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<インタビュー>マデオンが2年半ぶりに来日、夢中になっているものは“色と椅子”
フランス人DJ/プロデューサーのマデオンが【SONICMANIA】出演のため、8月中旬に来日を果たした。日本でショーをするのは2020年1月に開催した単独公演以来だ。この数年は、クリエイティブなアイデアとスキルを持つクルーとともに、自身のステージをアートとして構築することに注力しており、マデオン=音と映像を使った刺激的なパフォーマンスが確立しつつある。
久々の来日ということもあり、滞在中の思い出をSNSでリアルタイムにシェアしていたマデオン。ビッグステージを翌日に控える彼とリモートで話をする機会ができ、現在のモードと進行中という制作状況について、話を聞いた。彼が研究熱心なことがよくわかるはずだ。(Interview & Text: Mariko Ikitake / Photo: SUMMER SONIC All Rights Reserved)
――この数日、日本で体験したことを教えてください。
マデオン:なるべく時間を有効的に使おうと思い、渋谷で古いヴァイナルを買ったり、築地や森美術館に行ったりしました。神保町にも足を運んで、色についての古い本とか雑誌を買いあさりましたよ。
――今のツアー【GOOD FAITH FOREVER】では、バックスクリーンに派手な色が使われていますよね。そのための色の研究をされているんですか?
マデオン:はい、今のライブでは色使いが重要なので、そのアップデートのために勉強しているんです。(買った本を出してきて)この本は、フランスに行ってフランス人の色の使い方を学んだ日本人のアーティストが出した色図鑑です。1970年代の本なので、50年ものなんですけど……この本はまさに自分が欲しいと思っていたものが全部詰まっている本です。
――日本語で書かれているんですか?
マデオン:日本語とフランス語の両方です。色の説明に言葉は関係ないので、助かっています。他にもたくさん本を買ったんですよ。グラフィックデザインやレイアウトなど、日本人の色の使い方が僕にとっては本当に刺激的で、とてもおもしろいです。自分のチームに日本とアメリカの国籍を両方持つシンイチロウ・フジタがいて、僕が好きだろうと思って、彼が神保町に連れてってくれたんですけど、彼の予想通り、本当に的確な本が見つかりました。
(C) SUMMER SONIC All Rights Reserved
――ビビッドカラーを使った大きなスクリーンの前に、おしゃれな幅広ハットをかぶるマデオンが最近のお決まりですよね。
マデオン:ステージで使っている小道具をなるべく持ってこようとしたんですけど、持ち運ぶのは不便という理由で今回は帽子を持ってこなかったんです……衣装は持ってきましたよ! 一番大きなステージに立たせてもらえるなんて光栄ですね。2019年のステージを最新版にアップデートしたステージなので、昔のツアーに来てくれた人には、その違いを楽しんでもらえると思います。巨大な自分のクローンがたくさん登場するところがお気に入りで、すごくシネマティックなステージなので、ぜひ注目してほしいです。
――海外ではスマホ撮影が容認されていることもあるので、視覚的にオーディエンスの注目をとらえることも、パフォーマンス上、重要視しているのでしょうか?
マデオン:僕自身は動画や写真を撮られるのは全然構わないんです。誰しも「こんなもの見たことない!」っていう光景を目の前にしたら、保存したくなるじゃないですか? 人間の習性でもあると思うので、撮影は気にしていません。今回のライブは見ている人が入り込めるステージになっているので、オーディエンスがどう反応するかをステージ上から見るのも楽しみの一つなんです。
(C) SUMMER SONIC All Rights Reserved
――今までマデオンが見てきたパフォーマンスの中で、刺激を受けたステージは誰のものでしょうか?
マデオン:最初に刺激を受けたライブと言ったら、13歳のときにフランスで見たダフト・パンクですね。ピラミッドを使ったステージで、そこから人生が変わったと言っても過言じゃないぐらい、すごく印象に残っています。あとは、トーキング・ヘッズのデイヴィッド・バーンのブロードウェイ・ショー(『アメリカン・ユートピア』)で彼がバンドと踊るシーンは、すごく説明しにくいんですけど、忘れられないです。それ以外だと、フランスのジャスティスやポール・マッカートニーのライブにも刺激を与えられました。
内容じゃなくて、ステージが持つスピリットが全てを物語るときもありますよね。自由や他とは違う何かが受け入れられるというか。それに、特にエレクトロニック・ミュージックの世界には「ステージはこうでなきゃいけない」っていうルールがないんです。シンプルなDJセットでもいいし、自分のように歌ったり、ビジュアルを強調したりなど、自分のテイストを伝えられる方法が何でもアリなところ、好きなように発明できるところが特徴的です。子どものころ、僕は手品をよくやっていたんですよ。マジックから学んだことは角度の重要性、そして何に人の目が行くのかということ。それを今、自分のライブで活用しています。あとは、先ほど話したような色に対する僕の情熱を、自分のライブのモチベーションとして活かしていますね。
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喜びや自信に満ちた音楽を出しつつ
サウンドとは反対の感情も入れていく
――いつかソニックマニアの映像が公開されることを願っています。4月に新曲「Love You Back」がリリースされました。この曲はリリースされるまでに時間がかかったみたいですね。
マデオン:実は何年も前にコーラスはできていたんです。「あとちょっとで完成するのに、何かが足りない」みたいな状態がずっと続いていて、どうやったら完成させられるのか、自分でも見当がつかなくて。前作のアルバムに入れたかったんですけど、どうしても間に合わなかったんです。ただ、パンデミックが始まる前は常にツアーに出ていて、落ち着く時間が取れなかったんですけど、パンデミックですべてがキャンセルになったことで、自分の人生を見つめ直す時間、時間をかけて愛を学ぶことができたというか……普通の人生を歩む時間ができたおかげで曲を完成させることができました。
――コロナ禍に癒やしや自己を見つめる時間ができた人がいるのも事実で、マデオンもその側だったんですね。
マデオン:もちろんパンデミックによって多くの人が試練を虐げられているため、軽々しく語りたくはないんですが、16歳のときからノンストップでツアーをやってきて、年齢相応の人間味のある経験をしてこなかったんです。だから、逆にそういう体験をさせてくれる時間ができました。
――人生について見つめ直す人も多いなか、ビヨンセの「ブレイク・マイ・ソウル」のように自己の開放や自由を歌う音楽が増えている気がします。マデオンの音楽はこれからどうなっていきますか?
マデオン:自分の作品では喜びや希望をカラフルに表現しようと考えているんですけど、生きていれば恐怖や困難に向き合うことも多々ありますよね。「Love You Back」も喜びで満ち溢れているようなサウンドですが、歌詞は悲しくて苦い思い出が込められています。そのように、今後も喜びや自信に満ちた音楽を出しつつ、サウンドとは反対の感情も入れていくと思います。僕だって悲しくなるときが当然あるので、音楽には祝福のような感情も入れつつも、それには代償があることも盛り込んでいきたいと思います。
(C) SUMMER SONIC All Rights Reserved
――世界中を回って忙しくしているなか、制作も進んでいますか?
マデオン:はい。最近は昔の日本のシンセサイザーにハマっていて、そのバーチャル版が各ブランドから出されているので、飛行機で移動中の間はそのバーチャルシンセで遊びながら曲作りをしています。昔からシンセは好きだったんですけど、「僕って本当に好きなんだな」ってこの頃、再認識しています。普段、ツアー中に曲を作るのは難しいというか、できないタイプなんですけど、今はその逆でずっと作ってます。
――好きなシンセサイザーって、滞在中にインスタのストーリーで上げていたシンセサイザーですか?(楽器店でシンセサイザーを試し弾きする映像を投稿していた)
マデオン:あれは80年代のRolandのJUPITER-8で、これも最高峰ではあるんですけど、僕のお気に入りのシンセは高額すぎて手に入らないです。そのデジタル版を持っているんですけど、現物はそれと比べ物にならないくらい、音が違うんですよ。Five G(東京・原宿にある楽器店)でいいなと思ったものを見つけたので、「いくらですか?」って聞いたら、「値段がつけられないくらい貴重なものだから、絶対売れない」って言われました。ちょっとだけ弾かせてもらったんですけど、次回日本に来たときに値段交渉させてもらえたらなって思っています(笑)。
(C) SUMMER SONIC All Rights Reserved
――(笑)。自由時間も音楽のことばかり考えてるようですが、音楽以外に楽しんでいることはあるんですか?
マデオン:建造物や古い映画も好きですね。椅子にも興味があって、実は椅子の本も買ったんですよ(マルティノ・ガンパー著『100 Chairs in 100 Days and its 100 Ways(原題)』を見せてくれる)。あと、ゲームも相変わらず好きです。グループの対戦系より、一人でプレイするほうが好きなんですけどね。とにかく好奇心を保つことが大事だと思っていて、いつもいろんなところから刺激を得ています。
――最後に日本のファンへメッセージをお願いします。
マデオン:日本でのプレイはいつも楽しくて、東京観光中に何人かのファンから声をかけられました。自分のことを知っている人が遠い日本にいること、しかも自分を応援してくれていることを感じることができて、すごく嬉しかったです。何度も日本に戻ってきたいですし、毎回喜びを感じています。いつも本当にありがとうございます。
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