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<インタビュー>国民的ヒットから10年――シンガーソングライター・韋禮安(WeiBird)が大切にする2つのルール
台湾・台中出身のシンガーソングライター、韋禮安(WeiBird)がBillboard JAPANに初登場。2012年に発表した2ndアルバム『有人在等』の収録曲で、台湾で社会現象になるほど大ヒットしたドラマ『我可能不會愛你(邦題:イタズラな恋愛白書)』の主題歌「還是會」を、ここ日本でも耳にしたことがある人も多いことだろう。
「還是會」の大ヒットから10年。その間に全編英語詞のアルバムリリースや、再びヒットソングの誕生など、アーティストとして順風満帆なキャリアを築いてきた彼にも、制作に関して頭を抱える時期があったという。どのようにして脱却したのか、そして最新アルバム『明天再見 Good Afternoon, Good Evening and Goodnight』がどのように作られたのか、最近来日した中華圏のヒットメイカーにじっくり話を聞いた。(Photo:興梠真穂)
――まずは音楽的なバックグラウンドについてお聞きしたいと思います。音楽一家で育ったそうですね?
韋禮安:両親は二人とも歌うことが好きで、大学時代には二人とも合唱団に入っていたんです。私が覚えている限り、家の中では音楽が流れていました。最初は、アメリカの古いフォーク・ソングなどを両親と聴いていました。ブレッドの「If」……(歌い出す)"If a picture paints a thousand words."や「Tie a Yellow Ribbon Round the Ole Oak Tree」などです。あと、ディズニーの曲もよく聴いていました。両親が映画に連れて行ってくれるときは、必ずカセットテープを買ってくれました。当時はまだカセットテープがありましたからね(笑)。『アラジン』『美女と野獣』『ライオン・キング』……すべて100万回ぐらい再生したと思います。
――他にはどのような音楽を聴いていたんですか?
韋禮安:子供の頃は、主にディズニーの曲でしたが、小学2年生の時に……テレサ・テンを知っていますか?
――もちろんです。
韋禮安:残念ながら、亡くなってしまいましたが、当時どのTV局やラジオ局も彼女の曲を流していました。私はまだ小さかったので、彼女が誰なのか知りませんでしたが、その頃に彼女の歌をたくさん聴きました。演歌や中国の方が作った曲もありましたが、どれもメロディアスで、ヘヴィで、古いジャズ・ナンバーやミュージカルなどにインスパイアされていました。
テレサの歌も、ディズニーの曲も、昔のフォーク・ソングも、共通していることがあると思うんです。それはメロディーがとても重視されているということ。私にとってメロディーは、どの作品でも常に大きな焦点となっています。たとえラップやヒップホップであっても、耳に残るような、いいメロディーを探します。これは自分の作品にも反映されているんです。
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――いいメロディーが中核にありつつ、聴いているジャンルは広がっていったんですね。
韋禮安:聴くジャンルは常に変化してます。でも共通しているのは、やっぱりメロディー重視ということです。高校生の頃、マンド・ポップ、C-POPをよく聴いていましたが、周りに溶け込むために必要だったからで、カラオケでそういう曲が流行っていたんです。10代の初めの頃は、台湾のシンガーソングライター、ジェイ・チョウや、もちろんデビッド・タオもよく聴いていました。大学に入ってからは、ジェイソン・ムラーズ、ジョン・メイヤー、ダミアン・ライスなど、洋楽アーティストをどんどん聴くようになりました。ギターを中心とした音楽に惹かれるようになったんです。ここ数年は、R&Bやアーバンなもの、シティ・ポップをよく聴いています。シティ・ポップは、ストリーミング・サービスでも頻繁にフィーチャーされているので、たくさん聴いています。
――プロとして音楽をやりたいと思うようになったのは?
韋禮安:高校生の時に曲を作り始めたのですが、当時はただ楽しいからやっていました。高校に入った時、父がギターをプレゼントしてくれて、ギターを弾きながら歌う方法を独学で学びました。ギターを習おうと思ったのは、歌うのが大好きだったので、自分で伴奏をしたかったからです。
その後、バンドを組んでいた同級生に感化されました。台湾では、学生バンドはカバー曲を演奏することが多いのですが、年末の発表会で彼らは自分たちで作った曲を演奏したんです。「ワォ、とてもインスパイアされる」と思いました。それまでソングライティングは、ジェイ・チョウやデビッド・タオのようなエリートがやるものだと考えていて、ソングライティングがとても難しく、遠い存在に思えたんです。そのとき、「ああ、これなら自分にもできるかもしれない」と思ったんです。
少しはコードを知っていたので、自分で曲を作るようになりました。いつかステージに立ちたい、アーティストになりたいという夢はあっても、当時は学業に専念していたので不可能だと考えていました。日本でも同じような感じだと思います。そして大学で初めて歌のコンクールに出場しました。その年はTV番組とコラボしていたため、TVの歌唱コンテストにも出場することになり、それを通じて様々なレーベルから声がかかりました。「すごい!」と思いましたし、もしこれが実現可能ならば、試してみてもいいかなと。
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――曲作りを始めた頃は、どんな曲を作っていたのでしょうか?
韋禮安:ほとんどがラブ・ソングでした(笑)。耳にするポップ・ソングのほとんどが愛についてだったので。ティーンエイジャーの頃は、愛に惹かれますし、想像力も豊かです。そしてまだ愛に対して希望を持っている……というのは冗談ですが(笑)、最初はフォークをベースに時にはロックも少し取り入れていました。ほぼC-POPのバラード曲を書いていましたが、心の奥底では常にもっと上を目指したいと思っていたんです。
もっと学びたいと強く思っていましたし、自分自身のコンフォート・ゾーンを打ち破りたかったんです。これまで7枚のアルバムを発表してきましたが、もし私の最初の作品から最新作までを聴く機会があれば、多くの変化があったことに気づくのではないでしょうか。私がどのように境界線を押し広げ、自分自身に挑戦しているのか、聴くことができると思います。
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――ここ3年間は1年に1枚アルバムを発表していて、本当に多作でした。これまでは2~3年おきにリリースを行っていたと思うのですが、その変化のきっかけは何だったのでしょうか?
韋禮安:レーベルからのプレッシャー(大笑い)。いや、それはほんの一部です。一番の理由は、考え方の変化なんです。高校時代に曲を作り始めたときは、どんな趣味でもそうですが、楽しいからやっていました。その後レーベルと契約し、自分の曲を作る機会が与えられ、曲を聴いてもらえるようになります。そうするとプレッシャーがかかるんです。下手な曲は書きたくない。いい曲だけを書きたい。私は完璧主義者なので、本当にいい曲を書きたいんです。しかし、この考え方は生産性を落とすものでした。先延ばしにすることの燃料になるんです。すごくいい曲を書こうと意気込んで座ってみるのですが……
――そういうときに限って、インスピレーションが湧かない。
韋禮安:そうなんです。プレッシャーがのしかかってきて、インスピレーションを止めてしまうんです。一行書いただけで、「これはダメだ、もういいや」となってしまう。そのような宙ぶらりんな状況が数年間続きました。そんな中、創造性、ソングライターや作家が書くという行為と、いかに向き合っているかについて研究するのが好きだったこともあり、たくさんのインタビューを聴きました。そのうちの一人がスティーヴン・キングで、あるパネルで『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作者ジョージ・R・R・マーティンが、「どうしてそんなに速く書けるんですか?」と彼に質問したところ、スティーヴンの答えは多くの多作な作家の答えと同じでした。共通するのは、毎日何かを書いているということ。同時に自分自身を批判しないということです。
非常に興味深いことに、久石譲の自伝にも同じことが書かれていました。彼はある一定の時間、朝9時か10時にスタジオに入り、ただ書く。この2つの言葉によって、私の考え方は一変しました。ただ座って、ただ何かを書くんだ、と自分に言い聞かせるんです。良いものである必要はありません。極端な話、「今日は座ってゴミを書こう」と自分に言い聞かせることもあります。「クソみたいな曲を書こう」って。書き始めれば、インスピレーションは後からついてくるものなんです。これが、ここ3年間の私の生産性を押し上げてくれた理由だと思います。ある種のシステムを見つけたと思うんです。自分をジャッジしないこと、完璧主義者になる必要はないということ。そして作品に自ら語らせるのです。
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