ちゃえ!」みたいなところに繋げてるんです。
--今日は、せっかくシングルタイミングのインタビューなので狭く深く掘り下げたいんですけど、なんでたむらぱんの音楽はこんなにも微妙な心境をいつも突いてくるのかっていう。なんで?
たむらぱん:なんで?直球ですね(笑)。そうですねぇ~、やっぱり基本的に、優柔不断って言ったらちょっと違うかも知れないんですけど、常に考え方が真ん中なんですよね。白と黒じゃなくて灰色。「楽しい」「悲しい」じゃなくて「楽しいような」「悲しいような」。っていうところがわりと日常の中の大半を占めてると思ってるから、いつもどこか振り切れないような感じになってるんだと思います。なので“答え”は言えないんだけど、分かんないし。でも「答えに向かう方向はなんとなく言えるよ」みたいなところを最後には置きたい。それは自分の願望というか、自分もそうでありたいっていうところだと思うんだけど。
--だから「いぇ~い!夏だ!太陽だ!」みたいなことにはならないんですよね。
たむらぱん:「いぇ~い!すげぇ天気良い」って思っても、でも「やばい、日に焼ける」とも思っちゃうとか。絶対に“でも”みたいなのが出てくる。「絶対、楽しいことには、どこかに楽しくない要素がくっついているもんだ」みたいな。
--だからこそ「シワと羽伸ばして」っていうリアルと比喩が同居したワードみたいなのが出てくると。
たむらぱん:そうですね。このフレーズは、今はアンチエイジングの時代ですし、ストレス社会の時代でもある。「じゃあ、羽を伸ばしてストレス無くしたら、シワも伸びるんじゃないか?」みたいな発想から出てきてるんですけど。
--そこで「シワ」も付けるのがたむらぱんであると?
たむらぱん:そうですね。「羽伸ばして」だけだと可愛すぎるというか。「いやいや、もっと伸ばしたいところは他にあるんだよ。むしろシワの方が伸ばしたいんだよ」っていう(笑)。
--そのファンシーの中にリアルを置く感じって、何か生い立ちとか関係してるんですか?
たむらぱん:これは最近になって「意外とあれが関係してるのかな」って思ったことではあるんですけど、大学の頃ってテストじゃなくて論文で単位取るっていうのがあるじゃないですか。で、私は英語であっても社会学であってもどの学科の論文でも、童話とか物語を素材にして書いていたんですよ。それで「なんでグリム童話は今読んでも楽しいか?子供でも読めるけど大人でも読めるのか?」って考えたときに、童話ってちょっとリアルなところが入っていて、でも子供はそれを「リアル」とは捉えない。だけど経験を積むと分かってくるじゃないですか。私はその楽しさを知って、こういうものであれば娯楽かつ日常に必要なものになるのかなって思ったんですよね。そこは今の私の詞や音楽に影響してるのかなって。卒業論文も「ムーミン」をテーマにして書いたんですけど、あの「ムーミン」は、第二次世界大戦の後ぐらいに生まれたものらしくて。その背景があるから実は人間の悲しみとか喜びを描いてる。でもパッと見は子供向けの物語。その感覚は影響してると思いますね。パッと見は分かんないけど、実は・・・みたいなところに惹かれてるというか。あとは基本的にお得感が好きで。2回楽しめて一石二鳥みたいな。
--「ムーミン」の背景には「戦争はダメだ」という想いが秘められているとして、たむらさんも「戦争はダメだ」を言いたい人だと思うんですよ。でもそれをストレートには言いたくないんですよね、きっと。
たむらぱん:そういうのを本当に面と向かって自分が言えるような存在になったら言いたいとは思う。でも現時点でも言いたいは言いたい。じゃあ、それをどう言おうかな?っていうところですよね。また「ムーミン」の作者の人の話になるんですけど、その人が誰のために書いてるのか?って言うと「世の中の日の目を見ていない人のためと、すごく自身満々の人のため」らしく、なんかそれって凄いなと思って。なので私も話のスケールは違うけど「水着はもう着れない」と思っている人が少しだけ自信を持って水着を着れるようになったり(笑)そっちの方向に直接的にじゃなく自分なりの表現で誘うみたいなことをしたくて。それって好きな人の前でカラオケでラブソング歌う感じに近いかも知れないんですけど。あれって人が書いた歌詞を仲介して想いを届けてるわけじゃないですか(笑)。そういう感じかな?
Interviewer:平賀哲雄
私、あんまり海が好きじゃないんです。
--これは僕のイメージですけど、たむらぱんがどっぷり好きな人って、物事が成立するためにはポジティブもネガティブも必要で、その両方を受け止めていかなきゃしょがねーべっていう意識がしっかりとある人だと思うんですよ。表も裏もあって完成だからっていう。
たむらぱん:私も多分そういう人が好きなんだと思います。しかもそういうことを敢えてストレートには言わないっていうか、それをポップに表現している人や作品に魅力を感じるんですよね。あの、今「ポジティブもネガティブも」って仰ったじゃないですか。小さい頃ってその言葉知らないじゃないですか。いつから「私、ポジティブだ」とか「ネガティブだ」って思うようになるんですかね?
--その言葉は使わずとも当然どちらも持ってはいますよね。給食残して怒られて落ち込んだりするだろうし(笑)。それを「ポジティブだ」とか「ネガティブだ」って認識するのは、それが切実になってくる思春期の終わりぐらいに知る音楽とか映画とかアニメとか・・・。
たむらぱん:メディアですかね。
--でもその観点で考えると、そのぐらいの年頃の子がたむらぱんを聴いてどんなことを感じるのかは興味深いですよね。
たむらぱん:小学生ぐらいの子とかもライブに来てくれたりするんですけど、どういうところで聴いてるのか知りたいですよね。どういう部分を気に入ってもらえているのか。ウチの兄の子供は、最近『ヘイヨーメイヨー』を憶えたらしく、「ヘイヨーメイヨー♪」ってところだけをずっと繰り返して歌ってるんですよ。それはそこの部分が楽しいっていうので聴いてるんだと思うんですよね。でももうちょっと文字が読めるぐらいの子供とか、中学生とか、何を好んで聴いてくれているのか興味はありますね。
--話を戻しますが、たむらぱんの表も裏もあって成立する、その考えのベーシックな部分が表現されてるのって、きっと『回転木馬』とかですよね?
たむらぱん:そうだと思います。曲だけで聴いたらどれもバラバラなんだけど、でも『回転木馬』にある二面性感は一環してる感じはするんですよね。そこがブレてないから、わりと伝えたいことはどの曲も同じなんですよね。
--で、『回転木馬』的な思想も『ハレーション』的な物語もこうしてポップミュージックに昇華してしまうっていうところに、たむらさんの生命力というか、生きる理由みたいなものが垣間見えるんですけど、自分ではどう思いますか?
たむらぱん:そうですね。そこがどれだけ表現できるか、しかも楽しく。っていうことに終始してるので。
--で、そんなたむらさんが今回『グランパ』みたいな達観ソングを作ったのもビックリしていて。
たむらぱん:アハハハ!この曲自体は結構前に出来てた曲なんですよ。『ブタベスト』より前。で、実は私の中でこの曲だけが唯一コードから作った曲で。自分はギターを弾けないんだけど、ギターで曲を作りたいと思って、なんとか弾けるコードだけで作っていって。たまたまそれがマイナー調のコードだったんですよ。で、しっかり弾けないからテンポもゆっくりで。そしたらこの曲の雰囲気がなんとなく出来上がって(笑)。
それでこの曲の歌詞を書いた頃が、ちょうどリストラが流行していた時期だったんですよ。テレビでもすごく取り上げてて。この曲の雰囲気となんとなく繋がったんです。で、“グランパ”を主人公に選んだのは、そのぐらい歳を重ねた人は何回も人生の中で「今が良い時なのか?」って考えてきたと思うんです。ずっと生きて「自分は本当に楽しく生きれたんだろうか?」って思ったり。で、そこを表現するのに一番分かりやすいのが“グランパ”=お爺ちゃんだったんですよね。ただ、10代の人でも20代の人でも30代の人でもそういうことを考えるタイミングっていっぱいあると思うんですよ。どの年代の人でも起こり得る現象というか。--でも「笑いながら、くだらないな」とかってたむらさんの老後っぽいよね(笑)。
たむらぱん:そうなんですよ(笑)。でも「くだらないな」って言葉は、リストラになった人のイメージから出てきたもので。まだ家族にリストラになったことを言えてなくて、会社に行くフリして公園に行って。で、春のポカポカした天気の中、「自分はあの会社に入って、誰のために働いていたんだろうか?」ってきっと思ってると思うんですよ。でもそこに鳩とかが集まってきたりして。その光景があったかいから「こうやって毎日公園に来て、考えちゃってる自分ってアホだな。ハハ」って思うかもしれないっていう。そういうイメージ。
--なるほど。それを聴いて笑えたら良いよねっていう。
たむらぱん:そう!「こんなこと考えててくだらなかったよな」って思ってくれたら良いんです。でも「自分がくだらないって言われてるみたい」って捉えられちゃったら困ります(笑)。まぁそんな感じの曲なので、わりと『回転木馬』とかに近い感じですよね。
--え~、夏に夏っぽいシングルを出して、そのインタビューなのに夏っぽい質問をしてなかったんで、最後にしておきます。今年の夏は、水着はセパレートで海で泳ぎまくる感じなんでしょうか?
たむらぱん:私、あんまり海が好きじゃないんです。というか、夏が得意じゃない。
--この曲にこのジャケットで!?
たむらぱん:これは撮影用です(笑)。
--『ハレーション』って誰よりたむらさんが聴かないといけない曲なんじゃ・・・。
たむらぱん:いや、海に行ってもいいんですけど、自分も水着で海に居て良いのだろうかって思うんですよ。それを「大丈夫」って思ったり「でも」って思ったり。わりと今のうちに行っておいた方が良いんじゃないかと思いつつ。
--悩んでるウチに「シワと羽伸ばして」が切実になっていくと。
たむらぱん:そうそう(笑)。
Interviewer:平賀哲雄
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