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たむらぱん 『ブタベスト』インタビュー
インディーズ時代からポップでキャッチーでハイクオリティでスーパーオリジナルな楽曲を生み続けてきた、田村歩美こと“たむらぱん”。良い曲を作るが、聴かせる機会が少ないという状況をインターネットで改善してみたところ、驚くほどの人気急上昇ぶりで、気が付けば、メジャーデビューアルバム『ブタベスト』のリリース。しかもこれがまたえらい良い作品で。2008年の大きな目玉になること必至!ってやつです。正に。そんな彼女の今の心境を嬉しさ混じりで語ってもらいました。
精神的な部分を自分だけで支えなくていい
--まずはメジャーデビューおめでとうございます!どうですか?メジャーは。
たむらぱん:いや、良いですね。こういうの(アートワークに使用したブタのかぶり物)作ってもらえるんで。多分これを自分で作っていたらレコーディングする時間なくなっちゃいますからね(笑)。凄いです。デザイナーさんとか、専門職の人に会える機会が増えたのも嬉しくて。今までは「こんなことがしたい」と思っていても、そのやり方が分からなかった。ただ、専門知識がある人達と交流する機会が増えていくと、また一層いろんな事を考えることができて。今は尊敬できる人にどんどん会えてます。
--あと、先日の渋谷duo MUSIC EXCHANGEでのワンマンにもファンや関係者がたくさん来ていて、「本当にメジャーデビューしたんだなぁ」って。
たむらぱん:お父さん(笑)?
--お父さん的な視点で(笑)。ああいう状況下でライブするのってどんな気分ですか?
たむらぱん:初めてインディーズでCDを出した頃は、自分がたくさんの人の前でライブをできるっていう想像ができませんでしたからね。だって、少し前までお客さんが10人来たら、もう喜んでバンバンザイだったわけじゃないですか。それが今は、自分の知らない人たちも観てくれるようになって。不思議だなって思いますね。自分が把握できる以上の人たちが観てくれるっていう事は、もしかしたら寂しい事かも知れないんですけど、でもやっぱり、そこを自分で求めていましたからね。把握はしきれないけど、純粋にみんなが応援してくれているのもすごく伝わるし、嬉しいです。
前よりたくさんの人が聴いてくれているっていうのは、感情的な部分でもすごくプラスに働いていて。自分の事をもっと信じられるようになった気がします。前は自分で自分の事を「頑張れよ」って言うだけだったんですけど、今は自分+周りの人が「頑張れよ」って応援してくれる。精神的な部分を自分だけで支えなくていいところが出てきて、それにすごく助けられている感じもありますね。
--また、1年前までは「家のヒーターの電源を入れると、音にノイズが入っちゃう!」みたいな状況でレコーディングしていたわけですけど(笑)もうそういう過酷な目にも・・・。
たむらぱん:そこは意外と変わってないかも(笑)。良い意味で変わってない。ただ、選択肢は広がりました。「これは絶対ここでやった方が良いから、ここでやろう」みたいなことが言えるようになりました。前は自分たちですべてやるしかなかったので。そうした状況の中で、今、いろんなエンジニアさんと働いてみたいと思ってるんですよ。音の相性みたいなモノをもっと知って、音楽的にどんどん広がっていけばいいなと思っていて。
--メジャーになると音楽的に良いこともあるけど、音楽制作以外の仕事もグンと増えるでしょ?そこのフラストレーションはない?
たむらぱん:今は何やっても楽しいというか。キャンペーンってヤツをやったんですけど、「タクシー乗れちゃうんだ」みたいな感じですよ(笑)。こういうインタビューとかあったときも「あ、おにぎり出てくるんだ」とか(笑)。そういうのは新鮮です。あと、こうやって喋る機会が増えてくると、質問を消化して答えるまでの距離が短くなるんですよ。前は、頭で思ってることと口に出すことが掛け離れていたりもしたと思うんですけど、そこは鍛えられているなって。
--そんなメジャーの環境で活動しているたむらぱん。みんないろんな経緯でそこに進んでいくわけですけど、ここ数年のたむらぱんの流れは見事でしたよね?特にパソコンを手に入れて“myspace.com”を始めてから凄まじい勢いで世界が広がっていったというか。
たむらぱん:最初は「インターネットを活用してCDを出そう」なんてことは思っていなかったんですけど、結果的にメジャーでアルバムを出せることになって。なので「アレがなかったらどうなってたんだろう?」って思うと、ちょっと怖い感じもするんですけど(笑)。パソコンに関する知識が付いて本当に良かったと思います。パソコンを始めたときは、そこに使う時間とか、能力とかが、本当に負担で仕方なかったんですけど、結果として、マイナスになることなんて何もありませんでしたからね。とにかく何でもやってみるもんだなと。
--また、昨年リリースしたアルバム『ハロウ』の内容もそうだし、渋谷エッグマンでやった初めてのワンマンライブもそうだし、ここ1,2年はとにかく田村さん自身が広がり、繋がりを求めていましたよね。
たむらぱん:そうですね。やっぱりそこを求めてやっていたから、ずっと止めることができなかったんだと思うし。そもそも自分の趣味の枠を超えて音楽をやろうとしたわけなんで、やっぱり聴いてもらって、買ってもらってっていう事だと思うんですよね。それは0よりは1が良いし、1より2が良いしって今も思ってるし。だからそこに向けて、やっぱりどんどん向かって行きたいなっていうのはありますね。
--ちなみにメジャーデビューへの経緯っていうのはどんな感じだったんですか?
たむらぱん:アルバム『ハロウ』を出して、渋谷エッグマンでワンマンライブをやったんですけど、生々しく言うと、そのときにここのレーベルの方たちが観に来てくれていたんです。それから今回のデビューアルバムの話はともかく、音楽配信を立て続けにやっていくことになって。その間にライブを何回かやってるんですけど、多分5,6年間分のライブをその数ヶ月でやって。あ、お客さんの人数的に5,6年間分っていうことなんですけど(笑)。それでいくつか紆余曲折がありつつ、まぁ私は大人の話は聞いて聞かぬフリをして元気に頑張って(笑)。それで今回のアルバムがリリースできたっていう感じです。
Interviewer:平賀哲雄
別にここで踊っても問題ないじゃん
--メジャーデビューが決まったときはどんな気持ちに?
たむらぱん:まずひとつは「やっと親に理解される」っていう。「何やってんのかな?」って感じがちょっと和らぐと思ったのが1番最初でした。ちょうどmyspace.comを始める前とかに、自分が自分で分からなくなった時期があって、親といろいろ話したんですよ。それでかなり心配はさせたんですけど、今回わかりやすくデビューっていう形を見せられたので、それは良かったなって。親以外にも私には、インディーズ時代からこうしてインタビューをしたりしてくれている人たち、感謝したい人たちがいるんですけど、その人たちにもようやく「ひとつ形になりました」って言えるので、それもすごく嬉しい。もちろん、ここが最終目的じゃないので、これからも頑張らなきゃいけないんですけど、でも、今回の事がキッカケで、より自分が「音楽で働いていける」実感が強くなっています。
--そんな田村さんに聞いておきたいことがあるんですけど、メジャーデビューした今、田村さんが目標を掲げるとしたらどんなこと?
たむらぱん:え~っと、紅白ですかね。
--お~っと。
たむらぱん:(笑)。やっぱりそうやってすごく分かりやすいモノに出たり、そこで音楽をやったりしたいです。40歳くらいまでは(笑)。音楽をやり始めてしばらくは、かなり大人ぶってじゃないですけど、勝手に音楽をやっている孤独感の中にいたんです。でも今、こういう風に音源を出せるようになってきて、昔よりも人が聴いてくれるようになって、結局私はそうやって周りと関わる事を求めていたわけだから、よりそういう場に行きたいって思うんですよね。故に紅白。
--分かりました。では、そこに向けての大きな第一歩となるデビューアルバム『ブタベスト』についてお話を聞いていきたいんですけど、まず選曲、相当悩んだでしょ?
たむらぱん:そうなんですよ。やっぱり「何を入れるか?」っていうのですごく悩んで。私が聴いてほしい曲とか、みんなが聴きたいだろうなって思う曲とか、あと個人的に好きな曲とか、そういうのがいっぱいあるじゃないですか。で、やっぱり初めてメジャーで出すアルバムなので、もう悩むに悩んで。これでも「曲数が多い」って言われてたぐらいなんで。でもやっぱり配信をmyspaceとかでやっていたときにみんなが「聴きたい」って言ってくれていた曲をメインにしています。で、自分の中で「これだけは今出したい」「ずっと出したかった」って思う曲をそこに加えて。それはほんと、ハァハァ言いながらまとめたって感じですね。「この曲は要るのに、どうして!?」みたいな(笑)。
--選曲もそうだし、今作に収録する新曲を作っていく上での1番のテーマは何だったの?
たむらぱん:1番のテーマは「どれだけ触りが良いか、聴きやすいか」。歌詞の内容とかも知らずに初めて聴いた時に「聴きたい」と思えるかっていう。それを念頭に置いて選んだので、曲調もそっちを多めにしていて。で、この『ブタベスト』のために新たにレコーディングした曲は、昔からずっと「録りたい、録りたい」って言ってた曲なんです。そういうのも「この機会についでにやっちゃえ」くらいの勢いで録ったんですよ。そしたらデモのイメージよりすごく良く録れたりとかして。歌い方の違いとかもはちろんあるにしても、歌詞もそこまで変えてないのに。だからそこは、自分の作ってるモノが昔からある程度一貫してるんだなっていう。
--その一貫性みたいなモノも感じつつも、個人的にはですね、今回収録された新曲の数々を聴いて「あ、意外とメジャーデビューを楽しんでんな」っていう印象を受けたんですよ。「せっかくこういうタイミングだし、もういろいろやってやれ!」的な感覚があったのかなって。特に『ハリウッド』。この状況に便乗して新しいことやっちゃいました的な印象をすごく受けたんですが。
たむらぱん:そうですね(笑)。この『ハリウッド』って曲は、ライブでお客さんがある程度たくさん観に来てくれたときに絡むために作ったような曲なので。そういうのはありますね、やっぱり。最近は「ライブでどういう風にできるか?」って考えて曲を作るようにもなったんです。前はひとつの楽曲として創り上げていくのがすべてで、だからライブで表現しきれない曲もあったりしたんですけど、今はもうライブ前提で曲を作ることもできるようになったので。そこも変わってきた部分ですね。
--あと、『ハリウッド』のプロモーションビデオにおける、田村さんの出で立ちも相当新しい感じでしたよね?
たむらぱん:(笑)。初めて人と共演してますしね。今はプロモーションビデオであんな風に遊ぶのがすごく楽しくなってきていて。前は何をやるにしても「こういう風にしなきゃ」みたいな感じだったんです。でも「こういう」の部分はすごく漠然としていて、イメージでしかないんですよね。なんか「こんな感じ」みたいな。でも最近は、普段の延長の中で何でもやれているので「なんか楽だな」って。すごく些細なことなんですけど、「別にここで踊っても問題ないじゃん」とかね(笑)。
--あと、『散り際の味』も新しいイメージの曲ですよね。イントロだけ聴いたらたむらぱんって気付かないぐらい。
たむらぱん:私、このアルバムの中で特に好きな曲が『どんだけ待つのよ』と『散り際の味』なんですけど、これも結構前からある曲だったんですよね。だからずっと自分の中にあるモノっていうイメージではあるんですけど、ただそれを聴いてもらう機会がなくて。今回も入れる入れないでモメたんですけど、「私、ここで入れられなかったら、もうずっとこういうところもあるって分かってもらえないかも!?」と思い、強引に。
--なんか、モメたのが良く分かる曲ですよね(笑)。
たむらぱん:(笑)。そうなんですよ。「これは要らない」ってメチャメチャ言われたんで。
--イントロだけ聴いたら今までのたむらぱんと違いますからね。でもこれを打ち出すタイミングとしては、今回がバッチリだと思います。
たむらぱん:そうですよね!
--ただ、ネーミングセンス的なところで、メジャーデビュータイミングで「散り際」ってワードを入れるっていうのが・・・。
たむらぱん:あ!!
--(笑)。
たむらぱん:本当だ。こんなタイミングで「引き際が肝心だ」みたいな(笑)。
Interviewer:平賀哲雄
物事って感情一辺倒じゃない
--アルバムの最後の曲じゃなくて本当に良かったです(笑)。選曲同様、曲順も結構考えました??
たむらぱん:考えました。今回『回転木馬』が最後なんですけど、今までは一応前の方に持ってきていた曲だったんで。それを最後にするっていう事とか、前半はどのくらい上げた方が良いのかとか、前半上げ過ぎて後半飽きちゃう感じになっても嫌だしとか、自分の中で早く聴いてもらいたい曲とか、いろいろあるじゃないですか?そういうバランスが難しかったですね。でもそこはここ何年かで培ってきた知識と経験でもって、この形に落ち着かせました。
--で、そのアルバムのタイトルがなんで『ブタベスト』なのか?っていう質問をさせて頂きたいんですが。
たむらぱん:これはブタペストっていうハンガリーの首都を紹介するビデオがエンジニアさんのお家にあって。私はそれを見て、豚のベストビデオだと思ったんですよね。それで、世界の豚がいっぱい紹介されてるビデオだと思ったんですよ。
--愛豚家にとっては、夢のようなビデオだと(笑)。
たむらぱん:そうそう(笑)。「何て素晴らしい!」って思って。そしたらもちろんそんなわけはなく、まぁガッカリだったんですけど(笑)。なので、そのときに生まれた言葉です、ブタベストは。それから3年ぐらいの月日を経て、満を持してこのアルバムのタイトルになったという。ベストっていう言葉があるのもすごく魅力的だったし。で、これに便乗して豚をかぶったんです。
--少し心配しましたけど。「豚キャラで押して行くのか?」みたいな(笑)。
たむらぱん:(笑)。でもあれは、今思うと、自信のなさだったのかなって。もしかしたら全面自分のみで居られる自信がなかったのかも知れない。ああいうモノってちょっと自分を守ってくれるモノになるじゃないですか。あと、あれってパッと見ると「えっ?大丈夫!?」みたいな感じだけど、なんか面白いんだけど、でもあの姿で笑ってること自体が悲しく見えるっていう、そういう二面性もあったりして。そういう二面性が自分の音楽のメインになっているところだと思うので、そこは「繋がってるな」と思って。
--そんな『ブタベスト』、自身では、全体の仕上がりにどんな印象や感想を?
たむらぱん:デビューアルバムとしては、すごくバランスが取れたアルバムになったなとは思いますね。広い範囲で聴いてもらえる内容になってると思うし、でもちょっと音楽に拘りのある人が聴いてくれても面白い要素を入れているつもりなので、いろんな人に聴いてもらいたい。最初の触りとして、すごく手に取りやすいアルバムになったんじゃないかって思います。
--本当に新しいスタートに相応しいアルバムになりましたね。田村さん自身、これでまた新鮮な気持ちで走れるような感覚になってるんじゃないですか?
たむらぱん:そうですね。始まりというか、そういう感じがしますね。意外と今までの事がなかったくらいの感覚というか。またゼロから始まっていく感じ。
--どうなって行くんですかね?『ブタベスト』のジャケット観たら、ブタかぶってる女の子はいて、中身を聴いてみたらこのクオリティ。いろんな驚きを与えられるような気がしますけどね。
たむらぱん:そうですね。あと、ブタのかぶり物についてもうひとつ補足すると、このブタって目玉が入ってないんです。これは拘って入れなかったんですけど、目が入ると意志を感じさせるじゃないですか。でもそれを無くすことで、すごく前を見てるのに定まってない感じを出したかったんですよ。なんでかは分からないんですけど、深層心理かもしれないし、何かを表してるんじゃないかなって。
--そんなジャケットも注目してもらいたい『ブタベスト』、今作でたむらぱんを初めて知る人がいっぱいいると思うんですけど、そんな人たちに何か言っておきたいことがあれば。
たむらぱん:初めはジャケットとかの興味で聴いてもらって。で、その中の曲を聴いて、みんながそれぞれいろんな事を思って、私が思ってない事とかも思ってほしいというか。むしろそういうのを教えてほしいと思うし、みんなでひとつの事に対して考えるというよりも、それぞれが考えながら、楽しみながら、“自分流”に聴いてもらえたらなと思ってます。
--あと、僕が初めてたむらさんにお会いしたとき、たむらさんは「日常を日常じゃないものにするっていうか、日常に当たり前にあるものだとか気付かないものに気付くようなものにしていく人になりたい」と言っていたんですが、それは今もこれからも変わらない?
たむらぱん:そうですね。日常っていうテーマは、本当に自分の中でズレてない気がしますね。技術的な面とかでは、昔よりやっぱり知識も増えたと思うし、応用力も増えたと思うんですけど、やっぱそこだけは変わってなく。ただ、今はその日常を表現する為に、リアル過ぎず、非現実的過ぎずってところに常に居れるようにしてる感じですね。物事って感情一辺倒じゃないって思ってて。それだけでひとつの物事が済むわけじゃ絶対なくて、リアルと非現実の両方がワーってあって、むしろその真ん中らへんのときの方が日常生活には割合的に多い。そこを私は表現しているって自分で分かってきたんですよ。なのでそういった曲をこれからもたくさん創っていきたいですね。
Interviewer:平賀哲雄
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